上 下
1,241 / 1,360
革命編 八章:冒険譚の終幕

兵の集傑

しおりを挟む

 アルトリアは自分の母親メディアと対峙する為に、そして帝国皇子ユグナリス達は自分の師匠ログウェルから会う為に天界エデンに赴く。
 そうした一方で、同じく自分の師匠達の救援を仰ぐ為にアズマ国に向かっていたケイルは、妖狐族クビアの転移魔術で都に到着し、凄まじい速さで駆けながら武玄ブゲントモエの居る屋敷へ向かっていた。

 しかしクビアが同伴している姿は無く、代わりにその手には紙札が複数枚ほど握られている。
 更にその中の一枚が仄かに魔力を灯しながら、クビアの『念話こえ』が届いていた。

『――……私は貴方の足にいていけないからぁ、ここで待ってるわぁ。貴方の師匠達を連れて来るならぁ、他の紙札かみを渡してねぇ。私の傍に転移させるからぁ』

「分かった!」

 魔術師としては優秀ながらも身体能力は聖人のケイルに及ばないクビアは、みやこに傍に待機する事を選ぶ。
 そうしてケイルは一人で自然と田畑が広がる田舎道を全力で走り、僅かニ十分程で武玄ブゲン達が住む屋敷の前まで辿り着いた。

 しかし屋敷の周囲には近くに住む村人達も慌ただしい様子で集まっており、それを見たケイルは瞬時に状況を理解する。

「――……っ、皆も映像アレを見たのか。……アレは、千代ちよさん!」

 村人達を見て先程の映像アレが原因だと察するケイルは、その中に微かに見えたトモエの母親である千代の姿を確認する。
 そして屋敷の入り口正面に押し寄せる村人達を対して、ケイルは一息を吐きながら目を見開いて大声を発した。

「――……退いてくれっ!!」

「!?」

 自身の生命力オーラを乗せた威圧こえで、ケイルは村人達に注目を向けさせながら動きを硬直させる。
 その隙を見計らうかのように村人達の垣根を潜り抜けると、ケイルは屋敷の門前に着地しながらそこで居る千代に声を掛けた。

千代ちよさん!」

軽流けいる! お前さん、戻ってきたのかい!」

「はい! ……師匠達は?」

「あの映像ようじゅつを見てから、みやこ親方様ナニガシもとに行ってるんだ。今は居ないんだよ」

「しまった、すれ違いか。……クソッ、そりゃそうか。師匠達だって動いてるよな」

「お前さん、どうするんだい?」

「師匠達と一緒に、天界うえへ行きます」

「そうかい。……老いぼれわたしの代わりに、頼んだよ」

「はい。――……クビア、聞こえてたか? 師匠達は都だった。アタシだけ戻せ!」

『はいはぁい』

 紙札かみを通じてクビアへ声を届けたケイルは、都へ戻る為に再びその場で転移する。
 それを見ていた村人達の威圧は解かれて驚きを浮かべながらも、それを見送る千代は|義孫《《ケイル》に託すことを選んだ。

 そして再び、ケイルはみやこの傍まで跳び戻る。
 するとクビアと合流し、そのまま声を向けた。

「――……都に行く! 補充の紙札!」

「分かってるわよぉ」

「もう一枚くれ! 可能なら、『茶』の七大聖人セブンスワンも連れて来る!」

「えぇ、あのお爺ちゃんをぉ?」

「なんだお前、あの人ナニガシを知ってるのかよ?」

「知ってるも何もぉ、里から逃げて来た私をしばらく匿ってくれたのがぁ、あのお爺ちゃんナニガシここに居るみかどだものぉ」

「えっ!?」

「それからここで人間大陸の知識を色々と教えてくれてねぇ、随分と御世話になったわぁ」

「……だったら丁度いい、お前も来い!」

「えぇ!?」

あの人ナニガシみかどの顔見知りだったら、色々と頼み易いだろ!」

「ちょ、ちょっとぉ!」

 ケイルはクビアとアズマ国のみかどに意外な接点がある事を知り、それを利用して師匠達だけではなく『茶』のナニガシも今回の事態に巻き込めないかと考える。
 ナニガシは七大聖人セブンスワンの中で最も高齢ながらも、その実力を間近で知るケイルは今回の事態に手を借りねばならないと思っていた。

 だからこそケイルは、クビアの手を強引に引きながら都まで向かう。
 そして他の国とは違い壁や門の無い都へ走り入りながら、逆に壁と門に囲まれているみやの入り口へと辿り着いた。

