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革命編 八章:冒険譚の終幕

輪廻の別れ

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 目覚めたリエスティアは周囲にいる者達を目にし、そこに居るカリーナとウォーリスが自分の両親である事を知る。
 しかしガルミッシュ帝国において多くの者達を殺めた父親ウォーリスに、恐怖と嫌悪をしめしてしまう。

 それでも過去のリエスティアが見ていた景色きおくが、幼い頃に過ごした両親の姿を垣間見せる。
 そこで父親ウォーリスの行動が全て家族の為だった事を知り、改めて彼女リエスティアは二人を両親だと受け入れる事が出来た。

 家族である三人が再び触れ合う姿に、傍で見守るユグナリスは涙汲む姿が窺える。
 そんな父親ユグナリスの姿を見上げるシエスティナも微笑み、母親リエスティア両親ふたりと和解できた事を喜んでいる。

 しかしアルトリアは腕を組んだ姿勢のまま、映し出される景色きおくを見て察するように小声で呟いた。

「あの瘴気、確か創造神オリジンの中に在った『くろ』の蓄積した記憶そのもの。その影響で過去の光景だとしたら……これも既に視えていた未来ってことね。……でも、だとしたら……」

「……どうしたんだ? ブツブツ言って」

「ん? こっちの話よ。それよりアンタ達、そろそろ戻るわよ。続きは現世むこうでやりなさい」

「!」

「忘れた? ここは輪廻あのよで、リエスティアの魂内部なかよ。意識が覚醒した今、これだけの人数たましいが長居してると魂が崩壊しかねないわ」

「えぇ!?」

 冷静な面持ちを浮かべるアルトリアの言葉で、ユグナリスは改めて自分達の状況を思い出す。

 死者の魂が行き着く輪廻において、生者の魂が留まり続けるのは非常に危険であり、また死者達にとっても迷惑となる行為。
 それを知るアルトリアは改めて忠告を向けると、ユグナリスが初めて知った声を漏らして慌てる様子を見せた。

「じゃあ、早く現世むこうに戻らないと……! でも、どうやって……」

「その為にこの子を連れてきたんでしょ」

「えっ、シエスティナを……?」

「今回もマシラの秘術を模倣したから、リエスティアと子供シエスティナ血縁つながりを利用して戻れるわ。シエスティナ、あっちに集まりなさい」

「はい!」

 促すように話すアルトリアに応じて、元気良く声を返すシエスティナは自ら祖父母ウォーリスたちに近付く。
 そしてユグナリスもまた彼女達の傍に近付き、アルトリアは現世へ戻る方法を伝えた。

「貴方に渡したその短杖つえが、言わば釣り糸に垂らされてる針よ。それを握ったまま現世むこうに戻りたいと願えば、ちゃんと皆と一緒に戻れるわ」

「はい! じゃあ、もう戻っていい?」

「ええ」

「じゃあ、やるね。――……みんなで一緒に帰りたい!」

「――……ッ!!」

 シエスティナの無邪気な願いを聞き届けるように、握られている白い魔玉の付いた短杖つえが光り輝く。
 すると輪廻に留まっているリエスティアの魂に繋がる糸が出現し、輪廻の遥か先で光られている魂の白門もんへ繋がった。

 そしてその糸が、現世へ手繰り寄せるように彼女リエスティアの魂を引き上げていく。
 すると小屋の中だった景色が再び変化し、今度は真っ白な精神世界へと戻った。

「!」

「引き上げ中ね。流石にこれだけの人数を魂ごと引っ張り上げるのは、時間が掛かるみたいだけど」

「そ、そうなのか……。……でも良かった。リエスティアと一緒に、皆で戻れて……」

「……それはまだ、分からないわよ」

「え――……ッ!!」

「!?」

 安堵するように言葉を漏らすユグナリスに、アルトリアは神妙な面持ちでそう話す。
 その言葉の真意を誰もが掴みかねる中で、突如として世界が揺れるような衝撃を全員が感じ取った。

