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3.トリッキー・ナイト1
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沢野さんが、片手で、やわらかそうな茶色の髪をぐしゃぐしゃにした。
「デリヘルって、そんなに儲かるの?」
「さあ……。指名料があったからだと。
あと、あたしはシフトを決めることができたから、一日三件は、なるべく行くようにはしてました。誰も行きたがらない人のところに、入るようにしたり……」
「こわすぎるんだけど。誰も行きたがらない人のところに、自分から行くわけ?」
「シフトに穴があったら、管理できてないってことになりませんか」
「なるけどさ……。やばいね」
「やばい、ですか」
「歌穂ちゃんの、プロ意識が。完全に、仕事だと思ってたんだね」
「仕事じゃなかったら、できないですよ。あんなこと」
「だろうね。……それで? 続きを聞かせて」
「はい。沢野さんは、弁護士の方だから。いろんなことが、わかってらっしゃると思います。
あたしが作りたい家……こういう施設って、実現可能だと思いますか?」
「うーん……」
「やっぱり、非現実的でしょうか」
「そんなことないよ。ただ……。これ、営利目的じゃないよね。
四千万って、すごい額だけど。何人もの人が生活していったら、簡単になくなる額だよ。仮に、十人の子を預かったとしたら、単純に人数で割れば、一人あたり四百万しかないことになる。こう聞くと、大した額じゃないと思わない?」
「思います」
「寄付以外に収入源がなければ、いずれ行きづまると思う。そうなった時に、歌穂ちゃんはどうするつもり?
また、デリヘルの仕事をする?」
「それは……」
「デリヘル嬢を集めた家を作りたいわけじゃないんでしょ? 手に職をつけさせて、自立させたいっていう目標が……あるんだよね?」
「もちろんです!」
「だったら。歌穂ちゃん自身が、就職するなり、起業するなりして、安定した収入を得られるようにしないと……」
「やっぱり、そうですよね」
「自分でも、分かってたんだ?」
「はい。でも、就職が、うまく行かなくて……。あたし、大学には行ってません。
奨学金をとる覚悟も、受験に受かる自信もなかった。祐奈が、たった一人で、大学に通い通したことを、すごいと思ってます。あたしには、できなかったから」
「その仕事をする前は、バイトをしてたの?」
「はい。夜勤とか……。やっぱり、高卒だと、時給が安くて。少しでも、多く稼ぎたかったから」
「そっか。そうだよなー」
それから、沢野さんは、手を口もとにあてて、じっと考えこんでる様子だった。
外国の絵画みたいに、絵になっていた。
西東さんに、ふざけて抱きついていた時の沢野さんは、ここにはいない。
沢野さんは、動いて、しゃべってる時よりも、こうやって、静かにしている時の方が、大人の男の人に見えた。ものすごく賢そうに見えた。
西東さんが言っていたとおり、二面性がある人なんだ、と思った。
「うーん。うーん……。
はっきり言っていい?」
「……はい」
「僕は、歌穂ちゃんのことが気になってる。好きだと思う。
それはそれとして、歌穂ちゃん自身のことを考えた時に、今からでも、大学に行くべきだと思う」
「えっ?」
「面倒くさいと思う?」
「そ、そんなことは、ない……ですけど。あたし、自分の学費を貯めたつもりじゃ」
「うん。だからね……。僕が出してあげる――って、これじゃあ、だめなんだよな。たぶん」
「出してもらう理由がないです!」
「まあまあ。二人で、考えてみない?」
「考えるまでもないです。おかしいですよ。そんなの」
「おかしいかも、しれないけどさ……。
僕の専属に――つまり、僕の恋人に、なってみない?」
「は、はあ?!」
「奥さんでもいいけど」
ふらっとした。めまいだ。
ソファーの上で、体が傾いて、沢野さんの方に倒れかけた。
「おっとー。大丈夫?」
「わけが、わかりません。なんですか、これ」
「国公立は、自信がないんでしょ。私立でいいじゃん。あるよ? いくらでも」
「え、ええぇー……」
「お金も、あるよ。こういう言い方は、ほんと、どうかと思うけど」
