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終章:エピローグ
子供達の成長
しおりを挟む再建されたガルミッシュ帝国の帝都において、皇太子ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュの皇帝就任の儀が行われる。
その報せと帝国の復興に手を貸してくれた各国へ招待状が送られ、数多くの参列者が新たな帝都へ訪れた。
そうした中の一組であるマシラ共和国からも、マシラ王ウルクルスと元老院議長ゴズヴァールが招待客として招かれる。
更に十四歳に成長した王子アレクサンデル=ガラント=マシラも同行し、新たな帝城内に設けられた皇族用の客室へ招かれた。
それを迎えるのは皇太子ユグナリスと彼の補佐役を務めるローゼン公セルジアスであり、彼等五人は長椅子に座りながら談話を行う。
すると皇后クレアに代わるように居るセルジアスは、この場に赴いている理由をマシラ共和国の招待客に説明した
「――……皇后陛下は故郷であるアスラント同盟国の招待客を御招きしておりますので、私が同席させて頂きます。何か御用命があれば御対応させて頂きますので、よろしいでしょうか?」
「ええ、問題ありません。……貴方と御会いするのは、もう二十年近く前になりますか?」
「はい。以前にウルクルス陛下が、帝国との同盟締結の際に御越しになって以来でしょうか」
「そうです、その際には手厚く帝国の方々に御迎え頂きました。今回もそれに違わぬ御対応と、殿下の栄えある儀に御呼び頂いた事、感謝しています」
「恐縮です」
ウルクルス王は礼節に則った謝辞を口にし、改めてユグナリスとセルジアスに伝える。
それを受けた後、今度はユグナリスが以前の出来事に対する謝辞を伝えた。
「ウルクルス陛下には、以前にリエスティアの事で御世話になりました。誠にありがとうございます」
「いいえ。アレは私にとって、アルトリア嬢達に対する恩義を返す好機でもありましたが。結局は、彼女達が自ら解決してしまいましたから」
「それでも、陛下に御尽力頂いた事に変わりはありません。そして共和王国側の誠実な御対応も、感謝に耐えません」
そうして改めるように頭を下げたユグナリスは、以前の件に対する感謝を伝える。
それを頷きながら受け取るウルクルス王に対して、今度はセルジアスが言葉を向けた。
「……ウルクルス王には、妹の件で随分と良くして頂いたと聞き及んでおります。兄として、改めて感謝と謝罪を御伝えしたい」
「いえいえ。……アルトリア嬢のおかげで、私は立ち直る事が出来ました。そして、息子ともちゃんと向き合えるようになったのです。こちらこそ、感謝し足りません」
「そう言って頂けるのは幸いですが。幾度も貴国で暴れ回った妹の話を聞き、随分な御迷惑を御掛けしたことに肝を冷やすばかりでして。ウルクルス王の寛容な御心には、兄としても帝国としても本当に感謝しております」
「ははっ。確かに、貴公の立場であればそうでしょうな。……私自身とマシラ共和国の意思として、これからも帝国とは良好な同盟関係を築いていきたいと思っておりますので。どうぞよろしくお願いします、ユグナリス殿下……いえ、新皇帝陛下」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
改めて両国での友好関係の継続を伝えるマシラ王ウルクルスの言葉に、新皇帝となるユグナリスも応じる。
そうして大人達の談話が一通り終わった後、父親の隣に座る王子アレクサンデルがセルジアスに問い掛けた。
「――……あの、御聞きしてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「アルトリアお姉さん達は、今回の祭典に来る予定が?」
「……アルトリアに対しても、内密に招待を行ったのですが。既に拒否の返事が届いています」
「え? どうして……」
「――……『私を祝い行くほど暇じゃない』と、断られました」
「……ア、アルトリア嬢らしい返事ですね……」
