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革命編 八章:冒険譚の終幕
繋がる関係
しおりを挟む創造神の欠片を持つ可能性がある女性メディアについて、ザルツヘルムは過去の出来事を話す。
それは彼自身の過去を垣間見せる語りでもあり、一人の女性に仕え続けた騎士ザルツヘルムの覚悟でもあった。
次の転生を望まず自らの消滅を望むザルツヘルムに、エリクは敬意と抱きながら全力の一撃で屠る。
それから『青』の転移魔法で孤島に着陸している箱舟まで連れて行かれると、改めて二人は話し始めた。
「――……そういえば、あの建物と孤島をかなり壊してしまった」
「構わん。元より遺棄されていた魔鋼の施設を再利用していただけだからな」
「そうか。……ところで、メディアという女の話。ザルツヘルムから聞いて、誰か分かるか?」
「……分からぬな。三十年前に単独で転移魔法を駆使できる魔法師は、七大聖人以外には分からぬ」
「なら、その女は七大聖人じゃないのか?」
「……それも考え難い」
「何故だ?」
「三十年前、儂を含めた七大聖人は『白』と『黒』以外の人物が判明しているからだ」
「!」
「『赤』『青』『黄』『茶』の聖紋はそれぞれの血族と国に管理され、『緑』はログウェル=バリス=フォン=ガリウスが持っている。実質的にこの五人が七大聖人を担っている以上、他の七大聖人が存在し関わっているという事態は考え難い」
「……なら『黒』はともかく、『白』じゃないのか?」
「『白』はあり得ん」
「何故だ?」
「『白』の生まれもまた、『黒』と同じで特殊だ。その能力も特殊過ぎてる故に、その強さは一長一短では語れん」
「……どういうことだ?」
『青』の語る知識について、エリクは首を傾げる。
すると『青』は、認知している『白』の情報について話し始めた。
「『白』の七大聖人は、到達者に特化した能力を持つ」
「到達者に特化した……?」
「儂が知る『白』は、相対する者が『到達者』である場合に対抗し凌駕する能力を行使できる。だから基本的に、到達者以外とは戦おうとしない」
「……到達者と戦えば強くなる七大聖人ということか?」
「そうだ。だがそれ以外の者と戦う場合、常人と変わらぬ能力まで身体能力が低下し、魔法も行使できなくなる」
「……つまり、到達者以外と戦うと弱くなる?」
「うむ。だからザルツヘルムの話が本当であれば、シルエスカ並の実力者と戦えば『白』は対抗できずに負けるはず。だが勝てているという事は、メディアという女は『白』ではないという事だ」
「そうなのか……?」
「この場合、儂も把握しておらぬ魔法師が何処かで生まれ育っていたと考える方が、遥かに自然だな」
「……そうか」
メディアが現世に居る『白』の転生体ではないかと疑ったエリクだったが、その能力を元にした情報で『青』から否定される。
そしてザルツヘルムの情報からも彼女の現在について分からない為に、エリクは途方に暮れるように溜息を漏らした。
すると浜辺に着陸している箱舟を見上げ、思い出すように話し始める。
「……そうだ、映像だ」
「む?」
「メディアの姿絵を渡されていた。一応、お前も見てくれ」
「なに、姿絵だと? ……ふむ、興味はある。見てみよう」
「頼む」
アルフレッドから渡されたメディアの記録映像を思い出したエリクは、『青』にもその姿を見てもらう事を提案する。
それは承諾され、二人は浜辺に着いている乗降口を通じて箱舟に乗船した。
そして特に会話も無く、二人は魔導人形が待機している艦橋へ辿り着く。
するとエリクは自ら魔導人形に話し掛け、メディアの映像を見せるよう命じた。
「――……アルフレッドに渡された女の姿を、映してくれ」
『分カリマシタ』
「――……この女が、メディアか……」
画面に映し出された女性の姿を見て、『青』は眉を顰めながら目を細めて姿を確認する。
すると彼の口から、疑問にも似た言葉が向けられた。
「……この女、偽装を施しているな?」
「分かるのか?」
「儂は人間大陸の人種を全て把握しているが、顔の部分や骨格、髪色や瞳の色が既存の人種とも合致しない。いや、あらゆる人種の姿を混ぜられているになっていると言った方が正しいか」
「そうなのか」
「だが、うむ。……これは、解析できるな」
「解析?」
「ここまで正確な姿を再現した映像記録があるのならば、儂の研究施設で偽装部分を解析し、本当の姿を割り出せるかもしれん」
「本当か?」
「うむ。儂の拠点に映像記録を送らせてくれ」
「分かった、頼む」
『青』がメディアの偽装魔法で施された偽の姿を解析できると提案し、エリクはそれを頼む。
そして自ら操作盤を扱う『青』は、自分の拠点にある自律機構にメディアの映像を転送した。
