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革命編 二章:それぞれの秘密
親子の再会
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父クラウスの墓前に訪れる為に大事ながらも本邸から外出したアルトリアは、都市の人々から思わぬ歓迎の声を向けられる。
しかし迎えられる本人はそれを喜ぶ様子は無く、逆に葛藤を見せながらその声を閉ざすように耳を塞いでいた。
その様子を見ていた老執事バリスは、おそらく記憶が戻っている様子が窺えるアルトリアが自身の記憶と現在の自分との差異に苛まれている事を察する。
そんな二人を乗せた馬車は、クラウスの墓が立てられた都市内の大公園に辿り着いた。
公園周辺を囲むように敷かれている護衛兵達の枠を超え、馬車は単独で公園内部に入る。
そして公園の入り口から少し中央気味の位置で馬車は止まり、アルトリアとバリスは共に馬車から降りた。
その位置から少し遠巻きながらも、アルトリアの青い瞳に目立つモノが映る。
それは黒い大理石によって築かれた、幅十メートルと高さ三メートル程の大きさがある墓石だった。
「――……あれが、御墓?」
「そのようです」
「……じゃあ、ここで少し待ってて。一人で行くわ」
「分かりました。何か異常がありましたら、身振りでも構いませんので御伝えください」
アルトリアの要望に応えるバリスは、そう頼みながら一人行動を許す。
それに無言で頷いた後に歩き始めたアルトリアは、父親の墓がある方向へ歩き始めた。
その時、二人の馬車を扱っていた御者も降りて歩み進むアルトリアを見る。
それに気付いたバリスは振り向き、帽子を深々と被った御者を見て怪訝そうな表情を浮かべた。
「……貴方は?」
「……」
「……!?」
御者は怪訝そうな表情を浮かべるバリスを見て、口元を微笑ませる。
そして深々と被り目線や髪を隠していた帽子を脱ぐと、バリスの前でその素顔を晒した。
それに驚きの様子を見せたバリスだったが、無言のまま数秒後に落ち着いた表情を取り戻す。
そして全てに納得したかのように頷き、アルトリアの方に視線を向けながら素顔を晒した御者に対して話し掛けた。
「……なるほど。確かに貴方と彼女が御会いするのなら、今が最も好機でしょうな」
バリスはそれだけを呟き、御者から数歩ほど離れながら馬車の前に控え立つ。
その反面、御者は再び帽子を深々と被り直し、アルトリアが向かった墓の方に歩み始めた。
一方その頃、アルトリアは父親の墓前に辿り着く。
そして黒く大きな大理石で築かれた墓石に刻まれている文字を、アルトリアは目で追いながら読み上げた。
「『――……ガルミッシュ帝国の英雄クラウス=イスカル=フォン=ローゼン、ここに眠る。』か……」
簡素ながらも大きく刻まれていた墓石の文字を見て、アルトリアは含むような笑みを浮かべる。
自分の父親が生前も死後も英雄として奉られ、こうして公共的な場に墓を築かれながら崇められている状況を思えば、その娘である自分としては笑う以外のどう反応すべきか分からない。
そして実際の墓を見ても不思議と悲しみも沸かない事実を、アルトリアはこの場に赴いた事で確認した。
「……やっぱり私は、クラウス=イスカル=フォン=ローゼンの娘でも、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼンでもないのよ……」
アルトリアはその言葉を口にし、現在の自身と過去の自分が異なる存在だと述べる。
記憶に浮かぶ過去の自分が父クラウスの死を知った時、何日間も悲しみに暮れながら宿に引き籠る出来事があった。
その悲しみは深く悲しいモノであり、様々な感情と思考が入り乱れながら過去の自分が足を止めてしまう程の大事になっていたと記憶が見せている。
しかしこうして父親の墓の前に来た現在の自分は、父親の死に関して何の感情も生み出せない。
ただ記憶で見た父親と称される男が死に、その墓が目の前にあるというだけで、何の感情も沸かず涙すら流す気配も無かった。
そうした部分で過去の自分と現在の自分が全く異なる存在なのだと改めて理解したアルトリアは、嘲笑気味の笑みを浮かべながら墓から顔を背けるように振り返る。
その時になって初めて、自分に近付いて来る馬車の御者に気付いた。
「一人にしてって言ったのに、何やってるのよ……?」
アルトリアは馬車の方に目を向け、そこで佇みながら待つバリスを睨む。
しかしバリスは護衛として御者を止める様子も見せず、ただ自分達の様子を見守るように視線だけを向けていた。
その様子に不可解な表情を浮かべたアルトリアは、改めて近付いて来る御者に顔を向ける。
そこで僅かな警戒を浮かべながら身構えようとした時、御者は口元を微笑ませた後に口を動かし、アルトリアに声を向けた。
「――……記憶を失い篭りがちだと聞いていたが。思ったよりも元気そうだな、アルトリア」
「……!?」
御者は歩みを止めず、深々と被っていた帽子を右手で剥ぎ取る。
すると帽子で隠されていた目と髪が露となり、アルトリアは表情を強張らせながら驚愕した様子を見せた。
