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革命編 五章:決戦の大地
箱庭の扉
しおりを挟む浮遊する同盟都市の中央に位置する、巨大な黒い塔。
そこに鎮座しながら魔鋼の遺跡を操作していた側近アルフレッドに代わり、その主たるウォーリスがある強硬策を実行した。
それは大部分の遺跡を放棄し、魔鋼の爆発を用いて遺跡内部と地上の大陸にいる厄介者達を全て始末すること。
淀みの無い意志によってそれを実行したウォーリスは、跡形も無くガルミッシュ帝国とオラクル共和王国の在った大陸を跡形も無く消し飛ばした。
黒い塔の施設内部に備えられた画面越しにその光景を確認したウォーリスは、最後の仕上げを行い始める。
『創造神』の権能を目的とする彼等は、自らの野心を突き進むように歩み続けていた。
一方その頃、重い瞼を開きながら目覚めを迎える者がいる。
それは呪印を施され衰弱していたアルトリアであり、青い瞳を開きながら虚ろな表情を見せていた。
「――……ぅ……っ」
瞼を開けたアルトリアは、意識を朦朧とさせながら周囲を見渡す。
しかしその場所は現実ではなく、再び暗い水の中に浮かびながら何も見えない暗闇の中に閉ざされている、少し前に見た夢と同じ光景だった。
「……また、夢……」
アルトリアは視線を泳がせながらそう呟き、再び自分が『夢』を見ていると自覚する。
そして底も見えない暗く淀んだ水に立ち、以前よりも精神を深く包みながら暗闇が映る水面に対して声を向けた。
「……今度は何よ……。……また、アンタなの?」
『――……おかえり。アルトリア』
「!」
暗闇しか映さぬ水面に問い掛けるアルトリアは、そこに変化が及ぶのに気付く。
すると水面の暗闇に更なる濃い影が浮かび上がり、そこに現れる二つの赤い瞳の持ち主がアルトリアを迎えるように声を向けた。
それに対してアルトリアは、訝し気な視線と苛立ちの込めた声で怒鳴りを向ける。
「何がおかえりよ。第一、アンタにそんなこと言われる義理は無いわ」
『……貴方はまだ、気付いていないんだね』
「え?」
『そう、気付かれたくないんだね。……分かった、私は何も言わないよ』
「……またワケが分からない事を言ってる……。……アンタはいったい何なのよ、誰なの?」
向けられる言葉が別の人物に話し掛けているように聞こえるアルトリアは、更に苛立ちを込めた声でそう問い掛ける。
それに対して水面に映し出される赤い瞳の人物は、今度は目の前に居るアルトリアの声に応えた。
『私は貴方。貴方は私』
「ふざけないで。私は私、アンタなんかじゃないわ」
『私と貴方は、別ち難い存在。それは貴方も理解しているはず』
「知らないわよ、そんなの。自分の存在を理解してほしかったら、他人の理解力なんか当てにしないことね」
突き放すようにそう言葉を向けるアルトリアに対して、赤い瞳の人物は押し黙るように声を発しなくなる。
しかし十数秒の沈黙が互いの中で生まれた後、その人物はそう言い返した。
『――……創造神』
「!」
『皆は私を、そう呼んでいる』
「アンタが、創造神……。……じゃあ、あの男が言っていた事は……当たってたってわけね」
『……』
「……よりにもよって、なんで私が……創造神なんかの生まれ変わりなのよ……」
アルトリアは苦悩した表情を浮かべながら瞼を閉じ、両手で頭を抱えながら首を横に振る。
自分が創造神の生まれ変わりではないと信じたかったアルトリアにとって、それは現状では最悪の情報と言っても過言ではない。
だからアルトリアの心情は更に荒立ち、水面に沈む精神を激しく動かしながら右拳を振るって創造神の映る水面を叩き怒鳴る。
「あの男が言っていた事が、全て合ってるって……そういうことっ!?」
『……』
「私が、子供の頃から異常な能力を持っていたのも。誰も考え至れないような、変な事ばかり思い付くのも。……全部、創造神のせい?」
『……』
