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2.スイート・キング1
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沢野さんのコーヒーフロートがきた。
「どーも」
「こちらで、おそろいでしょうか?」
「はい」
礼慈さんが、店員さんに答えた。
「礼慈から、ざっくり聞いただけなんだけど。祐奈ちゃんは、訴える気はないの?」
「えっ?」
「変態社長を、だよ」
「えー……」
ココアのカップをテーブルに置いて、沢野さんを見た。アイスコーヒーの上にのってるバニラアイスを、スプーンですくって、おいしそうに食べている。
「もう幸せだから、どうでもいい?」
「うーん。わたしみたいに、被害にあう人がいたら、申しわけないとは、思いますけど……。
関わりたくない、です」
「なるほどね」
「あと、人に話したり、したくないの……。裁判になったら、証人として、話さないといけないんですよね」
「そうだね。加害者が、祐奈ちゃんの訴えをもとにして作る供述調書の内容を認めずに、反論してきた場合は」
「……あの。沢野さんって」
「弁護士だよ。見えないと思うけど」
「え、えー……」
「正直に言っていいから」
横から、礼慈さんが口をはさんだ。
「ごっ、ごめんなさい。意外でした」
「だよね。
くやしいけどなあー。明らかな性犯罪なのに」
「そうだな」
「社員の人たちは、認識してた?」
「してた……と思います。社長室は、オフィスのすぐ横にあって、パーテーションで、くぎられてるだけですから」
「まじで、胸くそ悪いなー。……あっ、ごめんね」
「わたしの方こそ、ごめんなさい。この話は、やめませんか」
「そうだね。やめよう」
沢野さんの手が、グラスを持ち上げた。ストローで、コーヒーを吸っている。
わたしは、うれしかった。訴える気は、もちろんなかったけど。まったく考えたことがないわけじゃなかった。
「あの……」
「うん?」
「沢野さんは、独身ですか?」
「うん。あ、彼女は募集中だよ。いい人がいたら、紹介してください」
「はあ……」
いい人と聞いて、まっ先に浮かんだのは、歌穂の顔だった。でも、すぐに、よくないなと思い直した。
歌穂に、今、彼氏がいるのかどうかを、わたしは知らない。そういう話は、歌穂から聞いたことがなかった。
でも、もしかしたら、わたしが知らないだけで、いろんな人と、つき合っていたのかもしれない……。
「どうかした?」
「ううん……。いいえ。なんでもない、です」
沢野さんと別れてから、街をぶらっと歩いて、デートすることになった。
「どこに行きたい?」
「駅ビル……。ケーキ屋さんを、先に見たいの」
「うん。いいよ」
駅ビルの中にあるケーキ屋さんで、クリスマスのケーキを見た。
いろんなケーキが置いてあったけれど……。昨日、商店街のケーキ屋さんで見たケーキの方が、おいしそうだなと思ってしまった。
「買っていく?」
「うーん……。帰る前に、商店街に寄っていきたい、です」
「分かった。そうしようか」
「礼慈さんは、見たいものとか、ないですか?」
「本屋くらいかな。行っていい?」
「うん」
駅ビルの三階にある本屋さんまで、エスカレーターで上がっていくことになった。
「リビングの本棚には、ほとんど漫画がないですよね。
読みますか? 漫画って」
「実家にある」
「え、ほんとですか」
「読みたいの?」
「うん……。どんなのですか」
「男性向けのやつ。青年漫画っていうのかな。あれは」
「あー。そっちですか」
「どういうのが好き?」
「やっぱり、女の人向けのが好きです。あとはー、少女漫画も」
「施設には、漫画とかあるの?」
「ありますよー。寄付してもらったものだと思いますけど。あとは、職員さんが、好意で、持ってきてくれたり……」
本屋さんに入った。女性向けの雑誌が置いてある棚を見てから、文芸の新刊のコーナーを見た。
買いたいと思うような本はなかった。雑誌も。
しばらく、いろんな棚を見てから、礼慈さんの姿を探した。
本屋さんの中にある、子供向けのおもちゃのコーナーの前にいた。
礼慈さんが、わたしを見る。すぐに、視線をはずされたような気がした。なぜかは、わからなかった。
「なに、見てるの?」
「パズル。大して、数がないな」
「あっ……」
「クリスマスのプレゼント。この中に、欲しいのある?」
「買ってくださるんですか」
「うん」
「ここにあるものは……あんまり。パズルだったら、おもちゃ屋さんで、ちゃんと探したいです」
「分かった。今日、行ってみる?」
「ううん。また、べつの時に……。
ありがとう。ごめんね。わたしが、プレゼントを用意したって、言ったから?」
「それは、まあ。俺だけ用意してなかったんだなと思って」
「先週は、後半に出張があって、忙しかったでしょ? わたしは、ぜんぜん、気にしてないです。あの……ちゃんと、相談してからに、すればよかった」
「ああ……。そうだな。俺も、悪かったよ。
どんなものをあげたら、君が喜ぶのか、分からなくて……。てきとうに、何かを用意するのは嫌だったから」
「うん。うれしいです。そういう風に、思ってもらえて。
あのね……。あの、もし、プレゼントしてもらえるんだったらね……」
「うん?」
「クリスマスコフレがほしいです」
「なに? それ」
「化粧品です。クリスマスの、限定のパッケージになってる……」
「そういうのがあるの?」
「うん。パズルよりも、高いかも……ですけど」
