上 下
1,028 / 1,360
革命編 六章:創造神の権能

留まれぬ意識

しおりを挟む

 『天界エデン』に聳え立つ巨大な神殿の最奥おくに辿り着いたアルトリアとウォーリスは、その内部に広大な大自然が広がる光景を目にする。
 その大自然の中に更に巨大な大樹が存在し、それが自分達の箱庭せかいで消失した『マナの樹』である事を告げた。

 しかし初めて見る光景にも関わらず、『マナの樹』を始めとした光景にアルトリアは今までと比較できない郷愁を感じ取る。
 その感覚を否定するように首を左右に振ったアルトリアは、止めていた足を動かしながら歩き始めた。

 一方で『マナの樹』が現存する事実に嬉々とした表情を浮かべていたウォーリスも、その後ろに付くように足を進める。
 創造神オリジンの魂を持つアルトリアに再び案内させようと目論むウォーリスは、周囲の変化や異常な状況に備えて観察を始めた。
 
 互いに言葉こそ交えず、ウォーリスからも行く先に関して命令は無い。
 その理由は、互いに別々の思考から同じ場所を目指すべきを見定めていたからだった。

 僅かに伸びた草原地帯を歩くアルトリアは、外と同じ白い魔鋼マナメタルで築かれた遺跡らしき建築物オブジェクトを視認する。
 その脇に存在する広めの通路みちを発見すると、何も言わずにその場所に向かった。

 アルトリアは一言として何も喋らず、ただ周囲を見渡しながら困惑した表情を強め続けている。
 動きこそ呪印で制限された状況の為に機敏とは言えなかったが、まるで見知った場所を通るような淀みの無い歩き方は、ウォーリスに更なる確信を与えていた。

「やはり彼女アルトリアは、ここの構造を把握している。……問題は、ここにも何かしらの仕掛けが施されている可能性だが……」

「……」

「もし、その仕掛けを利用して私の排除を目論むようなら……。……場合によっては、先に始末も考えなければな」

 創造神オリジンの魂と持ち前世の記憶すらも蘇ろうとしているアルトリアに対して、ウォーリスは強い警戒心を抱き始めている。

 呪印を施され魔法を扱えなくなっているアルトリア自体の脅威は、ほとんど無いに等しい。
 しかし創造神オリジンの記憶から権能《ちから》の使い方を思い出してしまえば、自身ウォーリスとの立場は逆転してしまう事もある。

 それを予期できるウォーリスは、殊更に肉体リエスティアとアルトリアを再び接触させないように状況を窺う。
 しかしアルトリア側はそんなウォーリスの様子など気にする素振りは無く、ただ動揺する表情を抑えて歩きながら周囲の光景を瞳で追っていた。

「……私は、ここを歩いた事がある……。……違う、私はここに来たのは初めてで……っ」

 感覚的な郷愁によって周囲の景色に関して既視感を強めるアルトリアだったが、それを否定する為に自らの記憶を遡りながら自身の感覚を否定する。
 しかしその否定も虚しく、アルトリアの足は自然とこの先に辿り着くまでの順路ルートを歩んでいた。

 そうして二人は整えられた順路ルートを歩き、巨大な『マナの樹』が存在する方角へ歩みを進める。
 すると数十分以上が経過した時点で、ウォーリスは周囲に見える自然に関して、大きな不自然さがある事に気付いた。

「……どういうことだ。これだけの自然が残っているにも関わらず、動物の鳴き声も……姿も見当たらない……。……いや、虫すらもいないのか……?」

 植物が多く群生している森の中にも関わらず、植物以外の生命が存在していない事にウォーリスは気付く。

 自然の植物を育てる為には、土や水、そして太陽の光以外にも様々な要素が必要となる。
 それが他の生命であり、動物や虫も巨大な自然を作り出す為には必要な存在だった。

 しかし『マナの樹』を中心とした神殿内部の巨大な森林には、動物や昆虫が一切存在していない。
 それが不自然である事に気付いたウォーリスの言葉に対して、アルトリアは前を歩きながら虚ろな声を向けた。

