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革命編 八章:冒険譚の終幕
再戦の刻
しおりを挟む到達者となった真竜は天候を操り、地上の人間大陸に数々の災害を起こさせる。
それに対して真竜を追い天空まで昇ったユグナリスとマギルスだったが、その天候によって自分達の能力を封じられ成す術なく落下してしまう。
しかし突如として、二人が持つ精神武装が共鳴を起こす。
すると精神武装に合わせるように二人の精神と肉体《からだ》も融合し、一人の青年となった。
二人の融合体は紫色の炎を肉体から生み出しながら、彼等の能力を無効化していた天候に対する抗力を持って凄まじい速さで上昇を始める。
それを見ていた真竜は口元を僅かに微笑ませた後、その巨大な口を大きく開きながら大気を吸収し始めた。
「!」
『来るよっ!!』
吸収される大気の流れを感じる二人の融合体は、それが攻撃動作だとすぐに気付く。
それでも向かい続ける彼等に対して、真竜は目元を僅かに笑させながら大気の吸収を止めた。
『――……フンッ』
「ッ!!」
次の瞬間、口を閉じた真竜の鼻から何かが放たれる。
それは通常ならば視認できない程に無色透明ながら、向かう彼等にはその脅威を感知する事が出来た。
すると上昇し続けていた彼等は急速に右側へ流れ、その場から離脱を始める。
そして真竜と彼等が居た中空は、空間ごと視界を捻じれさせるほどの何かが通り抜けた。
通過した何かはそのまま真下に広がる暗雲を貫き、それすらも瞬く間に消失させながら真下に広がる海へ着弾する。
すると海のど真ん中に巨大な穴が開くように、海水が巻き上げられた。
それをぽっかりと空いた暗雲を通して視認していた彼等は、驚愕の声を漏らす。
「い、今のは……何が……」
『多分、お爺さんの吐いた息だよ』
「息って……アレがっ!?」
『僕等も出来るじゃん。息を溜めて、それを思いっきり吐き出すだけ。――……それをあのお爺さんがやると、こうなるんだ』
「……!!」
精神を介して話す二人は、真竜から放たれた攻撃が単純の息吹である事を理解する。
天候だけではなく単純な息ですら脅威の攻撃となる事を改めて認識した彼等に対して、真竜は自身の声を向けた。
『避けてしまったか。地上の者達も、可哀そうに』
「え……っ」
『儂の息が吹かれた海には、巨大な津波が起こるじゃろうな。……地上は、どうなるかのぉ』
「……しまったっ!?」
天空に響く真竜の声を聞いた彼等は、先程の攻撃が地上に齎す災害をようやく察する。
そして再び暗雲に空いた海を見ると、巻き上げられた海水が巨大な津波となっていた。
その光景を見下ろす彼等に対して、真竜は言い放つ。
『もう一度、行くぞぃ』
「や、止めろっ!!」
『そんな情けないことを言う前に、自分達で止めてみよ――……フンッ!!』
「っ!!」
制止を聞かない真竜は再び大気を口から吸収し、再び二つの鼻穴から息吹を放つ。
息が再び海に着弾すれば巨大な津波が発生するだろうことを理解し、人間大陸の被害を最小限に留める為に彼等は対抗するしかなかった。
しかしその防ぎ方が分からずにその表情を強張らせたままでいると、精神内から響くマギルスの声が叫ぶ。
『僕に任せてよ!』
「えっ!? ――……な、なんだ……!?」
彼等の肉体を覆う紫色の炎が突如として意思を持つように動き出し、その融合体の両腕を前に突き出す。
すると紫色の炎は直径数キロに及ぶ距離まで瞬時に拡散し、巨大な炎の壁を作り出した。
そして次の瞬間、その炎壁と息吹が衝突する。
すると凄まじい衝撃を起こしながら大気を揺らした後、息吹が衝突した炎壁が更に巨大で分厚く変化し始めた。
その防御がどういう仕組みで起きたか理解していないユグナリスの意識は、精神内に居るマギルスに問い掛ける。
「こ、これは……っ!?」
『へへぇ。火って、空気があるから燃えるんでしょ! だったら、僕等の炎で向こうの空気を吸収すれば、もっと大きな炎が作れるじゃん!』
「えっ、え……!?」
『アリアお姉さんが前に教えてくれたことだけど、意外と役に立つね!』
「いや、あの……吐き出される息って、確か酸素じゃなくて……二酸化炭素っていう、燃えない方のやつだったような……」
『あれ、そうなの? まぁいいじゃん! なんか出来てるんだし!』
「え、えぇ……」
精神内のマギルスはそう話し、防壁にした炎の仕組みを明かす。
それを聞いていたユグナリスの意識は、自分の知る知識と理屈に合わぬ方法にやや困惑染みた表情を浮かべた。
すると真竜から放たれた息吹が途絶え、攻撃が止まる。
それに気付いた彼等は息吹を吸収した紫色の炎を、自身に戻すように再び圧縮する形で肉体に戻した。
真竜はそれを見ながら、再び目元と声を微笑ませる。
『流石は生命の火。生命あるモノであれば、何であれ吸収し燃やしておる』
「!」
『お前さん達の融合も、生命の火があってこそ。……まぁ、それを本人すら自覚しておらぬのが笑えるところよ』
「……俺の『生命の火』が、マギルス殿との融合を……!」
『へぇ。だから僕、お兄さんの炎になっちゃったんだ。雨と風も消してるんじゃなくて、この炎で吸ってるんだね』
真竜が語る『生命の火』の真の効力に、その能力を持つユグナリス本人も驚愕を見せる。
