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最終章

衝突

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●世界の停止を確認……時間の流れを『殺し』。アラガミの領域に侵入します。セツカ、体は平気ですか?

「ああ。俺は問題ない」

●レーネの『覚醒』を確認。見てください。彼女も、停止した世界で動けるようです。

「……すごいなあの子は。ほんとうに」

●今の彼女、『殺す』スキルである私より……強いかもしれません。アイドルタイムの解消まで今しばらくお待ちを。すぐに彼女を支援しましょう。

「ほんとうに、驚いたよレーネ。君はずっと……」

 しっかりとした足取りで、レーネは白と黒で彩られた停止世界を歩いていた。
 黄金色に輝く彼女の姿は神秘的で、まるで天の使いが舞い降りたかのよう。
 対するアラガミは、背後に黒いオーラを纏う。まるで悪魔の翼を持つかのよう。
 レーネはしっとりと微笑み、アラガミは歯を剥き出しにして睨み付ける。
 伝説を目の当たりにしているのかもしれない。
 天使と悪魔がここで、決着を着けようとしている。
 
「ずっと、守っていただきました」

 レーネは優しく小指を握りしめ、胸の辺りでぎゅっと抱き締める。
 俺の一番近くにいたレーネ。
 『殺す』スキルがくり返す世界線により覚醒したように、彼女も束ねられた世界線の力により強力な力を内在していた。
 だが、決して目覚めることのないはずだった力。
 他の世界線の記憶を思い出すことは、絶対にあり得ないはずだから。

「こんどは、わたしのばん」

 だけど、思い出した。
 俺との約束を。

「ごしゅじんさまが、だいすきだから」

 レーネは、はにかみつつも、しっかりとアラガミを見据える。
 倒すべき敵を。
 すべての元凶となる少女を。

「ばっっっっっっかじゃないの?」

 アラガミは顔をヒクつかせ、後ずさる。
 停止領域に入ってきた人間など、これまでのループで存在しないのだろう。
 冷静を装っているが、金色の瞳は揺れ、じわりと汗を額に浮かべている。

「こ、ここで動けたからって自慢にならないし? はっきり言って、当たり前だよね。やっと私と勝負できる段階に来たっていうか? ていうか、生意気だよね。いつまでそんな余裕顔でいるつもり?」

「よゆうではないです。からだは限界をこえ。命が悲鳴をあげている。ありえない奇跡を何個も重ね、死ぬほど努力を積んで。すばらしいぐうぜんと運に助けられ、ごしゅじんさまの言いつけを破り。やっとの思いでここまで来ました」

「はっ。わかってんじゃない!! あんたはここに立つ資格がないの。何故? あんた、ただの一般人なのよ。お兄ちゃんと私は兄妹だから、結ばれる運命なの。一般人のくせに、ずるして割り込むのはやめて!!」

「ずるでも、なんでもいい。ごしゅじんさまをわたさない。偽物のいもうと。あなたにはわたさないから!」

「……な、な、はぁ!?」

 偽物の妹。
 アラガミは俺の妹、シロガミ、セツナが造り出した記憶を引き継いだコピーだ。
 世界を創造する際、優しいセツナは命を壊すことを拒んだ。
 その役割を担うアラガミの能力は『破壊』。
 しかし、アラガミはセツナを殺し妹に成り代わろうとした。
 それは無理なんだ。
 セツナの能力の本質は、『誕生』。
 真逆なシロガミとアラガミでは、どうしても役割を交代することはできない。
 セツナの代わりをしようとしても、アラガミでは世界を破壊するだけだ。
 だから、何億回のループを繰り返しても。
 アラガミは俺の妹には、なれない。

「殺す……っ!!」
「っつ!!」
「邪魔すんなレーネっ!! お前さえ、お前さえいなければっ!! 死ねえええっ!!」
「くっ……」

 空間が弾けるような衝突。
 戦闘が始まった。これが、きっと最後の戦いになるだろう。
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