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第2章── Memory of the World──
第20話 キコルとヤイカ 後編
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「……いいよ。記憶はあまり無いけど」
ベッドに座ったまま手を膝の上に乗せたキコルは、白い睫毛を少し伏せながら口を開いた。
「……ヤイカは私の2個上でお姉ちゃんみたいな人だった。気が強いけど自分をしっかり持ってて……とにかく芯の強い人。泣き虫な私をよく守ってくれたの」
「そうなのか……。そういう人なら覚醒状態の時でも自我を失わずに自分のものにしてそうだな……」
「うん。実際そうだったよ。例え怒りで自我が暴走しかけても、持ち前の強い精神力でカバーしてた。私を含めた他の6人から讃えられるほど」
「僕には想像出来ないけど……凄い人だったんだな……」
「……うん」
外は暗雲が立ち込めている。……まるで今のキコルの心情を表すように。
「記憶喪失になったけど、ヤイカは傍に居て私の事を支えてくれてたの。……でも以前の事はあまり教えてくれなかった。『キコルは知る必要ない』って」
「……何か怪しいな……」
「うん。だからある日ヤイカに問い詰めたの。『何か隠しているなら言って』ってね」
「それでどうなったんだ?」
「……自分が原因で私は記憶喪失になってるって言われた」
「……えっ? どういう事だ?」
「……私も最初は意味が分からなかった。さっき、黒色の能力は狙われてるって言ったよね? あれって、強大すぎる能力に恐れをなした人々が、その元凶を始末するって意味だけじゃないの」
「そうなのか?」
「うん。何故だか分からないけど、能力者を殺すと殺した者に能力が宿るって考えが一部で伝わったの」
「何で……そんな恐ろしい事が……」
「……能力者は神の子としてこの世界を実質的に支配してたから、任命された当時は崇高な存在として捉えられてた。……だけど、後々現れたこの世界の本当の支配者はそれが気に入らなかったの」
「……支配者?」
「それは私の口からは言えないよ。一応狙われてる身だから。……自分よりも崇拝されてる存在がある事に苛立ちを覚えたんだと思う。特に強い能力を持っていた黒色に目を付けて、噂を流す事で間接的に殺すよう指示したんじゃないかって私は思ってる」
「酷い奴だな……」
「……その所為でヤイカは命を狙われ始めた。不老不死であっても外傷を受ければ死ぬ事は私達能力者しか知り得ないのに……」
「……誰か内通者がいるって事か?」
「そんな事言わないでよ……! もう誰も疑いたくないの……」
両腕を自身の体に巻き付かせ震えるキコルに、僕は他人事では無いと感じた。
「……ヤイカが言うには、5年前ヤイカを殺そうと襲った2人組の男に対抗しようと能力で応戦してたらしいの。その時偶然私も近くにいて、男の内の1人が私を人質にしたんだって……。普段ヤイカは覚醒しても自我を失うことが無かったのにこの時ばかりは違った」
「……キコルを守ろうとして、カバーできない程憤怒し自我を失った……か」
「……うん。結局その2人組はヤイカによって始末されたんだけど、覚醒状態は直らなかった。暴走したヤイカは能力者として禁忌である……記憶操作を私に施したの」
「…………」
「……しばらくして覚醒から覚めたヤイカは、ずっと私に謝ってた。記憶を無くしてる私から見れば、知らない人が私にひたすら謝ってるの。あの時は状況が理解できなかったな……」
「それで……どうなったんだ……?」
「記憶が無いと悟ったヤイカは、過去の事を伏せながら私と接し続けた。だから、この話をされた時は本当に驚いたなぁ……」
「……嫌いにはならなかったのか?」
「全然。むしろ守ってくれてありがとうくらいだよ。でも、あの出来事でヤイカは有名になり過ぎたから、何処に行くにも狙われて休む暇もなかった……」
「……」
「……そして1年前。ノスリカと名乗る男に……」
「……分かった。もうこれ以上言わなくていい」
顔を青ざめているキコルにこれ以上話をさせるのは危険だと察知したからだ。
「……辛かったな。こんな噂が流れてるのに僕が黒色だと名乗ったら、そりゃあ疑われるよな……。でも、こんな酷い噂が流れ始めたのはいつ頃なんだ?」
「そこもよく覚えてないんだけど……ルキが言うには200年前には既に流れてたって。……私達能力者はこれ以上犠牲者が出ないように、人目につかない場所で平穏に生きてきた。だけど騒ぎが起こればそれもただでは済まない」
「……あのさ、キコル」
「何よ。今人が話してるのに」
「昨日軽く言ったけど……僕、こことは違う世界から来たんだ。そして、この国の主を倒せって言われた」
「……それって」
「うん。キコルが良いならだけどさ……この噂の元凶を倒して、元の世界に戻さないか?」
「……勿論よ……!! ヤイカを奪ったこの世界をぶっ壊してやりたいもの」
