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一章

成長限界を×しよう!

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 夜。
 ほうほうと鳴き声が聴こえる。
 ふくろうみたいな魔物が鳴いているのだろうか?

「ご主人様……ちょっとこわい」
「セツカ様、なんでしょうあの鳴き声」

 レーネは奴隷主に殺されかけ、スレイも両親を失い安定しない立場に追いやられた。
 不安で毎夜悪夢でうなされる。
 だから一緒に寝てやることが多いし、トイレにもついていってやることがある。
 彼女たちは俺の寝ているベッドに入ってきて困るのだが、それも仕方ないことだろう。
 更に困ったことがある。風呂だ。
 彼女たちは一人で風呂に入れない。

「ご主人様、わたし、獣人だからみずこわい。ひとりだとおふろこわいです……」
「私も、お風呂はセツカ様とでなければ入れません。どうも一人でお風呂に入ると七人衆の心理的なトラウマを誘発してしまうみたいで」

 そうやって足にしがみついてレーネとスレイは主張してくる。
 なら、俺は簡単な解決策を提案してみる。

「レーネとスレイ、二人で入ればいいんじゃないか?」

「……」
「……」

 ちょっとの間があり。
 二人は顔を見合わせ、声を揃えるようにして言った。

「ご主人様、わたし、ご主人様といっしょじゃないとおふろにはいったらおぼれてしまいます。ね、スレイさん?」
「そうですね。レーネの言う通り、トラウマ誘発率が格段に向上する可能性も……私、セツカ様がいないと湯船の中であの残酷な七人衆を思い出してしまいます」

 ということなので結局俺は二人と一緒に風呂に入る。
 飛びはねながら風呂場へと向かう二人。
 さっきまで風呂こわいとか言ってたのはなんだったのだろう?

「やったー! ご主人様はやくはやく。えへへ、スレイさんやったね!」
「ふふふレーネ、計画通りです。セツカ様がタオル一枚に……」

 家の風呂場はけっこうでかい。
 銭湯ほどではないが、すこしいい家ぐらいの広さはある。
 水などは『殺す』スキルで生成し沸かすのでなんとかなる。おそらく、元は魔法を使ってお湯をつくりだしていたのだろう。
 キャッキャと騒ぐ二人の頭を洗い、湯船に入れて面倒をみてやらなければ。

 幼女を風呂に入れるにあたり全然やましい気持ちはない。
 むしろ神聖なる儀式のような晴れやかな気分だ。うん。

 あと何年かすれば自動的に一緒に入りたいなどと言わなくなるだろうし、今だけ子供っぽく甘えているのだろう。
 確かにすこし目のやり場に困るが、親戚の子だってこのぐらいの歳だったら一緒に入るんじゃないか?
 それにしても艶やかな肌、しっとり濡れた髪の毛。神に愛されたように可憐な子たちだ。罪悪感が……。
 罪悪感が……。

 ■――罪悪感を『殺し』ますか?

 いや、スキルよ。
 それを殺してしまうのは不味いのでやめておくよ。

「ご主人様、わたしがおからだながします! かゆいとこありませんか?」

「ずるいです! 私がやりますよレーネ! セツカ様、前も後ろもお任せください!」

「むぅ。スレイさんじゃましないで。わたしがやりたい!」

「私がやるんですっ!」

「わたしのほうができるもん!」

「私のほうがしってるもん!」

「ふたりで――」
「――やりましょう」

 絶妙なコンビネーションを発揮して、体を洗っていた俺のとなりに入り込むレーネとスレイ。
 お前たち、俺を間に挟んで争うんじゃない。くっつきすぎだ。
 そして石鹸のついたぬるぬるの小さい手で身体に触れないで頂きたい。
 ぬるぬるになったレーネの手が背中をはう。
 すべすべのスレイの肌が太ももに密着した。
 そうして、二人は俺のあらゆるところをその手で洗おうとしてきた。

 ……男はつらいよ。
 ざばんと水をかぶり、俺は心頭滅却する。

 冷たい水しぶきにキャッキャと笑っている二人。よし。
 俺はこの子たちを守る!!

