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1.バージン・クイーン1
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十二月の三週目の金曜日。
出張で、火曜日から東京を離れていた。
夜遅くに大阪から戻ると、祐奈は寝室で寝ていた。
「祐奈。なんで、ここにいるの」
「……あっ。おかえりなさい」
「こっちで寝てたの?」
「う、うん。ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃない。訊いただけ」
「礼慈さん。ごはんは? もう、食べた?」
「うん。風呂に入ってくる」
「まって。わたしも……」
布団を持ち上げて、ベッドから下りてくる。
どきっとした。
いつも着ているようなルームウェアではなく、レースがたくさんついた、薄手のパジャマを着ていた。少し寒そうにも見えたが、よく似合っていた。
二人でシャワーを浴びることになった。
体にお湯をかけている途中で、祐奈からキスをされた。驚いた。
舌を絡めているうちに、体の奥が熱を帯びていった。
「どうしたの?」
「わたし、へんなの……」
「変って?」
「しても、しても、足りないの」
「……それ、誘ってる?」
「ちがう……」
白い手が下りていく。自分の下腹部に当てて、俺を見上げた。
「ここが、熱いの。礼慈さんが、ずっと入ってるみたいに」
「誘ってるとしか思えない。続きは、ベッドの上で聞かせて」
「うん。……したい」
「その前に、体を洗わない? 髪も」
「ですね……。ごめんなさい」
祐奈に手を引かれて、寝室まで歩いた。いつかの逆だな、と思った。
「濡れてる。自分で、した?」
「……うん」
「寂しかったの?」
「うん、っ」
「どんな格好で? どこで、したの?」
「そんなの、言えない……」
「このベッドで?」
「あぁ、……っ」
「教えて」
「ここで……したの。いじわる、しないで」
「してない」
「だって。じらされてる……」
「ごめん。そんなつもりはなかった」
「……ぜんぶ、ぬいだの。へんでしょ。
上を向いて、あっ、あなたが、はいってくるところを、想像して……したの」
すごい光景に思えた。
「なあ。それ、やってみせてくれない?」
「やっ! やだ……」
「だめか……」
「がっかりしてる……」
「うん。がっかりしてる。いつか、してくれる?」
「それは、どうでしょう……」
「やっぱり、だめか」
「だって。一緒にいるなら……して、ください」
「だよな」
愛撫もそこそこに、挿入することになった。
祐奈自身が、それを望んでくれたからだ。
「……あつ、い」
「熱い?」
「やめ……て。まって……。や、ぁんっ」
手加減はしなかった。できなかったという方が正しい。
「い、やー……っ!」
祐奈が、ぽろぽろと涙をこぼす。哀れな姿にも思えたが、かわいくてたまらなかった。
愛して、愛して、愛しつくした。
幸せだった。
「ひどいです」
「ごめん。よくなかった?」
「よかった……けど。はげしかった、です」
「手加減できなかった」
「どうして……?」
「会いたかった。やっと会えたから、それで……」
「やっと、って。三日だけです」
「祐奈は? 寂しくなかった?」
「さびしかった……」
向こうから手を伸ばされた。抱きしめて、抱きしめ返される。
「もう、寝ますか?」
「いや。そこまで眠くないな。リビングに行く?」
「行きたいです」
俺の後からついてきた祐奈が、冷蔵庫に向かっていった。
「わたし、小腹がすいたので、ちょっと食べます」
「うん。どうぞ」
「礼慈さんは?」
「大丈夫」
冷蔵庫から出したヨーグルトを、おいしそうに食べている。
日常だなと思った。愛すべき日常だ。
さっきまでしていたセックスが、嘘のように思えた。
「俺がいない間、何もなかった?」
「うん。……あ、ガスの点検がありました」
「そうか」
「何も問題ないって」
「よかった」
「……うん」
「なに?」
「礼慈さんの顔のこと、話してもいい?」
「え? うん」
「かっこいいのは、たしかだけど……。あんまり、笑わない人だなって、思ってました。
だから、たまに笑ってくれると、ほんとにうれしかった。
笑わないように、してた?」
「うん。努力した。しょうもない努力だった」
「そんなふうに、言わないで……」
「ごめん。人は、そうそう変わらないんだよ。それは面倒くさいことでもあるけど、救いでもある……かな。
努力するのは、やめた。祐奈が、全力で俺を笑わせにかかってくるから」
「ひどーい。ひどいです」
「いいんだよ。事実だから」
「……」
祐奈は、何も言わずに俺を見ていた。
少ししてから、赤い唇が開いた。
「笑うと、誤解されましたか?」
「……そうだな。されたな。俺に問題があったのかもしれない。
強面って言われるのは、べつに、いやじゃなかった。人と距離がある方が、安心できたから」
「ぜんぜん、強面じゃないですよね……。あまえんぼで、さびしがりやで、あと……」
「もう、やめてくれない? 脇腹の傷だけじゃなくて、心にも傷ができそうなんだけど」