「値段のことはいいよ。百貨店とかにあるの?」
「そうです。あとは、通販とか……」
「どーも」
「こちらで、おそろいでしょうか?」
「はい」
礼慈さんが、店員さんに答えた。
「礼慈から、ざっくり聞いただけなんだけど。祐奈ちゃんは、訴える気はないの?」
「えっ?」
「変態社長を、だよ」
「えー……」
ココアのカップをテーブルに置いて、沢野さんを見た。アイスコーヒーの上にのってるバニラアイスを、スプーンですくって、おいしそうに食べている。
「もう幸せだから、どうでもいい?」
「うーん。わたしみたいに、被害にあう人がいたら、申しわけないとは、思いますけど……。
関わりたくない、です」
「なるほどね」
「あと、人に話したり、したくないの……。裁判になったら、証人として、話さないといけないんですよね」
「そうだね。加害者が、祐奈ちゃんの訴えをもとにして作る供述調書の内容を認めずに、反論してきた場合は」
「……あの。沢野さんって」
「弁護士だよ。見えないと思うけど」
「え、えー……」
「正直に言っていいから」
横から、礼慈さんが口をはさんだ。
「ごっ、ごめんなさい。意外でした」
「だよね。
くやしいけどなあー。明らかな性犯罪なのに」
「そうだな」
「社員の人たちは、認識してた?」
「してた……と思います。社長室は、オフィスのすぐ横にあって、パーテーションで、くぎられてるだけですから」
「まじで、胸くそ悪いなー。……あっ、ごめんね」
「わたしの方こそ、ごめんなさい。この話は、やめませんか」
「そうだね。やめよう」
沢野さんの手が、グラスを持ち上げた。ストローで、コーヒーを吸っている。
わたしは、うれしかった。訴える気は、もちろんなかったけど。まったく考えたことがないわけじゃなかった。
「あの……」
「うん?」
「沢野さんは、独身ですか?」
「うん。あ、彼女は募集中だよ。いい人がいたら、紹介してください」
「はあ……」
いい人と聞いて、まっ先に浮かんだのは、歌穂の顔だった。でも、すぐに、よくないなと思い直した。
歌穂に、今、彼氏がいるのかどうかを、わたしは知らない。そういう話は、歌穂から聞いたことがなかった。
でも、もしかしたら、わたしが知らないだけで、いろんな人と、つき合っていたのかもしれない……。
「どうかした?」
「ううん……。いいえ。なんでもない、です」
沢野さんと別れてから、街をぶらっと歩いて、デートすることになった。
「どこに行きたい?」
「駅ビル……。ケーキ屋さんを、先に見たいの」
「うん。いいよ」
駅ビルの中にあるケーキ屋さんで、クリスマスのケーキを見た。
いろんなケーキが置いてあったけれど……。昨日、商店街のケーキ屋さんで見たケーキの方が、おいしそうだなと思ってしまった。
「買っていく?」
「うーん……。帰る前に、商店街に寄っていきたい、です」
「分かった。そうしようか」
「礼慈さんは、見たいものとか、ないですか?」
「本屋くらいかな。行っていい?」
「うん」
駅ビルの三階にある本屋さんまで、エスカレーターで上がっていくことになった。
「リビングの本棚には、ほとんど漫画がないですよね。
読みますか? 漫画って」
「実家にある」
「え、ほんとですか」
「読みたいの?」
「うん……。どんなのですか」
「男性向けのやつ。青年漫画っていうのかな。あれは」
「あー。そっちですか」
「どういうのが好き?」
「やっぱり、女の人向けのが好きです。あとはー、少女漫画も」
「施設には、漫画とかあるの?」
「ありますよー。寄付してもらったものだと思いますけど。あとは、職員さんが、好意で、持ってきてくれたり……」
本屋さんに入った。女性向けの雑誌が置いてある棚を見てから、文芸の新刊のコーナーを見た。
買いたいと思うような本はなかった。雑誌も。
しばらく、いろんな棚を見てから、礼慈さんの姿を探した。
本屋さんの中にある、子供向けのおもちゃのコーナーの前にいた。
礼慈さんが、わたしを見る。すぐに、視線をはずされたような気がした。なぜかは、わからなかった。
「なに、見てるの?」
「パズル。大して、数がないな」
「あっ……」
「クリスマスのプレゼント。この中に、欲しいのある?」
「買ってくださるんですか」
「うん」
「ここにあるものは……あんまり。パズルだったら、おもちゃ屋さんで、ちゃんと探したいです」
「分かった。今日、行ってみる?」
「ううん。また、べつの時に……。
ありがとう。ごめんね。わたしが、プレゼントを用意したって、言ったから?」
「それは、まあ。俺だけ用意してなかったんだなと思って」
「先週は、後半に出張があって、忙しかったでしょ? わたしは、ぜんぜん、気にしてないです。あの……ちゃんと、相談してからに、すればよかった」
「ああ……。そうだな。俺も、悪かったよ。
どんなものをあげたら、君が喜ぶのか、分からなくて……。てきとうに、何かを用意するのは嫌だったから」
「うん。うれしいです。そういう風に、思ってもらえて。
あのね……。あの、もし、プレゼントしてもらえるんだったらね……」
「うん?」
「クリスマスコフレがほしいです」
「なに? それ」
「化粧品です。クリスマスの、限定のパッケージになってる……」
「そういうのがあるの?」
「うん。パズルよりも、高いかも……ですけど」
「値段のことはいいよ。百貨店とかにあるの?」
「そうです。あとは、通販とか……」
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