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一章

新製品を×そう!

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 森の朝はとても爽やかだ。
 清潔ですんだ空気が、ぽかぽか陽気に暖められる。
 そしてほのかに草木のふんわりした香りが運ばれてくる。
 ああ、いい……。
 いつまでもベッドに寝転んでいたい。

 すこしお腹が空いてきたな。
 さてと、起きあがろう。
 丁度レーネとスレイもキッチンから運ばれるいい匂いにつられ起き出してきたところだ。
 さあ、朝食にしようか。
 俺は目をこする二人をテーブルに座らせた。
 キッチンでさっと料理をつくった。
 完成したあるものをテーブルに運ぶと、彼女たちは目を輝かせてその料理を食べ始めた。 

「はふっ、はふっ。ご主人様、とってもおいしいです。わたしなんかにこんな高級なものをつくってくださりありがとうございます!!」

「お、おいしい。驚きました。王国の宮廷でも、これほどの朝食はお目にかかれません。もしかしてセツカ様は一流の料理人だったのですか?」

 二人とも大げさすぎる。
 カリッと焼き目がつくまで焼いたベーコンは香ばしくジューシーな肉汁を演出し、大きな目玉焼きはミディアムレア。黄身に口をつけるととろとろの食感が味わえる。硬めのパンも、パターを丁寧に塗って上手に焼き上げてやれば、ふんわりした小麦色の仕上がりだ。
 最後に岩塩でも削って、ぴりっとした香辛料を振ってやれば完成!
 異世界じゃこの料理は珍しいのだろうか?
 普通のベーコンエッグパンである。

「ご主人様、おいしいです。まさか朝食があるなんて。どれいには朝食がなかったので、とってもしあわせです!!」

「はむはむっ。イシュタルの三ツ星料理人に是非おしえたいですの。これまでの料理の常識を変える一品ですわ」

「それほどでもないよ」

 レーネはたまごの黄身でくちびるをべたべたにしながら喜び、スレイは上品にフォークとナイフで切り分け料理を味わったようだ。
 そして食後にはみんなで、そろって淹れたお茶を楽しんだ。

「はぁぅ。それにこのお茶、すごいいい香りです。これってご主人様がお店で選んでいたものですよね?」

「ああ」

「セツカ様、これはアサームの茶葉です。温度の調節や空気の影響で味が変わるから淹れるのが難しいで有名なのに、もしかしてこれを?」

「別に普通に淹れただけだぞ」

「はあぁ。おいしい。すごすぎる……」
「はううぅ。こんなののんだことない。ご主人様すごい」

「確かに、この茶葉すごいな。香りが高い」

 と、みんなで朝の食事を楽しく過ごしたのであった。

 さて、ゆっくりしているだけで生活したいのが本音だが、いくらかの金がないと暮らすのに不自由してしまうな。
 自分たちでも稼げるように、何か仕事を見つけておくべきだ。
 なるべく家で作業したい。女の子たちが可愛らしく、いちいち街に出ると目立つからな。
 実は買い物の際にいくつか目星をつけていたので、それを二人にも相談してみようか。
 リビングに二人を呼び出し、テーブルをはさんで二人を座らせた。
 
「いくつかプランがある。正直、成功する保障はないが……どうだろうか?」

 適当な木の板にわかりやすくプランを書き出してみる。
 例えば、蝋燭、飴玉、ガラス細工、紙、ドライフラワー、加工肉、木工玩具、アクセサリーなどだ。
 全部家の中で出来そうなものだな。
 これらを作り、街で売れたらいいのだが。
 プランを見たレーネとスレイは、感嘆の声をあげるのだった。

「す、すごい……ご主人様はこんなアイデアをお考えなのですね。わたし、ぜんぜんご主人様の底がみえない」

「セツカ様、これは極秘にしたほうがいいです。このプランだけで商人が嗅ぎつけたら大変な騒ぎになる可能性があります。時代の先を進みすぎてあまりにも危険です」
 
「そこまでじゃないよ。これはごく一部だし」

「ええっ!? これ以上のアイデアがあるですかご主人様!? わたしはとんでもないお方をご主人様におむかえしたのです……がんばらないと!」

「……天才ですね。考えが並の人間を超えています。宮廷で色々な方にお会いしましたが、セツカ様ほどの可能性を秘めた方にはめぐり合いませんでした。私もがんばります!」

 という訳で、とりあえず何かを作ってみることになった。
 リンゴのような果実を買っていた。いくつか多めにキッチンに置いてある。
 アップルパイにでもしようかと考えていたが、そういえばリンゴ飴だったら簡単に作れるな。
 祭りの屋台とかでも売ってるし、異世界じゃ売って無さそうだし。
 早速、二人に協力してもらい、始めよう。
 
 ■――木材に含まれる水分を『殺し』ました。

 リンゴ飴の割り箸部分になる木を切り出す。
 幸いここは森の中なので木は沢山ある。
 『殺す』スキルで物体の抵抗を殺してしまえば、切れ味の悪い斧でもするりと木材は分解できた。
 あとは乾燥させてっと。
 割り箸サイズの木の棒が大量に完成した。

