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4話

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 皇太子殿下に導かれパーティーの会場に向かった。前世でも自分が主役のパーティーは度々あったものの、やはりそう簡単に慣れるはずもなく緊張からか少し指先が冷たくなっているのを感じた。

「緊張しているのか?表情が硬いぞ。」

「あ、いえ……。」

「随分分かりやすい嘘をつくのだな。イリシスでも緊張するなんて意外だな。」

「私も人間ですし、緊張くらい人並みにはしますよ。」

「それもそうか。」

 こんな会話、前世ではなかった。それに、こうやって私の緊張に気づくことも一切なかった。私にこんな表情を向けることだって、ほとんどなかった。
 私が知っている皇太子殿下はいつも冷静で何事もスマートにこなす、まさに人の上に立つような人格の人だ。それなのに、私の横を歩く皇太子殿下は年相応の顔つきでは無いものの、幾分かは柔らかい表情で笑っている。

「今日は君が主役なんだ。だから笑っているだけでいいんだよ。」

「はい。」

 皇太子殿下が立ちどまり、私がそう返事をしたのと同時にパーティー会場の大きな扉が開かれた。人々は一斉にこちらを見て表情を明るくさせた。
 あちこちでお似合いだとか、美男美女だとか言う言葉が聞こえる。そんな中を私よりも堂々と歩く皇太子殿下の隣に並ぶと、主役は私なのに少し霞んでしまうように感じるが、それほど彼は人を惹きつけるような魅力があるのだろう。

「皆様、今日はおこしくださりありがとうございます。ぜひ楽しんでくださいね。」

 もう慣れてしまった作り笑いを顔に貼り付けてそういうと次々に私に言い寄ってくる人達。これは前世と同じなのか、と思うと腹が立ってくる。私に気にいられてお金や権力、地位を手に入れようとする人たちが私の周りに集まってくる。

「イリシス様、お誕生日おめでとうございます。こちら、最近鉱山で新しく発見された宝石を使ったネックレスです。ぜひお使いください。」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね。」

 下心丸見えな笑顔で私にプレゼントを渡す大人たち。前世はこれから逃げて皇太子殿下にイメージがどうだとか言われたんだっけ、なんてことを思い出す。
 今世ではそんなことにはなりたくないという一心で作り笑いをひたすら続けた。

 本当に、心底面倒くさい。
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