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閑話s
新年 記念SS
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「あけましておめでとうございますガブリールさん」
「ほぉ、その差し出した手のひらはなんですか? 言ってみなさい」
「お年玉ください」
「いい度胸ですね、借金しているうえから金をせびるなど」
「ああすいません、ちょっとしたわるふざけだったんですっ!」
新年一発目からコントじみたやりとりをしているおのが兄とその想い人を見て、ラフィエールは顔いっぱいに微笑みをたたえた。
あぁ、もう。ガブも素直になればいいのに__
ラフィエールは知っている。今朝__というより早朝3時から起きたこの男が、社員寮になんぞ向かって、そのポストに、一輪の花とポチ袋(一万円札と同等の価値のある紙幣入り)を投函してきたことを__
やがて落胆したように肩を落とした茜がいつも通りカフェに向かった。そういえば今日はバイトの日であった。あとで顔出しに行こうかな、この兄に仕事を押し付けられる前に……ラフィエールは、まだ見ぬ新年特別メニューを想像して、そっと笑みをこぼしたのだった。
茜が第二の勤務先に向かっていると、向かい側からミアットがやってきた。
「あ、アカネちゃんが来たってことは、そっちが詰所かぁ……あ、あけましておめでとう。これ、お年玉ね」
と、若干あやしい事を喋って、茜に手のひら大の袋を渡すと、早々に去っていった。そういえば彼女は早番だっけ__? 新年なのにご苦労様である。袋の中身を確認してみると、なんとブローチであった。青銀でできた台座に、ちょこんと収まる鮮やかな深紅の宝石。触ってみるとひんやりと冷たかったが、ほんとに宝石……なんてことはない……だろう……たぶん。さらに、それを守るように、アクアマリンににた石がちりばめられている。なんとも茜の好みをよくおさえた、可愛らしいブローチだ。落とすのが怖いので、そっと袋の中に戻しておいた。
さらに、カフェの看板前で、エルメスとシルメリアにも出会った。
「あ、アカネちゃん、あけおめー」
「あけましておめでとう」
にぱ、と無垢に笑うシルメリアと対照的に、ともすればお父さんとでも呼んでしまいそうなほどどっしりと構えたエルメス。二人は、お年玉だよ、と茜にポチ袋を渡してくれた。
「これ、併せて一万円。これで好きな洋服とか買いな……」
「うん、なんならぼくらが連れて行ってもいいんだよ……」
●をたずねて三千里教狂信者はもういいです。おなかいっぱいです。なんなら吐きそうです。ごちそうさまです。そこまで思った茜は、とりあえず、ありがとうございます、とあいまいに答えた。
一体彼らの瞳に茜はどう映っているのだろうか。もしこれが実の妹であればシスコンと言われそうなほど甲斐甲斐しく世話を焼いた彼らは、しばらく立ち話したあと、じゃあおれら仕事だから、と去っていった。
ふと、紙幣だけにしては不自然なほどの重みに気付いた茜は中を確認してみた。そしてその中に、紙幣だけでなく、「Beatrice」の商品券__こちらは木札__まで入っていたことに気付き、茜はそっと戻し、なぜこれを隠したのか……? と首を傾げた
(あれ? 福引の商品券は?)
(……間違えてポチ袋に入れたんじゃね?)
(…………あ)
「おはようございます、マスター! あけましておめでとうございます!」
快活に挨拶する茜を、ほほえましそうに見守るマスター。
「あけましておめでとう、アカネちゃん。今日のまかないは豪華だよ」
「ほんとですかマスター! ありがとうございます!」
嬉しそうに目を輝かせているのを見たマスターは、ちょっと無理してまかないを豪華にしてよかった、と心底思った。まるで大きな孫ができたようで、いまだに独身の彼は、その姿を見てうれしさをにじませているのだった__芋ようかんのために孫を売ったのはなしにしても。
そして着替えのためにいったんいなくなった孫(娘でも可)を見て、ポケットに入っている芋ようかん、一つあげようか、と考えるのであった。
「こんにちは!」
「こんにちはラフィエールさん、あけましておめでとうございます!」
茜が制服に着替えて、掃除をしているとき、ラフィエールは、仕事を押し付けられないうちに、という言葉の通りにやってきた。
いつも通り、窓側の席に座ると、「新年限定の特別メニュー、今年もあるんでしょ?」とマスターにむかって笑いかけたあ。
「あいよ、今年はニューイヤーケーキさ」
と常連にしかわからない会話をしている。アカネちゃん、レシピあるからその通りにね、とウインクするマスター。顔自体は普通のはずなのに、なんだかイケメンに見えてしまった茜の中では、イケメンのゲシュタルトが崩壊している。
茜が厨房に入ると、見本、と書かれた写真に、ソースで「ハッピーニューイヤー!」と書く、という高等技術が要求されることを知った茜は絶望した。
ついでに、マスターはマスターで、ラフィエールとなにやら情報を取引しているようである。その情報の中でたびたびでてくる名前の人物は、へっくちゅとくしゃみをして、誰かわたくしの噂でもしているのでしょうか(あたっている)と呟き、アイスブルーの瞳を隙間なく輝かせたのだった。