更に『生命の火』に吸収されたマギルスは自分自身の意思で紫色の炎を操ることが出来たのも、自分自身が炎になっていたことで納得を浮かべた。
だからこそ、周囲の天候も『生命の火』は吸収し無効化できる。
それをようやく理解した彼等は、自分達が成し得た融合体に確信を得ながら上空の真竜に意識を向けた。
『これなら!』
「ああ、これなら――……ログウェルの攻撃は、全て止められるっ!!」
彼等は自分達の得た能力を改めて理解し、それが真竜にも届くことを確信する。
すると全身から湧き上がる紫色の炎が激しさを増しながら、その中空から勢い強く飛翔し始めた。
それに対して真竜は身構える様子すらなく、ただ彼等が向かって来る光景を見下ろしている。
しかしその視線は微笑みではなく憐みを宿し始め、それを言葉として吐き出した。
『言うたじゃろ。お前さんの火は、生命を吸収し燃やしておるのだと。……それがどういう意味か、分からんのか?』
「!」
『……あ、あえ……』
「マギルス殿っ!?」
真竜から告げられる言葉は、次の瞬間に彼等の状態に現れる。
勢い強く燃えていた紫色の炎は突如として弱まり、更に精神内部から響くマギルスの声が朧気な様子を聞かせた。
そして飛翔速度が減衰した彼等の融合体は、徐々に赤色と青色の粒子に分解されながら解け始める。
ユグナリスの意識はそれに驚愕し、自身の融合体に起きる変化に驚きながら声を発した。
「こ、今度は何が起こったんだ……!?」
『燃やし過ぎたんじゃよ』
「!?」
『少年の精神を取り込み、儂の息吹まで取り込んだ生命の火は、勢いを増した。……じゃがそれ故に、燃料となっている生命と精神は燃え尽きようとしておる』
「な……っ!?」
『そのままの融合体で居続けると、お主の生命力より先に少年の精神は燃え尽き消滅するぞ。それでよいのか?』
「そ、そんなの……いいワケが――……っ!!」
『生命の火』に関する『制約』と呼ぶべき危険を伝えた真竜に、ユグナリスは驚愕しながら叫ぼうとする。
その途中で彼の声は途切れ、彼等の融合体から別色に解かれる粒子が完全に別れた。
すると基本となっていたユグナリスの身体は、その中空に残る。
隣に浮かぶ青い粒子は集まりながら、再びマギルスの姿を形作った。
しかしマギルスは瞼を閉じたまま意識を失っており、その中空から一気に落下し始める。
それに気付いたユグナリスは動揺と困惑を浮かべながらも、落下するマギルスを追うように急降下した。
「――……マギルス殿っ!!」
「……」
『精神を随分と燃やされたようじゃな。少しは残っておるといいのぉ。――……まぁ、その前にお前さん達は死ぬかもしれんがな』
「……ク、クソォオッ!!」
上空から響く真竜の言葉を聞き、ユグナリスはその意味に気付かされる。
天候は支配されたまま豪雨と暴風が吹き荒れ、それがユグナリスの放つ『生命の火』にも再び干渉して飛翔能力を途切れさせた。
それにより不本意な落下を強いられるユグナリスは自身の無力を嘆く以上に、付いて来てくれたマギルスを危険に晒したことを激しく後悔する。
落下し続けしかない二人を見下ろす真竜は、僅かに開いた口で溜息を零す。
しかし次の瞬間、真竜となったログウェルすら驚愕するモノが現れた。
『むっ』
それは人型の姿をした二十メートル程の巨体であり、マギルスとユグナリスに向かって凄まじい速さで飛んでいく。
すると落下する二人に両腕と両手を差し出し、落下速度に合わせて緩やかに手の平へ乗せた。
ユグナリスはその時の衝撃で僅かに息を漏らした後、自分を持つ巨体に視線を向ける。
「グ……ッ!! ――……こ、コレは……!?」
『――……若いの、大丈夫か?』
「!」
『……なんじゃ、もう一人は本当にマギルスではないか。どういう状況じゃ?』
「……ご、魔導人形……?」
ユグナリスが見上げるのは、人型の姿をした巨大な機械人形。
それを魔導人形だと思う彼に対して、その乗り手である人物は訂正するように声を発した。
『これは魔導人形ではない。機動戦士じゃ!』
「ウォ、ウォーリアー……?」
『それより、ほれ。お前さんの望み通り、届けてやったぞ。エリク!』
『――……ああ』
「!」
『機動戦士《ウォーリアー》』と呼ばれる機械人形を操作する老人の声は、そう言いながらある人物の名を呼ぶ。
それと同時に胸部分の機構が開き、そこから二人の人影がユグナリスに見えた。
その内の一人は、機動戦士の操縦席に座るドワーフ族の族長バルディオス。
更にその操縦席から身を乗り出して現れたのは、黒獣傭兵団の外套を羽織り、背中に黒い大剣を背負うエリクだった。
そしてエリクは上空を見上げ、空に浮かぶ真竜を見る。
すると互いに視線を向け合い、エリクは鋭い眼光を、真竜は微笑む視線を向けた。
「――……アレは、あの老人か」
『ほっほっほっ。――……来たのぉ、傭兵エリク』
二人は互いに姿を目にし、互いの存在を理解する。
特にエリクは全貌が大きく変化した真竜から、以前に見抜いて恐れたログウェルの正体を感じ取れていた。
こうして融合体と成りながらもその強大な能力によって自滅しようとした彼等の前に、機動戦士に同乗したエリクが合流する。
そして視線を重ねる二人の到達者は、決着できなかったかつての再戦を望んでいるようだった。
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