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革命編 七章:黒を継ぎし者

第三の選択肢

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 天界エデンの空に出現している時空間の穴を通じて、魔鋼マナメタルで築かれた大陸が下界したへ降下する。
 その後に発生するであろう世界の破壊を防ごうと、マナの大樹そびえ立つ聖域ばしょにアルトリアとエリク達は残っていた。

 彼等がこの聖域ばしょに残る決意をさせたのは、マギルスが発案したある作戦。
 それをマギルスが提示した時は、まだエリクとケイルが揉めていた場面だった。

『――……ねぇねぇ、二人とも』

『!』

『エリクおじさんはアリアお姉さんを連れて帰りたくて、ケイルお姉さんはアリアお姉さんを置いてでも逃げた方がいいって思ってるんだよね?』

『……ああ』

『そうだ』

『僕も未来で、クロエから頼まれてるからさ。アリアお姉さんと一緒に居た創造神おんな肉体ひとを連れて帰りたいんだ。でもこのまま帰っちゃうと、結局はこの世界が壊れて消えちゃう。そうだよね?』

『そうだって言ってたろ』

『じゃあさ、世界が消えずに皆で帰れる方法をやろうよ。それで誰も揉めないじゃん!』

 そう言いながら笑顔を向けるマギルスに、エリクとケイルは互いに驚きながらも徐々に表情を渋らせる。
 するとマギルスはそんな二人の様子を見ながら、首を傾げて尋ねた。

『どうしたの? それじゃ駄目?』

『いや、駄目じゃねぇけど……。……その方法が無いから、アリアの奴がまた自分を犠牲にしようとしてるんだろ』

『そうかなぁ? 僕、今のアリアお姉さんはらしくない気がするんだよね』

『らしくない……?』

『アリアお姉さん、前に僕に言ったんだよ。大人なら、二択を迫られたら三択目を考えて選ぶって。……なのに今のアリアお姉さん、二択の内から一つしか選んでない感じなんだもん』

『!』

『このまま世界が消えちゃうか、それとも自分を犠牲にして世界を消えさせないか。その二択だけしか考えて無くて、三択目を考えてない。それって、アリアお姉さんらしくないよ』

『……』

 過去にマシラで出会ったアリアが宣言した言葉を覚えていたマギルスは、現在のアルトリアが自分の知る彼女アリアらしくない事を話す。
 それを聞いて初めて過去と現在のアルトリアで思考に大きな違いがあるのだと気付いたエリクとケイルは、唖然としながら表情を強張らせた。

 するとマギルスは、旅を通じて彼女アリアから学んだ事を伝える。

『それにさ、なんかなんだよね。こういうのって』

『?』

『何かを代償ぎせいにしないと、何も助けられないっていうのさ。……クロエの次は、今度はアリアお姉さんを犠牲にして。僕達はどうするの?』

『……!!』

『僕達が今まで頑張って来たのって、アリアお姉さんを助ける為じゃん。なのにそのアリアお姉さんを助けられずにこのまま帰っても、僕等は今まで何してたのってなるもん』

『……ッ』

『僕、そういうのだもんね。だからアリアお姉さんも世界も消さずに、どうにかなる方法をやってみよ!』

 成長しながらも子供らしい意見を述べるマギルスの言葉に、大人であるエリクとケイルは自分達の思考が酷く硬直していた事を自覚させられる。

 成長し現実に向き合う時間が増え続ける『大人』にとって、この世界が綺麗事では何も解決しないという状況が多い。
 それ故に思考は硬直しがちなり、解決できる手段が現実に見合うような限られた方法モノばかりを考えるようになってしまった。

 そうした『大人』に知らず知らずの内に至った事を自覚したエリクとケイルは、現在のアルトリアもそうなっているのだと気付く。
 マギルスは『子供』故にその違和感に気付き、誰の悩みも解決できる方法を選ぶよう促した。

 それを聞いて改めて思考を柔軟に戻そうとするエリクとケイルは、第三の選択肢を考えようとする。
 しかしその前に、ケイルはそうした事を伝えたマギルスに敢えて問い掛けた。

『……分かった。でも、その第三の選択ってのを考える時間の余裕が無さそうだぞ。それに考えられたとしても、アリアの奴を説得して納得させないと……』

『それなら、僕に考えがあるよ!』

『!?』

『あるのかよ、アリアを助けて世界を救える方法が……!?』

『うん! でも、成功するかは分からないけどね』

『どんな方法なんだ?』

『ほら、あおのおじさんもやってたじゃん! アレだよ、アレ!』

あおがやっていた……?』

『ほら、なんだっけ。相手の乗り物に何か仕掛けて、僕達が追ってるのをバレないように騙してたやつ!』

『……偽装の事か?』

『そうそう! それと同じ事をして、システムってやつを騙すんだよ。――……世界は、もう消えちゃってるんだってさ!』

『!!』

『そうすればさ、システムってのも計画を止めるんじゃないかな? もう世界は消えちゃってるんだから、計画を進める必要は無いんだし。ね、どうかな?』

 マギルスは自分が考えた手段を自信満々に明かし、それを聞いたエリクとケイルは一層の驚きを浮かべる。
 それは『子供』のマギルスだからこそ、辿り着けた作戦かんがえでもあった。