__やがて社員寮に帰った茜が、熱烈なファンレターと勘違いして、ガブリールがわざわざ早朝から仕込んだお年玉と花は、哀れにも弟と部下の目にかけられたのだが、それはまた別の話。
「ほぉ、その差し出した手のひらはなんですか? 言ってみなさい」
「お年玉ください」
「いい度胸ですね、借金しているうえから金をせびるなど」
「ああすいません、ちょっとしたわるふざけだったんですっ!」
新年一発目からコントじみたやりとりをしているおのが兄とその想い人を見て、ラフィエールは顔いっぱいに微笑みをたたえた。
あぁ、もう。ガブも素直になればいいのに__
ラフィエールは知っている。今朝__というより早朝3時から起きたこの男が、社員寮になんぞ向かって、そのポストに、一輪の花とポチ袋(一万円札と同等の価値のある紙幣入り)を投函してきたことを__
やがて落胆したように肩を落とした茜がいつも通りカフェに向かった。そういえば今日はバイトの日であった。あとで顔出しに行こうかな、この兄に仕事を押し付けられる前に……ラフィエールは、まだ見ぬ新年特別メニューを想像して、そっと笑みをこぼしたのだった。
茜が第二の勤務先に向かっていると、向かい側からミアットがやってきた。
「あ、アカネちゃんが来たってことは、そっちが詰所かぁ……あ、あけましておめでとう。これ、お年玉ね」
と、若干あやしい事を喋って、茜に手のひら大の袋を渡すと、早々に去っていった。そういえば彼女は早番だっけ__? 新年なのにご苦労様である。袋の中身を確認してみると、なんとブローチであった。青銀でできた台座に、ちょこんと収まる鮮やかな深紅の宝石。触ってみるとひんやりと冷たかったが、ほんとに宝石……なんてことはない……だろう……たぶん。さらに、それを守るように、アクアマリンににた石がちりばめられている。なんとも茜の好みをよくおさえた、可愛らしいブローチだ。落とすのが怖いので、そっと袋の中に戻しておいた。
さらに、カフェの看板前で、エルメスとシルメリアにも出会った。
「あ、アカネちゃん、あけおめー」
「あけましておめでとう」
にぱ、と無垢に笑うシルメリアと対照的に、ともすればお父さんとでも呼んでしまいそうなほどどっしりと構えたエルメス。二人は、お年玉だよ、と茜にポチ袋を渡してくれた。
「これ、併せて一万円。これで好きな洋服とか買いな……」
「うん、なんならぼくらが連れて行ってもいいんだよ……」
●をたずねて三千里教狂信者はもういいです。おなかいっぱいです。なんなら吐きそうです。ごちそうさまです。そこまで思った茜は、とりあえず、ありがとうございます、とあいまいに答えた。
一体彼らの瞳に茜はどう映っているのだろうか。もしこれが実の妹であればシスコンと言われそうなほど甲斐甲斐しく世話を焼いた彼らは、しばらく立ち話したあと、じゃあおれら仕事だから、と去っていった。
ふと、紙幣だけにしては不自然なほどの重みに気付いた茜は中を確認してみた。そしてその中に、紙幣だけでなく、「Beatrice」の商品券__こちらは木札__まで入っていたことに気付き、茜はそっと戻し、なぜこれを隠したのか……? と首を傾げた
(あれ? 福引の商品券は?)
(……間違えてポチ袋に入れたんじゃね?)
(…………あ)
「おはようございます、マスター! あけましておめでとうございます!」
快活に挨拶する茜を、ほほえましそうに見守るマスター。
「あけましておめでとう、アカネちゃん。今日のまかないは豪華だよ」
「ほんとですかマスター! ありがとうございます!」
嬉しそうに目を輝かせているのを見たマスターは、ちょっと無理してまかないを豪華にしてよかった、と心底思った。まるで大きな孫ができたようで、いまだに独身の彼は、その姿を見てうれしさをにじませているのだった__芋ようかんのために孫を売ったのはなしにしても。
そして着替えのためにいったんいなくなった孫(娘でも可)を見て、ポケットに入っている芋ようかん、一つあげようか、と考えるのであった。
「こんにちは!」
「こんにちはラフィエールさん、あけましておめでとうございます!」
茜が制服に着替えて、掃除をしているとき、ラフィエールは、仕事を押し付けられないうちに、という言葉の通りにやってきた。
いつも通り、窓側の席に座ると、「新年限定の特別メニュー、今年もあるんでしょ?」とマスターにむかって笑いかけたあ。
「あいよ、今年はニューイヤーケーキさ」
と常連にしかわからない会話をしている。アカネちゃん、レシピあるからその通りにね、とウインクするマスター。顔自体は普通のはずなのに、なんだかイケメンに見えてしまった茜の中では、イケメンのゲシュタルトが崩壊している。
茜が厨房に入ると、見本、と書かれた写真に、ソースで「ハッピーニューイヤー!」と書く、という高等技術が要求されることを知った茜は絶望した。
ついでに、マスターはマスターで、ラフィエールとなにやら情報を取引しているようである。その情報の中でたびたびでてくる名前の人物は、へっくちゅとくしゃみをして、誰かわたくしの噂でもしているのでしょうか(あたっている)と呟き、アイスブルーの瞳を隙間なく輝かせたのだった。
__やがて社員寮に帰った茜が、熱烈なファンレターと勘違いして、ガブリールがわざわざ早朝から仕込んだお年玉と花は、哀れにも弟と部下の目にかけられたのだが、それはまた別の話。
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