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革命編 七章:黒を継ぎし者
導かれし者達
しおりを挟む下界を滅ぼさんとしている天界に到着した者達は、それぞれに事態に対応しようと各々が動きを見せる。
そうした中で原因となっているマナの大樹内部において、互いに循環機構の制御権を掌握できなくなっていたウォーリスとアリアはそれでも対応を試みていた。
互いの周囲に投影され展開されている映像と操作盤を用いて、精神体の二人が扱う光景が確認される。
それは奇しくも、敵対していたアリアとウォーリスが協力して事態を止めようとしていることを現してもいた。
「――……主動力炉へ流れ込んでるエネルギーを切断できない! そっちで切れないのっ!?」
「こちらも駄目だ。そもそもこの大陸そのものが、魔鋼で出来た巨大なエネルギー体だろう。それを全て止めるのは、不可能だ」
「不可能でもやるのよっ!!」
二人は背中合わせに操作盤を扱い、自分達が居た下界を殲滅する為に集められている膨大なエネルギーが砲塔へ流入しないように努める。
しかし浮遊している大陸全てが魔鋼という膨大なエネルギーを保有している為に、それ等を全て切り離す事は不可能に近い。
それでも抗うように、アリアは映像を確認し操作盤と扱いながら苦々しい面持ちで呟く。
「創造神に反応したくせに、どうして制御権を掌握できないのよ……っ!!」
「恐らくお前が、不完全な創造神だからだ」
「はぁっ!?」
「マナの大樹に侵入したお前の魂を、循環機構は創造神の魂と同じ波長だと自動的に認知した。それによって五百年前に停止させていた創造神の計画が、再び実行されたと言ってもいい」
「なら、私でも……!」
「だが止められていた創造神の計画を止めるには、その時と同じ完全体の創造神でなければ止められないのだろう。……魂と肉体が合わせた、完全な『創造神』が」
「!」
「これを止めるには、創造神の魂だけでは駄目だ。……創造神の肉体と共に、制御権を掌握する必要がある」
ウォーリスは事態を止める為に今現在の状況から本質を掴み、解決策を導き出す。
それを聞いたアリアは更に険しい表情を浮かべながら、操作盤の一つを叩くように手で弾きながら言い放った。
「無理を言うわ……! 今の創造神は自分の憎悪すら制御できずに、暴走してるってのにっ!!」
「お前は、創造神の肉体に取り込ませたアルトリアではないのか?」
「違うわよ! アンタが創造神に入れたのは、本物の私よ!」
「本物……? どういうことだ」
「本物は小さな頃に、自分の魂を分けて短杖に封じていたのよ。そして短杖に分譲されてた魂が、私よ」
「一つの魂を分裂させた……!? ……なるほど。通りで監視していた彼女の能力が、予想以上に弱く思えたわけだ。能力が大幅に裂かれていたのか」
「そういうことよ」
「ならば本物の魂に、分けられたお前の魂が戻れば。創造神の肉体を完全に制御できる可能性は?」
「その場合、私の意識は本物に取り込まれる。そうなれば融合した記憶の混濁によって、本物が正常な意識を保てる可能性は低いわ。……仮に正気を保てたとしても、本物の私が創造神の憎悪を制御できない」
「だが、他に方法が無い。創造神の肉体を制御し、お前が再び循環機構に介入する。その方法でしか、事態は止められないぞ」
目の前に居るアリアと創造神の肉体に存在するアルトリアが別けられた同一の魂だと知ったウォーリスは、自身の知識と知恵を用いてそうした解決策を伝える。
しかしその方法はアリアが本意できる内容ではなく、事態を解決する為の最短の策だと認めながらも実行するのを渋る様子を見せた。
「それは、嫌よっ」
「なに?」
「本物に私を取り込ませるということは、今まで私の方で得た記憶や経験すらも与える事になる。……そうなったら本物は、自分を取り戻せないっ!!」
「自分を、取り戻す……?」
「私と本物は、既に別人も同然なのよ。……そうね、アンタにも視せておくわ」
「!」
自分の記憶を投影し複数ほど映し出したアリアは、ウォーリスに隠していた事を明かす。
それは彼女が知り実際に経験した、別の未来の光景だった。
そこにはウォーリスが知る現在とは異なる、別世界の自分が映し出される。
更に別世界で殺されたアルトリアを死霊術で仲間に引き入れ、共に共謀する光景が見えた事で困惑した面持ちを浮かべた。
「……この記憶は、なんだ……?」
