1,135 / 1,360
革命編 七章:黒を継ぎし者
相容れぬ望み
しおりを挟む創造神の計画を止めたアルトリアだったが、ここで新たな事態が生じる。
それは世界の破壊を共に防ごうとしたウォーリスが起こした事であり、傍に寝かされていた創造神を確保しようとしたのだ。
周囲に居る未来のユグナリスと鬼神フォウルは、そうした行動に出たウォーリスを咄嗟に止めようとする。
しかし彼等が襲い掛かる前に、ウォーリスは創造神の肉体を盾にして見せた。
そうした事態に僅かに遅れて気付いたアルトリアは、近くに立ちながら動かぬように命じるウォーリスを鋭く睨む。
そんな周囲の視線に対して、ウォーリスは厳しい表情を向けながら口を開いた。
「――……何か誤解させてしまったようで申し訳ないが、私はお前達の味方にしていたわけではない」
「なに……!!」
「下界の破壊されてしまう事は、私の思惑とは大きく異なってしまう。だから協力し、それを止めただけだ」
「……創造神をどうするつもりだ、テメェは」
「決まっている。再び理想郷を展開する鍵とし、全ての者達の魂を輪廻へ帰す。――……そして世界を、再始動させる」
「!!」
ウォーリスはそう語り、自らが目的としていた計画を明かす。
それを聞いたフォウルや未来のユグナリスは驚愕を浮かべながらも、アルトリアだけは僅かに口を引き締めながら両拳を握った。
するとウォーリスは傍に一つの操作盤を出現させながら、それを左手で素早く操作し始める。
「協力に感謝する。ユグナリス皇子、そして鬼神フォウル。理想郷を展開した後、お前達の精神体は輪廻へ送らせてもらう」
「チィッ!!」
「クッ!!」
そうしたウォーリスの言葉を向けられた後、二人の周囲に黒い空間が突如として出現する。
するとそこから金色の鎖が出現し、それ等が二人の反応速度よりも早く精神体の四肢と口を覆うように絡め取った。
瞬く間に捕縛された二人は自身の膂力で鎖を引き千切ろうとするが、それが叶わない。
物理的な鎖ではなく精神体を拘束するのに特化したような鎖の能力は、驚異の実力を持つ二人に対して有効さを示していた。
そんな二人の様子を見た後、ウォーリスは振り向きながらアルトリアに声を掛ける。
「アルトリア嬢、君にも感謝はしている。……だが私の目的の為に、再び『鍵』としての役目を担ってもらおう」
「……ふっ」
強制的に協力させようとするウォーリスに対して、アルトリアは鋭い眼光を僅かに和らげる。
そして口元を微笑ませながら声を漏らすと、ウォーリスは不可解な表情と声を向けた。
「何がおかしい?」
「……アンタの行動を、私が予想しなかったと思うの?」
「何……?」
「私に操作まで任せたのは、アンタにとって必然の失敗だったわね」
「……まさか……!?」
勝ち誇るような笑みを向けながら語るアルトリアの言葉に、ウォーリスは何かを察する。
するとそれを否定するように、左手の近くに展開していた操作盤を扱いながらある事を確認した。
その数秒後、ウォーリスの表情が唖然とした感情に染まる。
更に歯を食い縛りながらアルトリアを睨み、憤怒の籠った声を向けた。
「……貴様、私が施した構築式を……っ!! だが、何時……!?」
「私が、ここを出て行く前よ」
「!!」
「あの時に、アンタが循環機構に施していた構築式《プログラム》を消去しておいたわ。ついでに、同じ構築式を受け付けない為の構築式を私も入力しておいた」
「な……っ!?」
「これでアンタは、あの膨大な構築式を再び書き換えて入力し直さないといけない。……あれほど手の込んだ構築式を、今すぐ再構成する事が出来るのかしら?」
「貴様……っ!!」
微笑みながらそう尋ねるアルトリアに、ウォーリスは明らかな怒りを向ける。
こうした事態になる前、再び創造神の計画が再始動した時にアリアはウォーリスから操作盤で状況確認が出来るようにしていた。
しかしあの切羽詰まった状況の中で、アリアは別の思惑を持ちながら操作盤を扱っていた事が明かされる。
それこそが、この事態が終息したら起こるであろうウォーリスのの行動を阻害する手段。
世界が破壊されようとしている状況で既にそれを止めた後の事も考えていたアリアは、そうした仕込みを既に施していたのだ。
当の本人であるウォーリスはそれに気付けず、世界を破壊する計画を停止を試みながら神兵達の制御が精一杯。
仮に気付いたとしてもそちらに手が回せぬ程の状況だと理解していたアリアは、そうした置き土産を残して後の事を自分自身に託したのだった。
再び目的を阻むように立ち塞がったアルトリアに、ウォーリスは明らかな敵意を向けて攻撃をしようとする。
しかしアルトリアも身構えながら、こうした言葉を向けた。
「ウォーリス、いい加減に諦めなさい」
「……それは出来ない」
「どうしてよ。……世界の再始動して、アンタの大事な存在だけを守って。どうするつもり?」
「……お前には、分からないだろう」
「何がよ」