「な、なんだっ!!」

「この揺れは……魂が揺れているのか……!?」

「……やっぱり、長居し過ぎたみたいね。……気付かれたんだわ」

「気付かれたって!?」

「死者達に、私達の存在が気付かれたのよ。忘れたの? つい最近、輪廻ここには大量の死者が送り込まれたのよ。誰かさんのせいでね」

「……まさかっ!?」

 魂そのものが揺れる状況に驚く一同の中で、アルトリアだけが冷静に状況を察する。
 そしてそれを聞いていたウォーリスもまた、この揺れの原因が何かを理解した。

 するとアルトリアは右手を翳し、全面にとある映像を出現させる。
 それはリエスティアの魂にに群がるように集まる、数え切れないほどの魂達だった。

 しかもその魂達は、現世へ手繰り寄せていた光の糸にも群がりながら体当たりしている光景も見える。
 すると彼等が居る魂内部せかいに、死者達の声が聞こえて来た。

『――……ユルサナイゾ』

『オ前達ダケ、行コウナンテ……』

『私達ヲ、殺シテオイテ……!!』

「こ、この声は……」

「……まだ浄化し切れていない、死者達の怨念。そいつ等が自分達を殺した張本人を、狙って来たのよ」

「!?」

 映像越しに見える魂と声が、ゲルガルドウォーリスによって殺された死者達の声だとアルトリアは伝える。
 それを聞いたユグナリスは、その魂達が襲撃で死んでしまった帝国民だとようやく理解した。

 すると強張らせた表情を真上に向けながら、ユグナリスは叫ぶように死者達に伝える。

「待ってくれっ!! あの時の彼等は、ゲルガルドに従わざるをえなくて……!」

『ソレガドウシタッ!!』

「!!」

『私達ハ、アノ化物ニ食イ殺サレタ……!!』

『何ノ関係モナイノニ……殺サレタッ!!』

『誰モ助ケテクレナカッタ……』

『オ父サンモオ母サンモ、目ノ前デ……』

『俺ノ大切ナ……愛シタ人モ……ッ!!』

『ミンナ、コイツ等ニ殺サレタッ!!』

「……ッ!!」

 数多くの死者達が放つ声は、理不尽な死を強いられた事に因る怨念に因るモノ。
 その矛先はウォーリスと彼が守ろうとした家族ふたりにも向けられ、そんな彼等が現世へ戻ることを妨害する為に死者達の魂は襲い掛かって来ていた。

 そんな死者達を説得する事が難しいと察してしまったユグナリスは、表情を強張らせながらも『生命の火』を纏い聖剣を作り出そうとする。
 しかしそれを止めるように、立ち上がったウォーリスが声を発した。

「……私が行こう」

「ウォーリス殿っ!?」

死者達かれらの怨念は、私に向けられている。なら私が行けば、彼等も満足だろう」

「でも、それは……!!」

「これは私の罪だ。それに君達を巻き込みたくない」

 死者達の怨念からリエスティアやカリーナ達を逃がす為に、ウォーリスは自ら死者達の下へ向かう事を伝える。
 そして彼が歩み出ようとする中、アルトリアが右手を真横に翳しながら彼の動きを止めた。

「好き勝手言って、本当に勝手な奴等だわ。アンタ達も、そして外の死者達やつらも」

「!」

「生者が死者を害することは『禁忌』と呼ばれている。だったらその逆、死者が生者を害するのも『禁忌』よ」

「……アルトリア……?」

「そんな単純な秩序ルールも守れないような連中が、死んでからしかイキがれないなんて。……ムカつくわ」

「……ッ!!」

 アルトリアはそう述べると、左手を翳しながら光の粒子を出現させる。
 そして次の瞬間、リエスティアの魂と現世へ釣り上げる光の糸が密度の高い光の粒子に覆われながら障壁に守られた。

 攻撃していた死者達はその障壁ひかりに妨害され、逆に迎撃されるように電撃上の粒子が彼等の魂に迸る。
 すると怨念ばかりの声だった死者達が、悲鳴に変えながら非難の声を挙げ始めた。

『ヒィイイッ!!』

『ナンデ……ナンデッ!?』

『私達ハ、何モ悪クナイノニ……!!』

『全部、ソイツ等ノセイナノニ……』

『ナンデ邪魔スルノ!』

「ギャーギャーギャーギャー、ウルサイのよッ!!」

『!?』

「一回殺された程度で騒がしいわねっ!! 私なんかコイツ等のせいで三回は死んでるのよっ!! アンタ達以上に、文句なら山ほどあるわっ!!」

『ナ……ッ!!』

「それにアンタ達が死んだのは、自分の弱さを許容して他人ばかり頼ってたせいでしょっ!! 何も出来ずにただ殺されるなんて体|《てい》たらく、情けないったらないわねっ!!」

