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革命編 八章:冒険譚の終幕
創造神の夢
しおりを挟むシエスティナの魂から精神を浮上させリエスティアの肉体を借りた『黒』は、聖域において窮地に陥ったアルトリアを助け出す。
更に聖域の時空間内部において創造神と同等の実力を発揮する『黒』は、自身の能力を用いてメディアを完全に圧倒して見せた。
それでも自分を生んだマナの大樹の意思を引き継いだメディアは、自分の思想こそ創造神の願いであると語る。
しかしその言葉を真っ向から否定する『黒』は、下界を作った最初の天変地異を起こした原因、創造神の欠片と言われる者達が持つ権能の正体を明かした。
その原因と正体こそ、『創造神』が切り離した破壊衝動から生まれた人格。
後に『黒』と呼ばれる創造神の肉体を持った到達者の正体こそが、その『破壊神《しょうどう》』そのものだった。
その事実はメディアが流す映像越しに『黒』の語りは地上にも伝わり、多くの者達に動揺を起こさせる。
しかし伝えられている概要をほとんどの者達は把握しておらず、自分達が住む下界が誕生した時の話だと理解できる者こそ少ない。
その一方で、その話を聞いたある国の者達は動揺を広めている。
それこそが『黒』を『繋がりの神』として信奉するフラムブルグ宗教国家であり、現教皇ファルネもまたその一人だった。
「――……きょ、教皇様……この方は……!?」
「……間違いありません。私が別未来で御会いした、『繋がりの神』です」
「で、では……この話は……」
「我等の神が、このような状況で嘘を吐くとは思えません。……これが私達の住む世界が誕生した、真実なのでしょう」
「そ、そんな……。……聖典では、この世界は創造神によって望まれて作られたと……」
「……神よ。いったい、何を御考えなのですか……?」
それぞれ映像から視聴する『黒』の言葉を聞き、信者であり教皇の傍に付く幹部達が動揺を広める。
宗教国家の体制において根幹となっている『黒』の聖典は、まさに創造神の望みによって作られたと伝えていた。
それを否定し創造神から切り離された『破壊衝動』が起こした出来事が世界を創った原因だと語る話に、聖典の内容をよく知る信者達は動揺を治められない。
しかし教皇ファルネだけは、映像で視える『黒』の真意を思考していた。
そして『黒』は、映像越しに再び真実を伝え始める。
『――……数百万年前、創造神は自殺した。その理由の一つは自分の生命に飽きたからじゃなくて、自分の精神に在る破壊衝動を殺す為だったんだよ』
『!』
『最初の天変地異を始めとして、創造神の虚しさと寂しさの原因だった存在を殺そうとする破壊衝動を止めようとした。……その結論が、自殺だったのさ』
『……そんな記憶、私は見てないけれど?』
『当たり前だよ。君達が受け継いだのは、あくまで破壊衝動が視ていた創造神の記憶なんだから』
『!!』
『創造神の精神から切り離された破壊衝動には、数千年の間に人格が芽生え精神が形成された。そして輪廻を経由した創造神の魂と破壊衝動《わたし》の魂は別れ、その片方が今の黒というわけだ』
『……ならやっぱり、創造神の魂は私達に欠片となって分けられたわけだ』
『いいや、違うよ?』
『え?』
『創造神は自分の持つ権能を全て制約に変えて、破壊衝動を縛り付けた。仮に破壊衝動が復活しても、世界を破壊させないよう縛る為にね』
『……!!』
『そして創造神は自殺した時、人格を得ていた破壊衝動と誓約を交わした。世界を壊すのではなく、この世界で育まれる生命を見守って欲しいと』
『……それを、創造神が頼んだって?』
『そうだよ。だから私は、その誓約をずっと守り続けている。……創造神の代わりに、この世界とそこに育つ生命を見守り続ける為に』
