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革命編 七章:黒を継ぎし者
新たな戦力達
しおりを挟むマナの大樹内部に存在する循環機構に取り込まれた創造神とアルトリアの肉体は、ウォーリスが居る一画へと辿り着く。
そこで創造神の肉体とアルトリアの精神を『鍵』として、循環機構そのものを書き換えるという策を実行し始めた。
それに応じる未来のユグナリスと鬼神フォウルは、書き換えを阻もうとする循環機構の防衛機能と対峙する。
天使モドキと称する精神体達に襲われる中、残り十分という限られた時間の中でそれぞれが己の役割を果たそうとしていた。
「――……チッ!!」
「コイツ等、強い……っ!!」
精神体のフォウルと未来のユグナリスは、共に己の武器とするモノを振るいながら防衛機能である天使モドキ達と戦う。
しかし実体ではなく精神体としての能力を活用する彼等の強さは、多勢に無勢の二人の対応力を僅かに上回っていた。
そして彼等の攻防を潜り抜けた一体の天使モドキが、投影されている操作盤を扱うウォーリスの傍まで迫る。
それに気付き反撃しようとしたウォーリスに対して、アルトリアが叫ぶように伝えた。
「させないわよっ!!」
「!」
「オラァアッ!!」
金色に輝いているアルトリアは創造神に触れている左手とは別に、右手を翳し向けながら重厚な結界をウォーリスの背面に張る。
それによって槍のような武器が阻まれながら身体ごと弾かれた天使モドキは、顔面にフォウルの殴打を受けて吹き飛ばされた。
するとアルトリアは、手を止めているウォーリスに対して書き換えの作業を進めるように伝える。
「コイツ等は私達に任せて、アンタはさっさと書き換えをっ!!」
「分かっている」
その言葉に応じるように作業を再開したウォーリスは、循環機構の書き換えを続ける。
そして引き続き、ウォーリスを守るように三人は天使モドキの進攻を防ぎ続けた。
すると視点は移り、場面はエリク達が戦う現実世界に戻る。
参戦したマギルスと共に戦うエリクは、ある異変に気付いていた。
それはウォーリスによって能力が減退化していた『神兵』達が、それ以前のような動きを見せ始めた事が原因だった。
「――……何、コイツ等っ!? 急に動きが良くなってない?」
「動きが、前に戻った……!」
『神兵』達の出現速度と動きが機敏になった事に気付いた二人は、それに合わせて迎撃を始める。
しかし個体だけでも強力な『神兵』達が連携して押し寄せる状況は、再びエリク達を追い詰め始めていた。
近接と遠距離での攻撃を波状にして放つ『神兵』達を相手に、マギルスは高速で移動しながら回避して見せる。
エリクはそれ等の攻撃を赤い斬撃で迎撃しながら相殺し、接近して来た『神兵』を一刀両断にしながら燃やし尽くした。
回避に専念するしかない自分と迎撃が出来ているエリクとの差を実際に目にするマギルスは、驚きを浮かべながら呟く。
「おじさん、あんなに強かったっけ……っ!! ――……だったら、僕も負けないもんねっ!!」
エリクへの対抗意識を燃やすマギルスは、自身の魔力を身に纏いながら戦闘形態を変えていく。
そして速度特化と攻撃特化に切り替えながら『神兵』達へ襲い掛かり、特殊な鎌でその首を刈り取りながら行動不能にしていった。
たった二人で押し寄せる『神兵』達を退けるエリクとマギルスの姿は、まさに超越した存在に届く者達と言ってもいい。
そうした戦いに加われず青馬に乗せられているケイルは、森の奥から彼等が戦う気配を感じ取るしかなかった。
「――……クソッ、せめて……アタシも身体が万全なら……っ」
二人の戦いに手を貸せないまま遠巻きに居る事しか出来ないケイルは、それを悔やむような様子を浮かべる。
マナの大樹にほとんどの気力を奪われ、更にマナの実に触れた事で腐食した左手も斬り落としてしまい、ケイルは戦える状況ではない。
それでもマナの大樹内部で今も計画を防ごうとしているアルトリア達や、エリク達の戦っている光景が理解できているだけに、何もしていない自分の不甲斐なさを強く感じていた。
すると包帯が巻かれて固定されている手の無い自分の左腕を見て、ケイルはある事を思い出す。
「……そうだ、マナの実……。……アレは、何処に行ったんだ……!?」
『ブルル』
「……すまん、無茶を言ってるのは分かってる。……だが、アタシがやれることはやらないと……!」
ケイルは自分が触れられずに落としたマナの実について思い出し、それが今どうなっているかを探ろうとする。
それを止めるように顔を振る青馬に対して、ケイルは謝罪を向けながらも背から降りた。
しかしそんな彼女の背後から、ある声が届く。
「――……どうやら、辛うじて間に合った……と言えるのだろうな」
「!」
若い男の声でそうした言葉が聞こえると、ケイルは振り向きながら木々の向こうに見える人影を確認する。
