上 下
1,242 / 1,360
革命編 八章:冒険譚の終幕

帝の正体

しおりを挟む

 創造神オリジン権能ちからによって天界エデンを掌握したメディアにより、世界は再び破壊されようとしている。
 その事実が映像を通して各国にも広まる中、ケイルはそれを防ぐ戦力を集める為に、妖狐族クビアの転移魔術を用いて師匠ブゲン達と『茶』の七大聖人セブンスワンナニガシが居るアズマ国へ訪れた。

 そしてみやこ宮殿みやに居るみかどの座へと赴き、そこで待つ武玄ブゲン等やトモエと再会する。
 しかしそこには、元皇国ルクソードを旅立ってから消息不明だったシルエスカがアズマ国の強者つわもの達と向かい合っていた。

 そんな大広間に訪れたケイルは、シルエスカの存在に驚きを見せる。
 すると傍に膝を着いて頭を下げていたトモエが、ケイルやクビアに呼び掛けた。

「――……彼女シルエスカの横に座りなさい。軽流ケイル、それに妖狐クビア

「は、はい」

 トモエの言葉に従うケイルは、クビアと共にシルエスカの横に並みながら畳の上で正座を行う。
 すると大広間の扉となっている襖が閉められ、僅かながらもその場の空気に変化が及んだことをケイルは感じ取った

「……結界か?」

「そうねぇ」

 部屋全体を覆うように結界を敷かれた事をケイルは瞬時に察し、それを肯定するようにクビアは頷く。
 そしてその結界がどのような意図で張られたかを考えている中で、シルエスカは真剣な表情を浮かべながら小声を向けて来た。

「……悪い時に来たものだな、お前達も」

「えっ」

 そうした言葉を見せるシルエスカは、向かい合うように座るナニガシや武玄ブゲン等の武士さむらい達に鋭い視線を向けている。
 それに気付いたケイルは、自分にとって不都合な状況が今まさにこの一室で起きていたのではないかという可能性に至れた。

 すると改めるように、胡坐で座る隻腕のナニガシが新たな訪問者ふたりを見て声を掛ける。

「――……ひさしいな、軽流けいる

「……御無沙汰しております」

「ふむ、既に『赤』は別の者に譲られたか」

「……その通りです、今の私は一介の剣士に過ぎません。このような身で急な申し出を行い、申し訳ありません」

「なに、構わんさ。それに、お主達の用向きも理解しておる。天界うえへ赴ける強者つわものか」

「はい」

「ならば丁度良かろう。今この場には、アズマ国このくにに居る実力者つわものが全て集まっておるからな」

「……では、この方達が……」

 ナニガシはそう言うと、ケイルはその左右に控える四人の武士さむらいを見る。
 その一人は自分の師匠である『月影流つきかげりゅう』の武玄ブゲンである事を理解し、残り三人もまたアズマ国内で剣術流派を持つ当主達だと理解した。

 ナニガシが技を伝授し枝分かれした、『日』『月』『星』『雲』『雨』の流派を冠するアズマ国屈指の剣士達。
 その内の四人が集まっている事を理解したケイルは、改めてそれぞれの面持ちに意識を向けると、いずれも師の武玄ブゲンに劣らぬ剣気を宿す者達だと感覚的に理解できた。

 それを察したナニガシは、口元を微笑ませながら彼等でしを見て紹介する。

右側こっちるのが、『星眼流せいがん』と『巻雲流まきぐも』。左側こちらが『霧雨流きりさめ』と、お主の師である『月影流つきかげ』だな」 

「……四人?」

「いいや、五人だぞ。残りの一人、『日輪流にちりん』は――……こちらのみかどが当主なのでな」

「!」

 ナニガシはそう言いながら、自分の背後に在る障子に遮られた場所に首を傾ける。
 それを聞いたケイルは驚きを浮かべ、アズマ国の頂点であるみかどが五大流派の一つを統べる当主である事を初めて知らされた。
 
 しかし障子の向こう側に見える人影は、ナニガシの声を聞きながら言葉を向ける。

「――……余には、お主等のように弟子はらんがな」

「!」

 障子の向こう側からは男性か女性か分かり難い程の中性的な声が発せられ、ケイルは僅かに驚きを浮かべる。
 そして障子の向こう側に居る人物こそが、『茶』のナニガシが守り仕えアズマ国の象徴となっている『みかど』だと理解した。

 するとみかどは、僅かに顎を上げた様子を見せながらケイルに声を向けて来る。

なんじが、武玄ぶげんともえが育てたというむすめかえ?」

「……はい」

つらをしておる、中々の死線も潜っておるな。……それに、その髪。懐かしき余の友の面影を感じさせる」

「……え?」

 ケイルの赤髪を見ながらそう声を向けるみかどに、ケイルは僅かな違和感を感じる。
 そして自分を指して誰を懐かしんでいるのかと僅かに思考した時、七百年の時を生きる『茶』のナニガシを見ながら気付くように声を呟かせた。