『エ、エェ……』

「悔しかったら、来世つぎは死ぬほど自分を鍛えてなさいっ!! そして自分の命や大事なモノくらい、自分で守れるようになりなさいよねっ!!」

 死者達の非難に対して、アルトリアは本気の暴言を向け放つ。
 そのあまりにも理不尽な物言いに死者達も思わず絶句し、そんな彼女の背中を見る生者達ものたちも唖然とした様子を見せていた。

 その中でただ一人、シエスティナは左右の違う瞳を輝かせながら笑みを浮かべながら声を発する。

「お姉ちゃん、なんかかっこいい! ――……あれ?」

「……シエスティナ。頼むから、性悪女アイツには憧れないでくれ……」

 前に歩み出ながらアルトリアの背中すがたに憧れる様子を見せる自分の娘シエスティナに、ユグナリスは諭すような言葉を呟きながら左手で幼い両目を覆う。
 そんな後ろの様子など構わず、アルトリアは映像越しに障壁の向こう側に居る数万を超える魂達に脅迫ことばを向けた。

「これ以上、現世むこうに戻るのを邪魔するなら! そこに居る全員、魂を消滅させるわよっ!!」

『ヒ……ッ!?』

 激怒しながら右手の光の粒子を出現させるアルトリアは、それを伝って障壁に再び電撃のような光を放出する。
 その光を恐れる死者達は、リエスティアのひかりから一気に遠退き始めた。

 すると彼女アルトリアは振り返り、シエスティナに命じるように呼んだ。

「シエスティナ、今よ!」

「はい!」

 その呼び声に応じるシエスティナは、再び手に抱える短杖つえを白く光らせながら魂の引き上げを再開する。
 するとアルトリアを恐れて離れていた魂の何割かが、それを追うように動き始めた。

 それを投影している映像越しに見るアルトリアは、舌打ちを漏らしながら右手を微かに動かす。

「チッ、往生際が悪い連中ね。こうなったら、本気で――……」

『――……それにはおよばん!』

「!」

 追跡して来る魂達に攻撃を加えようとした瞬間、その声が魂内部に居る生者達に届く。
 すると引き上げられる魂とすれ違うように急降下して来る白い光が、追跡する魂達に向かって行った。

 そしてその光が人間の姿を成すと、アルトリアはその人物が誰なのかを理解しながら怒鳴り伝える。

「『しろ』の七大聖人セブンスワンね! 来るのが遅いのよ、アンタの管轄でしょっ!!」

『それはこっちの台詞だ! なんで生きてるものがこんなに来てるんだっ!?』

現世こっちの事情よ! 文句だったら後で『黒』に言いなさい!」

『またやつの仕業なのかっ!? まったく! 君といい黒といい、お騒がせな連中だ――……なっ!!』

「!!」

 互いに口論を交える二人だったが、『白』は彼等を追う死者の魂達に両腕を翳し向ける。
 すると次の瞬間、輪廻の暗闇を照らす程の巨大な赤い光が追跡する数万の魂に浴びせられた。

 その光が収まった後、追っていた死者の魂達は突如として沈黙を浮かべながら浮くだけの存在となる。
 するとその赤い光を見た時、その光を知る者達は口々に言葉を零した。

「さっきの光は、あの時の……!」

「……理想郷ディストピアの光か」

「なるほど。暴走してる魂は、そうやって理想ゆめへ沈めるわけね」

『――……感心してる暇があったら、さっさと帰ってくれないっ!? 君達、すっごい迷惑だから!』

「はいはい、言われなくても帰るわよ! ――……ありがとね」

『どういたしまして!』

 理想郷ディストピアの光を浴びせて死者の魂を強制的に理想ゆめへ堕とした『白』に非難されながら、アルトリア達はそのまま現世へ続く魂の白門まで向かう。
 そして追跡する魂も無く、彼等はそのまま魂の白門を通過しようとした。