「暴力と恐怖によって人生を縛られた者が、何を望むのか。……貴様のような人間には、永遠に分かるはずがない」
「……」
憎悪と憤怒を宿しながらも、哀愁に満ちた青い瞳を向けるウォーリスはそうした言葉を向ける。
それに対して少し考えるような様子を見せたアルトリアだったが、そこでウォーリスは次の行動を始めた。
右手に掴む創造神を自身の胸に引き込んだウォーリスは、左手で操作盤を再び扱う。
するとウォーリスの精神体と創造神の肉体が突如として粒子状になり、光となって消え始めた。
「ウォーリスッ!?」
「さらばだ、アルトリア。私にとって、永遠の宿敵よ――……」
消える二人に手を伸ばそうとしたアルトリアだったが、そこで姿が完全に消えてしまう。
それと同時に鎖に拘束されていた未来のユグナリスとフォウルが解放され、姿勢を戻しながら口を開いた。
「野郎はっ!?」
「ウォーリスは、何処へっ!?」
「……多分、外よ」
「!?」
「……ウォーリス、アンタは……」
アルトリアはそう明かし、ウォーリスが循環機構から外へ出た事を伝える。
その予測は的中しており、エリク達が居るマナの大樹周辺でも新たな変化が起きていた。
「――……ねぇ、またなんか出て来たっ!!」
「!」
「……アレは……!?」
新たな異変に最初に気付いたのはマギルスであり、マナの大樹に起きた変化を一早く周囲へ伝える。
それが伝わり他の者達も視線を向けると、マナの大樹から新たな人影が生み出されている事を理解した。
それを知り全員が警戒しながら身構えると、マナの大樹から出て来たそれが落下するように地面へ着地する。
今まで出て来ていた神兵とは異なる動き方をする存在に、エリクを始めとした全員が不可解な様子を浮かべた。
「なんだ、神兵ではないのか……?」
「顔は、同じに見えるが……」
「……アレは、まさかっ!!」
「……この感じ、奴は……っ!!」
武玄や『青』を始めとし、木々の上で陣取っていたスネイクやドルフは再び出て来た人の姿が神兵と酷似している事に気付く。
しかしユグナリスはその人影が抱え持つ銀髪の赤い装束を身に着けた女性らしき姿に驚愕し、エリクもまた他の神兵からは感じられなかった感覚が何かを察した。
すると着地した人影は、顔を上げ腰を立たせながら目の前に見えるエリク達に視線を向ける。
そして右手で抱え持った女性の顔を見ると、ユグナリスは確信を持って叫んだ。
「間違いない……! リエスティアッ!!」
「!」
ユグナリスはそう叫びながら人影に走り近付き、最愛の女性に近付く。
しかしそれを阻むように、その人影は左手を翳し向けて凄まじい閃光と共に気力の砲撃を放った。
「うわ――……っ!!」
「避けろっ!!」
「クッ!!」
気を取られていたユグナリスは反応が遅れ、そのまま閃光に飲まれてその場から吹き飛ばされる。
それに反応できた者達は射線から外れるように砲撃を回避し、左右に跳び退きながら回避して見せた。
ユグナリスを除いた者達は踏み止まり、改めて現れた人影が敵である事を確認する。
そして傍に立つエリクとマギルスは、その場に現れた人影の正体に気付いた。
「おじさん、アイツってもしかして……」
「ああ、間違いない。……奴は、本物のウォーリスだ……!」
言葉と共に剣を握る手の力を強めたエリクは、改めて対峙している人影がウォーリスだと理解する。
そして砲撃を放ち終わった後に左手を下げたウォーリスは、そんなエリクへ視線を向けながら呟いた。
「……傭兵エリク。……私達の望みを邪魔する者は、全て排除する……っ!!」
憎悪と憤怒の混じる焦燥の表情を浮かべたウォーリスは、凄まじい気力を体外から放つ。
その波動を受けるその場の者達に底知れぬ生命力を感じ取り、僅かに身体を震わせた。
こうして再び敵対したウォーリスは、自らの望みを叶える為に牙を向く。
それを阻むように立ちはだかるエリク達は、再び彼と対峙する事になった。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?
仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。
そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。
「出来の悪い妹で恥ずかしい」
「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」
そう言ってましたよね?
ある日、聖王国に神のお告げがあった。
この世界のどこかに聖女が誕生していたと。
「うちの娘のどちらかに違いない」
喜ぶ両親と姉妹。
しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。
因果応報なお話(笑)
今回は、一人称です。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる