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革命編 七章:黒を継ぎし者
彼女の覚悟
しおりを挟む悪魔ヴェルフェゴールと交わした契約の破棄によって、ウォーリスは自らの魂を差し出す事を認める。
それを妨げようと悪魔ヴェルフェゴールを討とうとした現在と未来のユグナリスだったが、それは違う形で果たされ、ウォーリスの魂はそのままに留められた。
しかし様々な出来事の元凶とも言うべきウォーリスの処遇について、彼が最愛とする女性であるカリーナにアルトリアは提案を持ちかける。
それはウォーリスと共に今まで起きた出来事の償いを行う事であり、それを約束させカリーナに『誓約』を課したアルトリアはウォーリスを生かす事を選ばさせた。
そんな彼女の口から、驚くべき情報が飛び出る。
それは停止したと思われていた創造神の世界破壊の計画が続いており、膨大な魔鋼で築かれている天界の大陸を降下させて自爆させるという、とんでもない話だった。
すると創造神の計画が停止していない事について真っ先に驚きの声を向けたのは、七大聖人である『青』。
それは彼自身も知らぬ計画段階であり、それを知るアルトリアに驚くように問い質した。
「――……アルトリア、どういうことだっ!? 天界が降下するだとっ!?」
「そう言ってるじゃない」
「だが五百年前に起きた天変地異では、そのような事は……」
「あったでしょ? 五百年前に世界各地に降り注いだ、大陸規模の土地。あれは天界が降下した影響で落下した、天界の一部だったのよ」
「なにっ!?」
「今回みたいに、時空間の穴を通して天界の地面が降り注いで、世界の地形が大幅に変わった。でもその前に五百年前の誰かが降下を止めて、自爆も防いだんでしょうね。よくやるわ」
現状を把握しているアルトリアは五百年前に始動した創造神の計画と、今回の出来事が同一の計画である事を伝える。
それを聞いた『青』は目を見開きながらも納得するように顎を引かせると、今度はマギルスが声を向けて来た。
「――……じゃあ、止める方法はあるんだよね? アリアお姉さん」
「ええ、あるわね」
「なんだ、じゃあ安心じゃん! それで、どうやって止めるの? 僕達も何かやった方がいい?」
「……いいえ、逆よ」
「!?」
「アンタ達はすぐに聖域から出て、来た箱舟に戻りなさい。……ケイル、その子を」
「えっ。……あ、ああ」
マギルスの問い掛けを否定するように首を振って話すアルトリアは、傍に立つケイルに歩み寄りながら創造神の肉体を両手で抱える。
そして今までの話を聞いていたエリクが、思考に過った不安を口にするようにアルトリアへ向けた。
「アリア、君はどうするつもりだ?」
「決まってるじゃない。私は聖域に残って、創造神の計画を止めるわ」
「!?」
「本当は、もっと早く止めたかったんだけど。ウォーリスが創造神の肉体を連れ出したせいで、余計な時間を喰ったわ。まったく」
そう言いながらウォーリスを見るアルトリアは、溜息を漏らしながらマナの大樹がある方角へ歩み始める。
するとそれを止めるように回り込んだエリクが、厳しい表情を浮かべながら自分の意思を伝えた。
「君が残るなら、俺も残る」
「……言うと思ったけどね。駄目よ、貴方はケイル達と一緒に箱舟へ行って、下界へ戻りなさい」
「駄目だ。……君はまた、自分を犠牲にするつもりだろう?」
「そんなつもりは無いわ」
「そう言う君の言葉を、俺は信じないと決めた。……もう君を、たった一人で残させはしない」
今までの出来事からアルトリアの行動を悪い意味で知っているエリクは、再び彼女が自分の身を犠牲にして世界を救おうとしているのだと考える。
それを否定する言葉すら完全に信じないエリクに、アルトリアは溜息を漏らしてから微笑みを浮かべて自分自身の意思を伝えた。
「エリク。これは私が、私達がやるべきことなのよ。創造神の魂と肉体を継いだ、私達がね」
「!」
「確かに今までの事は、ウォーリス達が大体の原因だけど。創造神の計画が再始動して世界が破壊されそうなのは、私達がここに来てしまったせい。……その後始末くらい、私達だけでやらなきゃ」
「……それは、成功するのか?」
「分からない。正直に言って、分の悪い賭けだわ。天界もどうなるか分からないし。……だから私が気兼ねなく思いっきりやれるように、貴方達が残ってると邪魔なのよ」
「……」
「あと、なんか誤解してるようだけど。私はいつも、自分が生き残る算段をちゃんと立てて実行してるのよ。貴方みたいに、何の考えも無しに行動したりしないわ。その点だけは、信じておきなさい」
エリクの知る『彼女』と同じように話すアルトリアは、そう言いながらこの場に自分達だけが残る事を伝える。
それを聞いていたエリクは退きこそしないものの、僅かに表情を強張らせながら悩むような様子を見せていた。
すると二人の横に歩み出たケイルが、エリクの右腕を掴みながら声を向ける。
「……エリク、行こう」
「ケイル、だが……!」
「前のコイツだったら、アタシも止めたと思う。……でも今のコイツが言うなら、アタシ達は本当に邪魔なんだろ」
「……ッ」
「それにこんな事態じゃ、アタシ達の力なんかで手に負えないのが事実だ。……後はもう、コイツに任せるしかない」
「……」
ケイルは今までの話を聞いた上で、自分達が聖域に残っても力になれない事を悟る。
単純な力だけでは解決できない事態は、創造神の権能を扱えているアルトリアにしか解決できないと理解していた。
だからこそ天界からの脱出を提案するケイルに、エリクは更に表情を渋らせる。
すると三人の会話に割り込むように、疲弊した様子で歩み寄るユグナリスがアルトリアに声を向けた。
「――……アルトリア……!」
「何よ、役立たずその二」
「やくた……そ、そんな事より! まさか、リエスティアも一緒に連れて行く気か……!?」
「だからそう言ってるでしょ」
「そ、それなら俺だって残るっ!! 俺だって、リエスティアを連れて帰る為にここへ……!」
「アンタみたいな馬鹿が居たら集中できないでしょ。邪魔にしかならないアンタは、そっちを抱えて箱舟に戻りなさい」
「そっちって……!」
人差し指を向けながら話すアルトリアに、ユグナリスは首を動かしながらそちらの方を見る。
そこには倒れているウォーリスと寄り添うカリーナの姿があり、ユグナリスは僅かに息を零しながらも再びアルトリアへ抗議した。
「も、勿論ウォーリス殿達も連れて行くが……リエスティアも……!!」
「だからこの子も必要だって言ってるでしょ。頭が悪過ぎるにも程があるでしょ、アンタ」
「だ、だが――……ゴハァッ!!」
何とかリエスティアも連れ帰ろうと抗議を続けようとしたユグナリスに対して、その傍まで老騎士ログウェルが静かに歩み寄る
するとユグナリスの首筋に威力と素早さの乗った右の手刀を放ち、その意識を刈り取りながら地面へ突っ伏させた。
そしてユグナリスを右腕で担ぎ、倒れているウォーリスを左腕で抱えた老騎士ログウェルは、微笑みながらアルトリアと話す。
「――……ほっほっほっ。この二人の面倒は、儂が見ましょう」
「御願いするわ。……アンタ達も、さっさと箱舟まで逃げなさい! 時間はそんなに残ってないわっ!!」
「!」
アルトリアの怒声が周囲に響くと、その言葉に従うように最初にログウェルが聖域の出入り口へと走り始める。
それに追従するように義体のアルフレッドが走り、右腕でカリーナを抱えながら左腕に持つザルツヘルムと共にログウェルを追い始めた。
すると僅かに戸惑う様子を見せていた特級傭兵のスネイクとドルフが追い始め、ゴズヴァールもエアハルトを左腕で抱えたまま続くように走る。
そして納得し難い表情を浮かべていたシルエスカも、怒気の籠った息を吐き出しながら他の者達を追って走り始めた。
『青』もまたアルトリアを見ながら、瞼を伏せて他の者達を追う。
巴も支えていた武玄から手を離し、ケイルの方を見る。
するとそれに気付いたケイルが頷きながら、師匠である二人に伝えた。
「先に行ってください。アタシ達も後から」
「……そうか」
「あと、これ……ナニガシ殿に返しておいてください」
「分かった」
ケイルは腰に下げていた大小の刀を武玄に投げ渡し、その持ち主である『茶』の七大聖人ナニガシに返すよう頼む。
それに応じた武玄と巴は、先を走る者達を追い始めた。
その場に残ったのはエリクとケイル、そして創造神の肉体を抱えるアルトリア、そしてマギルスと薄らと見える青馬だけ。
この旅を共にして来た仲間達だけが残ると、アルトリアはそれぞれの顔を見ながら微笑ましくも感慨深そうな言葉を向けた。
「……みんな、ありがとね」
「!」
「色々な目にあったけど。貴方達が居たから、なんだかんだで楽しい旅だったわ。だから、その御礼よ」
「アリア……!」
「でも、この旅も……ううん。私が始めた旅は、これでお終い。――……みんな、元気でね」
「アリアッ!?」
彼女の本音とも感謝の言葉と共に、アルトリアは創造神を抱えてその場から姿を消す。
それを聞きながら見ていたエリクは驚愕を浮かべ、アルトリアがマナの大樹へ向かった事を瞬時に悟った。
エリクはそれを追う為に走り出そうとしたが、ケイルの両手がそれを留めるように強引に右腕を掴み引く。
「ケイル……!!」
「アタシ達が残っても、役には立たないって言われただろ……!」
「だがっ!!」
「アイツを! ……これ以上、困らせんな……っ!!」
「!」
「今まで黙って色々やって来たアイツが、真正面から馬鹿正直に言うくらいヤバイ状況なんだ。……ここに残っても、アタシ等は邪魔でしかないんだよ……悔しいけどな……っ!!」
「……ケイル」
「今は一刻も早く、ここから離れるんだ。……でないと、アイツの意思が無駄になる」
「……クソ……ッ」
アルトリアの言動から今の事態が自分達の予想以上に危うい状況だと察するケイルは、天界から急ぎ離れるべきだと伝える。
それが正しい行動だとエリクは理解しながらも、再びアルトリアが犠牲になる可能性が高い状況に何も出来ない自分の非力さに左拳を強く握りながら悪態を漏らした。
そんな三人のやり取りを見ていたマギルスは、何か考える様子を見せながら青馬を見る。
すると青馬は頷く様子を見せ、それに微笑みを浮かべたマギルスが二人に向けて口を開いた。
こうしてアルトリアは天界の降下と下界での爆発を防ぐ為に、創造神の肉体と共にマナの大樹へ戻る。
それはこの世界を創り出した創造神の魂を継ぐ者の責任として、そして大事な者達を守る為に、アルトリアの覚悟する姿でもあった。
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