『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行

文字の大きさ
上 下
113 / 149
五章

sugar bullet②

しおりを挟む
 エージェントの一件の後、サトウは中東の紛争地帯に滞在していた。
 そこで日々殺しの依頼を受け、安い金額の報酬をもらい生活するのだ。
 物心がついたときからのやり方。
 サトウの実力ならば金持ちを殺し金を奪うこともできるが。
 __例えば、いきなり人食いのグリズリーが人間の集落にやってきたとする。
「今はお前を食わねえからモノを売ってくれ」
 お前さんは仲良くできるかい? 無理だろう? ビクビクして店の奴も接客してくれねえだろ。
 面倒だが、最低限のルールを守っておいたほうが後の面倒は少なくなる。
 ある程度の理屈をもってサトウは行動していた。そして、仲間はおらず常に孤独であった。
 
 日本に住んでいるやつらには想像もできない世界がある。
 犯罪をおかすことを何とも思っていない奴らがいる。
 意外かもしれないが、それは飢えた子供だ。
 奴らは生きるため、平気で盗むし、なんなら人だって殺す。
 純粋だから、自分のため、家族のために平気で他人を蹴落とせるしそれが奴らの中で正義なんだ。
 別に悪いことだとは思わないね。
 そうしなきゃ生きられない環境なら、誰だってするだろ?
 ぬくぬくとした場所から、そいつらに観光客の財布を盗むなとアドバイスしてやるかい?
 たとえそれが今日のパンのためだとしても?

「残念だったな坊主。俺はハズレだ」
「あっ……」

 往来での出来事だ。
 サトウは背後からぶつかってきた子供の腕をひねりあげる。
 財布を盗もうとしたガキ。
 しかしサトウはすぐに解放した。

「食いかけだが、朝飯のパンだ。やるよ」
「ど、どうして怒らないの?」
 
 怒らない? 
 違うんだよ坊主。
 俺はお前たちとは違いすぎる。だから、お前が飢え死にしようが何の感情も湧いてこない。
 ただの気まぐれだ。
 お前らとは種族が違うんだ。
 人を殺すための種族。それが俺だ。
 母親が目の前で撃ち殺されたとしても、何の感情も浮かばないかもしれない。
 まるで不感症。
 サトウは最初から感情を与えられずにこの世に生を受けたのかもしれないと自分を皮肉る。

「さっさと行け」
「う、うん」

 子供は路地の影へと消えていく。
 飢えた家族とパンを分けあうのだろうか?
 サトウは子供の姿が見えなくなるまでじっと見つめていた。
 ……次の日にはこの街は地図から消滅した。航空機による爆撃で、テロリストの幹部が消されたのだ。街はめちゃくちゃに破壊され、あの子供が生きているかは誰も知らない。


 __俺が爆撃したんだがな。


 犬の鼻が利くように。イルカが海を泳げるように。
 呼吸をするよりも当たり前に、サトウは人を殺すことができた。



 ∇



 感情のないサトウでも、食にはほとほと困り果てていた。
 合わないものは合わないものだ。
 拠点にしている街の、たったひとつの寂れた喫茶店。
 そこでならばまともな飯が食えるということで、サトウはほとんどその店に入り浸っていた。
 窓際の席に座り、読めもしない現地の新聞を開きぼーっとコーヒーを飲み過ごす。
 ドブをさらってきているのかと思うほど、この店のコーヒーはまずかった。 

「いつも同じ注文なのね?」
「ああ。悪いかい?」
「いいえ。いつも同じ場所に座るのね」
「ここが気に入っているんでね」

 女が話しかけてきた。
 何人かいるウェイターのうちのひとりか。サトウは暗い女だと思った。
 壊れかけのガラス細工のような、きしきしと音をたて今にも崩れそうな雰囲気をまとう。
 顔はまあまあ整っている。雰囲気のせいでマイナスだ。この辺りではめずらしく、あか抜けた感じはする。
 女は死神にとりつかれたような微笑みを浮かべ言った。

「クリスよ」
「名前など聞いていないが?」
「聞かれてないけど、教えたの」
「そうかい」

 不思議な女だ。
 用が済んだってのに、サトウのテーブルの傍にじっと幽霊のようにたたずんでいる。
 クリスはサトウのコーヒーを指差し、こう言った。

「ウチのコーヒー、砂糖を入れれば少しはマトモになるわよ」
「ブラックが好きなんだ」
「大人なのね。私は砂糖とミルクをいれないと飲めないわ。というか、この店のコーヒーを飲むくらいならミルクだけを飲むわ」
「コーヒーを出した客にその言いぐさはなんだ」
「ふふ、コーヒー飲むのあなただけよ」
「マジか。腐ってねーだろうな」
「大丈夫。わたしが淹れたもの」
「あんたが淹れたのかい。くそ不味いぞこれ」
「褒めてくれてありがとう……とてもうれしいわ」
「メンタル鋼か!?」

 クリスは不思議な笑いかたをする女だった。
 どこか心に引っ掛かるような、鏡の表面を針金で引っ掻いてできた傷を心に残すような。
 気にならないといえば嘘になる。
 もやもやした不思議な気分に襲われたサトウはコーヒーを一口、口に含んだ。
 するとすかさずクリスは訊いてくる。

「わたしが淹れたコーヒーおいしい?」
「くそ不味い。インスタントの方がマシ」
「ふふ、ありがとう」
「なんでだよ!?」


 サトウの口許がすこしばかり緩む。
 笑ったのは何年ぶりだろうか?
 本人ですら気づかない微笑みを、クリスは嬉しそうに見つめていた。
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...