 しかしそこも、武玄ブゲン達の屋敷同様に都の住民が押し寄せている。
 その数も屋敷さきほどとは比べ物にならない数であり、ケイルは渋る様子を見せながら周囲を見回った。

「――……クソ、ここもかよ。……仕方ねぇ、壁を飛び越えるぞ!」

「はぁ、はぁ。ま、待ってよぉ……」

「だらしねぇな、それでも本当に魔人かよ?」

「わぁ、私は肉体派じゃないのよぉ」

「チッ、仕方ねぇ。ほら、担いでやるから!」

 ケイルに腕を引かれながら走らされて疲労困憊のクビアを、ケイルは仕方なく背負う。
 そして入り口から離れた壁へ向かい、足に蓄えた生命力オーラで跳躍しながら五メートル程の壁を軽々と超えた。

 するとケイルは淀み無く着地し、みやの中を走り始める。
 そしてナニガシが居る後宮へと辿り着き、それに気付いた顔見知りの門番の一人が声を掛けた。

「――……あ、貴方は……軽流けいる殿!」

「師匠達はっ!?」

「今はナニガシ殿と共に、帝の下に赴いて居られます。先程の事態で早急な対応が必要であると、各将も御集りに」

「なら丁度いい! 早急にみかどや師匠達に会えるよう取り次げないかっ!?」

「お、御待ち下さい!」

 ケイルがナニガシと同じ七大聖人セブンスワンだと知る門番は、その取り次ぎを受け入れる。
 それから十分程が経過した後、先程の門番と共に複数の警備兵が訪れ、その中には忍者しのびの服を着たトモエの姿も見えた。

 そしてトモエはケイルの姿を確認し、背負われたままのクビアにも視線を向けながら声を掛けて来る。

「――……軽流けいる!」

トモエさん!」

「それは、狐のクビアだな。それの妖術じゅつで来たのか。通りで入国の情報が無いわけだ」

「すいません。この状況だったので」

「それはいい。それより、帝に会いたいと聞いたが?」

「師匠達に、また一緒に天界うえへ行ってもらいたいんです。出来れば、『茶』のナニガシ殿も共に。その許可をみかどに貰えればと」

「……やはり、そういうことか」

 トモエはケイルが来た理由を理解し、周りに居る警備に視線て頷きを向ける。
 それに応じるように警備の兵は構えている武器やりを下げ、トモエは改めて話を向けた。

「お前が来訪したことを聞かれたみかどが、御会いになることを許している」

「!」

「私が案内しよう。ついて来い」

「はい。あっ、コイツも連れって良いですか? みかどと顔見知りみたいなんですけど」

「……まぁ、いいだろう」

 トモエはケイルの来訪に応じたみかどの言葉を伝え、二人が宮殿なかに入る事を認める。
 そして彼女ともえを先頭にしながら歩き、クビアを降ろしたケイルは共に歩きながらみかどの下へ向かう事になった。

 通り道を渡り終えて木造式の大きな宮殿やしきへ入り、一行はその奥へ進み続ける。
 そして最奥に存在する巨大な広間の襖には警備をする武士さむらいが存在し、トモエの姿を見て問い掛けた。

「――……その者達で、間違いは?」

「ありません」

「……では、通れ」

 武士さむらいはケイルとクビアを一瞥した後、トモエの言葉に応じて襖を開ける。
 そして彼女達はそれに応じて入室し、トモエは数歩ほど歩いた後に身を屈めて頭を下げながら伝えた。

みかど様。御申し付け通り、の者を連れて参りました」

「……!」

 トモエはそうした声を向け、来訪者ケイル達が訪れたことを室内なかに告げる。
 その室内なかに足を踏み入れたケイルは、とても広い畳部屋の最奥に位置する場所に座する、六人の姿が見えた。

 その中の一人はケイルが良く知る師匠の武玄ブゲンであり、その彼と並び向かい合う三人の剣士が見える。
 更にその奥では『茶』の七大聖人セブンスワンナニガシが胡坐あぐらで座り、最奥で薄く仕切られた障子の前に居た。

 そんな五人かれらと向かい合うように座る、一人の先客すがたが見える。
 その後ろ姿を見たケイルは、静かな呟きながらも驚きを浮かべた。

「……シルエスカ……!?」

「――……ひさしいな。ケイル」

 後ろに立つケイルの声が届き、彼女シルエスカは座りながら僅かに振り返る。
 そこには二年前に旧ルクソード皇国から旅立った、元皇王にして元『赤』の七大聖人セブンスワンシルエスカが訪れていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...