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革命編 六章:創造神の権能
冷徹な義眼
しおりを挟む『天界』に存在する白い神殿の最奥を目指すウォーリスは、創造神の魂を持つアルトリアを先導させながら施設の概要を把握していく。
その後背を守るように黒い塔で留守を任された側近アルフレッドは、自身の眼で『天界』に侵入した箱舟の存在に気付いた。
そして黒い塔の攻撃機能を使い、箱舟を撃墜しようと魔力砲撃を放つ。
一方で箱舟を操るテクラノスは『青』の指示によって光学迷彩を解き、魔力噴射機構で加速させながら白い神殿の在る浮かんだ大陸を目指した。
その加速力は黒い塔の魔力砲撃を掻い潜りながらも、船内に凄まじい圧力を加える。
圧力に耐える箱舟の一行に対して、アルフレッド側は迎撃を行うと同時に別の作業も行っていた。
「――……【魔王】はこちらの機構に、どこまで侵入していた……。……こちらの投影に、箱舟だけが映っていない。……それに……!」
アルフレッドは内部の映像に表示されない箱舟と、実際に自身の瞳に移る箱舟の違いに表情を強張らせる。
更に放っている魔力砲撃の軌道を読まれているかのように移動する箱舟の動きと、攻撃を逸らしている結界の角度や強度を確認し、更に訝し気な思考を強めた。
「こちらの機構を奪われてこそいないが、こちらの動作が完全に把握されていると判断するしかない……。……クソッ、相手の侵食を妨害するのは無理か……!!」
箱舟の動きから自分達の機構が盗み見られている事を察しながらも、その要素を発見し排除する時間が掛かる事をアルフレッドは把握する。
そして凄まじい加速を見せながら大陸側に近付く箱舟は大きく迂回し、アルフレッドの居る黒い塔から離れた別の場所を目指していた。
このままでは箱舟を逃すと判断したアルフレッドは、苦々しい表情を浮かべる。
しかし次の瞬間、それを覚悟に変えながら操作盤を扱う両手を離すように引っ込めた。
「……仕方ない」
そう短く呟いたアルフレッドは、自身の右手を項に回す。
すると項部分の肌に亀裂が生じた後、その部分が開かれるように小さな穴を出現させた。
そこから接続器を備えた長い配線を右手で引き出すと、それを傍に設置されている黒い石造に歩み寄りながら接触させようとする。
すると石造側にも差込口が開かれるように現れ、そこにアルフレッドは自身から伸びる接続器を差し込んだ。
そうした後、アルフレッドは瞼を閉じながらまるで眠るような表情を見せる。
しかしその直後、箱舟の艦橋に居るテクラノスが異変に気付きながら『青』に伝えた。
「――……これは……! 師父よっ!!」
「どうしたっ!?」
「敵の機構が把握できなくなった! ……いや、しかし……まさかっ!?」
「!」
「マズい! 逆にこちらの侵入経路から、逆に侵入して来ているっ!!」
「!?」
テクラノスが箱舟の機構に及んでいる影響に気付き、敵が逆に侵入して来ている事を明かす。
それに驚愕した『青』は自身に掛かる加速の圧力を薄く張った結界で軽減し、操縦席に近付きながら指示を飛ばした。
「こちらの機構を切り、自動操縦を手動操縦に切り替えろっ!!」
「しかし、機構を切れば魔導人形が……! それに、操縦は――……」
「我がやる! こちらの機構を掌握されるなっ!!」
二人はそうした声を上げると、テクラノスは箱舟を制御している機構を切断する。
それと同時に箱舟の機能を管制していた魔導人形達が停止し、それと同時に魔力噴射による加速も停止した。
それでも今まで加速していた速度が一気に低下してはおらず、そのまま箱舟は空に浮かぶ大陸の一端へ向かう。
更に『青』が操縦席に居る魔導人形を退かした後、その席に座りながら操縦桿を自ら握った。
しかし次の瞬間、箱舟側に生じた僅かな隙を突くように、黒い塔から複数の魔力砲撃が放たれる。
箱舟のあらゆる機能を管制していた魔導人形が停止した為に、それを防ぐ結界も回避できる軌道も間に合わなかった。
「ッ!!」
『青』は操縦桿を大きく捻りながら回し、加速している箱舟の船体を大きく回転させる。
それによって船内は大きく揺れながら中に居る者達を宙に浮かせると、『青』は通信器を用いて一言だけ発した。
『衝撃に備えろっ!!』
「!?」
「なにっ!? ――……グ、ァアッ!!」
各区画に備えられた通信器から『青』の警告が響き、そこに居る者達を驚愕させる。
しかも次の瞬間、箱舟の船体は今まで以上の衝撃を起こしながら大きく傾いた。
その衝撃は、箱舟に直撃した二つの魔力砲撃に因る被弾。
船体が回転し上を向いた左翼側と、後部の噴射機構に魔力砲撃を浴びた箱舟は、そのまま傾きながら白い神殿から大きく逸れた位置へ飛び続けた。
「グゥ……ッ!!」
「師父よ!」
「分かっている!」
手動操縦する『青』と急ぎ機構を復旧させようとするテクラノスは、互いに声を上げる。
そして互いの意思を汲むように、『青』は通信器を用いて箱舟に居る者達に伝えた。
『――……この箱舟は、もうすぐ不時着する!』
「!」
『瓦礫や貨物に押し潰されぬ位置で、待機しておけ!』
「えぇっ!?」
『不時着までの秒読みを行うぞ! ――……十……九……八……――』
そう言いながら通信器で秒読みを行う『青』に、それぞれの者達が再び不時着の衝撃に備える。
エリクやマギルスも貨物室から移動した通路側へ避難し、そこで踏み止まった。
そして『青』の秒読みが終わると同時に、再び強い衝撃が箱舟を襲う。
『……三……二……一……ッ!!』
「うわっ!!」
「クッ!!」
大きく揺れ動く箱舟は、辛うじて船底の底を白い地面に擦らせながら着地する。
加速した速度は最初より緩やかになっていたが、滑るように擦れて火花を散らす地面への着陸は異様な揺れを船体に起こさせた。
それから徐々に揺れが治まり、擦れるように響く音も薄くなっていく。
それを確認した船内に居る全員が、再び届くだろう『青』の声に耳を傾けた。
『――……無事とは言い難いが、着地は成功させた』
「……はぁ……」
「焦ったぁ、着く前に落とされるかと思った」
『この角度ならば、敵はこちらの位置を視認できていないはずだ。だが、予測はしている可能性がある』
「!」
『貨物室の扉を開ける。全員、急いで箱舟から降りてくれ』
「……行くか。マギルス」
「うん!」
『青』の言葉に従うエリクとマギルスは、再び貨物室に戻りながら大扉の方へ向かう。
貨物室で固定されている魔導人形はあの振動でも最初の位置から動いてはいなかったが、他の貨物や備品は揺れの影響で散乱しており、それを飛び越え進む二人は大扉の前で待機した。
すると『青』の言葉通り、大扉が徐々に開かれ始める。
それと同時に後ろから近付く足音達に気付いたエリクは、振り返りながら声を向けられた。
「――……エリク! マギルス!」
「ケイル、無事か?」
「ああ。他の人等もな」
「そうか。――……ここが……」
「……天界ってやつなんだな……」
「うわー、真っ白な世界だぁ!」
散乱した貨物を飛び越えて来たケイルを確認したエリクは、再び大扉へ視線を戻す。
そして三人は開け放たれた大扉の先に広がる、白く染まったような大地を直に見ることになった。
一方で、箱舟を撃墜した黒い塔は魔力砲撃を止める。
そして内部に佇むアルフレッドは自身の項から伸びる接続器を差込口に取り付けたまま、瞼を開けずに呟いた。
「――……破壊は出来なかったが、あの損傷では飛ぶ事は出来ないだろう。そして奴等の機構も、復旧に相当な時間を要するはず。そして――……」
そうした言葉を呟いた後、黒い塔の全体に変化が及ぶ。
魔鋼に覆われた表面が次々と形状を成し始め、顔の無い人型の姿を模り始めたのだ。
それ等が数多に及ぶように作り出され、数百を超えるだろう魔鋼の人形が外で生み出される。
するとアルフレッドは唇を微笑みに変え、瞼を開きながら横線が引かれた赤い義眼を明かした。
「……ウォーリス様の邪魔をする者は、私が排除する。――……行け、人形達よ」
『――……!!』
アルフレットが呟く命令に応じるように、魔鋼から生み出された人形達が次々と動き始める。
そして箱舟が不時着した方角を目指し、黒い人形達はその手を刃に変えながら走り迫っていた。
こうして敵の側近アルフレッドに迎撃を受けた箱舟は、不時着しながらも白い大地へと辿り着く。
そこは異様な白さで覆われた大地をエリク達は眺めながらも、それを観賞をさせる暇も与えずにウォーリスの側近アルフレッドの脅威が迫ろうとしていた。
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