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7.スイート・キング3
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「祐奈……」
「なあに?」
「なにって。泣いてる」
泣いていたみたいだった。わかってなかった。
礼慈さんが、あたふたしているのがわかった。
「大丈夫? 気分が悪くなった?」
「だいじょうぶ……」
「ごめん。無理に、しようとして」
「ちがうの。きゅうに、かなしくなっちゃった、だけ」
「俺は、どうすればいい?」
「ぎゅって、して。いっしょにいて。おねがい」
ずっと、という言葉は、唇を噛んで、飲みこんだ。
人は、永遠には生きられない。わたしのお父さんとお母さんは、もう、この世界にはいない。
いつか、消えていってしまう。わたしも。礼慈さんも。
あとから、あとから、涙があふれて、泣き声がおさえられなくなった。
おねがい……。
いつか、消えてしまうとしても。今だけは、わたしを愛していて。
あなたが、好き。あなたを、守ってあげたい。
ありとあらゆる痛みから。苦しみから。
ただ、幸せであってほしい。それ以外のことは、なにも望まない。
ああ……。痛みも、苦しみもなく、永遠に生きられたら……。
大きなトラックにぶつかられて、つぶされた。
わたしが、幼稚園に行っている時に。
二人だけで、どこへ行こうとしてたんだろう……。
平日だったのに。お父さんは仕事をしていて、お母さんも、わたしが幼稚園に行ってる間だけ、パートをしてる……はずだった。
あの日。わたしの運命が変わってしまった日。
見たこともない光景のはずなのに、頭に浮かんで離れないことがある。
赤い血。人だかり。救急車の、サイレンの音。
わたしが好きだった、赤い車。
お父さんと、お母さん。
「祐奈? ……祐奈!」
礼慈さんが、わたしを呼んでいる。
その声が、遠ざかっていく。気を失っていくんだって、わかった。
目がさめたら、礼慈さんが横にいた。
眠っていた。
目もとが赤くて、頬に、涙のあとがあった。泣いたんだ、と思った。
ぴったり、くっついていた。わたしの体に、礼慈さんの右腕がのっていた。重たいと感じた。
よいしょ、と声を上げながら、腕を持ち上げて、位置をずらした。腰の骨のあたりに移動したら、重たくなくなった。
パジャマを着ていた。下着も、ちゃんと履いているみたいだった。
着せてくれたんだ、と思った。
礼慈さんの体が動いた。わたしが、起こしてしまったのかもしれない。
「れいじさん」
「……ゆうな」
「わたし、おきました。
ごめんなさい。たぶん、つかれてたの……」
「ごめん。嫌がってたのに」
「いやがってないです。かんじたし、きもちよかったです」
「本当に?」
「うん。おもいだした、だけなの」
「何を?」
「お父さんと、お母さんのこと」
「……そうなの?」
「うん。ねえ、もういっかい」
「え……」
「だいて」
礼慈さんの目を見ながら、ささやいた。
礼慈さんが、息をのんだ。びっくりしてるみたいだった。
「なあに?」
「なにって。泣いてる」
泣いていたみたいだった。わかってなかった。
礼慈さんが、あたふたしているのがわかった。
「大丈夫? 気分が悪くなった?」
「だいじょうぶ……」
「ごめん。無理に、しようとして」
「ちがうの。きゅうに、かなしくなっちゃった、だけ」
「俺は、どうすればいい?」
「ぎゅって、して。いっしょにいて。おねがい」
ずっと、という言葉は、唇を噛んで、飲みこんだ。
人は、永遠には生きられない。わたしのお父さんとお母さんは、もう、この世界にはいない。
いつか、消えていってしまう。わたしも。礼慈さんも。
あとから、あとから、涙があふれて、泣き声がおさえられなくなった。
おねがい……。
いつか、消えてしまうとしても。今だけは、わたしを愛していて。
あなたが、好き。あなたを、守ってあげたい。
ありとあらゆる痛みから。苦しみから。
ただ、幸せであってほしい。それ以外のことは、なにも望まない。
ああ……。痛みも、苦しみもなく、永遠に生きられたら……。
大きなトラックにぶつかられて、つぶされた。
わたしが、幼稚園に行っている時に。
二人だけで、どこへ行こうとしてたんだろう……。
平日だったのに。お父さんは仕事をしていて、お母さんも、わたしが幼稚園に行ってる間だけ、パートをしてる……はずだった。
あの日。わたしの運命が変わってしまった日。
見たこともない光景のはずなのに、頭に浮かんで離れないことがある。
赤い血。人だかり。救急車の、サイレンの音。
わたしが好きだった、赤い車。
お父さんと、お母さん。
「祐奈? ……祐奈!」
礼慈さんが、わたしを呼んでいる。
その声が、遠ざかっていく。気を失っていくんだって、わかった。
目がさめたら、礼慈さんが横にいた。
眠っていた。
目もとが赤くて、頬に、涙のあとがあった。泣いたんだ、と思った。
ぴったり、くっついていた。わたしの体に、礼慈さんの右腕がのっていた。重たいと感じた。
よいしょ、と声を上げながら、腕を持ち上げて、位置をずらした。腰の骨のあたりに移動したら、重たくなくなった。
パジャマを着ていた。下着も、ちゃんと履いているみたいだった。
着せてくれたんだ、と思った。
礼慈さんの体が動いた。わたしが、起こしてしまったのかもしれない。
「れいじさん」
「……ゆうな」
「わたし、おきました。
ごめんなさい。たぶん、つかれてたの……」
「ごめん。嫌がってたのに」
「いやがってないです。かんじたし、きもちよかったです」
「本当に?」
「うん。おもいだした、だけなの」
「何を?」
「お父さんと、お母さんのこと」
「……そうなの?」
「うん。ねえ、もういっかい」
「え……」
「だいて」
礼慈さんの目を見ながら、ささやいた。
礼慈さんが、息をのんだ。びっくりしてるみたいだった。
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