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15.スイート・キング7
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「刺される前に、つき合いかけてた人がいた。
明るい人だったけど、何か、抱えてるものがあるみたいだった。出会ったばかりの頃の、君みたいに。
デートして、キスもした。一緒にいると、幸せな気分になれた。
このままつき合って、もしかしたら、結婚するんじゃないかと思ってた」
「……それって、礼慈さんが、いくつの頃の話ですか?」
「二十六。彼女も、同じ職場にいた」
「今も?」
「今は、いない。俺が刺されてから、復帰するまでは、そばにいてくれた。
復帰してすぐに、辞めてしまった。それで、それっきり」
「えっ……。刺されたせいで、別れたの?」
「どうかな。分からない。
俺は好きだったけど、つき合っていたわけじゃない。
俺のことを好きでいてくれてると思ってたけど、思いこみだったのかもしれない。俺が舞い上がってたから、それにつき合ってくれてた可能性はある。
君は、明後日に二十五になるんだよな。彼女も、二十五だった。
年は俺の一つ下だったけど、上に感じるくらいに、しっかりした人だった」
「そうなの……」
「別に、将来の約束をしてたわけじゃないんだけどな。仕事を辞めるほど、俺と関わりたくなかったんだと思ったら、自信がなくなった。
すごく好きだったから。
やっぱり会いたいと思って、連絡しようとしたら、電話がつながらなくて。
会社の女子寮が、こことは別にあって、そこは退職する時に出たみたいだった。
彼女と親しかった総務の人と話して、転居先を聞こうとしたら、俺には教えないように頼まれてるって。
それで……。なんだろうな。
俺に問題があったんだろうと思うしかなかった」
「それ、ちがうと思います……」
「うん。今なら、何か事情があったんだろうと思えるけど。当時は、そうじゃなかった。今よりも若かったし、バカだったから」
「反論したいけど。長くなりそうだから、いいです」
「反論しなくていいよ。それから、少し経ってから、総務の人から言われた。
彼女は、暴行された経験があって、それを俺に話したくなかったらしい。苦しんでいたと言われた。
ショックだった。言ってほしかったし、いなくならないでほしかった。
相手の男にも、怒りがわいた。殺してやりたいと思った。
きっと、俺に言いたいことが、たくさんあったと思う。でも、言わなかった。
まともに恋愛もできないくらいに、ひとりで追いつめられていたんだと、やっと分かった。
俺と二人きりになると、緊張してるように見えた。キスは許してくれたけど、彼女から、俺にしてくれることはなかった。慣れてないんだろうなと思ってたけど、そうじゃなかった。
ただ、男がこわいと思っていただけだった。それはきっと、俺も含めて。
そういうこと……被害者になることが、誰にでもありうることだと理解してからは、傷ついてる人に敏感になったような気がする」
「わたしのことも、わかりましたか? ここで、会った時に……」
「分からなかった。あの仕事には向いてないなとは、思ったけど。
……まったく分からなかったわけじゃない。何かがあるんだろうとは、思ってた。それでも、セックスが嫌いなのかもしれないとか、奥手なんだろうなとか、その程度だった。
まさか、そんな被害に遭ってるなんて、思ってなかった。
日記を読んでからだよ。その時に、君に惹かれた理由が分かった。
彼女に似てる。芯が強いところや、ひとりで痛みを抱えこんでしまうところが」
「そう……。お名前、聞いてもいい?」
「みどり。ひらがなで、みどり」
言ってから、礼慈さんの顔が、くしゃっとゆがんだ。伏せられた目に、涙がにじんでいた。
「ごめんなさい……」
首に手をかけて、おでこをくっつけた。泣かせてしまった。
「ごめんね。みどりさんのことが好きで、だから、誰かを好きになりたくなかったんだね……」
「こわかった。好きになってから、なくすことが。
俺が刺されなければ、一緒にいられたかもしれない。俺が誤解させなければ……」
「それで? 笑わなくなって、礼慈さんは、幸せになれたの?」
「なれなかった。祐奈が、見てきたとおりだよ。
表情をなくしても、感情がなくなるわけじゃない。
祐奈が面白いことを言う度に、心の中で笑ってた」
「声に出てましたよ……」
「そうだったな」
礼慈さんが笑った。かわいい笑顔だった。
胸が、しめつけられるように痛んだ。
「わたし、あなたがすき。だいすき……」
「祐奈」
苦しいくらいに、しがみついてくる。歌穂が、寝ながらしてきたみたいに。
「れいじさん……。あっ、いや」
指が、後ろから入ってくる。わたしの中に……。
「していい?」
「あ、あっ、だめ……。うごかしちゃ、いや」
「いい?」
「……いい、よ。でも、あん、あっ……」
