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革命編 八章:冒険譚の終幕

二つの信仰

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 老騎士ログウェルとの生死を賭けた対峙によって急激な成長を見せるエリクは、一方的な防戦から徐々に反撃を始める。
 それに対してログウェル自身も歓喜を高め、更にエリクを追い詰め成長させるように接戦を繰り広げていた。

 そうした一方で、マナの大樹そびえ立つ聖域において対峙するメディアとアルトリアの戦いは、膠着を見せ始める。
 しかしその理由は、メディアが投影させているログウェル達の映像たたかいに注目を向けていた為だった。

「――……おっ、ようやく戦いらしくなってきたみたいだね」

「……嫌味のつもり……!?」

「ん? あぁ、違う違う。私達こっちの話じゃなくて、ログウェル達むこうの話ね。やっと向こうの調子が上がって来たみたいだからさ」

「……ッ!!」

 微笑みながら映像を見ているメディアに対して、その先で倒れているアルトリアと話を向ける。

 圧倒的な実力差を誇る母親メディアに対して、その娘アルトリア聖域そこから逃げることも退ける事もできない。
 ただ育て親ログウェルの頼みを聞き入れて邪魔者アルトリアを閉じ込めているだけのメディアは、自身の戦いに一切の集中は見せていなかった。

 そんな母親メディアに対して、アルトリアは上体を起こしながら周囲に生命力オーラ魔力マナを用いた球形状の合成弾タマを幾百も作り出す。
 更にそれをメディアへ浴びせ放つも、彼女それが持つ『魔王の外套スフィール』が意思を持つように防御幕カーテンとなり、放たれた合成弾を全て飲み込んだ。

 しかしメディア本人はそれを気にすらしなくなり、映像越しに見るログウェル達の戦いに注目している。
 それを見たアルトリアは再び苦々しい表情を深めると、何かを思い付く様子をメディアは見せた。

「く……っ」

「あっ、そうだ。どうせだったらこの映像たたかい、地上の皆にも見せてあげようか」

「!」

「自分達の命運を決める戦いでもあるんだから。地上の皆にも、視る権利くらいは認めてあげよう」

 メディアはそうした言葉を見せ、自身の権能ちからを用いて再び循環機構システムを操作する為に投影された操作盤パネルに右手を翳す。
 そして一定の操作をした後、それと連動するように地上の人々にメディア達以外のもう一つの映像が投影された。

 それは今まさに衝突している二人の死闘たたかいであり、メディアはそれを地上の人々に見せながら自身を映す映像で呼び掛ける。

『――……やぁ、皆にも視えてるかな? 二人の戦い』

「!」

『天気、晴れて良かったね。エリク聖剣アレを持って来てなかったら、君達はそのまま死んでたんだからさ』

「な……っ!?」

『あの暴風あらしにはね、大量の魔力マナが含まれてたんだ。人間ってさ、魔力それを人体へ過剰に取り込むと魔力中毒になって倒れて、最悪の場合だと死んじゃうんだよね。あの豪雨あめを受けて気分が悪くなった人も、大勢いるんじゃないかな?』

「……!!」

『コレは魔法師の皆には常識だから、傍に居るなら対処法を聞いてみるといいよ。――……さて、皆に見せてるもう一つの映像だけど。この二人の中で、老人の方ログウェルが勝った瞬間に地上に砲撃さっきのを撃つね。地上が消し飛ぶぐらいに威力を調整して』

「っ!?」

『逆に大男エリクの方が勝ったら、その時は砲撃しないであげる。さぁて、どっちが勝つかドキドキでしょ? その気持ちドキドキしばらく楽しむといいよ』

 地上の人々は先程まで浴びていた暴風あらしの影響を初めて知り、全員が青褪めた様子を見せる。
 更にもう一つの映像に映し出された二人の戦いが、自分達の命運すらも賭けた勝負モノであることに驚愕を見せた。

