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革命編 八章:冒険譚の終幕
兵の集傑
しおりを挟むアルトリアは自分の母親と対峙する為に、そして帝国皇子ユグナリス達は自分の師匠から会う為に天界に赴く。
そうした一方で、同じく自分の師匠達の救援を仰ぐ為にアズマ国に向かっていたケイルは、妖狐族クビアの転移魔術で都に到着し、凄まじい速さで駆けながら武玄と巴の居る屋敷へ向かっていた。
しかしクビアが同伴している姿は無く、代わりにその手には紙札が複数枚ほど握られている。
更にその中の一枚が仄かに魔力を灯しながら、クビアの『念話』が届いていた。
『――……私は貴方の足に付いていけないからぁ、都で待ってるわぁ。貴方の師匠達を連れて来るならぁ、他の紙札を渡してねぇ。私の傍に転移させるからぁ』
「分かった!」
魔術師としては優秀ながらも身体能力は聖人のケイルに及ばないクビアは、都に傍に待機する事を選ぶ。
そうしてケイルは一人で自然と田畑が広がる田舎道を全力で走り、僅かニ十分程で武玄達が住む屋敷の前まで辿り着いた。
しかし屋敷の周囲には近くに住む村人達も慌ただしい様子で集まっており、それを見たケイルは瞬時に状況を理解する。
「――……っ、皆も映像を見たのか。……アレは、千代さん!」
村人達を見て先程の映像が原因だと察するケイルは、その中に微かに見えた巴の母親である千代の姿を確認する。
そして屋敷の入り口正面に押し寄せる村人達を対して、ケイルは一息を吐きながら目を見開いて大声を発した。
「――……退いてくれっ!!」
「!?」
自身の生命力を乗せた威圧で、ケイルは村人達に注目を向けさせながら動きを硬直させる。
その隙を見計らうかのように村人達の垣根を潜り抜けると、ケイルは屋敷の門前に着地しながらそこで居る千代に声を掛けた。
「千代さん!」
「軽流! お前さん、戻ってきたのかい!」
「はい! ……師匠達は?」
「あの映像を見てから、都の親方様の下に行ってるんだ。今は居ないんだよ」
「しまった、すれ違いか。……クソッ、そりゃそうか。師匠達だって動いてるよな」
「お前さん、どうするんだい?」
「師匠達と一緒に、天界へ行きます」
「そうかい。……老いぼれの代わりに、頼んだよ」
「はい。――……クビア、聞こえてたか? 師匠達は都だった。アタシだけ戻せ!」
『はいはぁい』
紙札を通じてクビアへ声を届けたケイルは、都へ戻る為に再びその場で転移する。
それを見ていた村人達の威圧は解かれて驚きを浮かべながらも、それを見送る千代は|義孫《《ケイル》に託すことを選んだ。
そして再び、ケイルは都の傍まで跳び戻る。
するとクビアと合流し、そのまま声を向けた。
「――……都に行く! 補充の紙札!」
「分かってるわよぉ」
「もう一枚くれ! 可能なら、『茶』の七大聖人も連れて来る!」
「えぇ、あのお爺ちゃんをぉ?」
「なんだお前、あの人を知ってるのかよ?」
「知ってるも何もぉ、里から逃げて来た私をしばらく匿ってくれたのがぁ、あのお爺ちゃんと都に居る帝だものぉ」
「えっ!?」
「それから都で人間大陸の知識を色々と教えてくれてねぇ、随分と御世話になったわぁ」
「……だったら丁度いい、お前も来い!」
「えぇ!?」
「あの人や帝の顔見知りだったら、色々と頼み易いだろ!」
「ちょ、ちょっとぉ!」
ケイルはクビアとアズマ国の帝に意外な接点がある事を知り、それを利用して師匠達だけではなく『茶』のナニガシも今回の事態に巻き込めないかと考える。
ナニガシは七大聖人の中で最も高齢ながらも、その実力を間近で知るケイルは今回の事態に手を借りねばならないと思っていた。
だからこそケイルは、クビアの手を強引に引きながら都まで向かう。
そして他の国とは違い壁や門の無い都へ走り入りながら、逆に壁と門に囲まれている宮の入り口へと辿り着いた。