「よし! そうと決まれば出発だ!」
こうしてキコルを味方につけ僕達は再出発した。
ベッドに座ったまま手を膝の上に乗せたキコルは、白い睫毛を少し伏せながら口を開いた。
「……ヤイカは私の2個上でお姉ちゃんみたいな人だった。気が強いけど自分をしっかり持ってて……とにかく芯の強い人。泣き虫な私をよく守ってくれたの」
「そうなのか……。そういう人なら覚醒状態の時でも自我を失わずに自分のものにしてそうだな……」
「うん。実際そうだったよ。例え怒りで自我が暴走しかけても、持ち前の強い精神力でカバーしてた。私を含めた他の6人から讃えられるほど」
「僕には想像出来ないけど……凄い人だったんだな……」
「……うん」
外は暗雲が立ち込めている。……まるで今のキコルの心情を表すように。
「記憶喪失になったけど、ヤイカは傍に居て私の事を支えてくれてたの。……でも以前の事はあまり教えてくれなかった。『キコルは知る必要ない』って」
「……何か怪しいな……」
「うん。だからある日ヤイカに問い詰めたの。『何か隠しているなら言って』ってね」
「それでどうなったんだ?」
「……自分が原因で私は記憶喪失になってるって言われた」
「……えっ? どういう事だ?」
「……私も最初は意味が分からなかった。さっき、黒色の能力は狙われてるって言ったよね? あれって、強大すぎる能力に恐れをなした人々が、その元凶を始末するって意味だけじゃないの」
「そうなのか?」
「うん。何故だか分からないけど、能力者を殺すと殺した者に能力が宿るって考えが一部で伝わったの」
「何で……そんな恐ろしい事が……」
「……能力者は神の子としてこの世界を実質的に支配してたから、任命された当時は崇高な存在として捉えられてた。……だけど、後々現れたこの世界の本当の支配者はそれが気に入らなかったの」
「……支配者?」
「それは私の口からは言えないよ。一応狙われてる身だから。……自分よりも崇拝されてる存在がある事に苛立ちを覚えたんだと思う。特に強い能力を持っていた黒色に目を付けて、噂を流す事で間接的に殺すよう指示したんじゃないかって私は思ってる」
「酷い奴だな……」
「……その所為でヤイカは命を狙われ始めた。不老不死であっても外傷を受ければ死ぬ事は私達能力者しか知り得ないのに……」
「……誰か内通者がいるって事か?」
「そんな事言わないでよ……! もう誰も疑いたくないの……」
両腕を自身の体に巻き付かせ震えるキコルに、僕は他人事では無いと感じた。
「……ヤイカが言うには、5年前ヤイカを殺そうと襲った2人組の男に対抗しようと能力で応戦してたらしいの。その時偶然私も近くにいて、男の内の1人が私を人質にしたんだって……。普段ヤイカは覚醒しても自我を失うことが無かったのにこの時ばかりは違った」
「……キコルを守ろうとして、カバーできない程憤怒し自我を失った……か」
「……うん。結局その2人組はヤイカによって始末されたんだけど、覚醒状態は直らなかった。暴走したヤイカは能力者として禁忌である……記憶操作を私に施したの」
「…………」
「……しばらくして覚醒から覚めたヤイカは、ずっと私に謝ってた。記憶を無くしてる私から見れば、知らない人が私にひたすら謝ってるの。あの時は状況が理解できなかったな……」
「それで……どうなったんだ……?」
「記憶が無いと悟ったヤイカは、過去の事を伏せながら私と接し続けた。だから、この話をされた時は本当に驚いたなぁ……」
「……嫌いにはならなかったのか?」
「全然。むしろ守ってくれてありがとうくらいだよ。でも、あの出来事でヤイカは有名になり過ぎたから、何処に行くにも狙われて休む暇もなかった……」
「……」
「……そして1年前。ノスリカと名乗る男に……」
「……分かった。もうこれ以上言わなくていい」
顔を青ざめているキコルにこれ以上話をさせるのは危険だと察知したからだ。
「……辛かったな。こんな噂が流れてるのに僕が黒色だと名乗ったら、そりゃあ疑われるよな……。でも、こんな酷い噂が流れ始めたのはいつ頃なんだ?」
「そこもよく覚えてないんだけど……ルキが言うには200年前には既に流れてたって。……私達能力者はこれ以上犠牲者が出ないように、人目につかない場所で平穏に生きてきた。だけど騒ぎが起こればそれもただでは済まない」
「……あのさ、キコル」
「何よ。今人が話してるのに」
「昨日軽く言ったけど……僕、こことは違う世界から来たんだ。そして、この国の主を倒せって言われた」
「……それって」
「うん。キコルが良いならだけどさ……この噂の元凶を倒して、元の世界に戻さないか?」
「……勿論よ……!! ヤイカを奪ったこの世界をぶっ壊してやりたいもの」
「よし! そうと決まれば出発だ!」
こうしてキコルを味方につけ僕達は再出発した。
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