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7.スイート・キング3
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二月十四日。バレンタインの日。
礼慈さんに渡すために、チョコレートを用意してあった。
昨日、歌穂と一緒に銀座に行った。百貨店の催事場で探して、買ってきた。
恐竜の形をしたチョコレート。それと、テレビにも出てる、有名なパティシエの人のお店の、値段が高めのチョコレート。
喜んでくれるといいな……。
定時で、帰ってきてくれた。
「おかえりなさい」
廊下を玄関まで歩いて、抱きつきにいった。
「ただいま」
礼慈さんが笑う。足が浮いちゃう高さまで、抱き上げられた。
「高いです……」
「ごめん」
夕ごはんは、洋風にした。
ビーフシチューと、バゲット。アボカドとブロッコリーのサラダ。
ビールも出そうとしたけど、それはいいって。
わたしは、ワイン気分で、ぶどうジュースを入れた。
「おいしい?」
「うん」
「あのね、あとで……」
「うん?」
言いかけた言葉を飲みこんだ。渡す前に、「チョコがあるの」なんて言うのは、へんかなって、思ったから。
「ううん。なんでもない」
礼慈さんは、ふしぎそうな顔をしていた。
夕ごはんの片づけをしてから、わたしの部屋に、チョコレートを取りにいった。
紙袋を持って、リビングに戻った。
「礼慈さん。これ……」
「チョコレート?」
「うん。会社でも、もらいました?」
「いくつか。義理っぽいやつを」
「……ふうん」
「心配だったら、見せるよ。カードとかは、ついてない」
「見たいです。ああでも、よくないのかな……」
「なんで? 同じ部署の人たちとか、清掃の人たちからだよ」
「でも、礼慈さんあてのものです。わたしは、関係ない……」
礼慈さんの顔が、くもってしまった。
「ご、ごめんなさい。これ、受けとって……」
「うん。ありがとう」
「礼慈さんがもらったもの、見てもいい?」
「もちろん」
見せてもらって、よかった。コンビニとか、スーパーで売ってるような、あんまり高くないチョコレートだった。本気だったら、たぶん、こういうものは選ばないような気がした。
「二人で食べよう」
「はい」
恐竜のチョコレートを見て、礼慈さんが、「うわー」と言った。
「うれしい?」
「うん。こんなの、あるんだな」
「もらったこと、ない?」
「ない。俺が恐竜マニアだと知ってるのは、家族の他は、数人だけだし」
「そうなの……」
「あ、小学校が同じだった人は、除いて」
「卒業文集のせいですよね」
「そう」
「わたし、それ、読みたいです。読ませて」
「うーん。考えておく。実家にある」
礼慈さんよりも先に、お風呂に入った。歯みがきもした。
その後は、趣味の部屋に行って、猫のパズルをしていた。
「歌穂は、あげられたのかな……」
つぶやいた。
昨日、わたしと別れてから、歌穂がどう過ごしたのかはわからない。
沢野さんに、会いに行ったのかもしれない。
引き戸は開けっぱなしにしていたから、礼慈さんが近づいてきてるのは、わかっていた。パズルの手を止めて、体ごとふり返った。
廊下に、礼慈さんの姿が見えた。
「祐奈」
廊下を向いてるわたしを見て、びっくりしたような顔をしていた。
「もう、寝ますか?」
「いや。祐奈を探してた」
「ごめんなさい。お風呂の後から、ここにいたの」
「いいよ。ここにいていい?」
「うん」
礼慈さんが、足を広げて、わたしの後ろに座った。
両手が、胸の下にきた。後ろから、だっこされてる感じ。
どきどきしてしまった。
「れ、れいじさん」
「さわっても、いい?」
「えっ……」
「いやだったら、しない」
「あの、でも」
「うん」
「ここじゃ、いや……。するんだったら、寝室で」
「一緒に、来てくれる?」
「うん……。今?」
「パズルが終わるまで、待っててもいい」
「後ろからだっこされながら、したことなんて、ないです……」
「集中できない?」
「できないです……」
持っていたピースを、こたつのテーブルの上に置いた。
礼慈さんに向き直る。
「もう、つれていって」
首に腕を回すようにして、抱きついた。
礼慈さんが、わたしを抱えたまま、立ち上がった。
寝室のベッドの上で、まどろんでいた。
ちょうど、十日前に、礼慈さんと遊園地に行った。
帰ってきてから、セックスをした。その後で、わたしが泣いてしまって……。
あの日から、前よりもっと、甘やかしてもらってる気がする。
「きもちよかった、です」
「よかった」
「こんなにゆっくりじゃなくても、だいじょうぶです」
「うん。でも、祐奈の感じ方は、俺には分からないから。
様子を見ながら、させて」
「ありがとうー。
チョコ、うれしかった?」
「うん」
「よかった……」
「ホワイトデーは、何か、欲しいものある?」
「えー? もらってばっかり、です」
「そうでもないよ」