しゃべれなくなった。
礼慈さんが、わたしの首に、音を立ててキスをした。
明るい人だったけど、何か、抱えてるものがあるみたいだった。出会ったばかりの頃の、君みたいに。
デートして、キスもした。一緒にいると、幸せな気分になれた。
このままつき合って、もしかしたら、結婚するんじゃないかと思ってた」
「……それって、礼慈さんが、いくつの頃の話ですか?」
「二十六。彼女も、同じ職場にいた」
「今も?」
「今は、いない。俺が刺されてから、復帰するまでは、そばにいてくれた。
復帰してすぐに、辞めてしまった。それで、それっきり」
「えっ……。刺されたせいで、別れたの?」
「どうかな。分からない。
俺は好きだったけど、つき合っていたわけじゃない。
俺のことを好きでいてくれてると思ってたけど、思いこみだったのかもしれない。俺が舞い上がってたから、それにつき合ってくれてた可能性はある。
君は、明後日に二十五になるんだよな。彼女も、二十五だった。
年は俺の一つ下だったけど、上に感じるくらいに、しっかりした人だった」
「そうなの……」
「別に、将来の約束をしてたわけじゃないんだけどな。仕事を辞めるほど、俺と関わりたくなかったんだと思ったら、自信がなくなった。
すごく好きだったから。
やっぱり会いたいと思って、連絡しようとしたら、電話がつながらなくて。
会社の女子寮が、こことは別にあって、そこは退職する時に出たみたいだった。
彼女と親しかった総務の人と話して、転居先を聞こうとしたら、俺には教えないように頼まれてるって。
それで……。なんだろうな。
俺に問題があったんだろうと思うしかなかった」
「それ、ちがうと思います……」
「うん。今なら、何か事情があったんだろうと思えるけど。当時は、そうじゃなかった。今よりも若かったし、バカだったから」
「反論したいけど。長くなりそうだから、いいです」
「反論しなくていいよ。それから、少し経ってから、総務の人から言われた。
彼女は、暴行された経験があって、それを俺に話したくなかったらしい。苦しんでいたと言われた。
ショックだった。言ってほしかったし、いなくならないでほしかった。
相手の男にも、怒りがわいた。殺してやりたいと思った。
きっと、俺に言いたいことが、たくさんあったと思う。でも、言わなかった。
まともに恋愛もできないくらいに、ひとりで追いつめられていたんだと、やっと分かった。
俺と二人きりになると、緊張してるように見えた。キスは許してくれたけど、彼女から、俺にしてくれることはなかった。慣れてないんだろうなと思ってたけど、そうじゃなかった。
ただ、男がこわいと思っていただけだった。それはきっと、俺も含めて。
そういうこと……被害者になることが、誰にでもありうることだと理解してからは、傷ついてる人に敏感になったような気がする」
「わたしのことも、わかりましたか? ここで、会った時に……」
「分からなかった。あの仕事には向いてないなとは、思ったけど。
……まったく分からなかったわけじゃない。何かがあるんだろうとは、思ってた。それでも、セックスが嫌いなのかもしれないとか、奥手なんだろうなとか、その程度だった。
まさか、そんな被害に遭ってるなんて、思ってなかった。
日記を読んでからだよ。その時に、君に惹かれた理由が分かった。
彼女に似てる。芯が強いところや、ひとりで痛みを抱えこんでしまうところが」
「そう……。お名前、聞いてもいい?」
「みどり。ひらがなで、みどり」
言ってから、礼慈さんの顔が、くしゃっとゆがんだ。伏せられた目に、涙がにじんでいた。
「ごめんなさい……」
首に手をかけて、おでこをくっつけた。泣かせてしまった。
「ごめんね。みどりさんのことが好きで、だから、誰かを好きになりたくなかったんだね……」
「こわかった。好きになってから、なくすことが。
俺が刺されなければ、一緒にいられたかもしれない。俺が誤解させなければ……」
「それで? 笑わなくなって、礼慈さんは、幸せになれたの?」
「なれなかった。祐奈が、見てきたとおりだよ。
表情をなくしても、感情がなくなるわけじゃない。
祐奈が面白いことを言う度に、心の中で笑ってた」
「声に出てましたよ……」
「そうだったな」
礼慈さんが笑った。かわいい笑顔だった。
胸が、しめつけられるように痛んだ。
「わたし、あなたがすき。だいすき……」
「祐奈」
苦しいくらいに、しがみついてくる。歌穂が、寝ながらしてきたみたいに。
「れいじさん……。あっ、いや」
指が、後ろから入ってくる。わたしの中に……。
「していい?」
「あ、あっ、だめ……。うごかしちゃ、いや」
「いい?」
「……いい、よ。でも、あん、あっ……」
しゃべれなくなった。
礼慈さんが、わたしの首に、音を立ててキスをした。
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