「アイツ等に狙わてるのも……。……私が別の未来で、あんな事をしたのも……。……全部、創造神のせいにしていいの?」
『……』
「……答えなさいよっ!!」
怒鳴るアルトリアの声に、創造神は何も答えない。
しかしそれとは全く異なる答えを、創造神は言葉として返した。
『……私はずっと、貴方を通して世界を見て来た』
「!」
『この世界が、どんな姿になったのか。そして、どんな人達が生きているのか。……ずっと、貴方と一緒に見て来た』
「……ッ」
『そして貴方は、何度も望んだ。……色んなモノの滅びを、貴方は願った』
「……全部、私のせいだって言いたいワケ……!?」
『私はただ、貴方の中から見ていただけ。……全ては、貴方の選んだ結果。ただ、それだけ』
「ッ!!」
創造神の言葉は今までの問い掛けを全て否定するような返答となり、表情を強張らせたアルトリアは激昂を浮かべる。
そして赤い瞳が映る水面に右拳と左拳を叩きつけながら、創造神に対して今までの怒りを全て向け放った。
「ふざけんじゃないわよっ!!」
『……貴方はさっき、自分で言った。貴方は貴方だと』
「!!」
『貴方が使えた能力や知識は、確かに魂の影響を受けているかもしれない。……でも貴方がそれ等を利用してきたのは、貴方の意思』
「……ッ!!」
『貴方はそうやって、私や自分から目を逸らし続けて来た。……だから私と同じように、滅びばかりを願うようになった』
「……」
『貴方は私、私は貴方。……例え生まれ変わっても、この絶望に飲まれ続ける存在。それが私達なの』
「……!!」
そう告げる創造神の言葉によって、アルトリアは初めて自分の精神が浸かっている水の正体に気付く。
今の場所がただ暗闇に沈む水面ではなく、言わばアルトリアの『絶望』そのモノ。
自らが生み出し続けた負の感情がア精神を浸らせ、既に胸部分まで覆い尽くす程の高さまで迫っている光景がアルトリアに及んでいた。
それを自覚したアルトリアは、初めて自分の精神を覆う『絶望』に悪寒を走らせる。
更に『絶望』に沈みながら赤い瞳を向ける創造神は、寂し気な声を向けながらアルトリアに問い掛けた。
『この絶望に覆われた時、貴方は創造神になる』
「!?」
『そしてまた、貴方は望む。……世界の滅びを』
「……私は、そんな事を望んでなんか……っ!!」
『今の貴方は、自分の絶望には抗えない。――……でも、彼等なら……』
「え……?」
『あの時と同じように、貴方にも彼等が居るのなら……。……貴方が繋いだ光が、きっと絶望を照らしてくれる』
「……何を言って……またっ!?」
創造神の言葉にアルトリアが困惑を浮かべると、前と同じように水面が白い光で輝き始める。
その極光に飲まれたアルトリアの意識は、再び現実へと引き戻された。
そして再び現実に意識を戻したアルトリアは、重い瞼を開けながら充血した青い瞳を晒す。
それに気付くように、アルトリアの前から聞き覚えのある男の声が響き伝わった。
「――……御目覚めのようだね、創造神の魂よ」
「……ウォーリス……ッ」
現実で目覚めたアルトリアが再び目にしたのは、不敵な笑みを見せるウォーリスの姿。
その傍には側近アルフレッドと悪魔騎士ザルツヘルムも控えており、それぞれがアルトリアに視線を向けながらその目覚めを出迎えた。
アルトリアにとって最悪の目覚めは、思わず視線を逸らさせながら別の光景を見ようとする。
しかし両腕と両足は動かず、自分が手足を拘束具で固定されながら立たせられている事にアルトリアは気付いた。
「……コレは……」
「淑女には失礼だが、しばらく我慢してくれたまえ。事が終われば、拘束具は外してあげよう」
「……何を、する気よ……。……ここは、どこ……っ!?」
拘束され身動きが取れないアルトリアは、背後の黒い石造に張り付けにされる事を察する。
そして周囲を見渡すと、拘束されていたはずの牢屋から移動させられ、白く巨大な空間に居ることを苦々しい面持ちで声を発した。
それを聞いたウォーリスは、素直にも微笑みを向けながら答える。