 大多数の者達にとって、その二人は見ず知らずの他人でしかない。
 しかし大男エリクを知る者達は、映像それを真っ先に声を発し始めていた。

「――……今度はコレ、団長じゃないか……!?」

「えっ!?」

「……速く動いてて、顔がよく視えねぇけど……黒獣傭兵団おれら外套マントを羽織ってるぜ」

「そして団長と戦ってるのが、あの爺さんログウェルってことか……」

「あの爺さん、敵側だったってことかよ!?」

「じゃあ、最初から俺達も……いや、帝国の連中も騙してたってことなのかよ……」

 ベルグリンド共和王国の拠点やしきにおいて広い食堂に集合していた黒獣傭兵団の団員達メンバーは、映像に映し出されたのが見知った団長エリク老騎士ログウェルだと理解する。
 それに動揺し慌てる様子を見せる団員達に、椅子に腰掛けながら映像を凝視する副団長ワーグナーが怒声を向けた。

「お前等、少し黙れっ!!」

「!?」

「……エリクが言ってたのは、こういう事態ことか。……今の俺達がアイツに出来んのは、あの爺さんに勝つのを祈るくらいしかねぇ」

「ふ、副団長……」

「それより、さっきの話を聞いたろ。この豪雨あめを浴びちまった奴が大勢いるはずだ。外でぶっ倒れちまってる奴も多いかもしれねぇ!」

「!」

「お前等そういう連中を探して、医者がいる建物ばしょに運べ! またあのあらしが来るかもしれねぇぞ!」

「は、はい!」

 今自分達が出来る事を真っ先に考えるワーグナーは、副団長として団員達に指示を飛ばす。
 それを聞きあまりの事態に動揺ばかりしていた団員達もやるべき事を見出し、急いで班別けしながら王都内の状況を確認に向かった。

 それを見送る形となった中で、ワーグナーとその傍に座るマチスは会話を始める。

「マチス、エリクはあの爺さんに勝てるか?」

「……俺からすれば、どっちも化物みたいに強いからな……。……でも、まだ爺さんログウェルの方にずっと余裕があるように見える」

「そうか。……エリク、負けんじゃねぇぞ……っ」

 映像越しに常人では追えぬ程の速度で剣戟を交え合う二人を見て、ワーグナーとマチスはそうした言葉を見せる。
 そして自分達の団長エリクを信じ、心の中で勝利を願った。

 一方その頃、ガルミッシュ帝国領の北方部分に位置する港町付近にて、多くの者達が集まりながら付近の街まで移動している様子が見える。
 それは大津波によって被害を齎された住民達であり、住んでいた港町を喪失し最寄りの街に避難しようとしていた。

 そんな彼等を率いているのは、帝国兵達と共に扇動しているある傭兵団。
 十数人と少数ながらも避難民達を守りながら同行しているのは、背に狙撃銃ライフルを持った『砂の嵐デザートストーム』と、その団長であるスネイクだった。

「――……あと一時間もしたら隣町まちだ、踏ん張れよ!」

「は、はい」

 スネイクと彼が率いる『砂の嵐デザートストーム』は、避難する港町の住民達と共に隣町まで移動している。
 しかも団長であるスネイク自身は、その背中に愛銃イオルムではなく一人の老人を担いでいた。

 愛銃イオルムは部品を取り外して狙撃銃型ライフルから拳銃型ピストルまで分解し、右腰に携えている。
 そして代わるように背負われている老人は、スネイクに感謝の言葉を述べた。

「……すいません。医者である私が、御世話になってしまうとは……」

「魔力中毒なんだろ? なら仕方ねぇさ。あの暴風あらし魔力それだと知ってなきゃ、防げるもんじゃねぇ」

「はい……。……貴方は、平気なのですか?」

「生憎と、聖人おれ魔力中毒そんなモンはとっくに克服してるんでね。他の団員やつらも、それなりに慣れてる」

「そうですか……」

 背負われている老人は港町から避難していたマウル医師であり、先程まで起こっていた暴風に晒されたことで魔力中毒へ陥る。
 辛うじて意識を保ちながらも、魔力適正が無い為に自力では立ち上がれないほど衰弱していた。

 避難民の中には魔力中毒の状態となっている者達も多く、特に病状が酷い者達は団員達や若者達に背負われている。
 そうした者達を率いて避難する中、スネイクは遠く離れた海側を見ながら呟いた。

