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【最終章】

【35】魔王VS最低勇者

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 最強の魔王ハーデスに娶られ、堕落したベルセポネ。
 堕落した後も天界へ帰ろうとしたが、悪に汚された者は受け入れてもらえず、やむ無く魔界へと帰っていった。

 最初はハーデスを酷く恨んでおり、夫婦仲は最悪であった。
 しかし、ハーデスはベルセポネを寵愛し献身的に尽くす。
 その結果、今では最良の夫婦になり、魔界を牛耳り、最強の魔王と女王として君臨している。

 だが、ベルセポネは悟っていた━━━
 この幸せな時間に、刻限が近付いている事を……

 穏やかでありながらも、何処と無く寂しげな表情で魔王ハーデスに話し掛けるベルセポネ。

『旦那様、勇者が来ます。
 イリス姉様も一緒のようですね』

『そうだね。我らの最期の戦いになるやもしれん……ベル、万が一の時は……』

『ええ、勿論。貴方様と一緒に』

『感謝する……思えば、そなたには苦労ばかり掛けたな。
 余が魔王なばかりに、天界に戻れなくなってしまった。

 あの時は愛してしまった事、魔界に連れて行った事を心より後悔したよ。ベルの立場も考えずに……しかし、今は心より幸せだ』

『何を仰いますか。私もあの時は素直になれずに、貴方様の純粋な想いを踏みにじりました。申し訳ございませんでした。
 それに幸せなのは、私も同じです。お慕いしております。命尽きても、貴方様の隣に居させて下さい』

 純粋過ぎるが故にお互いに傷付け合いもした。
 だが、次第にお互いの気持ちに気付き、愛を育んでいった。
 今では掛け替えのない存在になっていたのだ。

 そんな魔王と女王の耳に、勇者たちが階段を降りてくる音が確かに聞こえてきた。

 そして遂に、魔王ハーデスと勇者ケッツァーたちが顔を揃える。

 双方に長い沈黙が訪れる。
 先に口を開いたのは魔王ハーデスであった。

『久しぶりだな、神イリス。そいつらが余と戦う者共か?』

 イリスは侮蔑の目でハーデスを睨みながら話し始める。

『お前に妹を奪われて、当時、神であった父オリンポスは娘ベルセポネを救えなかった事の自責の念にかられ、憔悴していき命が尽きた。今、ベルセポネが幸せだと言っても!私はお前を許さない!』

 珍しく声を荒げた神イリス。

 少し沈黙をした魔王ハーデスは一言だけ答えた。

『申し訳なかった』

 その一言が逆鱗に触れた。

『何を今更!!今更謝られても父上は生き返らない!!私はベルセポネに触れる事も出来ない!!』

 割って入るベルセポネ。

『お姉様!!お止めください!!
 父上の事は大変残念に思います……
 しかし!私はハーデス様を心よりお慕いしております!お姉様……申し訳ございません。』

 その頃、勇者たちは……
<面倒くせー……ドロドロな展開じゃんよ……昼ドラですか?>と思っていたのだ。

 ケッツァーが、不意に話し出す。

『あのーすんません……そろそろいいですかね?イリス様も、ここに口喧嘩しに来た訳でもないでしょうに。あの時、お覚悟をお決めになられたのであれば……後は私に任せてください。魔王ハーデス、女王ベルセポネ……覚悟はいいな?お前らは2人で、かかって来ても良いぞ。所詮、旧世代だ』

『ふん。言うではないか。だが戦うのは余1人だ。我妻ベルセポネは戦わぬ。それにな、余が死ねば同時に妻も残党の魔王軍も全て死ぬ。ケッツァーとか言ったかな?
 最強なんだろ?貴様と一騎討ちでケリをつけようではないか!』

『いいぜ。皆、離れてろ……80%で行く』

 その瞬間ヴィスキは瞬時に超結界を張り巡らせ、フールは多重防御壁を作った。

 2人は瞬時に理解したのだ。
 ケッツァーが80%の力を出す恐ろしさを。
 2人でもケッツァーの出した力は、最高で50%までしか知らなかった。

 その時でも天界中が震えるような覇気を出していたのだ。

 ヴィスキとフールは思った。

<ふざけんなよ!糞野郎!殺す気か!!>

 魔王ハーデスは思っていた。

<良い勝負になると……>

 勇者たちは思っていた。

<あー……秒で終わるわー>

『よし。準備OKだ。来いよ、ハーデス。
 一瞬で腹に風穴開けてやるからよ』

『では、遠慮なく行ってやろう』

 それは一瞬の出来事であった。

 とてつもないダッシュ力でケッツァーに向かっていったハーデスは、ケッツァーの宣言通り、腹に風穴を開けられた状態で横たわっていたのだ。

 神イリス、女王ベルセポネ、魔王ハーデスには何が起きたのか分からずにいた。

 ………………
 …………
 ……

 簡単に説明しよう!

 魔王ハーデスのトップスピードを利用し、ケッツァーはハーデスの腹に神の雷ゴッドオブサンダーを拳に込めて、一点集中で解き放ったのだ。


『がふっ……な、んだと!?』

 吐血をしながら状況を確認しているハーデス。

 夫であるハーデスに泣きながら詰め寄るベルセポネ。

 そんな2人の姿を、鼻をホジりながら眺めているケッツァー。

『旦那様!旦那様!』

『ベル……セポネ……すまない……余は、嫌、俺はここまでのようだね。魔界を救えなかったようだ。そこに居るのはロイとイルネスか?お前たちに魔王と女王の種を託す……魔界を破壊させないでくれ。世界の均衡のためにも……
 そしてケッツァーよ……お前に一瞬で殺られたとは言え、余は冥府の王ハーデス!
 お前には最期の世話を掛けん!ベル、逝こう……イリス殿、すまなかった』

『ええ、旦那様、お供致します。
 お姉様……私は冥府へと旅立ちます。お姉様、ごめんなさい。大好きです』

『私もよ、ベルセポネ。貴女とは会えないかもしれませんが、同じ世界とはいかないでしょうが、私も直ぐに行きます。だって私と貴女は2人で1人なんですから。ケッツァー、時間です。これを授けます。後は任せましたよ』

『確と承りました。イリス様とベルセポネ殿が、また会えるように、そして、ベルセポネ殿とハーデスが幸せになるように万事手配致しますので、御安心下さい』

『ありがとう……ケッツァー。やはり、貴方は私が思った通り最高の神になりそうですね』

 優しく穏やかな表情でケッツァーへ神の種を託し、イリスはゆっくりと消えていった。

 魔王ハーデスの種はロイへ宿り、ロイは魔王へと変貌を遂げていく。
 同じく女王イリスも変貌を開始する。

 ケッツァーは既に神へと変化しており、女神へフールを昇格させた。
 天使とヴィスキはケッツァーの前へ跪く。

 ケッツァーはヴィスキへ結界を維持したまま待機を命ずる。
 ケッツァーはロイとイルネスの変化に違和感を感じていたからである。


 ロイとイルネスは変化を完了させるが……
 そこには悪に支配された姿しか存在していなかった。
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