「あたしよりも、ですか」
「ごめんね。あるよ」
「そうですよね……」
「だから、安心して」
「デリヘルって、そんなに儲かるの?」
「さあ……。指名料があったからだと。
あと、あたしはシフトを決めることができたから、一日三件は、なるべく行くようにはしてました。誰も行きたがらない人のところに、入るようにしたり……」
「こわすぎるんだけど。誰も行きたがらない人のところに、自分から行くわけ?」
「シフトに穴があったら、管理できてないってことになりませんか」
「なるけどさ……。やばいね」
「やばい、ですか」
「歌穂ちゃんの、プロ意識が。完全に、仕事だと思ってたんだね」
「仕事じゃなかったら、できないですよ。あんなこと」
「だろうね。……それで? 続きを聞かせて」
「はい。沢野さんは、弁護士の方だから。いろんなことが、わかってらっしゃると思います。
あたしが作りたい家……こういう施設って、実現可能だと思いますか?」
「うーん……」
「やっぱり、非現実的でしょうか」
「そんなことないよ。ただ……。これ、営利目的じゃないよね。
四千万って、すごい額だけど。何人もの人が生活していったら、簡単になくなる額だよ。仮に、十人の子を預かったとしたら、単純に人数で割れば、一人あたり四百万しかないことになる。こう聞くと、大した額じゃないと思わない?」
「思います」
「寄付以外に収入源がなければ、いずれ行きづまると思う。そうなった時に、歌穂ちゃんはどうするつもり?
また、デリヘルの仕事をする?」
「それは……」
「デリヘル嬢を集めた家を作りたいわけじゃないんでしょ? 手に職をつけさせて、自立させたいっていう目標が……あるんだよね?」
「もちろんです!」
「だったら。歌穂ちゃん自身が、就職するなり、起業するなりして、安定した収入を得られるようにしないと……」
「やっぱり、そうですよね」
「自分でも、分かってたんだ?」
「はい。でも、就職が、うまく行かなくて……。あたし、大学には行ってません。
奨学金をとる覚悟も、受験に受かる自信もなかった。祐奈が、たった一人で、大学に通い通したことを、すごいと思ってます。あたしには、できなかったから」
「その仕事をする前は、バイトをしてたの?」
「はい。夜勤とか……。やっぱり、高卒だと、時給が安くて。少しでも、多く稼ぎたかったから」
「そっか。そうだよなー」
それから、沢野さんは、手を口もとにあてて、じっと考えこんでる様子だった。
外国の絵画みたいに、絵になっていた。
西東さんに、ふざけて抱きついていた時の沢野さんは、ここにはいない。
沢野さんは、動いて、しゃべってる時よりも、こうやって、静かにしている時の方が、大人の男の人に見えた。ものすごく賢そうに見えた。
西東さんが言っていたとおり、二面性がある人なんだ、と思った。
「うーん。うーん……。
はっきり言っていい?」
「……はい」
「僕は、歌穂ちゃんのことが気になってる。好きだと思う。
それはそれとして、歌穂ちゃん自身のことを考えた時に、今からでも、大学に行くべきだと思う」
「えっ?」
「面倒くさいと思う?」
「そ、そんなことは、ない……ですけど。あたし、自分の学費を貯めたつもりじゃ」
「うん。だからね……。僕が出してあげる――って、これじゃあ、だめなんだよな。たぶん」
「出してもらう理由がないです!」
「まあまあ。二人で、考えてみない?」
「考えるまでもないです。おかしいですよ。そんなの」
「おかしいかも、しれないけどさ……。
僕の専属に――つまり、僕の恋人に、なってみない?」
「は、はあ?!」
「奥さんでもいいけど」
ふらっとした。めまいだ。
ソファーの上で、体が傾いて、沢野さんの方に倒れかけた。
「おっとー。大丈夫?」
「わけが、わかりません。なんですか、これ」
「国公立は、自信がないんでしょ。私立でいいじゃん。あるよ? いくらでも」
「え、ええぇー……」
「お金も、あるよ。こういう言い方は、ほんと、どうかと思うけど」
「あたしよりも、ですか」
「ごめんね。あるよ」
「そうですよね……」
「だから、安心して」
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