「本来の……いや。別世界のアンタって言えば、分かるかしらね」
「別世界?」
「本来、辿るべきはずだった未来の光景。でも『黒』が未来の時間を遡らせて現在まで戻し、未来の出来事を変えさせたのよ」
「『黒』が、未来を変えただと? ……そうか、そしてその未来を覚えている者達がいたのか。お前のように」
「そうよ」
「あのミネルヴァも、私を悪魔だと知り襲った理由はそれだな。……そしてお前の仲間だった傭兵エリク達も。あの奇妙な魔導人形や船を作ったのも。我々に対抗する為だったのか。……そして、お前がカリーナについて知っていたのも……」
「そういう事よ。アンタは別世界の出来事として、私を仲間に引き入れた。その目的は、子供を出産して死んだリエスティアの肉体に適合できる、死んだ私の魂を得る為だった」
「!」
「生者の魂が、死んだ肉体に結び付くことは無い。だからアンタは帝国の皇族達を殺して、私が殺されるよう帝国勢力を唆した。そして死んでる創造神の死体と魂を使って、月食を待って天界までの通路を築いた」
「……なるほど。別世界の私は……いや、恐らくゲルガルドか。奴はそんな行動をしたのか」
「その間にアンタは、私を死霊術で操られていたフリをさせながら裏工作を頼んだ。アンタの計画を阻める可能性がある『青』と彼が興した魔導国を奪い取り、その地下に存在していた天界の遺跡を掌握させる。そして邪魔になるフォウル国の魔人達や魔族、そして人間大陸の各勢力を殲滅させようとした。そして死者達の魂を回収させ、それを世界を破壊できるエネルギーとして用いる事を望んだ」
「……充満する死者の怨念によって、世界を滅ぼそうとしたのか」
「ええ。……でも結局、その計画は失敗した。天界に向かったアンタ達が討たれて、取り残された私は実行されない計画を待つ破目になった。おかげで十数年間、一人でつまらない生活をさせられたわ」
別の未来で起きた出来事を伝えるアリアの言葉を聞き、ウォーリスは今まで起きていた不測の事態がどういう原因で起きていたのかを悟る。
『黄』の七大聖人ミネルヴァの強襲を始め、自身達の目を掻い潜りながら動く勢力や思わぬ人物達の行動など、ウォーリスはそれ等を数多の不穏因子と認識しながら対応していた。
だからこそ今まで抱いていた疑問が晴れると同時に、それを仕組んだであろう『黒』に対して呆れるような言葉を零す。
「……『黒』が私を止める為に、今までの事を仕組んでいたというわけか。……だとすれば、色々と納得も出来る」
「どうかしら。『黒』がどういう目的で行動しているのか、正直に言って誰も理解なんか出来ないわよ。……それでも、こんな形で世界を破壊される事は望んでいないでしょうけど」
「……そうだろうな。……だが、だからこそ。『黒』はこの状況を作りたかったのだろう」
「!」
「皮肉にも、私とお前がこうして向かい合っている状況。それこそが、『黒』が導こうとした未来だとしたら。……本当の意味で創造神の計画を止める為に、我々をこの場に集わせたのかもしれない」
「……そんな、まさか……」
「『黒』ならば、その程度の事はやるだろう。……そしてその可能性が、目の前に存在している」
「!」
そう語りながら告げるウォーリスは、操作盤を使いある映像をアリアの前に投影する。
するとそこには、ある二人の人物が映し出された。
それはマナの大樹から出現した『神兵』と相対する、鬼神の能力を使い姿を変貌させた傭兵エリク。
更にもう一人、地面へ寝かされながら意識を失っている創造神が映し出されていた。
「エリク……! それに、創造神……」
「お前と私が用意した切り札が、この場で二つも揃っている。……それを利用すれば、この事態を止められるかもしれない」
「……何か策があるって言うの?」
「ああ」
「なら、どうする気よ?」
「それは――……」
ウォーリスはこの状況で揃っている手札を使い、創造神の破壊計画を止める為の手段を口にする。
それを聞かされたアリアは驚愕を浮かべながらも、渋い表情を浮かべながら頷く様子を見せた。
こうして共闘し始めたアリアとウォーリスは、創造神の計画を阻む為に新たな動きを見せる。
それは奇しくも、『黒』という存在によって導かれた同じ才能を持つ二人が、初めて手を取り合った為に叶えた光景でもあった。
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