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9.スイート・キング4
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三月の、三連休のまんなかの、日曜日。
趣味の部屋で、二人で遊んでいた。
礼慈さんは、恐竜のフィギュアを掃除している。一体ずつ、不織布で拭いて、ほこりを取ってるみたいだった。
わたしは、いつもと同じように、パズルで遊んでいた。
300ピースの、恐竜たちのパズル。礼慈さんが、わたしにって、ホワイトデーのプレゼントにくれたもの。
パステルカラーで、絵本みたいな、かわいいタッチで描かれている。ぬいぐるみみたいな恐竜たちが、湖のほとりでのんびりしている。そういう図柄だった。
ホワイトデーに、ラッピングの袋から出して、見た時は、ため息が出た。あんまり、かわいくって。
組み上がって、完成したパズルは、いつも、すぐにばらばらにしてしまって、箱に戻している。
このパズルだけは、300ピース用の額に入れて、壁に飾ってもいいなと思っていた。
飾る時も、のりはつけないつもり。何度でも、遊べるようにしたいから。
「祐奈」
「うん?」
「集中してる時に、悪いんだけど」
「ううん。なーに?」
パズルの手を止めて、正面にいる礼慈さんを見た。
「お母さんの旧姓って、分かる?」
「はい。黒田です」
「……くろだ?」
「色の黒に、田んぼの田です」
「いや。それは、分かるけど。白井と黒田って」
「白と黒ですよね」
「そうだな」
「施設の人から、教えてもらいました。
礼慈さんは、本籍地って、どこですか?」
「え? 都内だけど。文京区」
「いいところですね」
「ありがとう」
「わたしの本籍地は、長野にあるんですけど……。
わたし、自分の戸籍謄本を見たことがないんです。
郵送で、取りよせることもできるみたいなんですけど……。もらったことがなくて。
礼慈さんは、区役所でもらったりしたこと、ある?」
「どうだったかな……。運転免許の時に、取りに行ったかな」
「そうなんですね」
「ごめん。やっぱり、住民票だったと思う。
それで?」
「わたしも、住民票しか見たことないです。
住民票って、お父さんの名前しか、載ってないんですよ。
だから、お母さんの旧姓が本当に黒田かどうかって、わからないんです。戸籍謄本には、きっと、載ってると思うんですけど……」
「分からない? 公的な書類とか……。何も残ってないの?」
「ないです。わたし、あの……」
視界がぶれた。泣きそうになってるんだって、わかった。
パズルのピースを、こたつのテーブルに置いた。
「祐奈?」
「ちょっと、だっこしてほしいです」
「うん。おいで」
こたつを回りこんで、礼慈さんのところまで、這っていった。猫みたいに。
わたしが座りこむと、礼慈さんも座った。
後ろから、だっこされた。体重を預けたら、ほうっと息がもれた。
趣味の部屋で、二人で遊んでいた。
礼慈さんは、恐竜のフィギュアを掃除している。一体ずつ、不織布で拭いて、ほこりを取ってるみたいだった。
わたしは、いつもと同じように、パズルで遊んでいた。
300ピースの、恐竜たちのパズル。礼慈さんが、わたしにって、ホワイトデーのプレゼントにくれたもの。
パステルカラーで、絵本みたいな、かわいいタッチで描かれている。ぬいぐるみみたいな恐竜たちが、湖のほとりでのんびりしている。そういう図柄だった。
ホワイトデーに、ラッピングの袋から出して、見た時は、ため息が出た。あんまり、かわいくって。
組み上がって、完成したパズルは、いつも、すぐにばらばらにしてしまって、箱に戻している。
このパズルだけは、300ピース用の額に入れて、壁に飾ってもいいなと思っていた。
飾る時も、のりはつけないつもり。何度でも、遊べるようにしたいから。
「祐奈」
「うん?」
「集中してる時に、悪いんだけど」
「ううん。なーに?」
パズルの手を止めて、正面にいる礼慈さんを見た。
「お母さんの旧姓って、分かる?」
「はい。黒田です」
「……くろだ?」
「色の黒に、田んぼの田です」
「いや。それは、分かるけど。白井と黒田って」
「白と黒ですよね」
「そうだな」
「施設の人から、教えてもらいました。
礼慈さんは、本籍地って、どこですか?」
「え? 都内だけど。文京区」
「いいところですね」
「ありがとう」
「わたしの本籍地は、長野にあるんですけど……。
わたし、自分の戸籍謄本を見たことがないんです。
郵送で、取りよせることもできるみたいなんですけど……。もらったことがなくて。
礼慈さんは、区役所でもらったりしたこと、ある?」
「どうだったかな……。運転免許の時に、取りに行ったかな」
「そうなんですね」
「ごめん。やっぱり、住民票だったと思う。
それで?」
「わたしも、住民票しか見たことないです。
住民票って、お父さんの名前しか、載ってないんですよ。
だから、お母さんの旧姓が本当に黒田かどうかって、わからないんです。戸籍謄本には、きっと、載ってると思うんですけど……」
「分からない? 公的な書類とか……。何も残ってないの?」
「ないです。わたし、あの……」
視界がぶれた。泣きそうになってるんだって、わかった。
パズルのピースを、こたつのテーブルに置いた。
「祐奈?」
「ちょっと、だっこしてほしいです」
「うん。おいで」
こたつを回りこんで、礼慈さんのところまで、這っていった。猫みたいに。
わたしが座りこむと、礼慈さんも座った。
後ろから、だっこされた。体重を預けたら、ほうっと息がもれた。
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