 のぼせてしまう前にあがるべし。
 決意のアイスチャレンジなのであった。

「おふろたのしかったですー」
「セツカ様に洗ってもらえて気持ちよかったです」

「うむ」

 そういえば風呂に入っていて思い出したのだが、この世界はステータスがあるらしい。
 街の住民やギルドの人間が口にしているのを聞いていた。
 気のせいかもしれないが、日に日に彼女たちが強くなっている気がするのだ。
 うーん明日にでも確かめてみるか。
 その日は三人川の字でゆっくり休んだ。



 翌日。
 鑑定というスキルか鑑定石でステータスは明らかになるらしいが、多分俺のスキルならなんとかなるだろう。
 朝食をとってから森の中へと向かった。

「ご主人様といっしょにはたらけてうれしいです! ご主人様のちかくにいると元気が出て、さいきんはひとりで荷物をはこべるようになりました!」

 などとレーネは言っているが、幼女が巨大な丸太一本を楽々抱えているのはおかしいと考えていたんだ。
 まずはレーネに対しスキルを使ってみるか。

 ■――鑑定の魔術式を『殺し』ました。省略発動可能です。

 つまりは、魔術式の結果だけ取り出すということ。

「ステータス発動だ」

 まるでゲームのステータス画面のように、レーネの能力が手に取るようにわかる。



 NAME レーネ=ハウスグリウット
 職業   奴隷【殺】
 性別   女
 年齢   10歳
 種族   フェネク(獣人)
 レベル  5【殺】
 HP   980【殺+】
 MP   30【殺+】
 攻撃   510【殺+】
 防御   330【殺+】
 魔法   20【殺+】
 速度   360【殺+】
 運    120【殺+】【殺++】

 ■――『殺す』スキル影響下
 職業:奴隷を殺しました
 レベル:成長限界値を殺しました
 HP:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 MP:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 攻撃:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 防御:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 魔法:レベル限界を殺したにより、数値の大幅上昇
 速度:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 運:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 運:概念限界値の解放によりマイナス数値を無効化

 『殺す』スキルの庇護
 ・状態異常無効
 ・自動回復(小)
 ・自動回復(大)
 ・成長促進
 ・即死攻撃殺し

 特殊庇護――運命殺し




 はぁ? 強すぎだろレーネ。
 「ほえ?」というような顔で上目づかいをする彼女のステータスはぶっ壊れていた。
 このステータスはやばい。強すぎなのだ。
 追い出される前に王城で確認させてもらった、兵士とかの能力値はHP100が普通くらいだったし、攻撃も50あれば一丁前だという話だ。
 それもレベル30ぐらいでそのぐらいが普通なのだ。彼女はまだレベル5だ。
 『殺す』スキルの影響のせいで成長がとんでもないことになっているみたいだな。
 色々な数値が殺されて物騒なステータス画面になっている。
 これはすごいな。
 俺の近くにいると補正が掛かってヤバイ戦闘マシーンレベルの力を手にするらしい。今なら前に出たオークなんてレーネだけで秒殺だ。

 すると、隣にいたスレイもにこやかな王族スマイルを顔にたたえて頭をかたむける。
 よくよく考えれば、彼女も最近かなり顔色がいい。

「セツカ様、私も最近調子がいいですよ。『魔眼』のせいで体に負担がかかる生まれつきの虚弱体質だったのですが、レーネと駆けっこ出来るようになったのはきっとセツカ様のお傍にいるお陰だと思うのです。魔法もなんだか無限に湧き出るような気がして、セツカ様のお力に驚いています」

「スレイまで、またまた」

 と言いつつも再びステータスを開いてみる。
 
 


 NAME スレイ=イシュタル=スネイプニル
 職業   姫
 性別   女
 年齢   10歳
 種族   人
 レベル  8【殺】
 HP   680【殺+】
 MP   1280【殺+】
 攻撃   30【殺+】
 防御   180【殺+】
 魔法   450【殺+】
 速度   160【殺+】
 運    80【殺+】

 血契   魔眼【殺】

 ■――『殺す』スキル影響下
 血契:魔眼を殺しました
 レベル:成長限界値を殺しました
 HP:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 MP:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 攻撃:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 防御:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 魔法:レベル限界を殺したにより、数値の大幅上昇
 速度:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 運:レベル限界を殺したことにより、数値の大幅上昇
 
 『殺す』スキルの庇護
 ・状態異常無効
 ・自動回復(小)
 ・自動回復(大)
 ・成長促進
 ・即死攻撃殺し

 特殊庇護――魔眼殺しにより魔力解放(大)