 そうしたマギルスの言葉によって、エリクとケイルもまた第三の選択肢に導かれる。
 するとアルトリアが居るマナの大樹に向かい、自己犠牲に走ろうとする彼女の説得と、第三の選択肢について賛同を得られたのだった。

 そうして場面は、再びマナの大樹に集ったアルトリアとエリク達に移る。
 するとマナの大樹に近付きながら虚空の前方に両腕を広げたアルトリアは、自身の周囲に投影された操作盤パネルを出現させた。

 それを両腕を動かし各指で操作を始めると、アルトリアは後ろに控える三人に伝える。

「――……私が循環機構システムを騙す為の偽装情報を作るわ。……自爆までの時間制限タイムリミットまで、残り五分……っ!!」

「五分って、そんな短時間で出来るのかよっ!?」

「作るだけなら、偽装情報は間に合うわ。でも問題は、その時間制限タイムリミットの直前に循環機構システムへ偽装情報を流す必要があるってこと」

「どういうことだ?」

時間制限タイムリミットの前に世界が消失した偽装情報を送ってしまうと、循環機構システムはその真偽を確かめる為に索敵サーチを開始してしまう。そして世界の消失が偽装された情報データだと判明、結局は計画が再開されてしまうのよ」

「……そ、そうか。凄いな」

ようするに、騙してるのがバレちゃうってこと。だから偽装した情報データを現実の情報と差し替えるのは、時間制限タイムリミットの直前にしなければいけないの」

 アルトリアは創造神オリジン権能ちからを使い、循環機構システムを騙す為の偽造情報データを作り続ける。
 そして騙す為の手順について話すと、疑問を抱いたケイルが後ろから問い掛けて来た。

「……だが、自爆はどうやって止める? ギリギリで偽装した情報を送っても、自爆を止められなきゃ意味が無いだろ」

「それも偽装した情報データもとに、二重の自爆信号コード循環機構システムの命令で生じたように偽装する。そうすれば循環機構システムは二つの命令の内、異常エラーが起こさない為に一つを消そうとするはず。そして実際に起動している本物の自爆信号コードを消させるわ」

「……よく分からんが、最初からそれをやって自爆を止めた場合は?」

「さっき言ったのと同様に、循環機構システムに偽装された情報データがバレるわ。そして自爆が再開されてしまう」

「じゃあ、その命令って言うのを二重にした時点で、偽装がバレるんじゃねぇか?」

「可能性はあるわ。でもウォーリスや私がさっきまで循環機構システムを妨害して計画を止めようとした時、循環機構システムは私達が起こそうとした異常エラーだけを取り除いて計画を実行し続けた。多分、計画の実行中は妨害を排除することだけを最優先にするんでしょうね」

「……だから計画が上手く進んでいるように騙して、システムって奴が目的を達成させたように思わせるわけか」

「そういうこと。――……さっき、エリクと戦ってたウォーリスと同じよ。対象あいてが消えて自分の勝利もくてきが叶ったと思えば、循環機構システムは計画を完了させたと思うはずよ。そしてそのまま完了したと思わせて、循環機構システムを凍結させる」

「!」

「でもそのままだと、現世で死んだ魂が循環機構システムを通して輪廻へ行けずに現世へ留まり続けてしまう。だから循環機構システムが自分も消失したと思わせる為に、現世と輪廻の経路をそのままに出来るよう偽装情報を作ってるわ。……結局それも、循環機構システムにバレて計画が再開するまでの時間稼ぎにしかならない。根本的な解決にはならないわよ」

 ケイルの疑問についてこう答えるアルトリアは、偽装情報を下にした一時的な自爆回避も時間稼ぎにしかならないと教える。
 しかし背後に立つエリクが、力強い言葉でアリアに伝えた。

「だが、それでもやるしかない。頼む、アリア」

「……分かったわ。騙してやろうじゃない、世界をっ!!」

 エリクの励ましを受けながら偽装情報の作成を急ぐアルトリアは、次々と投影される操作盤パネルを使い続ける。
 そうして一つの操作盤パネルに投影されている制限時間タイムリミットを見るエリク達は、アルトリアの作業が間に合う事を願った。

 そして時間は残り三十秒となった時、アルトリアは息を吐くように告げる。

「――……はぁ……。……騙す為の偽装情報データは完成よ」

「!」

「後は、時間ギリギリに偽装情報これ循環機構システムに送るだけ。……今ならまだ、最小単位わたしたちの犠牲だけで回避できるわよ?」

「俺は、今の君を信じる」

「僕も!」

しゃくだけど、アタシもな!」

「そう。――……じゃあ、行くわよっ!!」

「っ!!」

 残り時間が三秒を切った時、アルトリアは完成した偽装情報データを送信する操作盤パネルを右手の指で押す。
 そして自分達が選んだ第三の選択肢が成功することを願うように、その場に居る全員が表情を強張らせながら瞼を閉じた。

 そして時間制限タイムリミットは終わり、循環機構システムは自身が発案した創造神オリジンの計画を実行する。
 それは世界の消失を意味し、同時に循環機構《じぶんじしん》の消失を叶えた瞬間でもあった。
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