「レーネは出来た棒をこの果物に突き刺して」

「この太い棒を……ですか? わかりました!」

「丁寧でいいな。さすがレーネだ」

「んっしょ、んっしょ……棒をまんなかにさす。棒をまんなかにさす! えへへ!」

 レーネは尻尾を揺らしながら、リンゴもどきに木の棒を刺していく。
 楽しそうで良かった。
 こちらはレーネに任せればいいだろう。

「セツカ様、甘味料を水に溶かし、ぐつぐつ煮詰めたものに色をつけました。とろとろに溶けちゃっています」

「いいね。上手だぞスレイ」

「うふ、うふふっ。とろとろです。スレイのがとろとろにできました!」

「うん。よく溶けているな」

 スレイは、謎のテンションで砂糖を溶かしたものを作って持ってきた。
 とても楽しそうだ。お姫様だったから料理とかしたことなかったのだろうか。
 
 レーネが串に刺した果実を、スレイが溶かした色つきの砂糖につけ、冷えるまで放置すると……。

「りんご飴の完成だな」

「きれい……ぴかぴかです」
「これは、宝石ですか? なんと美しいのでしょう」

 つやつやの光沢が出た完成品を見て、二人とも目をキラキラと輝かせている。
 今でも日本の祭りで売っている商品だからな、子供に大人気だ。
 俺も子供のころはつやつやのりんごに驚いたものだ。

「味見してみるといい。ほら」

 二人にりんご飴を渡すと、彼女たちはおそるおそる小さな口でシャクっとかじる。

「あまいですぅ……しゃりしゃりしておいしい。こんなのたべたら、ぜいたくすぎてかみさまにおこられちゃう」

「はう!? パリパリとしゃくしゃくが混じりあって心地いい食感です。甘みと酸味が激しいダンスのように畳み掛けてきて……これはなんという高級菓子なんでしょうか?」

 これはいい反応だ。
 二人の反応を見るに、子供受けも良さそうだな。
 よし、街に持っていって売ってみよう。
 準備を整えると、レーネとスレイを連れて街に出ることにした。

「ひとつくれ」
「私にもひとつちょうだい!」
「なんだこれ……宝石か?」
「おいしい……めちゃくちゃ甘いぞこれ」
「10本くれ。いや、全部欲しいんだが」
「すごい。どうなってるのこのテカテカ?」

 売り始めたら、すぐにこうなった。
 人が集まってきて大盛況だな。
 あまり多くは作ってこなかったので、すぐに売り切れになりそうだ。
 まあ、レーネとスレイの見た目が可愛いのでそれ目当てで人が寄ってきて売れている部分も大きいような気もするが。
 あっという間にりんご飴は売れてしまった。
 残りはレーネがいくつか持っているだけだな。

 しかし、突然遠くからガラの悪い声が響いた。

「おお、めっちゃ可愛い子いる! なになに、りんご飴じゃん!?」

 と、俺の耳に聞き覚えのある嫌な声が飛び込んできた。
 奴はクラスメイトのガネウチだ。
 声のした方を見てみると、露出度の高い下品な女を何人も引き連れているガネウチの姿があった。

 奴はクラスを仕切っている最低イジメ野郎イシイの下僕だ、奴自身も相当のゲス野郎だ。
 立場の弱いものにはひたすら強く、自分より上のものにはひたすら腰が低い。
 バレないようにやってくる陰湿な奴だったな。

 イシイのグループは陰湿だった。
 靴を隠す、机の中身を濡らす、財布から金を抜き取る、あらぬ噂をばらまく、弁当をぐちゃぐちゃにする、無駄に殴ってきたり仕込まれてクラスの中で笑いものにさせられたこともあったっけ。
 俺も付きまとわれて何度もやられた。
 あいつのせいで灰色の高校生活だったよ。
 せっかくいい気分で商売できていたのに台無しになってしまった。

 近づいてきたガネウチは、怯えているレーネに手を延ばそうとする。
 
「それより君を買っちゃおうかな。もちろん無料で。俺についてくれば最高のエロエロ生活をさせてあげるからさあ。いーじゃん俺についてこいよ!!」

 あ、止めたほうがいいぞ。
 と注意する前にガネウチはレーネの頭に手をかけようとした。
 勝手になで回そうとしたらしい。

 ■――パッシブモード『殺す』発動します。

「んぎぃぃぃぃいいいぃぃっ!? 俺の、おれのうでがぁぁぁぁあぁあああ!?!?」

 あーあ。
 腕が反対に折れ曲がっちゃって、痛そう。
 腕の関節を殺すとは、スキルもなかなか酷なことを。

「いでぇぇっ!! でめええぇぇ、セツカかこのやろぉおおお!! 何しやがったくそがぁ!」

 うわこっちに気づかれちゃったよ。
 唾を飛ばしながら俺を睨みつけてくるガネウチ。
 りんご飴売ってただけなのにめんどくさいな。
 しかし、久しぶりに会ったらこいつも変わったみたいだ。
 挨拶ぐらいはしておくか。