「……聖域ここには、私しかいなかった」

「!」

「みんなが暮らして居たのは、神殿ここの外……。……私は、ここで皆の暮らしを見ていた……」

「……これは……」

「ここは、ことわりの中心……。……この自然を育てているのは、この世界に生きる者達……。……そして、死んだ者達……」

「……やはり、彼女アルトリアの意識ではない。まさか創造神オリジンたましいが干渉し、喋らせているのか?」

「……ッ!!」

 無気力にに喋り聞かせるアルトリアの様子が普通ではない事に気付いたウォーリスは、それが創造神オリジンの意識が干渉している可能性に至る。
 しかしその途中、意識を戻すように光が灯る青い瞳に戻ったアルトリアは、右手で右顔半分を覆いながら苦々しい声を漏らした。

「何なのよ……これ……っ!!」

創造神オリジンの魂が活性化し、肉体アルトリアの意識を乗っ取ろうとしているのか……。……だとすれば……」

 徐々に創造神オリジンの魂がアルトリアへの干渉を強くしている事に気付いたウォーリスは、その思考にある可能性を浮かび上がらせる。
 それはウォーリスが考える最悪の場合ケースであり、アルトリアの反抗する事など比較できない事態だった。

 ウォーリスは鋭い視線と厳しい表情を見せ、左腕に抱えたリエスティアの身体をその場に置く。
 それに気付いたアルトリアは、困惑した表情を浮かべたまま後ろを振り向いた。

「……?」

「アルトリア嬢。ここまでの案内、御苦労だったな」

「っ!!」

「今の君は、どうやら私が考え得る最悪の状況にあるらしい。……それは出来る限り、避けておきたいのでね」

「私を、殺す気……!?」

「肉体だけ、だがね。例え創造神オリジンだろうと、肉体と切り離され魂だけとなってしまえば、流石に干渉はできまい」

「……ッ!!」

 一切の躊躇を見せないウォーリスは、右手でアルトリアの胸部を突き狙う。
 呪印の拘束と衰弱した肉体ではウォーリスの攻撃を避けられるはずもなく、成す術も無いままアルトリアは胸を貫かれた。

 それと同時に貫いた胸部から右手を引き抜きながら、アルトリアの心臓を切除するように抜き取る。
 強張らせた表情のアルトリアは、青い瞳には自身の心臓を映し見ながら膝を傾けて地面に着けた。

「……ぁ……っ」

「短い間だったが、これで御別れだ」

「……」

 アルトリアは上体を傾けながら地面へ横たわると、胸から溢れ出る血と共に瞳の生気を薄れさせる。
 それを見下ろすウォーリスは、抜き取った心臓を生命力オーラで纏わせながら、その内部に捕獲した創造神オリジンの魂を封じた。

「魂は劣化していくが、心臓これに留めるだけでも『鍵』としては十分に保てるだろう。……さぁ、行くぞウォーリス。我が息子よ」

 そう呟きながらその場に置いていたリエスティアを左腕で抱え直すウォーリスは、アルトリアの死体を置いてそのまま歩き出す。
 心臓と共に魂を抜き取られたアルトリアの肉体に刻まれていた呪印が消え、流血と共にその温もりを失い始めた。

 その後、ウォーリスの背後にはアルトリアの死体は見えなくなり、今まで緩やかだった歩行速度が急激に速まる。
 右手には抜き取ったアルトリアの心臓たましいを持ち、左腕にはリエスティアの肉体を抱えるウォーリスは、『マナの樹』に向けて余裕の表情を浮かべて走り始めた。

 こうして創造神オリジンの魂を抜き取られた肉体アルトリアは放置され、ウォーリスは権能ちからを得る為に『マナの樹』を目指す。
 そんな状況が内部なかで起きていると分からない神殿の外部そとでは、各々の勢力が激闘を繰り広げられていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

スキル【ズル】は貴族に相応しくないと家を追い出されました~もう貴族じゃないので自重しません。使い放題だ!~

榊与一
ファンタジー
「お前はジョビジョバ家の恥だ!出て行け!」 シビック・ジョビジョバは18歳の時両親を失い。 家督を継いだ兄によって追放されてしまう。 その理由は――【ズル】という、貴族にあるまじき卑劣なユニークスキルを有していたためだ。 「まあしょうがない。けど、これでスキルは遠慮なく使えるって前向きに考えよう」 それまでスキルを使う事を我慢していたシビックだが、家を追放されたため制限する必要がなくなる。 そしてその強力な効果で、彼は気ままに冒険者となって成り上がっていく。 この物語は、スキル使用を解放した主人公が無双する物語である。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

処理中です...