上 下
7 / 13

7話

しおりを挟む
 薄ら笑みを浮かべたお母様は私にベッドに入るように促し、私がベッドに入ったのを確認するとお母様はベッドの縁に腰を下ろした。

「フィリングリス家にはね、千年に一度天女の生まれ変わりが産まれるの。」

「天女の、生まれ変わり?」

「そうよ。ある日、生き永らえようとした欲張りな天女はある男に恋をしたの。その男はポリウェン家、つまり今の皇帝陛下の御先祖様だったの。そしてまたある日、その男も美しい天女に恋をしたわ。」

「それ本当の話なの?すごく素敵だわ。」

「ふふっ、そうね。でもこの話には続きがあるのよ。その男が戦争で致命傷を負ってしまったのよ。それも結婚しようという約束をしたすぐ後にね。それを嘆いた天女は自分の命の代わりに彼を生かすことを決めたのよ。けどその男はもう二度と愛する人に会えなくなる辛さに千年に一度合わせてもらうことを求めたの。」

「千年に一度だなんて少なすぎるわよ、私ならもっと逢いたいと願うわ。」

「私もそうするでしょうね。でも欲のない男は千年に一度でいいと言ったのよ。天女は千年後に会いましょうと言い涙を流し、その涙を彼の傷口に落としたの。一滴、また一滴と落とすうちに天女は次第に弱々しくなって行ったけれど、彼の傷口はみるみるうちに治っていった。そしてついに、天女が息絶えた時彼の傷は傷跡すら残らないほど綺麗に無くなったのよ。」

「そんな……。」

「それでも、天女はきちんと千年に一度、姿形も変えずに彼の前に現れたわ。彼も同じく、姿形も変えずに彼女の訪れを待つの。」

 この手の話はあまり好きではない。どうせただの言い伝えに決まっているし、恋情なんて確証のないものを信じるのは、どうしても怖かったのだ。

「そして、その天女の子孫に当たるのが我が家、フィリングリス家よ。これをよく覚えておいて。いずれ、貴方の記憶が教えてくれるわ、これまでの軌跡を。じゃあおやすみ。いい夢を見るのよ、イリシス。」

 お母様は私の額にキスを落として私の部屋を後にした。私の祖先が天女って、どういうことなの。あんな話が現実に起こっただなんて、とてもじゃないが信じられない。いや、確かに神力というものを使う神の御加護を受けている方や、精霊の力で神のお告げを聞いたり自然のを扱う精霊士と呼ばれる方もいるからあながち嘘ではないのかもしれない。
 何が何だかわからなくて頭の中が混乱してしまう。けれど、いちばん恐ろしいのは今の話を聞いたときに、何故か懐かしいと感じてしまったこと。
 私は考えることが怖くなってしまい目を閉じた。それでも、なかなか眠れなくて私が眠る頃には空が明るんできていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

私が欲しいのならば、最強の父と母を納得させてみよ!話はそれからだ!

文月ゆうり
恋愛
ユジイット王国の末の王女である十二歳のユリーシアは、デイグレード帝国の側妃として後宮入りした。 帝国初の側妃である。 十五歳年上の皇帝に熱望された結果による後宮入りなのだが、祖国では愛を得られず、何も与えられなかったユリーシアには理解できない。 そうして皇帝との初夜で、ユリーシアは困惑するのである。 何故なら、皇帝と彼の愛する皇后。寝台にて二人に挟まれて川の字になって、健やかに眠ることになったからだ。 ※主人公は悲しい少女時代を送っていましたが、皇帝(父)と皇后(母)に甘やかされる側妃(子供)になります。 シリアスは混じりつつ、ほのぼのしています。 恋愛は後に入ります。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

英雄王と鳥籠の中の姫君

坂合奏
恋愛
無慈悲で残酷なまでの英雄王と 今日私は結婚する グランドール王国の姫であるリーリエは、幼い頃に大量の奴隷を母親サーシャと共に逃がした罪から、王宮で虐待を受けていた。 とある日、アダブランカ王国を圧政から救った英雄王であるクノリス王からリーリエを嫁によこさなければ、戦争を仕掛けるという手紙がグランドール王国の王宮に届き、リーリエはアダブランカ王国に嫁入りすることになった。 しかし、クノリスはグランドール王国でリーリエ達が逃がした奴隷の一人で……

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...