「……帝様あなたさまが仰っている友とは、まさか……」

「無論、ルクソードの事やえ」

「!!」

「ルクソードは余の友にして、ナニガシの同胞はらから。その子孫が二人も余の国に赴くとは、実に喜ばしい。歓迎しよう」

「……あ、ありがとうございます」

 ケイルは自身の予測が当たっていた事に驚きながら、目の前に居るみかどが初代『赤』の七大聖人セブンスワンルクソードと親交のある人物だと理解する。
 更にルクソードの子孫である自分ケイルやシルエスカを招く事を喜ぶ様子を見せた為に、ケイルは感謝を述べながら改めて自分の要件を切り出した。

「……本日は、帝様あなたさまに御願いがありこの場に参らせて頂きました。不躾ながらも、御聞き頂けますか?」

い。話してみよ」

「では。……既に御存知の事かもしれませんが、天界うえに浮遊する大陸がメディアなる者に掌握され、再び世界は窮地を迎えております。故に今回の事態に、ナニガシ殿や師匠達の御助力を御願いしたく」

っておる。その事についても、今まさに話しておったところだ」

「えっ」

彼女シルエスカもまた、武玄ぶげんの客人として余の国に赴いていたようでな。今回の事態に際して、余の国への助力を求めて来た」

「……!」

 みかどからそうした話が出ると、ケイルはこの場にシルエスカが居る理由を改めて理解する。

 元皇国ルクソードを出て行ったシルエスカは、武玄ブゲンの下に身を寄せていたらしい。
 そんな時にこの事態が起き、アズマ国の助力を求めてみかどに会えるよう武玄ブゲンを頼ったのだろう。

 そうした流れを理解したケイルは、改めてみかどに承諾の願いを伝えた。

「どうか、御助力を願います」

「……残念ながら、それは出来ぬ」

「!?」

「友の子孫であるお主等の頼みは聞いてやりたいが、そればかりは出来ぬ。済まぬがな」

「……り、理由を聞いても?」

「むざむざころされると分かる場に、ナニガシ達をやれぬ」

「!?」

のメディアなる者は、余が視る限り【始祖の魔王ジュリア】の生まれ変わりで相違は無かろう。であれば、ナニガシやこの者等では剣の先一つすら触れる事も叶わぬ」

「……で、でも。このままだと、世界が……!」

「無論、それも分かる。……故に、が行くという話をしておるのだがな」

「……えっ?」

 ナニガシ達を天界うえへ向かわせる事を拒むみかどだったが、その口から自分自身が向かうつもりである事を明かす。
 それを聞き唖然とする様子を見せたケイルだったが、そんな二人の会話に割り込む形で『星』の当主が口を挟んだ。

「――……帝様みかどさま。それはなりませぬと、何度も申し上げている」

「し、しかしなぁ。これはもう、ぬといかんだろう?」

「あのメディアなる者は確かに脅威ですが、到達者エンドレスではない。それは帝様御自身も心得ておられるはずだ」

しかり」

「帝様は到達者えんどれすにこそ御強いが、それ以外には滅法弱い。そんな帝様が赴けば、それこそ殺されるだけです」

 『星』の当主を始め、『雨』と『雲』の当主達も同じようにみかどを出陣を止めようとする。
 それを聞きながら無言で表情の強張りを強めている武玄ブゲンやナニガシを見るケイルは、会話の意味を捉えきれずに隣に居るシルエスカに小声で問い掛けた。

「……ど、どういうことだよ?」

「見た通りだ。みかど自らがこの事態に乗り出そうとし、それを周りが止めている。そして部屋全体に結界を張り、帝が外に出る事を防いでいるんだ」

「……結界これは、そういう意味ことかよ」

「そうだ。……話を聞く限り、みかども我々と同じ聖人だとは思うが。どうやら到達者エンドレスに対して強く、それ以外には弱い能力ちかららしいな」

「……到達者エンドレスに強い能力?」

 ケイルとシルエスカはそう情報を伝え合い、帝がナニガシと同じ『聖人』である事や、その能力の一端について推測する。
 するとそんな二人の会話が頭に付く狐耳に届いたクビアは、溜息を漏らしながら教えた。

「当たり前よぉ。ここのみかどってぇ、『白』の七大聖人セブンスワンだものぉ」

「……え?」

「……お前、今……なんって言った?」

「だからぁ、あのひとは『白』の七大聖人セブンスワンなのよぉ。『白』の七大聖人セブンスワン能力ちからって対到達者エンドレスに特化してるからぁ、それ以外の相手と戦うとぉ、普通の人間と変わりないのよねぇ」

 然も当然のように話すクビアの言葉に、シルエスカとケイルは驚きを浮かべながら表情を固める。
 すると先程から口論染みた説得を行い続けていたアズマ国の面々の中で、ついにみかどが声を荒げる様子を見せた。

「――……とにかく、余が行って来るから! お前達には留守を任せるぞ!」

「あっ、ちょっと!」

「……!?」

「なっ!?」

 周囲の説得を無視するように、帝は障子の向こう側で立ち上がる動きを人影で見せる。
 それを止めようと各流派の当主達が立ち上がったが、その障子は内側から開かれ、改めてみかどの姿がその場で明らかにされた。

 その容姿を見たケイルとシルエスカは、思わず腰を浮かせる。
 障子の向こう側に居たのは銀色の髪と銀色の瞳を持つ青年であり、黒髪黒目ばかりのアズマ国人とは思えぬ容姿すがただった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...