余命僅かな私と永遠の命の君

桜霞

文字の大きさ
上 下
2 / 5

2話

しおりを挟む
 琉唯が和彦と少し話していると、廊下から“和彦くーん!“という声がした。和彦はあからさまに嫌な顔をして、最悪だ……、と声を漏らした。看護師は忙しそうに一つ一つの病室を確認し、ついに琉唯の病室を見た。そうなれば案の定、和彦は看護師に見つかった。

「ここにいたのね。今日は検査なんだからちゃんと病室にいてもらわないと困ります!」

「検査なんて何回しても同じだろ。どうせ変わらないんだよ、何も。」

  不貞腐れた顔でそういう彼の言葉に、看護師は少し辛そうな顔をして答えた。

「何か変わるかもしれないでしょう。それも検査しないと何も分からないんだから大人しく検査は受けてもらいます!」

 和彦は、嫌そうな顔をして渋々返事をすると、ばいばーい!と言いながら手を振り琉唯の病室を去った。その途端、さっきの静寂が帰ってきて、何となく虚しくなって窓の外を見た。

「死ぬのかなぁ……。」

 そう一人で呟いた声は誰に聞き取られるわけでもなく、自身の心の闇に吸い込まれていってしまった。









「美紀ちゃーん、ほんとに検査しなきゃだめ?」

「当たり前でしょ。君が初めての事例でとにかく情報が足りないんだから。あと、美紀ちゃんじゃなくて奈実紀先生ね。」

 少し面倒くさそうに看護師の猪瀬奈実紀いのせなみきと話す和彦の表情は気怠げ、よりも寂しげという言葉が似合うだろう。

「俺、前世で殺人鬼だったりしたのかな。」

「いきなりそんなこと言ってどうしたの。」

「いや、こんな変な病気にかかるなんてさ。しかも俺が初めての事例。なんかの天罰みたいじゃんか。」

 あまりに辛そうな声色に、奈実紀は何も言うことが出来なかった。窓の外ではぽつりぽつりと雨が降り出している。空を覆う薄暗い雲がやけに目に付いて嫌気が差した。

「よし。検査を始めます。」

 その言葉から約1時間半が経過し、やっと全ての検査が終了した。和彦は検査の結果の報告を、診察室のベッドに横になりながら待った。今回もどうせ変わらないだろう、なんてことを考えて数分。コンコンコン、とノックする音が聞こえたと同時に扉が開いた。

「お待たせ、和彦くん。」

 そう優しく声をかけるのは主治医の宮塚誠二みやつかせいじだ。
 どうせ変わらない。そんなふうに思いながらも頭のどこかで、もしかしたら治療法が見つかりそうとか、そんな進展があるんじゃないかと期待してしまう。
 だが、そんな淡い期待も一瞬にして消え去った。

「残念ながら今回も何もわからなかったし、何も変わっていなかったよ。長い時間検査したのに申し訳ない。」

「そうですか。まあ、それもいつもの事じゃないてすか。」

 そんなことだろうと思っていた。そのはずなのに、和彦にとってそれはどうしようもなく辛いことで、どうしようもない不安に襲われる。

「じゃ、病室に戻ります。ありがとうございました。」

 いつものようにへらへらと笑ってみせようとしたが口角は上手く上がらず、自分でも笑顔が引きつっていることが分かった。格好悪いな、と思いながら廊下に出ると見舞いに来たのか男子高校生が5人ほどフルーツをもって歩いている。
 和彦は、その光景が羨ましくて仕方がなかった。自分にはもうできない事だからなのか、そんなことを遠い過去にした記憶が薄ら残っていたからなのかはわからない。

「なんで俺はこんな病気なんだろう。一生、歳を取らないなんてさ__。」

 この時、彼の目が潤んでいたことを知る人は誰も知らない。看護師も、主治医も、自分自身すらも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

殿下、ウザイのですが?

神桜
恋愛
第2王子のドナルドと(ヒロイン的ポジによって)婚約破棄された侯爵令嬢のミシェルだが第2王子が嫌いだったから婚約破棄なんてどうでも良かったから平和に過ごしていたが、その第2王子がミシェルを追いかけ続ける話…。 ※2019.8.20完結しました!

処理中です...