「どうしたんだガネウチ。すこし見ないうちに腕が逆に曲げられるようになっていたとはな。元からまともな人間じゃないとは思っていたが、ちょっとその変化には俺も引くぞ。人間を辞めたのはいつだ? ああ、元から人間じゃなかったな、すまない。お前に対する理解が及ばない俺の不手際だ」

「なにいってんだクソがぁっ!! うう、てめえ俺に攻撃しやがったなコラ! ぶっころす。俺のスキルは――」

「やめたほうがいいぞ」

 ■――殺意を確認。危険を『殺し』ます。

「ぶぎぃぃいい!?」

「どうしたんだ自分で自分をパンチして。歯が全部無くなったじゃないか。あはは、それってもしかして俺を楽しませるためにやっているのか。あーあ、自分で自分を殴るなんておかしいなぁ。あ、お前のスキルってもしかして拳を固くするとかそういう類なんだろうか? どうだ、人を殴るってすかっとするのか? 良かったな。これからは自分で自分を殴ってオナニーしろよ猿以下が」

「ふぎふぎぃぃ、ぶぎぃぃい!」

「え、なんて言ったんだ。ちゃんと言葉を使って話してくれ。……いや、よそう。お前に言葉を期待するのは無駄だな。やめたほうがいいと警告しても一切聞き入れなかったお前がこの結果を招いたんだ。世の中の摂理を学べてよかったじゃないか」

「ぎいやぁああ。やめろぉおぉ!! やめてくれぇええ。どぼじで、とめてぇえ!!」
 
 しかし参った。
 静かに暮らしたいだけなのに、周りにはいつの間にかなりの人だかりが出来ている。
 俺がやったんじゃない。ガネウチが勝手に自分を殴っているだけなんだがな。
 奴は自分で止められないらしく、まるで頭のおかしくなったおもちゃのように自動で自分を殴り続けていた。
 そしたらガネウチの取り巻きの女共が騒ぎ出す。

「いやぁあああああああ!!」
「ちょっと何してくれてんのよ、やめなさいよ」
「私たちのガネウチ様ぁ!! 許さないんだから!」

「誰だお前ら。その下品な顔、見たところガネウチの取り巻きか? 邪魔してきたのはガネウチだ。見てなかったのか?」

「はぁっ!? あたしらは王城に選ばれた、召還勇者様の従者なんだから。見目麗しいからガネウチ様に気に入ってもらったのよ!」
「そうよそうよ。正義はガネウチ様にあるのよ!」
「町とかの投票でナンバーワンだったんだから!」

「マジか。それは良かった。ガネウチとお前ら同じランク同士でつるむのは正しい行いだから俺は口出ししないことにするぞ。さあ帰ろうかレーネ、スレイ」

「はい、ご主人様……このひとたちこわい」
「まったく無礼なひとたちです」

 そう言うと、怯えて俺の足にくっついていたレーネがひょこりと顔を出す。
 金色の髪は美しく腰まで伸び、大きな獣耳は自然の生み出した造形美。
 可愛らしい尻尾は妖艶な生き物のように動き、小さな身体ながらにも溢れる生命力を感じさせる肉体をもつ奇跡の美少女獣人だ。
 もし手をとられて甘えられでもしたら鉄の仮面ですら破顔する。

 怒った様子のスレイも腕を組んで隣に控える。
 真っ白い髪につるりとした肌がどこまでも透き通るようで長い髪の毛が地面につかないように纏めている。
 何をしてもあまりにも様になるため、高貴な生まれが佇まいからにじみ出てしまう完全無欠の姫君であり、その容姿を見て惚れない男がいたらそれは男ではないだろう。
 特徴的な赤い瞳に射ぬかれた者は、心まで虜になり尽くすことを約束してしまう。
 神様に約束された容姿の持ち主である。

「え」

 彼女たちを見て口をあんぐりあけるガネウチ取り巻き女たち。
 格が違いすぎる。
 同じ生物だとは思えないほどの造形美をもつ整った顔、将来を約束された美貌をたたえる幼い姿。
 敵うわけがないな。
 残念だけど、ガネウチの取り巻きが勝っている部分はひとつもないみたいだ。
 それは周りの人達の反応をみても明らかだ。
 お前らがレーネをいじめたと思って、みんなめちゃめちゃ睨みつけてるぞ。

「まっ、町とかの投票じゃナンバーワンだったんだから!!」

 はいはい。
 ちゃんと気絶したガネウチを運んでいってくれよ。
 女たちはビービー騒ぎながらガネウチを城まで運んでいった様子であった。
 聖女様に言いつけてやる! などとほざいていたみたいだが、やめたほうがいいのに。
 パッシブスキルがどの程度の範囲で発動するか試してないんだからな。
 ま、奴らが俺に殺意を持ったときが見ものということか。
 
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