するとその操作を終えた後、操作盤の映像を見ていた『青』が気付くようにエリクへ声を向ける。
「む――……エリク、通信装置に伝言が届いているぞ」
「伝言?」
「通信に応答しない場合、魔導人形を通して伝言が保管するよう設定されている。……これは、他の箱舟からだな。読めるか?」
「……帝国語だな。なら読める」
映像に映し出される文字の羅列を見たエリクは、それが学んだ帝国語である事に安堵する。
そして届けられたと思しき言葉を追うように、自分の口で読み上げた。
「『――……ガルミッシュ帝国ローゼン公爵家当主、セルジアス=ライン=フォン=ローゼンよりエリク殿へ。』……アリアの兄からか」
最初の一文に書かれている名前が、アルトリアの兄セルジアスである事を確認する。
すると次の文章に目を移し、エリクは一言一言を理解する為に読み続けた。
「『貴殿が帝国用の箱舟で発った為、追う事も出来ずこのような形で御伝えする事を御許しください。そして貴殿がメディアなる女性を探しているという情報を聞き、その事で御伝えしたい事があります。』」
「む?」
「『そのメディアなる女性が、私の知る女性と同一人物かは分かりません。しかしメディアと言う名は、帝国内でもローゼン公爵家や皇族の間だけで伏せられていた名でもあります。……実は、そのメディアという名の女性は――……』……!?」
「……なにっ!?」
「メディアという名の女性は、あの兄妹の……アリアの母親だと……っ!?」
映像に映し出される文章を読み上げたエリクは、そこに書かれているセルジアスの情報に『青』と共に驚愕する。
それは二人が最も知るであろうアルトリアの母親が、そのメディアという女性かもしれないという衝撃の事実だった。
共にその情報に驚いた後、呆然とするエリクに代わり『青』が続きの文章を読み上げる。
「『……ただアルトリアが生まれて半年程で母親とは別れた為に、私達もその後の消息を知りません。しかし母親の消息や出生について、詳しく知る人物に心当たりがあります』」
「!」
「『一人は、ログウェル=バリス=フォン=ガリウス伯爵。彼は母メディアを拾い育てた師であり、よく旅を共にしていたと聞きます。彼ならば恐らく、母の出生や行方について知っているかもしれません。』……『緑』の弟子だと……!?」
「ログウェルが拾って育てた……。知っていたか?」
「いや、儂は知らん。……いや、待て……。まさか……」
「?」
「……アルトリアが幼少の頃、魔導国に訪れたログウェルがある情報を伝えに来た。帝国のローゼン公爵家に、特殊な能力を持った子が生まれたと」
「!!」
「儂はその情報を聞き、その子と能力を確認する為に帝国の公爵家へ訪れた。……まさかあの男、儂に自分の弟子の子を預けたのか……!?」
その情報を聞いた『青』は、過去にログウェルが関わる案件でアルトリアの存在を知った切っ掛けを話す。
するとログウェルとメディアという二人の接点が明らかとなり、アルトリアという存在に繋がりを見せた。
そして続く文章を見ながら、『青』は更なる情報を確認する。
「……続きを読むぞ。『――……もう一人は、兄妹の父クラウス=イスカル=フォン=ローゼン。父は母メディアと恋仲となり、兄妹が生まれました。恐らくし私生活において、父以上に母を知っている者は居ません』」
「!!」
「『ただ現在、帝国において父クラウスは戦死した事になっていますが。こちらで秘かに生存を確認し、内密に旧共和王国へ向かった情報を得ています――……』……これについては、儂も知っている」
「俺もアリアの父親とは、共和王国で会った」
「うむ。元公爵は共和王国で生きているはずだ」
「……俺はアリアの父親に会って聞いて来る。『青』、お前はログウェルを探してくれ」
「儂の転移で連れていけるぞ?」
「いや、この女の姿絵も確認させたい。この箱舟で行く」
「そうか、ならば各々にメディアなる女の消息を探ろう。何か分かれば、箱舟に通信か伝言を送る。ちゃんと確認しろよ」
「分かった、頼む」
意外な人物達が関わりを持つメディアという女性について知る為に、エリクと『青』は互いにその行方を知るかもしれない人物達を探し尋ねることを決意をする。
そして『青』は自己転移で拠点に戻り、エリクはクラウスと再び会う為に箱舟でベルグリンド共和王国を目指した。
こうしてメディアという女性に関する情報について、ようやくエリクにもその概要が見えて来る。
強い創造神の欠片を持つかもしれない、アルトリアの母親メディア。
その謎に包まれた彼女の秘密を解き明かしながら消息を知る為に、エリクは改めて奔走を始めたのだった。
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