しかしそこも、武玄達の屋敷同様に都の住民が押し寄せている。
その数も屋敷とは比べ物にならない数であり、ケイルは渋る様子を見せながら周囲を見回った。
「――……クソ、ここもかよ。……仕方ねぇ、壁を飛び越えるぞ!」
「はぁ、はぁ。ま、待ってよぉ……」
「だらしねぇな、それでも本当に魔人かよ?」
「わぁ、私は肉体派じゃないのよぉ」
「チッ、仕方ねぇ。ほら、担いでやるから!」
ケイルに腕を引かれながら走らされて疲労困憊のクビアを、ケイルは仕方なく背負う。
そして入り口から離れた壁へ向かい、足に蓄えた生命力で跳躍しながら五メートル程の壁を軽々と超えた。
するとケイルは淀み無く着地し、宮の中を走り始める。
そしてナニガシが居る後宮へと辿り着き、それに気付いた顔見知りの門番の一人が声を掛けた。
「――……あ、貴方は……軽流殿!」
「師匠達はっ!?」
「今は某殿と共に、帝の下に赴いて居られます。先程の事態で早急な対応が必要であると、各将も御集りに」
「なら丁度いい! 早急に帝や師匠達に会えるよう取り次げないかっ!?」
「お、御待ち下さい!」
ケイルがナニガシと同じ七大聖人だと知る門番は、その取り次ぎを受け入れる。
それから十分程が経過した後、先程の門番と共に複数の警備兵が訪れ、その中には忍者の服を着た巴の姿も見えた。
そして巴はケイルの姿を確認し、背負われたままのクビアにも視線を向けながら声を掛けて来る。
「――……軽流!」
「巴さん!」
「それは、狐のクビアだな。それの妖術で来たのか。通りで入国の情報が無いわけだ」
「すいません。この状況だったので」
「それはいい。それより、帝に会いたいと聞いたが?」
「師匠達に、また一緒に天界へ行ってもらいたいんです。出来れば、『茶』のナニガシ殿も共に。その許可を帝に貰えればと」
「……やはり、そういうことか」
巴はケイルが来た理由を理解し、周りに居る警備に視線て頷きを向ける。
それに応じるように警備の兵は構えている武器を下げ、巴は改めて話を向けた。
「お前が来訪したことを聞かれた帝が、御会いになることを許している」
「!」
「私が案内しよう。ついて来い」
「はい。あっ、コイツも連れって良いですか? 帝と顔見知りみたいなんですけど」
「……まぁ、いいだろう」
巴はケイルの来訪に応じた帝の言葉を伝え、二人が宮殿に入る事を認める。
そして彼女を先頭にしながら歩き、クビアを降ろしたケイルは共に歩きながら帝の下へ向かう事になった。
通り道を渡り終えて木造式の大きな宮殿へ入り、一行はその奥へ進み続ける。
そして最奥に存在する巨大な広間の襖には警備をする武士が存在し、巴の姿を見て問い掛けた。
「――……その者達で、間違いは?」
「ありません」
「……では、通れ」
武士はケイルとクビアを一瞥した後、巴の言葉に応じて襖を開ける。
そして彼女達はそれに応じて入室し、巴は数歩ほど歩いた後に身を屈めて頭を下げながら伝えた。
「帝様。御申し付け通り、彼の者を連れて参りました」
「……!」
巴はそうした声を向け、来訪者達が訪れたことを室内に告げる。
その室内に足を踏み入れたケイルは、とても広い畳部屋の最奥に位置する場所に座する、六人の姿が見えた。
その中の一人はケイルが良く知る師匠の武玄であり、その彼と並び向かい合う三人の剣士が見える。
更にその奥では『茶』の七大聖人ナニガシが胡坐で座り、最奥で薄く仕切られた障子の前に居た。
そんな五人と向かい合うように座る、一人の先客が見える。
その後ろ姿を見たケイルは、静かな呟きながらも驚きを浮かべた。
「……シルエスカ……!?」
「――……久しいな。ケイル」
後ろに立つケイルの声が届き、彼女は座りながら僅かに振り返る。
そこには二年前に旧ルクソード皇国から旅立った、元皇王にして元『赤』の七大聖人シルエスカが訪れていた。
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