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革命編 八章:冒険譚の終幕
紫の炎
しおりを挟む地上の人間大陸は異常とも言える自然現象に見舞われ、各地にて次々と被害が発生する。
それに巻き込まれる者達は懸命に生きようと抗いながらも、短時間で見舞われる劇的な変化に対応することは出来なかった。
その自然現象を起こすのは、自身の勇名を広めて信仰集めに利用し『マナの実』を得て到達者となった『緑』の七大聖人ログウェル。
真竜の姿となった彼は人間大陸に厄災を起こし、それを静観するように天界の大陸よりも更に上空に留まっていた。
そんな真竜へ迫るのは、『青』の複製体を持つマギルスと、『赤』の七大聖人に選ばれログウェルを師事していた帝国皇子ユグナリス。
二人は互いの能力で真竜の位置に辿り着き、互いに青い魔力と赤い炎を纏わせながら同時に仕掛けた。
「――……行くよっ、お兄さんっ!!」
「ああっ!!」
互いに二人は声を掛け合い、上空で別れながら赤と青の閃光となって超加速しながら真竜に近付く。
それを視認する真竜もまた、自身の弟子と魔人の青年に対して長く巨大な身体を動かした。
「!」
全長一キロメートルは越える真竜から尾が振られ、彼等に勝る速さで暴風が迫る。
その暴風に込められた力が尋常ではない事を本能で理解した二人は、互いに別方向へ散りながら真竜の暴風を回避した。
しかし次の瞬間、尾を回避した二人の視界に閃光が走る。
それと同時に、二人の真上から膨大な生命力と魔力を含んだ電撃が降り注がれた。
「ウワァッ!!」
「グァア……ッ!!」
二人はその電撃に直撃し、互いに短い絶叫を上げる。
そして互いに纏う魔力と炎が打ち消され、焼け焦げた二人はその場から落下し始めた。
すると電撃で麻痺した身体と意識を五秒程の間で戻した二人は、顔を上げ再び魔力と炎を纏いながら空中に踏み止まる。
「……ッ!!」
「……こ、この電撃は……エアハルト殿と同じ……っ!?」
互いに自己治癒を行いながら焼け焦げた身体を癒す中、ユグナリスは自分の纏った生命力を分解する電撃に心当たりを抱く。
それは三年前、共に戦ったエアハルトが自分自身の肉体から放つ電撃であり、悪魔の瘴気すらも焼け焦がし消失させた事を思い出していた。
すると二人は改めて真上を見上げ、真竜の周囲を見る。
そこには真竜の巨体だけではなく、暴風が吹き荒れる中で暗雲が幾つも存在し、そこから雷鳴が響き渡っているのが聞こえた。
それを見上げる二人に対して、真竜は自身の声を響かせる。
『――……ほっほっほっ。どうしたんじゃ、足を止めて』
「ログウェル……ッ!!」
『真竜の儂は、天候を自在に操れる。嵐は勿論、雷もまた自在に扱えるんじゃよ。……常人ならば黒焦げじゃろうが、お主達でも数秒は気絶してしまうなぁ』
「くっそぉ、これじゃあ近付けないや。どうしよう」
暴風と雷撃を自在に操る真竜は、その巨体に二人を近付けさせない。
彼自身は龍の肉体で戦うことすらせず、ただ天候だけで迫る二人を撃退し足を止めさせることに成功していた。
そうして次の一手を思考する二人だったが、それを待たずに次の事態が引き起こされる。
それは暴風に紛れるように、二人の身体を濡らす鋭い豪雨が暗雲から発生し始めた。
それを浴び始める二人は、肌に当たる雨に気付いて呟く。
「……雨?」
「……あっ、赤いお兄さんっ!!」
「!?」
雨粒の発生を確認した二人の中に起きた異変に、真っ先にマギルスが気付く。
それは『生命の火』を身体から放ち浮遊していたユグナリスが、受ける雨によって炎の威力と形状が弱まり始めたのだ。
その影響で肉体が戻り浮遊するだけの『生命の火』が安定できないユグナリスは、不安定な姿勢を見せながら再び落下を開始してしまう。
「ほ、『生命の火』が安定しない――……う、うわ……っ!!」
「もう、しょうがないなぁっ!!」
纏う『生命の火』が小さくなり落下していくユグナリスを見たマギルスは、呆れに近い声を見せながら向かう。
しかし次の瞬間、自身の足に纏わせている精神武装の青馬が悲鳴にも似た声を上げた。
『――……ヒヒィイインッ!!』
「うわっ、どうし――……まさかっ!?」
叫ぶように異常を訴える青馬に、マギルスも自分自身に起こる状況に気付く。
それは雨を浴びた精神武装が溶け、その能力も失い始めたのだ。
ユグナリスの『生命の火』は生命力によって形作られているが、『精神武装』は精神体の青馬を媒介とした魔力の武装。
それ等が強制的に消失させられていることで、マギルスはようやく自分達の浴びている豪雨がどういう能力なのかに気付いた。
「この雨が、僕の魔力とお兄さんの生命力を消してる――……う、うわっ!!」
