上 下
68 / 149
三章

ハイエルフの真実を×そう!

しおりを挟む

 ハイエルフの族長の女は、まるでフローラにそっくりだ。
 薄い緑がかった美しい髪色、神秘的な瞳の色。
 それに胸のサイズまで。
 ここが神域でなかったら彼女をフローラと見間違えたかもしれない。
 ハイエルフの女は、まるでハープの音色のような心地いい声で尋ねてくる。

「あなた様のお名前は?」

「セツカだ」

「……よい名ですね。私はロウエル。ハイエルフの村エウロパで族長をしています……先程は失礼をいたしました。私や村のものたちは、数千年から数万年は『人間』というものに関わりを持たずに生きてきました。あなた方の姿をみて驚いてしまったのです」

「なるほどな。よそよそしさの理由はそういうことか」

 おくゆかしく頭を下げるロウエルの態度はしっかりとしていて、先程の村で感じたような好奇の目は感じなかった。
 閉鎖空間にある村だ。顔見知りだけで長い間やってきたことが予想できる。
 ロウエルはにっこりと手を合わせ微笑む。困った。仕草までフローラそのものだ。

「みんな、あなたたちが嫌いというわけではないのですよ?」

「知っている。嫌だったら宿に泊めてくれないだろう」

「ふふ、カジマールの宿屋にお泊まりなのですね? お客様は300年ぶりです。ベッドも清潔で、食事もおいしいです」

「はぁ。なんだかスケールが壮大だな。ハイエルフならではの時間感覚なのか?」

「うふ。ええ、100年前なんて昨日のような感覚です。本当に……」

 言葉をつまらせるロウエル。
 彼女は瞳を潤ませ、何か考え事をしている様子だ。

「ごめんなさい。それで、ここで何をなされているのですか?」

 顔をあげたロウエルが尋ねてきた。
 俺は普通に答える。

「修行だ」

「あら。たくましいのですね」

「俺ではなく、ミリアとレイブンのだがな」

「ご一緒されていたお二人の美しい女性ですね。強くて聡明そうな」

「すまん。人違いなのかもしれん」

 レイブンはともかく、ミリアは聡明だっただろうか?
 つうか普通にレイブンが女だと見抜いてるなこのハイエルフ。なかなか鋭い女だ。
 ともかく、俺たちがここに来た経緯などをロウエルに話した。
 彼女は俺たちの事情を理解して、村の皆に説明してくれる役割を果たしてくれることになったのだが……。

「……いま聞かなきゃ、いまあの子のこと聞かなきゃ。勇気を出して、ロウエル……」

 ロウエルは胸のあたりを抑え、深刻そうな顔でぶつぶつ呟いている。
 ……本当に似ているな。
 レイブンと戦ったとき、フローラにはこうやって一人で抱え込む癖があることに気がついた。
 いつもは大人ぶって余裕な態度を見せている彼女も、実は内心いっぱいいっぱいだったりする。
 ロウエルとフローラは重なる点が多すぎるな。
 俺はそんなロウエルに助け船を出す。

「何か聞きたいことがあるのか?」

「あ……その、わたし」

「なんでもいい。話してみるといい」

「私……のあの子。フローラは元気ですか? あなたが私を見たとき、フローラと呼びました。あれから長い年月が経ています。ありえないことではありますが、もし神様がいるならば……あの子をどうか解放してあげて、と」

 私のフローラ。
 どうやら奇跡のような偶然が重なったみたいだな。
 このロウエルという名のハイエルフは、フローラの母親らしい。

 詳しく話を聞くと、複雑な事情が絡み合っていることに気がついた。
 3000年前、フローラはアリエルによって深淵の森に封印された。
 その理由は様々なものが推測されるが、森から溢れる『呪い』を封印するためだとフローラは言っていた。

 ロウエルは当時、森で暮らすエルフのひとり。
 子供として幼いフローラと、オリエンテールとの戦いで命を落とした夫という家族がいた。
 大規模なエルフ狩りが行われ、封印されていたフローラのように『素材』として使用されることを危惧したロウエルたちは人間に犯されることのない領域に逃げることを画策する。
 それが神域。
 子供を奪われたエルフ、ロウエルは神域で長い時間をかけ、ハイエルフに変化していたのだった。

「私はあの子を見捨てました」

 ロウエルはそう言った。
 捕らえられたエルフの末路は残酷なものだ。
 フローラは死んだものと考え、忘れようとして数千年もこの場所で過ごしてきた。
 しかしふと現れた人間、俺の口からその名前が発せられたので動揺してしまったという。
 長い長い年月、片時も忘れたことなどない。
 彼女の深い瞳にはそう書いてあった。

「安心するといい。フローラは生きている」

「本当ですか!?」

「ああ。それに封印は解除した」

「あの子が……いきてる。それに、森の封印を解除されたので!? ああ、こんな日が来るなんて!!」

 ロウエルは小躍りして喜んだ。
 まるで妖精のタップダンス。
 よほど嬉しかったのだろう。ロウエルは心から喜んでいるようだ。

「嬉しい、ありがとうございますセツカ様! みんなにも伝えないと!」

「それよりも」

 俺は気になっていたことを尋ねる。

「どうしてここから出ない? 子供がいるなら、なぜ会いにいかない?」

 死んだと思っていたとしても。
 こんな閉鎖空間に引きこもる理由にはならない。

「それは……」

 ロウエルは悲しい目をしながら遠くを指差す。
 その方角には、神域に入って最初に目についた大樹。

「あれはただの『木』ではありませんセツカ様。GW(グレート・ウォール)。超巨大な、植物型の世界を隔てる壁です。成長速度、硬度、標高が無限に増大を続ける、この世界が見放された理由のひとつです」

 GW(グレート・ウォール)。
 神域世界と異世界を隔てる、文字通り壁を担う大樹型のプログラムだ。
 自己成長、自己再生、自己進化が組み込まれていて神域を安定させる役割をもっている。
 が、あまりにも成長しすぎた。
 無限に成長を続ける大樹のおかげで、世界の行き来は不可能になった。
 3000年前ならば魔力の高いエルフがこの世界へと逃げ込むことは可能だったが、この世界から異世界へと戻ることは不可能だった。
 誰もその事実を想定できなかったのだ。
 悪いことに、エルフは魔力以外はさほど能力的に高くはなく。
 レベルをあげたり、修練を積んで脱出を試みたものもいたが結局は閉じ込められたままだった。

 ロウエルはあきらめた表情で、その大樹をぼうっと見つめこう言った。

「会いたい……けど、無理なんですよ」

 憎しみなどとっくに通り越した感情。
 子と生き別れたロウエルは絶望を受け入れることに慣れていた。
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...