上 下
931 / 1,360
革命編 五章:決戦の大地

不要な存在

しおりを挟む

 夢とも思える深淵の底にて、赤い瞳を持つ何者かと対峙したアルトリアは謎の言葉を向ける。
 それから現実で目覚めた後、その傍にはウォーリスが見下ろす形でうつ伏せになっているアルトリアに余裕の笑みを浮かべていた。

 目覚めたアルトリアは朦朧とした意識の中で、起き上がろうと身体を動かす。
 しかし思うように重くかるような虚脱感で身体が動かず、指や首を少しでも動かすのに苦労しながら呟いた。

「……こ、れは……っ」

呪印じゅいん、と言えば分かるだろう。呪印それを君の肉体に施している。衰えた生命力を一定値まで奪い続ける、呪いの鎖だ」

「……ッ」

呪印それが施されている限り、魔力を使った魔法も、衰えた生命力では自爆術式を起動させる事は出来ない。そして身体を自由に動かす事も出来ないだろう。自殺するのも困難ではないかな?」

「ク……ッ!!」

 見下しながら笑いを含む声で自身アルトリアに及んでいる状況を話すウォーリスに、アルトリアは声が聞こえる方向へ首を動かしながら両目を鋭く睨ませる。
 そうした様子を見るウォーリスは、微笑みを引かせながら呆れるような言葉を漏らした。

「まだ反抗できる気力だけは、残っているらしい。……いっそ手足を切り取り、喋れぬように舌を引っこ抜いて、目や喉も潰してしまうか?」

「……ッ!!」

「私が欲しいのは、『創造神きみの魂』だけだ。魂さえ消失しないのであれば、その肉体がどうなろうと知った事では無い」

 ウォーリスはそう述べながら声色を冷たくさせ、その言葉が本気である雰囲気を感じさせる。
 それを聞いたアルトリアは僅かに視線を逸らした後、再び微笑みの声でウォーリスは話し始めた。

「自分の立場を理解したまえ。例え万全であっても、君は私に及ばない。……あのエリクのようにな」

「……エリク……」

「そう、君を救う為に現れたであろう、あの忌々しい鬼神の魂を持つ男。期待させるのも申し訳ないので、先に言っておこう。――……奴なら死んだよ」

「な……っ!?」

「そして、君の親族にも死んだ者がいる。誰が死んだと思う? ……皇帝ゴルディオスだ」

「……ッ!!」

「帝都の住民と集まった貴族達は喰われ、その頂点である皇帝まで殺された。……君が望んだ通り、ガルミッシュ帝国は滅んだのだよ。喜びたまえ」

「……グ、ゥ……ッ!!」

 微笑みながらガルミッシュ帝国の終焉を伝えるウォーリスの声に、アルトリアは心の底から湧き上がる怒気を声から漏らす。
 その様子を見下ろすウォーリスは、続ける言葉としてこのような事を言い放った。

「さて。私は次は、何をすべきだと思う? 生き残っているガルミッシュ皇族の殲滅するか、その親国であるルクソード皇国も襲ってみるか。どちらが良いだろうか?」

「……やめ……ッ!!」

「おや、御気に召さないかな? では君は、どうしたら良いと思う? 私で叶えられる事であれば、望み通りにしてあげよう。滅びしか望めない、『創造神オリジンの魂』よ」

「……だったら、アンタが死になさいよ……!!」

「ふむ、いいだろう」

「!?」

 ウォーリスの言葉を聞いていたアルトリアは、憎々しい声でそう伝える。
 それに応じるような返答を見せたウォーリスは、自らの右手に力を込めながら自分の胸を貫いた。

 それによって飛び散る血飛沫がアルトリアの頬にも届き、床に滴りながら生み出される血溜まりを見せる。
 思わぬ行動に驚愕したアルトリアだったが、それでも貫いた右手を胸から離したウォーリスは平然とした様子で話し掛けて来た。

「さぁ、死んであげたよ。一回ね」

「……アンタ……ッ」

「残念ながら、私はもう心臓むねを抉られた程度で死なない。例え頭を吹き飛ばされても、この通り瞬く間に修復されてしまう」

「……!」

「人間や魔族、そのどちらでもない中途半端な魔人が持つような、半端な治癒や再生能力とは違う。到達者とは、まさに『終わりをの無い存在エンドレス』なのだよ。……仮に到達者わたしを殺せる者がいるとしたら、それは同じ到達者エンドレスだけだ」