『ヒヒィン……』
「ま、まず――……っ!!」
互いに飛行する為に必要とする能力を無効化させられ、ユグナリスとマギルスは姿勢を崩したまま落下を始める。
それを見下ろす真竜は、鼻から溜息を漏らしながら呟いた。
『儂の操る天候は、あらゆる能力を無効化する。お主達の魔力と生命力も、その例外ではない』
「く、クソ……このままじゃ……!!」
「天界に逆戻りだ……っ!!」
天候を操る能力を得た真竜は、ただそれだけで数多の激戦を潜り抜けた二人を退かせる。
そうして成す術も無く落下していく二人は、遠くへ離れる真竜を見ながら歯痒い表情を浮かべた。
しかし次の瞬間、消え掛かる二人の精神武装が共鳴音を鳴り響かせる。
『――……リィインッ!!』
『ヒヒィンッ!!』
「え――……う、うわっ!?」
「な、なんだ……!?」
別々の位置と高さで落下していた二人だったが、突如として鳴り叫ぶ精神武装に驚愕を浮かべる。
やや上側を落下しているマギルスが落下速度を速め、逆にその下で落ち続けているユグナリスは落ちる身体の速さを緩めた。
すると二人は徐々に近付き、互いの持つ精神武装が更なる共鳴を始める。
更に二人の身体間近に迫ると、青い魔力と赤い生命力で形作られた精神武装が突如として交じり合うように重なり始めた。
「こ、これは……!?」
「……僕達の、精神武装が――……ッ!!」
「う、わ――……」
次の瞬間、『赤』と『青』の精神武装は紫色の閃光を発しながら二人を飲み込む。
それを見下ろしながら確認していた真竜は、思わぬ事態ながらも笑いを漏らしながら呟いた。
『……ほっほっほっ。これじゃから、若者達の成長を見るのは飽きん』
何が起きたかを察しているような真竜は、それを邪魔せずにただ見守る。
そして紫色の閃光が治まり始めると、その空中には一人の人影が存在していた。
それは二十代程の青年のように見えながらも、異色とも言える紫色の髪を持ち、更に紫色に見える炎を纏わせている。
するとその青年は瞼を開き、自身の両手を広げ見ながら呟いた。
「……な、なんだ……コレ……」
『――……何これっ!?』
「うわっ!?」
紫色の青年は何が起こったのか自分自身でも把握していないようで、自分の手や腕、更に足を見ながら困惑した表情を浮かべている。
すると自身の精神から響く声を聞き、驚愕した様子を見せながら声を発した。
「な、なんだ……!?」
『……この声。もしかして、赤いお兄さん?』
「……その声、まさかマギルス殿か。……でも、なんで……!?」
『うーん、なんだろコレ。……あっ、もしかして……僕達、合体してる?』
「えっ」
『僕等の精神武装が合体して、僕の精神とお兄さんの肉体も合体させちゃったっぽい』
「……えっ、えぇっ!?」
精神内部から響くマギルスの声は、自分達に及んだ状況をそう察して話す。
それと相反するように驚愕するユグナリスは、改めて自分自身の視線から肉体の変化を確認した。
二人は自分達が身に付けていた服すらも混ぜたような格好となり、肩まで届く紫色の髪となっている。
更に二人が身に付けていた魔鋼の防具も合わせたような装飾と紫色へ変質し、まさに合体したかのような姿となっていた。
そうして驚愕を治められぬユグナリスに対して、マギルスは気付くように声を発する。
『……お兄さんお兄さん。僕達、ちゃんと浮いてる!』
「えっ。……あっ、ほんとだ」
『この雨を浴びても浮いてるってことは、この姿なら効かないのかな?』
「で、でも……どうして……?」
『そんなの分かんないけど、絶好の機会じゃん。――……これでまた、あのお爺ちゃんと戦えるよ!』
「……!」
二人の精神と肉体は同じ方向に視線を向け、上空に浮かぶ真竜を見る。
それをただ見守るように見つめる真竜は、微笑みを強めながら言い放った。
『ほっほっほっ。――……その姿でどれだけ戦えるか、儂に見せてみい』
「……ああ、良いさ。……よく分からないけど、これで戦えるなら!」
『やってやるもんねっ!!』
挑発する真竜の言葉に、同調する二人は肉体と精神を介して放つ紫色の炎を全身に滾らせる。
そして降り注ぐ豪雨や暴風《かぜ》を蒸発させるように消失させる紫色の炎を纏わせ、急速に浮上を始めた。
更に閃光と共に迫る雷撃が、幾多も二人を襲う。
しかしそれに直撃したにも関わらず、逆に電撃すらも蒸発させた紫色の炎は、瞬く間に真竜へ迫った。
こうして精神武装を介して融合したユグナリスとマギルスは、真竜のログウェルに迫る。
それは彼等に、到達者にも届く飛躍的な能力を得させていた。
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