 するとその時、白門の前に二つの精神体たましいが映像越しに見える。
 それを魂内部なかで視認したアルトリアと共に、ウォーリスが微かに驚きの表情を浮かべた。

「あの二人……!?」

「……母上……。……ジェイク……」

 二人が見たのは、若かりし頃の姿をしたウォーリスの母親ははナルヴァニアと、異母弟おとうとジェイク。
 まるで見送るように待っていた二人は、白門を通過する彼等に微笑みを向けていた。

 それに気付いたウォーリスは、二人が見えなくなった映像越しに唇を噛み締めながら両目から再び涙を流す。
 すると現世側に戻った彼等の魂は四散し、自らの肉体に戻っていった。

 そして魂の門が閉じ、輪廻から現世むこうは見えなくなる。
 彼等の帰還を見送ったナルヴァニアとジェイクは、微笑みながら言葉を交えた。

『――……良かった。あの子達が、ちゃんと帰れて……』

『そうですね。……カリーナをちゃんと幸せにするんだよ、兄さん』

『……じゃあ、私達も行きましょうか』

『はい――……!』

 二人はそうした会話を行い、その場から離れようとする。
 しかし彼等の目の前で、新たに二つのひかりが近付いて来ていた。

 その二つのひかりもまた、精神体たましいで人の形を模し始める。
 するとその姿を見てナルヴァニアが驚愕すると、目の前に居る二人の名前を呟いた。

『……ランヴァルディア……。……ネフィリアス……』

 ナルヴァニアの前に現れたのは、皇国において自らを『神兵』とし彼女に復讐しようとしたランヴァルディア。
 その隣には妻だった女性ネフィリアスの姿もあり、その二人が揃って目の前に現れたことをナルヴァニアは驚愕し、僅かに震える青い瞳を逸らした。

 すると相対する形で数秒の静寂を終えた後、彼女ナルヴァニアを鋭く睨んでいるランヴァルディアが重く閉ざしていた口を開き始める。

『……彼女ネフィリアスから真実は聞いた』

『!』

『それでもやはり、貴方は許せない。真実を隠し、彼女ネフィリアスが遺した子供を隠した貴方を……!』

『……貴方が真実を知れば、あおやそれに関わる者達へ復讐しようとするでしょう。その手段によっては皇国は再び戦乱に包まれ、あの子ウォーリス達にも危害が及ぶかもしれない。そう考えた時、貴方へ真実を伝える事は得策ではないと私は判断しました』

『……ッ!!』

『子供の事も、青と面識のある貴方に伝われば、再び命を狙われると思ったから。……そうした事が、貴方にとって許される事ではないのは分かっています。……それでも、言わせてちょうだい。……ごめんなさい』

 改めて妻ネフィリアスの死と妊娠していた子供クロエの事を隠していた事を、ランヴァルディアは憤る様子を浮かべる。
 それを受け入れるように謝罪を向けるナルヴァニアに、彼は表情を更に強張らせた。

 すると右隣に居るネフィリアスが、ランヴァルディアの右頬を摘まみながら声を発する。
 
『いふぇっ!』

『ランディ。貴方は貴方で、もう気が晴れるくらい仕返しはしたんでしょ? だったらもういいじゃない』

『で、でも……!』

『それに、この未来を私達の子供が望んだんですもの。貴方も親として、子供の意思は尊重してあげなさい』

『……ッ』

 ランヴァルディアを説き伏せるネフィリアスは、そのままナルヴァニアにも笑顔を向ける。
 すると精神体からだを彼女に近付け、降ろしている手を優しく握りながら伝えた。

『ありがとうございます、女皇陛下。私達の子供を守ってくれて。……そして、ウォーリス君にも感謝しています。死に逝く私の身体から、あの子を救ってくれて』

『……!』

『私、二人には感謝してるんです。だから私の臓器とかは、その御礼ということで許します!』

『……ごめんなさい……。……ありがとう……っ』

 明るい表情を見せるネフィリアスの感謝を聞いたナルヴァニアは、心残りの一つであった罪の意識から解放され瞳から涙を流す。
 そんな二人を見ていたランヴァルディアとジェイクもまた、微笑みを浮かべながら二人に寄り添うように近付き、共にその場から離れて行った。

 こうして輪廻に赴いていたアルトリア達は、リエスティアと共に現世へ帰還する。
 それを見送った死者達もまた、ようやく長く辛い苦しみから解放されたのだった。
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