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9.スイート・キング4

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 四週目の土曜日。
 歌穂と沢野さんを、礼慈さんの部屋に招待した。
 みんなで、歌穂の入学祝いをしようと思って。

 歌穂は、午前の早いうちに来た。
 会うなり、抱きついてきた。甘えたいのかなと思って、頬を撫でたり、両手でつぶす真似をしたり、髪を手で梳いたり、いっぱいしてあげた。
 礼慈さんは、複雑そうな顔をしていた。
 お昼になる前に、沢野さんが来た。

 宅配のピザを、予約して頼んでおいた。
 昼ごはんはピザと、わたしが作ったかぼちゃのスープを出した。
 デザートに、歌穂が持ってきてくれた、お菓子屋さんのプリンを食べた。
 甘くて、おいしかった。
 食べてから、片づけをした。

「歌穂、合格おめでとうー。プレゼントがあるの」
「うん。ありがとう」
「おめでとうございます」
「おめでとー」
「ありがとうございます」
 歌穂に、お祝いのプレゼントをそれぞれ渡していった。
 わたしからは、歌穂が好きな猫のキャラクターの、文房具のセット。
 礼慈さんからは、保温機能がついてる、ステンレスの水筒。
 沢野さんからは、百貨店とかで使える商品券だった。十万円分。
 文房具と水筒までは、素直に喜んでいた歌穂の顔が、困ったような感じになるのを見てしまった。
「これ、お金と同じですよね……」
「そうなんだけど。ごめんね。
 何をあげたらいいのか、悩みすぎて、こうなった」
「あの。額が、ちょっとおかしい」
「えっ! そう?」
「あたしは貧乏性だから、一気に使ったりはしないですけど……。おつき合いしてる人には、いつも、こんなことしてたんですか?」
「してないよ! 歌穂ちゃんは、特別だから」
「うーん。ほんとに、いいんですか?
 大学だけじゃなくて、部屋のお金も、出してもらってるのに」
「それは、お祝いとは関係ないでしょ?」
「かなあ……?
 みなさん、ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
「どういたしまして」
 なんとなく、わたしが代表して言ったような感じになった。

「甘やかしてるな」
 礼慈さんが、こっそり言ってきた。
「そうですね。……でも、いいんじゃないでしょうか。
 服とか、新しくほしいだろうし……」
「分かるけど。デート中に買ってあげたりしても、いいわけだし。
 どきっとした。商品券だから、まだましだけど。あれが現金だったら、引く金額だよなと思って」
「ああ……。それは、そうかも」
「聞こえてるからねー!」
 沢野さんが、ちょっと離れたところから叫んだ。その横で、歌穂がおろおろしていた。かわいかった。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいって」

 沢野さんが、人生ゲームを持ってきていた。
 みんなで遊ぼうということになった。
 趣味の部屋のこたつのテーブルに置いて、遊びはじめた。

「子供は、何人ほしい?」
「えー? まず一人。できれば、二人か三人。
 紘一は?」
「僕は、一人いたらいいや。
 授かりものだから。できない可能性だって、あるし」
「そうだよな」
「それ、ゲームの話ですよね?」
 歌穂が割りこんでいった。
「どうだろうね。歌穂ちゃんは、どう?」
「そりゃあ、ほしいですけど。まだ結婚もしてないのに、子供ができても困ります」
「だよねー。祐奈ちゃんは?」
 どきっとした。なにも答えられなかった。
 わたしは、礼慈さんとわたしの赤ちゃんがほしい。それは、ゲームの話じゃなくて、ものすごく切実な願いだった。
 沢野さんは、わたしがどう思ってるのか、知ってるはずなのに……。礼慈さんの前で、言った方がいいってこと?
 じっと見つめていると、沢野さんが目をそらした。顔が赤くなっていた。どうして?
「ゲームの話だよ」
 礼慈さんが、ななめ右から言った。
「ここには、カップルが二組いるんだから。発言には気をつけよう。
 後で、もめたりしないように」
「もめるんですか?」
「例えだよ」

 歌穂が一位だった。礼慈さん、沢野さん、わたしの順で終わった。
 終わって、ほっとした。
 このゲームは、あんまり好きじゃないなと思った。
 わたしのコマの上には、子供を表すピンは、乗せられなかった。


 二人が帰ってから、礼慈さんに「大丈夫?」と聞かれた。
「うん。楽しかったです」
「あのゲーム、嫌だった?」
 びっくりしてしまった。
「ちょっとだけ。よく、わかりましたね」
「悲しそうな顔をしてたから」
「ごめんなさい」
「責めてるわけじゃないよ。今日の夕飯は、俺が作るから。
 ゆっくりしてて」
「うん……。ありがとう」
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