「何処でも構わないだろう。我々や君に必要なのは、これから行くべき場所なのだから」
「……行くべき、場所……?」
「聞いた事はあるかね? 『創造神』を始めとした最初の到達者達が住んでいた場所。『天界』だ」
「!!」
「これから君達を使い、『天界』の扉を開く。君達はまさに、『鍵』というわけだ」
「……鍵……。……私達……。……っ!! ……リエスティアは、どこ……っ!?」
「君の後ろだよ」
「!?」
ウォーリスの言葉を聞いたアルトリアは、朦朧とさせていた意識を徐々に覚醒させながら前後の事情を思い出す。
すると言葉の端に見えたリエスティアの事を思い出して問い掛けると、ウォーリスはそう述べた。
アルトリアはそれを聞き、改めて自分とリエスティアがどのような姿勢にあるかに気付く。
拘束され張り付けられ立たされている同じ黒い石造を背中合わせとして、自分とリエスティアが立たされている光景だったのだ。
それに気付いたアルトリアは意識と声を裏側のリエスティアに向け、弱った声ながらも必死に呼び掛ける。
「リエスティア、無事なの……!?」
「……」
「返事、しなさいよ……! ――……まさか……っ!?」
呼び掛けたアルトリアの声に対して、リエスティアは応えない。
自分と同じように気絶していた可能性を考えたアルトリアだったが、その思考は視界に過るウォーリスの姿で違うことを察した。
それに気付いたウォーリスは、影のある微笑みを向けながらアルトリアの疑問に答える。
「既にその器に、不要な精神は宿っていない」
「……アンタ……ッ!!」
「そんな事よりも、君には素晴らしい光景を見せてもらおう。――……『天界』の扉が開く、美しい光景をね」
「……!」
既にリエスティアの魂と人格が肉体から消失している事を知り、アルトリアは激昂を浮かべながら負の感情を募らせる。
それを気にする様子の無いウォーリスは、綺麗に整えられた黒い礼服を身に着けた両腕を広げ、天を仰ぐように向けた。
すると次の瞬間、天井と壁が青に染まる空の景色へと変わる。
更に太陽の光と月の影が交わろうとしている光景が映し出され、アルトリアはそれを見上げながら目を見開いた。
「……日食……!」
「この世界は、創造神の作った箱庭だ」
「!」
「空に映し出されているのは、本物の太陽と月ではない。ましてや実態を持つ天体でも無い。……本物を装った、偽物の景色だ」
「……!?」
「しかし、日食によって生み出される太陽と月の間に生じる空間。そこが入り口となって、天界へ通じる扉が形成される。――……その鍵となるのが、創造神でもある」
「……アンタ……ッ!!」
「さぁ、もうすぐ箱庭の扉が開かれる。――……我々を導いてくれ。創造神よ」
そう微笑みを強めるウォーリスは、左側に投影された操作盤を使用する。
するとアルトリアとリエスティアを張り付けていた黒い石造に変化が起き、二人の身体が石造の中に沈み込み始めた。
沈み込んだ石造の中で、二人の身体が背中合わせに接触する。
それと同時に太陽と月が重なり日食を起こし始めた瞬間、二人の肉体が淡い黄金色の光を放ち始めた。
「……ッ!!」
「やはり、私の考えは正しかった。――……さぁ、創造神よ! 世界の扉を開けッ!!」
身体を輝かせる二人に対して、ウォーリスは嬉々とした様子を見せながら太陽と月の重なりを見上げる。
そして二人の輝きに反応するように、日食に連動して暗くなるはずの青い空が突如として黄金色に染まり始めた。
すると空の色合いだけではなく、その景色が全て変わっていく。
それから映し出されたのは、巨大な歯車によって形成された異質な空の光景だった。
こうして創造神の『魂』と『器』が接触し、日食を起こす空に大きな変化が及ぶ。
それはウォーリスが語る通り、創造神を鍵として『天界』の扉が開かれる前兆だった。
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