にゃんというイケメン

福守りん

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 アメショーさんと出会ってから、数日がたった。

 今日の空は、くもり。
 いつもよりも、遠くまで見まわりしてみようと思って、どんどん歩いていったら、なわばりの境界まできてしまった。
「行きすぎたにゃ」
 もどろう。そう思って、くるりと体の向きを変えると、後ろから、しずしずと近づいてくる気配がした。
 ふりかえって、あっと思った。
 たぶん、スフィンクスだ。となりのなわばりのボス。
 毛がない猫だと、うわさで聞いていた。
 ほんとうに毛がない。はだいろの体は、つるりとしていた。
 ものすごくやせて見える。
 スフィンクスが、おれのところによってきた。
「なんにゃ。だれにゃ」
「わたしは、スフィンクス」
「となりのボス?」
「そう」
 おれをしげしげとながめて、ふうっと息をはいた。
「なんとかわいらしい。そなた、わが陣営にこぬか」
「いやにゃ」
「つれない返事よ。それもまた、いっきょう」
 「いっきょう」の意味は、おれにはわからなかった。
「ついてくるなにゃ。いくらボスでも、ひとりで制圧できるほど、うちのなわばりはあまくないにゃ」
「それは、どうかな」
 スフィンクスが、笑いながら、おれを見てくる。
 目があった。おれは、そらさなかった。
「勇敢なるマンチカンよ。そなた、名はなんという」
「マルにゃ」
「マルか。よろしい。
 そのつぶらな目にめんじて、今は引くとしよう」
「つぶらとか、言わなくていいにゃ」
 おれは、気分を悪くしていた。
 おれは、ぬいぐるみじゃない。りっぱな猫だ。
 ぷんぷんと怒りながら、歩きだした。

 少し歩いてから、ふりかえった。
 スフィンクスの姿はなかった。


 公園に戻ると、シャムと白猫の兄さんがいた。
「スフィンクスに会ったにゃ」
「えぇ?」
 シャムは、びっくりしたみたいだった。
「どんなやつだった」
「毛がなかったにゃ。いけすかない猫だったにゃ。
 境界の近くに、ひとりでいたにゃ」
「そうか。よく無事に帰ってこれたな。
 境界には、もう行かないほうがいい」
「……はいにゃ」
「お前の分、とっておいてやったからな。
 食べておけよ」
 餌の皿を、シャムの前足がしめした。
 おれの好きな、おいしいカリカリが入っていた。
「うれしいにゃあ」
「長老は、もう食べて寝てる。ぜんぶ、食べていいぞ」
「ありがとにゃ」

 もぐもぐしていると、だんだん、ねむたくなってきた。
 たらふく食べたあとは、長老のそばにいって、ねた。
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