「傷だらけじゃないですか。とっくに」
「そうだった」
出張で、火曜日から東京を離れていた。
夜遅くに大阪から戻ると、祐奈は寝室で寝ていた。
「祐奈。なんで、ここにいるの」
「……あっ。おかえりなさい」
「こっちで寝てたの?」
「う、うん。ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃない。訊いただけ」
「礼慈さん。ごはんは? もう、食べた?」
「うん。風呂に入ってくる」
「まって。わたしも……」
布団を持ち上げて、ベッドから下りてくる。
どきっとした。
いつも着ているようなルームウェアではなく、レースがたくさんついた、薄手のパジャマを着ていた。少し寒そうにも見えたが、よく似合っていた。
二人でシャワーを浴びることになった。
体にお湯をかけている途中で、祐奈からキスをされた。驚いた。
舌を絡めているうちに、体の奥が熱を帯びていった。
「どうしたの?」
「わたし、へんなの……」
「変って?」
「しても、しても、足りないの」
「……それ、誘ってる?」
「ちがう……」
白い手が下りていく。自分の下腹部に当てて、俺を見上げた。
「ここが、熱いの。礼慈さんが、ずっと入ってるみたいに」
「誘ってるとしか思えない。続きは、ベッドの上で聞かせて」
「うん。……したい」
「その前に、体を洗わない? 髪も」
「ですね……。ごめんなさい」
祐奈に手を引かれて、寝室まで歩いた。いつかの逆だな、と思った。
「濡れてる。自分で、した?」
「……うん」
「寂しかったの?」
「うん、っ」
「どんな格好で? どこで、したの?」
「そんなの、言えない……」
「このベッドで?」
「あぁ、……っ」
「教えて」
「ここで……したの。いじわる、しないで」
「してない」
「だって。じらされてる……」
「ごめん。そんなつもりはなかった」
「……ぜんぶ、ぬいだの。へんでしょ。
上を向いて、あっ、あなたが、はいってくるところを、想像して……したの」
すごい光景に思えた。
「なあ。それ、やってみせてくれない?」
「やっ! やだ……」
「だめか……」
「がっかりしてる……」
「うん。がっかりしてる。いつか、してくれる?」
「それは、どうでしょう……」
「やっぱり、だめか」
「だって。一緒にいるなら……して、ください」
「だよな」
愛撫もそこそこに、挿入することになった。
祐奈自身が、それを望んでくれたからだ。
「……あつ、い」
「熱い?」
「やめ……て。まって……。や、ぁんっ」
手加減はしなかった。できなかったという方が正しい。
「い、やー……っ!」
祐奈が、ぽろぽろと涙をこぼす。哀れな姿にも思えたが、かわいくてたまらなかった。
愛して、愛して、愛しつくした。
幸せだった。
「ひどいです」
「ごめん。よくなかった?」
「よかった……けど。はげしかった、です」
「手加減できなかった」
「どうして……?」
「会いたかった。やっと会えたから、それで……」
「やっと、って。三日だけです」
「祐奈は? 寂しくなかった?」
「さびしかった……」
向こうから手を伸ばされた。抱きしめて、抱きしめ返される。
「もう、寝ますか?」
「いや。そこまで眠くないな。リビングに行く?」
「行きたいです」
俺の後からついてきた祐奈が、冷蔵庫に向かっていった。
「わたし、小腹がすいたので、ちょっと食べます」
「うん。どうぞ」
「礼慈さんは?」
「大丈夫」
冷蔵庫から出したヨーグルトを、おいしそうに食べている。
日常だなと思った。愛すべき日常だ。
さっきまでしていたセックスが、嘘のように思えた。
「俺がいない間、何もなかった?」
「うん。……あ、ガスの点検がありました」
「そうか」
「何も問題ないって」
「よかった」
「……うん」
「なに?」
「礼慈さんの顔のこと、話してもいい?」
「え? うん」
「かっこいいのは、たしかだけど……。あんまり、笑わない人だなって、思ってました。
だから、たまに笑ってくれると、ほんとにうれしかった。
笑わないように、してた?」
「うん。努力した。しょうもない努力だった」
「そんなふうに、言わないで……」
「ごめん。人は、そうそう変わらないんだよ。それは面倒くさいことでもあるけど、救いでもある……かな。
努力するのは、やめた。祐奈が、全力で俺を笑わせにかかってくるから」
「ひどーい。ひどいです」
「いいんだよ。事実だから」
「……」
祐奈は、何も言わずに俺を見ていた。
少ししてから、赤い唇が開いた。
「笑うと、誤解されましたか?」
「……そうだな。されたな。俺に問題があったのかもしれない。
強面って言われるのは、べつに、いやじゃなかった。人と距離がある方が、安心できたから」
「ぜんぜん、強面じゃないですよね……。あまえんぼで、さびしがりやで、あと……」
「もう、やめてくれない? 脇腹の傷だけじゃなくて、心にも傷ができそうなんだけど」
「傷だらけじゃないですか。とっくに」
「そうだった」
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