「あはは……」
今回の式典に招待されたアルトリアだったが、その一言だけで拒否した事にマシラ王族の二人は苦笑いを浮かべる。
すると二人の後ろに立ちながら聞いていたゴズヴァールも、ある人物達について問い掛けた。
「……マギルスとケイル、そしてエリクは?」
「マギルス殿は参列して頂けます。アズマ国に滞在されているケイル殿も、御忙しく参加できないという御連絡を頂きました。エリク殿の場合は、何処にいるか分からず……」
「そうか。……マギルスは、帝国に留まって何を?」
「シエスティナ嬢の遊び相手……と言うよりも、稽古の相手をしています」
「稽古?」
「……それについても、帝国の悩ましい部分で……」
「?」
マギルスが関わるシエスティナの話になった瞬間、ユグナリスとセルジアスの表情が渋る様子を強める。
そして内密な話として、ウルクルス王達にシエスティナの困った話が行われた。
輪廻の一件を経て様々な体験をしたシエスティナは、結果として様々な人物の影響を受けてしまう。
特にその影響の主だった原因は、父親であるユグナリスと従妹伯母のアルトリアだった。
『生命の火』を使い類稀なる剣技を有するユグナリスと、様々な魔法を駆使するアルトリアの姿は、幼く多感なシエスティナに憧れを抱かせてしまう。
その結果として、女の子であるはずのシエスティナは剣や魔法を習う事に執着する様子を見せていた。
更に天真爛漫な性格も災いしてか、淑女としての礼儀作法の習得を疎かになってしまう。
それに対して祖母クレアや母リエスティアは説得を試みているのだが、逆に反発しながらマギルスに泣きつく様子まで見せるらしい。
マギルスの性格上、友達であるシエスティナの思いを優先するので味方に引き入れるのは不可能。
そしてマギルス自身も安穏とした生活に飽き始めたのか、シエスティナに遊び称して稽古を行い始めてしまった。
結果としてシエスティナの教育方針に問題が生じてしまい、帝国にとって頭を悩ませる種の一つとなってしまう。
そうした事情を聞いたウルクルス王は、苦笑いを浮かべながらユグナリス達に同情の意を向けた。
「――……なるほど、そういう事ですか。……今のシエスティナ姫は、御幾つですか?」
「今年で八歳になります」
「もうそれ程になりますか。年月の経過も早く感じますね」
「ええ。ついこの間まで赤ん坊だと思っていたのに、今では私達の言葉より自分の思いばかり優先するようになって。……これも、アルトリアの悪影響かもしれません」
「ははは……」
真顔で特定の人物が施した悪影響を信じるユグナリスに、ウルクルス王は察するような顔で笑いを浮かべる。
するとその話を聞いていたアレクサンデルは、少し考えながらユグナリスへ問い掛けた。
「……ユグナリス殿下。シエスティナ姫と会わせて頂く事は可能ですか?」
「!」
「え?」
「僕もそのくらいの頃には、似たような思いと経験をしているので。何か、御力になれればと思いまして」
「……御協力して頂くのは、嬉しいのですが……」
「それに僕は、マギルス殿にも御会いしたいんです」
「マギルス殿に……。それは、何故……?」
「ゴズヴァールが言っていました、マギルス殿の強さは既に自分を超えていると。なので僕も一つ、御手合せを願いたいのです」
「お、御手合せ……?」
亜麻色の髪を揺らしながら瞳を輝かせてそう言うアレクサンデルに、ユグナリスやセルジアスは困惑した面持ちを浮かべる。
すると先程の彼等と同じような表情を浮かべるウルクルス王が、苦笑いを浮かべながら話した。
「……共和国も、帝国と似た悩みを抱えていると言う事です」
「な、なるほど……。……御互い、苦労しますね……」
互いに子供の成長と共に問題を抱えた親として、ユグナリスとウルクルスは共感した面持ちを浮かべる。
それに関する談話が続けられた後、就任の儀が行われる前にアレクサンデル王子はシエスティナ姫やマギルスと会う事になった。
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