 飛び散った血は蒸発するように消失し、貫いた心臓と胸が一秒も経たずに修復するウォーリスは、改めて自分が到達者エンドレスである事を伝える。
 そして到達者いまのウォーリスが殺せる存在ではない事を改めて察するアルトリアは、怒りの宿る声で言葉を発した。

「……私の魂が欲しいなら、勝手に抜き取ればいいでしょ……っ!!」

「そうしたいのは山々なんだがね。今それをやると、呪印を施した肉体から君の魂が解放されてしまう。それでは魂を抜き取った瞬間、君は魂だけで自爆を試みる可能性は否めない」

「……ッ」

「やっと得られた『箱庭せかい』の鍵なのだ。肉体と同様に、今度は慎重かつ丁寧に扱うつもりだ。時が来るまでね」

「……時……?」

 嬉々とした声でそう話すウォーリスに、アルトリアは疑問に思う言葉を呟く。
 それを聞いているウォーリスは、高揚した気持ちのままアルトリアに教えた。

「五百年ほど前、魂と肉体が戻った『創造神オリジン』はこの世界を破壊しようとした。……だがその出来事が起こる前には、『創造神オリジン』は既に復活していたそうだ」

「!?」

「その時期に、世界は創造神オリジンが送り出したとされる神兵達に襲われている。それだけでも十分な脅威だったのだが、世界を破壊し尽くすには少々物足りない。何より、当時まだ健在だった到達者エンドレス達がいれば神兵は討伐できてしまう」

「……」

「それならば、創造神オリジン権能ちからを使い早々に世界を破壊すればいい。なのにそうしなかったのが、私には疑問だった。……故にその時の情報を集めて、世界の崩壊が起きた時期に奇妙な事が起きていないか確認した……。そうしたら、ある現象が起きた後に世界が崩壊しそうになった事が判明した」

「……現象?」

「日食だよ」

「!」

「この箱庭せかいには、ある周期で日食が訪れる。そして創造神オリジンは日食が起きた時に、権能の力を使い世界を崩壊させようとした。……分かるかね? この意味が」

「……日食の時だけ、創造神オリジン権能ちからを使える時間タイミング……」

「私も同じ結論に至ったよ。例えこの世界を創造した『創造神オリジン』と言えど、世界を掌握する為の権能《ちから》には制約があるのかもしれない。その条件の一つが、日食が起きる時。そして、その権能を使える場所も定められており、君達はその扉を開く為の『鍵』なのかもしれない」

「……まさか、このタイミングでアンタ達が襲って来たのは……」

「そう、もうすぐ日食が訪れる。私が『創造神の肉体リエスティア』を得ようとしてから、十七年振りの日食だ」

「……!!」

「君が『創造神の肉体リエスティア』を治してくれたおかげだよ。もう少し遅れれば、また十数年も待つ必要が出来てしまった。……まさに今が、絶好の機会タイミングだ」

「……ッ」

 ウォーリスの言葉を聞くアルトリアは、最悪の状況でリエスティアの状態を改善させてしまった事を察する。
 そうした情報を敢えて教えるウォーリスは、アルトリアに背を向けながら鉄扉のある方まで側へ歩き始めた。

「まだ少し時間の猶予がある。それまで君には、ここでゆっくり過ごしてもらおうか。協力的になってくれるのを期待してね。……例え非協力的でも、私は構わない。必要なのは、鍵となる君の魂だけだ。……逆に、魂など不要な鍵もあるがね」

「……まさか……!」

「今度は自我など芽生えぬように、ちゃんと管理しなくてはいけないな。その方が、鍵の役目として相応しい」

「……止めなさい……っ!! リエスティアは――……」

 そう述べるウォーリスの足音を聞きながら、アルトリアは苦々しい面持ちで怒鳴る。
 しかしその言葉を聞かないまま、ウォーリスは鉄扉を開けて閉める音を室内に響かせた。

 その暗く檻に閉ざされた部屋に一人だけ取り残されたアルトリアは、呪印の影響で動かぬ身体で立ち上がろうと藻搔もがく。
 しかし最初に言われた通り、魔力も扱えず脱力した状態が続く肉体では、独力で脱出するどころか立ち上がる事すらアルトリアには出来なかった。

 こうして囚われたアルトリアは、創造神オリジンの魂として権能を扱う為の鍵となる事をウォーリスに求められる。
 そしてもう一つの鍵である『創造神の肉体リエスティア』に芽生えた自我リエスティアを不要である事をほのめかした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...