それは一人や二人などという人数ではなく、もっと多くの気配が傍に近付いてきている事に気付いた。
「誰だっ!?」
「私だ」
「……アンタは……。……それに、お前は……!」
日の光を遮る木陰の中から現れた人物の容姿を確認し、ケイルは驚きの表情を浮かべる。
そしてその人物の背後から出て来るように現れる者達についてもまた、ある一人の姿を見て驚愕を浮かべた。
それからエリクとマギルスは『神兵』達を相手に攻防を凌ぎ続けたが、ついに互いを背中合わせにしながら包囲されてしまう。
互いに大鎌と大剣を握り締めながら構える姿は戦意こそ衰えていないが、ここまでの戦闘で確かな疲弊を色濃くさせていた。
「はぁ……はぁ……。……マギルス、あと何体やれる?」
「百体は余裕! ……って言いたいけど、ちょっと無理そう……!」
「そうか。……なら、持たせるしかない」
「時間を稼いで、どうにかなるの?」
「ああ」
「そっか。……じゃあ、頑張らないとね……!」
アリアやケイルが実行していた作戦を信じているエリクは、そう言いながらマギルスを諭す。
それに応じたマギルスも大鎌を握り直して構えると、囲むように襲い掛かる『神兵』達を迎撃しようとした。
しかし次の瞬間、二人が居る周囲に虹色の光球が押し寄せる。
そして襲おうとした『神兵』達に光球が命中し、爆発を起こしながらその肉体を抉り壊した。
自分達以外が『神兵』に攻撃した事をすぐに察したエリク達は、その光球が放たれた方角に目を向ける。
「なんだっ!?」
「……やっと来たね、『青』のおじさん!」
「――……待たせな、マギルス。そしてエリクよ」
二人が見たのは、長い錫杖を振るいながら地面に着く青い法衣を纏った『青』の姿。
放たれた光球が『青』の攻撃だと理解した二人は、この状況で神殿の外で別れた『青』が合流した事を理解した。
しかし光球によって抉り壊されながらもまだ動ける『神兵』達は、『青』も攻撃対象にする。
魔導師に対して遠距離戦ではなく近距離戦を仕掛ける為に、生命力の剣を握り持つ『神兵』達が『青』に迫った。
しかし次の瞬間、襲い掛かった『神兵』達に赤い炎を纏った閃光が斬り掛かる。
それが何事も無かったかのように『神兵』達の傍を通過したかと思えば、次の瞬間には瞬く間にその肉体を燃やし始めた。
「!?」
「あの炎って……!!」
突如として燃え落ちる『神兵』達を目にし、マギルスとエリクはその炎の色合いに見覚えを感じ取る。
そして中空に浮いていた一つの炎が地面へ降り立つと、そこに赤い髪と赤い装備を見に纏う一人の青年が見えた。
その姿は見覚えを感じるエリクとマギルスは、凝視するように青年の顔を見る。
すると二人に見られている事を察した青年は、聞き覚えのある口調で若々しい声を発した。
「――……この状況はっ!? リエスティアやアルトリアは、何処にっ!?」
「あれ、あのお兄さんって……帝国の皇子!」
「……今の時代の、あの男か」
怒鳴るように尋ねる青年の姿を、二人はある人物と重ねる。
それは自分達と同行し神殿内部に侵入した、未来のユグナリスを少し若くしたような青年だった。
それが現代のユグナリスである事を理解した二人だった、衰えない『神兵』達の量産速度によってゆっくりとした会話の時間を与えられない。
それに変わるように、彼等の背後から青馬に乗って現れたケイルが簡潔に伝えた。
「アリア達は今、循環機構を書き換えて創造神の計画を止めようとしてるっ!! アタシ等は、それを待ってるんだ!」
「なるほど、そうか。――……『赤』の皇子。今は彼等を援護するのが、得策のようだ」
「分かりましたっ!!」
ケイルの少ない言葉で状況を理解した『青』は、ユグナリスを諭しながらそう伝える。
するとそれに応じるユグナリスは、苦戦していたエリク達を援護するように『神兵』達を退け始めた。
そんな『青』やユグナリスの背後から、一発の閃光が走る。
それが浮遊する『神兵』の眉間を撃ち抜き、頭部を破壊しながら貫いた。
「――……行くぜぇ、イオルム」
『……リィイン』
「んで、俺の隠蔽は頼んだぞ。あんな奴等に一気に襲われたら、どうしようもないからな。ドルフさんよ」
「――……ああ、分かってるさ」
木々の上から放たれた閃光の先には、魔銃を構えた特級傭兵スネイクがいる。
更にその周囲を闇属性の影魔法で覆いながら姿や気配を隠す元特級傭兵ドルフによって、二人は位置を変えながら『神兵』達を強襲し続けた。
『青』はそんな彼等を大規模な魔法攻撃で援護し、『神兵』達の注意を引き続ける。
こうして到着した者達によって『神兵』の猛攻を一時的に押し退ける事に成功したエリクとマギルスは、追い詰められる事を辛うじて防げた。
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