『……ッ』
『そして創造神の未来予知は当たった。下界に在ったマナの樹達は創造神の死を察知して、循環機構を通して創造神の魂を読み取って模倣した。そして模倣した魂を七つに分けてそれぞれの樹に生えたマナの実に宿し、創造神を復活させようとした。……でもその時、マナの樹達は……いや。循環機構は間違えてしまったんだ』
『間違えた?』
『創造神の魂ではなく、人格を持った破壊衝動の魂を模倣してしまったんだよ』
『!?』
「!!」
『さっき言っただろう? 自殺した時の創造神は、持っていた権能を全て破壊衝動を縛る為の制約に変えたんだ。……その時に循環機構は、創造神の権能で縛られた破壊衝動の魂を創造神だと誤認してしまったんだ』
『えぇ……!?』
『その結果、制約内に封じられた大き過ぎる破壊衝動の力を模倣し分裂させ、制御できるし君の先達が生まれた。【鬼神《フォウル》】を始めとして、【勇者】や【始祖の魔王】。それぞれに破壊衝動から模倣した破壊衝動を使い、世界で大暴れをしてしまった』
『……じゃあ、私達が持ってる権能は……』
『勿論、創造神の権能《ちから》なんかじゃない。破壊衝動の力、その模造品だよ』
創造神が自殺した真実と、創造神の権能の正体を『黒』は明かす。
それを聞いたメディアが今まで見せていた余裕の笑みを無くし、強張っている表情を見せていた。
それでもメディアは赤い瞳を見開き、『黒』の言葉に反論する。
『……でも破壊衝動の力だって、元々は創造神の中で生まれた権能なんでしょ?』
『まぁ、そうだね』
『だったらやっぱり、私達が持っているのも創造神の権能じゃないか。嘘は良くないよ』
『そうとも言えるね。……でも、記憶は違うだろ?』
『!』
『君達が創造神の記憶だと思ってるモノは、あくまで模倣された破壊衝動の記憶なんだ。……だから君の言う創造神の願いは、本当の願いではない』
『……!!』
『私はね、その部分だけは勘違いして欲しくなかったんだ。……確かに創造神は絶望し、世界を壊したいという破壊衝動を生み出した。けどそれは彼女の断片的な負の願望であって、創造神自身が願っていた内容ではない』
『……だったら、本当の願いとやらを聞かせて欲しいね。君は知ってるんでしょ?』
『ああ、勿論だよ。創造神の本当の願いは――……家族や友達、そして仲間が欲しかったんだ』
『……え?』
創造神が本当に願った内容を口にする『黒』に、映像で視えるメディアは更に困惑した様子を浮かべる。
すると『黒』はマナの大樹へ視線を向けながら、寂し気な笑みを浮かべた。
『創造神は故郷の星で生まれ、幼い頃に家族を全て亡くした。初めて出来た友達も大人になる前に事故で失い、大人になって宇宙へ出る為に集めた仲間達も先に死んだ。……そして、故郷の滅びを見た』
『……!!』
『創造神は孤独だった。だからその孤独を紛らわせる為に様々な研究をし、数多の宇宙を渡って色んな種族が居る星を観測し、その星の滅びを見守りながら僅かな生命の灯火を回収し続けた。……そして様々な者達が暮らせる環境を、この惑星を作り出した』
『……そんな事の為に、惑星一つを……?』
『そうだよ。この惑星に居る生命は、故郷と呼べる惑星を亡くした者達の集合体なんだ。……創造神はそんな彼等を自分の家族や友達として、仲間として共に過ごす日々を送った』
『……!!』
『でも到達者になっていた創造神と他の者達では、寿命が圧倒的に違った。家族や友達、そして仲間達を再び見送ることを辛いと思った創造神は、自分と同じ到達者を作る計画と同時に、循環機構の中に死者達の魂を回収し保管する為の空間を作り出した』
『……それが、輪廻?』
『そうだよ。創造神は死んでしまった家族や友達とまた暮らす為に、循環機構を通して新たに宿る生命に輪廻の魂を宿らせた。……でも、それは失敗だった』
『失敗?』
『生前の記憶を持ったまま再び生命に宿った死者達は困惑し、創造神のした事を知らされた。最初は皆も喜んでいたんだけどね。……でもそれが何百年、何千年と続くと、肉体と魂の劣化現象が起きた』
『!』
『幾度も使い回される魂が別の生命に宿り続ける事で、人格が崩壊し理性を失うんだ。……その結果、負のエネルギーと呼ばれる瘴気を死者達の魂が生み出し始め、生者を襲い始めた。だから創造神は、魂を使い回す輪廻の機能を改善し、瘴気を生み出す原因となる死者の記憶と人格を消す理想郷を追加した』
『……』
『創造神は自分を咎めた。自分のせいで死者達の魂が瘴気を生み出すほど苦しめていたことを。……だから創造神は自分の行動で誰も傷付けないように、一人で神殿に閉じ籠り始めた』
『……でも結局、それが原因で創造神からは破壊衝動が生まれた』
『そう。誰も傷付かない為に自分の望みを諦めた創造神は再び孤独という絶望を感じ、破壊衝動を生み出した。……そして創造神の願いを叶える為に、破壊衝動は天界を崩落させた』
『……ッ』
『創造神はその時に、本当に絶望したんだよ。自分が存在し続ける限り、誰かを傷付けてしまうのだと。……だから破壊衝動を切り離して封じ、自分へ向けられている信仰が薄れる時を待って、自殺した』
『……』
『創造神は、生命や世界の破壊なんか望んでない。ただ家族や友達と、そして仲間と一緒に他愛もない日常を過ごしたかった。……ただ、それだけなんだ』
創造神が願い続けた夢を『黒』は明かし、メディアや世界中の人々に語る。
それは誰もが考えるありふれた願いであり、何も特別な目的ではない。
普通ならば、その日常を過ごす中で自分が逝く時も来るだろう。
しかし『終わり無き者』として永遠の寿命を持っていた創造神には、親しき者達が死に逝く姿を幾度も見送るのは辛過たのだ。
その結果、創造神は自ら生み出した絶望によって天界を破壊してしまう。
それに耐え切れなくなった創造神は、絶望から生まれた破壊衝動を封じ、もう二度と自分のせいで誰かが傷付かないように死を選んだ。
これが、この世界を生み出した『創造神』の真実。
それを伝えた『黒』は、再びメディアの伝えた言葉を否定した。
『メディア。君は間違っている』
『!!』
『間違った創造神の願いを言い訳にして世界を破壊するつもりなら、私はこの破壊衝動で君を殺すよ』
『……殺せるかな? 私を』
『たかだが四百年程度で集まったエネルギーなら、簡単に殺し尽くせるさ』
『……はぁ、本気かぁ』
『本気だね』
『……ふぅ。……分かった、降参!』
「!?」
『黒が聖域に来るのなんて、完全に予定外! ……いや、そっちからしたら予定通りってこと?』
『まぁね』
『でも、さっきまでの話を聞くと。ログウェルが勝ったら、本当に世界を滅ぼしてもいいんだね?』
『それは問題ないよ。どっちみち彼が勝ち残ったら、世界の滅びは確定するから』
『なるほどね。……ちなみに、私の権能をアルトリアから返してもらうのは?』
『今はダメ。少なくとも、二人の戦いが終わるまではね』
『はぁ、そっか。――……と、言うわけで。私は二人の戦いが終わるまで何もしないから。皆は安心して、向こうの戦いでも見てるといいよ』
「――……!!」
次の瞬間、『黒』とメディアの姿を投影していた映像が消える。
そして残るのは、常人では視認すら出来なくなったログウェルとエリクから放たれる閃光混じりの衝突だった。
こうして『黒』はメディアを説き伏せ、世界の存亡を二人の戦いに委ねさせる。
そして人々の視線は移り、その戦いを見守らせる状況へとなった。
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