 やばいな!
 魔力ハンパないな。限界超えてるじゃん。
 ステータス1000越えは古の勇者とやらにしか許されないなんちゃらとか聖女が話していたような気がする。
 10歳でこの子超えちゃったよ。
 元々魔法の才能があったし、魔眼という特殊能力も持っていたけど、俺のスキルの庇護に入ってしまったら成長率がとんでもなくかっこよく変化してしまったらしいな。
 大陸最強(笑)の七人衆も、今のスレイに出くわしたら泣いて謝るだろ。
 彼女たちの成長、嬉しく思うぞ。
 
「いつの間にか成長していたんだな……」

「そうですよご主人様。もうおとな・・・ですから! ちからを試してみますね。むん」

 そう言うと、レーネは手刀をさくりと朽ちた大木に突き刺さすとカッを眼を見開いた。
 森に響く爆音と共に大木は爆発炎上し、木っ端微塵となる。

「光輝掌《しゃいにんぐふぃんぐ》となまえをつけました。これは、フェネク族に伝わる奥義にご主人様に助けられたときのやさしいひかりをイメージしたものを合わせた合体技です。おもに最後、けっちゃくをつけるときにつかいます!!」

 それを見ていたスレイも、いつのまにか右腕を左手でおさえていた。

「私もありますよセツカ様! 邪王円殺白竜破《じゃおうえんさつはくりゅうは》!」

 魔力でできた艶かしい蛇のような竜がスレイの手から生み出され、朽ちた大木を締め上げる。
 あっというまに粉々にしてしまった竜はそのまま木片ごと圧縮して消えてしまった。
 
「想像上の狂竜が相手を永遠に締め上げる恐ろしい魔法です。セツカ様のスキルによって私の黒いこころが解放されました。最近じゃこの技を出しながら歩くのがクセになってます!!」

「ありがとうございます。さすがはご主人様です。わたしたちと過ごすだけでせいちょうさせてくれるなんて、とってもうれしい。ぜんぶぜんぶご主人様のおかげ! どんどん強くなってもっと役にたちたいです!!」

「ふふっ、レーネと私は遊びながらこうして練習していたのです。セツカ様のおかげで身体の内から力が湧き出て、病弱なころを忘れてしまいそう。こうしてずっと一緒にいさせてもらい、セツカ様だけのために私の魔法を使いたい。ありがとうございます! 感謝してもしきれません」

「さすがだな。ふたりの成長には驚いたぞ。……なに!?」

 ■――殺意を確認。クラスメイト・ミカミ。スキル:スナイピングアロー。

「ふざけるな!!」

 音速を超える速度で俺の身体が勝手に動き、レーネとスレイに迫っていた毒矢を軽く叩き落した。
 超超遠距離からの弓矢での狙撃か。だいたい5000mは離れているみたいだな。

「ぜっ、ぜんぜんきがつかなかった。うぅ、ご主人様がいなかったらやられていました……」

「私も、まったく油断していました。これ、やじりになにか毒が塗ってある。もし受けていたら、助からなかったかもしれません。また命を助けていただきありがとうございます!」

 すっかりしょげかえってしまったレーネとスレイ。
 大丈夫だ、失敗は誰にでもあるんだ。

「大丈夫、俺が危険を殺すから怯えなくていい。だけどいくら強くなったとしても警戒することを怠ってはいけない。いつでも自分より強いものが存在すると仮定して、相手の気持ちを考えながら生きるんだ。そうすればおのずと敵が見えてくる」

「はいっ! ご主人様。わかりました! 強くなったと思って油断しました……。わたし、ご主人様といっしょでよかった、とてもうれしいです!!」

「承知しましたセツカ様! すごい、こころがまえまで教えてくださるなんて。宮廷の哲学者なんかよりずっとずっと役にたつ指導です! 肝に命じておきます!!」

 涙目になりながら見上げてくる少女たち。怖かったのだろう。
 さて、この矢だが、返そうか。

 ■――矢における重力の影響を『殺し』ました。
 ■――スキルの使用履歴をコードより検索。検索権限を『殺す』により解除。
 ■――スキル:スナイピングアローの辿った道筋を再現。微調整完了。

「それじゃ、飼い主の元へと戻ってくれよ」

 俺は適当に飛んできた矢を適当に放り投げた。
 『殺す』スキルのおかげで追跡能力をもち、巡航ミサイルのように飛んでいった矢たちがどうなったか?
 興味ないね。
 どうせ痺れ薬とかを矢に塗ってレーネとスレイを攫おうとしたんだろ?
 この森には肉食の魔物が沢山いるからがんばれよ。
 なあ、女狂いで有名なミカミくん。
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