「なんだろ……。考えておきます」
「うん。そうして」
「ねむたい。ねます」
「おやすみ」
礼慈さんに渡すために、チョコレートを用意してあった。
昨日、歌穂と一緒に銀座に行った。百貨店の催事場で探して、買ってきた。
恐竜の形をしたチョコレート。それと、テレビにも出てる、有名なパティシエの人のお店の、値段が高めのチョコレート。
喜んでくれるといいな……。
定時で、帰ってきてくれた。
「おかえりなさい」
廊下を玄関まで歩いて、抱きつきにいった。
「ただいま」
礼慈さんが笑う。足が浮いちゃう高さまで、抱き上げられた。
「高いです……」
「ごめん」
夕ごはんは、洋風にした。
ビーフシチューと、バゲット。アボカドとブロッコリーのサラダ。
ビールも出そうとしたけど、それはいいって。
わたしは、ワイン気分で、ぶどうジュースを入れた。
「おいしい?」
「うん」
「あのね、あとで……」
「うん?」
言いかけた言葉を飲みこんだ。渡す前に、「チョコがあるの」なんて言うのは、へんかなって、思ったから。
「ううん。なんでもない」
礼慈さんは、ふしぎそうな顔をしていた。
夕ごはんの片づけをしてから、わたしの部屋に、チョコレートを取りにいった。
紙袋を持って、リビングに戻った。
「礼慈さん。これ……」
「チョコレート?」
「うん。会社でも、もらいました?」
「いくつか。義理っぽいやつを」
「……ふうん」
「心配だったら、見せるよ。カードとかは、ついてない」
「見たいです。ああでも、よくないのかな……」
「なんで? 同じ部署の人たちとか、清掃の人たちからだよ」
「でも、礼慈さんあてのものです。わたしは、関係ない……」
礼慈さんの顔が、くもってしまった。
「ご、ごめんなさい。これ、受けとって……」
「うん。ありがとう」
「礼慈さんがもらったもの、見てもいい?」
「もちろん」
見せてもらって、よかった。コンビニとか、スーパーで売ってるような、あんまり高くないチョコレートだった。本気だったら、たぶん、こういうものは選ばないような気がした。
「二人で食べよう」
「はい」
恐竜のチョコレートを見て、礼慈さんが、「うわー」と言った。
「うれしい?」
「うん。こんなの、あるんだな」
「もらったこと、ない?」
「ない。俺が恐竜マニアだと知ってるのは、家族の他は、数人だけだし」
「そうなの……」
「あ、小学校が同じだった人は、除いて」
「卒業文集のせいですよね」
「そう」
「わたし、それ、読みたいです。読ませて」
「うーん。考えておく。実家にある」
礼慈さんよりも先に、お風呂に入った。歯みがきもした。
その後は、趣味の部屋に行って、猫のパズルをしていた。
「歌穂は、あげられたのかな……」
つぶやいた。
昨日、わたしと別れてから、歌穂がどう過ごしたのかはわからない。
沢野さんに、会いに行ったのかもしれない。
引き戸は開けっぱなしにしていたから、礼慈さんが近づいてきてるのは、わかっていた。パズルの手を止めて、体ごとふり返った。
廊下に、礼慈さんの姿が見えた。
「祐奈」
廊下を向いてるわたしを見て、びっくりしたような顔をしていた。
「もう、寝ますか?」
「いや。祐奈を探してた」
「ごめんなさい。お風呂の後から、ここにいたの」
「いいよ。ここにいていい?」
「うん」
礼慈さんが、足を広げて、わたしの後ろに座った。
両手が、胸の下にきた。後ろから、だっこされてる感じ。
どきどきしてしまった。
「れ、れいじさん」
「さわっても、いい?」
「えっ……」
「いやだったら、しない」
「あの、でも」
「うん」
「ここじゃ、いや……。するんだったら、寝室で」
「一緒に、来てくれる?」
「うん……。今?」
「パズルが終わるまで、待っててもいい」
「後ろからだっこされながら、したことなんて、ないです……」
「集中できない?」
「できないです……」
持っていたピースを、こたつのテーブルの上に置いた。
礼慈さんに向き直る。
「もう、つれていって」
首に腕を回すようにして、抱きついた。
礼慈さんが、わたしを抱えたまま、立ち上がった。
寝室のベッドの上で、まどろんでいた。
ちょうど、十日前に、礼慈さんと遊園地に行った。
帰ってきてから、セックスをした。その後で、わたしが泣いてしまって……。
あの日から、前よりもっと、甘やかしてもらってる気がする。
「きもちよかった、です」
「よかった」
「こんなにゆっくりじゃなくても、だいじょうぶです」
「うん。でも、祐奈の感じ方は、俺には分からないから。
様子を見ながら、させて」
「ありがとうー。
チョコ、うれしかった?」
「うん」
「よかった……」
「ホワイトデーは、何か、欲しいものある?」
「えー? もらってばっかり、です」
「そうでもないよ」
「なんだろ……。考えておきます」
「うん。そうして」
「ねむたい。ねます」
「おやすみ」
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