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9.スイート・キング4
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「……母子手帳が、ないの」
「ない? なくしたってこと?」
「わかんない。わたしの持ち物の中には、なかったです。
アルバムとか、日記とか……。わたしの記憶の中では、あるんです。
後から、わたしが作り上げた記憶かも、しれないけど……。
お母さんが、手紙とか、よく書いてる姿を見てました。日記も、たぶん……。
あったはずなのに、消えちゃったの。書いてないわけがないって、今でも、思ってます」
「五才までの記憶か。確かだと思う?」
「はい」
「お母さんのご両親か親戚が、持ってるってことは……。ありえないか。そんなことをする理由がないよな」
「可能性があるとしたら、お父さんの実家がある、長野ですかね……。でも、わたしたち、わたしが赤ちゃんの頃から、東京にいたみたいなんです。
お母さんのものを、わざわざ、長野にいるはずのお父さんの親戚の人が持っていくなんて、考えられない……」
「君のお祖父さんや、お祖母さんは?」
「わからないです。
わたし、会ったことがないんです。どちらの、祖父母とも」
「本当に?」
「はい……」
お父さんの方は、二人とも、もう亡くなってる……はずです。お父さんから、そういう話を、聞いたことがあるの。
お母さんの方は、まったくわからないです。
施設の職員さんから、少しだけ、話を聞いたことがあって。お母さんたちが亡くなった後で、お母さんのお友達の人から、聞いたことらしいんですけど。
お母さんは、お父さんとの結婚を実家から反対されていて、駆け落ちして結婚しました。そのことが原因で、実家の人たちとは、疎遠になってしまったんだそうです」
「言ってたな。それは、覚えてる」
「あ、言ってましたね。ごめんなさい。
だから、お母さんの方の実家のことは……つまり、連絡先とかは、わからないって。職員さんは、たぶん、探してくださったと思うんですけど。なにもわからなかったんだと思います。わかってたら、わたしに、教えてくれますよね?」
「ああ。そうだと思う。
調べてみる? 紘一が、もし、君が自分のルーツを知りたいなら、協力してくれる人を紹介するって」
「沢野さんが?」
「うん」
「そうですか……。ううん。でも、いいです。
職員さんにも、何度も聞いたの。だけど、誰もわからなくて……。
すごく、つらかったんです。同じ思いを、もう、したくないの」
「分かった。祐奈が、それでいいなら。
お母さんの方のお祖父さんたちに、会いたかった?」
「もちろん……。だって、わたしには、誰もいないの。
それで、ひとりぼっちで……」
続けられなかった。涙が、ぽたぽたと落ちてきてしまったから。
「大丈夫?」
「う、ん。だめですね。ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ」
後ろをふり返って、礼慈さんを見た。
「そんな顔、しないで」
「どんな……顔ですか」
「悲しそうだ。泣かないで」
ぎゅっとしてくれた。それから、キスも。
うれしかった。
「俺がいても、さびしい?」
「ううん……。思いだして、かなしくなった、だけなの。
今は、ぜんぜん、さびしくないです」
「よかった」
「ない? なくしたってこと?」
「わかんない。わたしの持ち物の中には、なかったです。
アルバムとか、日記とか……。わたしの記憶の中では、あるんです。
後から、わたしが作り上げた記憶かも、しれないけど……。
お母さんが、手紙とか、よく書いてる姿を見てました。日記も、たぶん……。
あったはずなのに、消えちゃったの。書いてないわけがないって、今でも、思ってます」
「五才までの記憶か。確かだと思う?」
「はい」
「お母さんのご両親か親戚が、持ってるってことは……。ありえないか。そんなことをする理由がないよな」
「可能性があるとしたら、お父さんの実家がある、長野ですかね……。でも、わたしたち、わたしが赤ちゃんの頃から、東京にいたみたいなんです。
お母さんのものを、わざわざ、長野にいるはずのお父さんの親戚の人が持っていくなんて、考えられない……」
「君のお祖父さんや、お祖母さんは?」
「わからないです。
わたし、会ったことがないんです。どちらの、祖父母とも」
「本当に?」
「はい……」
お父さんの方は、二人とも、もう亡くなってる……はずです。お父さんから、そういう話を、聞いたことがあるの。
お母さんの方は、まったくわからないです。
施設の職員さんから、少しだけ、話を聞いたことがあって。お母さんたちが亡くなった後で、お母さんのお友達の人から、聞いたことらしいんですけど。
お母さんは、お父さんとの結婚を実家から反対されていて、駆け落ちして結婚しました。そのことが原因で、実家の人たちとは、疎遠になってしまったんだそうです」
「言ってたな。それは、覚えてる」
「あ、言ってましたね。ごめんなさい。
だから、お母さんの方の実家のことは……つまり、連絡先とかは、わからないって。職員さんは、たぶん、探してくださったと思うんですけど。なにもわからなかったんだと思います。わかってたら、わたしに、教えてくれますよね?」
「ああ。そうだと思う。
調べてみる? 紘一が、もし、君が自分のルーツを知りたいなら、協力してくれる人を紹介するって」
「沢野さんが?」
「うん」
「そうですか……。ううん。でも、いいです。
職員さんにも、何度も聞いたの。だけど、誰もわからなくて……。
すごく、つらかったんです。同じ思いを、もう、したくないの」
「分かった。祐奈が、それでいいなら。
お母さんの方のお祖父さんたちに、会いたかった?」
「もちろん……。だって、わたしには、誰もいないの。
それで、ひとりぼっちで……」
続けられなかった。涙が、ぽたぽたと落ちてきてしまったから。
「大丈夫?」
「う、ん。だめですね。ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ」
後ろをふり返って、礼慈さんを見た。
「そんな顔、しないで」
「どんな……顔ですか」
「悲しそうだ。泣かないで」
ぎゅっとしてくれた。それから、キスも。
うれしかった。
「俺がいても、さびしい?」
「ううん……。思いだして、かなしくなった、だけなの。
今は、ぜんぜん、さびしくないです」
「よかった」
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