「それにしても、出航するって時にこんな事態ことになるとはな。……いや、出航してからこんな事態ことになったら、今頃は海の中だったか」

「――……スネイク団長。この人等を連れて行った後は、どうします?」

「そうだなぁ。……俺が天界うえに行ったところで、今更どうにかなる事態ことだとも思えんからなぁ。……俺達は様子見だ。コレはもう、あのエリクって大男やつとアルトリアって嬢ちゃんに任せちまおう」

「分かりました」 

 スネイクと隣を歩く団員はそう話し、自分達の今後について話す。

 ローゼン公セルジアスの依頼によって四大国家の同盟に属さない小国群に海路で移動しようとしていた『砂の嵐デザートストーム』は、天界エデンで起きる事態に関われず港町に押し寄せる大津波の被害に遭っていた。
 しかしスネイクと愛銃イオルムの活躍によって大津波の質量を軽減し、多くの住民達を生かす事に成功する。
 更に逃げ遅れ津波に巻き込まれた者達の救助も手伝ったことで、避難している港町の住民達や帝国兵達からも信用を得るに至った。

 それにはスネイク達なりに打算や贖罪の意味もある行為であり、帝国兵と共に避難する民間人達と同行する。
 するとそうした会話に、背負われているマウル医師は聞き覚えのある名前に反応した。

「エリクと、アルトリア……。……映像これに見えるのは、やはりあの御二人なのですね」

「なんだ、アンタ知ってんのか? あの二人」

「はい。私と出会った時には、親子として偽名を名乗られていましたが。後から来た帝国軍の方に、本当の名前と素性を知りました」

「親子ねぇ。まぁ、それくらいの年の差はあるか」

「彼女の素性が、魔法師として噂に名高い公爵家の御令嬢だったと聞いた時には、本当に驚きましたが。……それと同時に、私は彼女の言葉を誇りに出来ました」

「誇り?」

「彼女に言われたのです。魔法で人を癒せない私が学んだ医術も、必要なのだと。……治癒魔法師として最高の名誉を持つ彼女にそう言われたのだと知った時には、医者を続けていた事を誇りに思えました」

 マウル医師はそう語り、過去に出会ったアリアとの会話を思い出す。
 それを聞いていたスネイクは意外そうな表情を浮かべると、口元を僅かに微笑ませながら呟いた。

「親子だってのに、本当ホントに正反対だなぁ」

「え?」

「あの嬢ちゃんアルトリアの母親、メディアってのと俺も顔見知りなんだが。母親アイツは俺の夢を、馬鹿にしやがった」

「夢、ですか?」

「誰もが必要としないモンを使って、この世界で成り上がる。俺はその為に傭兵になって、自分の傭兵団を作ったんだ。……それをメディアとクラウスの奴が、馬鹿にしやがってよ……」

「……必要としないモノで……。……素晴らしい夢を御持ちですな」

「そうだろ。いつかそれで一国を持つのが、俺の夢なんだよ。……まぁ散々、邪魔されてんだけどな」

「そうですか。……その夢も、そして私達が生き残る為にも。彼等の勝利を、今は祈るしかありませんな……」

「ああ、爺さんは祈ってろ。その間に運んでやるから」

「ありがとう、ございます……」

 そう話す二人の中で、マウル医師は背中で魔力中毒の疲弊でそのまま意識を途切れさせる。
 そしてスネイクは上空そらを見上げ、遠くに見える天界エデンの大陸を見ながら呟いた。

「……頼むぜ、御二人おふたりさんよ……」

 スネイクもまた天界エデンで戦う二人がこの事態を防ぐ事を願い、祈るような面持ちを浮かべる。
 そしてそれは人間大陸の各国でも同様であり、誰もが自分達と周囲の者達が生きる為に、エリクの勝利を願っていた。

 逆にそれは、対峙するログウェルへ敗北の願いも向けていることでもある。
 しかし相反する二つの願いは、二人の到達者エンドレス信仰おもいを集め、更に彼等のちからを高め続けていた。

 こうして地上において、ログウェルとエリクの戦いが人々の目に触れてしまう。
 それを意図して見せるメディア自身も、自分の娘アルトリアすら無視するように二人の戦いを見届ける様子だった。
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