目の前に素顔を晒した御者は、アルトリアと同じ金色の髪と青い瞳を持つ四十代前後に見える男。
体格は数年前よりも逞しくなり、彼を最も知る子供達でも顔を隠してしまえば誰なのか判別し難い。
しかし素顔を晒した御者の正体を、自身の中に滞留する記憶からアルトリアは口から漏らした。
「……まさか、クラウス=イスカル=フォン=ローゼン……!?」
「ほぉ、俺の事が分かるか。記憶が戻っているというのは本当らしい。――……そう、私がお前の父親だ。アルトリア」
クラウスは不敵な微笑みを見せながら歩み寄り、アルトリアの前に立つ。
そして亡き者となっているはずの父親と対面する事になったアルトリアは、この状況に動揺を浮かべながらも驚愕を強くした。
しかしクラウスは娘アルトリアから視線を逸らし、自分の墓石を見つめる。
そして嘲笑気味な笑みを浮かべ、自分の墓に刻まれた言葉に対する評価を述べた。
「ふっ、セルジアスらしい。私の死を効果的に魅せるように、英雄扱いしているとは」
「……なんで、生きてるの?」
「死んだはずの人間が生きているのは、そんなに不思議な事か?」
「……つまり死んだという話は、嘘だったってことね」
「なんだ。お前ならばこの程度の嘘、考え察していると思ったのだがな。俺の死が大々的に広まっても、お前は帝国に戻って来なかったのだから」
「……」
「ん? ……記憶が戻っているとは思ったのだが、どうやら完全にでは無いようだな」
アルトリアは父クラウスの問い掛けを受け、表情を渋らせながら顔を逸らす。
それを見たクラウスは、自分の娘の記憶がまだ完全には戻っていない事を瞬時に悟った。
それを図星として突かれたアルトリアは、僅かに歯を食い縛らせながら言葉を吐き出す。
「……それで、死んだ人間が何の用なのよ?」
「なに。死後でも、子供の顔は見たいと思うのが親の心だ」
「私の事を化物としか思ってないくせに?」
「……」
「子供の頃の記憶は、もう思い出してる。……私の能力を抑え込んで自分の道具にしようとしていた事も、私がアンタを殺そうとした事も、そして制御できないアタシを他人に丸投げした事もね」
「……なるほど。今のお前は、私をそう捉えているのか」
「違うとでも言うつもり?」
「いいや、違わんな。……強いて言えば、もっと酷かっただろう」
「!」
「アルトリア。私はお前の事を、いや……お前の兄セルジアスも含めて、疎ましく思っていた時期がある。それが、お前と衝突した時期だった」
「……!!」
クラウスはそう述べながら斜め様に前へ進み、アルトリアの隣に立ちながら自身の墓石を眺める。
それに警戒する様子を見せながら一歩だけ下がり距離を取ったアルトリアは、再び口を開いたクラウスの言葉を聞いた。
「丁度、お前が生まれた一年後か。……お前の母親であるメディアが、この帝国を去った」
「……」
「俺は自由奔放なメディアを愛していたし、メディアも私を愛していたと思う。だから私は皇族である事や帝国の事など忘れて、メディアと共に世界を旅して回りたかった。……しかし子供が出来た事で、御互いの関係が変わった」
「……!」
「私は皇族の、この国の皇太子として育てられた。それ故に政務で忙しい父君や母君からよりも、その周囲に居る者達によって育てられた。だから自分の子供に対して、一人の父親としてどういう接し方をすればいいか正しく理解できていなかった」
「……」
「あるいは、メディアが共に居続けていれば。私も正しい父親の在り方を出来たのかもしれない。……だがメディアは、お前を生んだ後に帝国から去った。私と、お前達を置いてな」
「……!!」
「帝国で置き去りにされた私は、仕方なくという形でローゼン公爵位を兄上から得て、この領地の民とお前達を養う為に帝国貴族に戻った。……その時の私は、酷く荒れていた」
「……荒れてた?」
「領地を生かす為に各帝国貴族達と関係性を結び、様々な政治的な圧力を受けながら領地経営を忙しくしていた。それ故に子供であるお前達と向き合わず、自分自身と領地の事だけを考えるので手一杯となり、お前達の事を二の次にしてしまっていた」
「……」
「それに、お前達の母メディアに置き去りにされた事が尾を引いていたのだろう。……メディアに去られた原因である子供のお前達を、私は愛するよりも、煩わしく思っていた」
「……母親が去った理由が、私達に……?」
「メディアは、ログウェルが拾った孤児だった。ログウェルは拾い育てる中でメディアの才能を見出し、数多の教えを説き、一流の魔法師として育て上げた。……しかしそうした過去を持つメディアもまた、自分が生んだ子供にどう接するべきなのか、私以上に理解できていなかったのかもしれん。だから私と子供達を置き去りにし、帝国から旅立ってしまった」
「……要するに、無責任な母親だったってわけね」
「お前達にとっては、そうなるのだろう。……だから私は、心の奥底でお前達の事を煩わしく思っていた。お前達が居なければ、私もメディアと共に行けたのに。その思いが強く、子供のお前達に対して強い当たり方をしていた。……年月が経った今だからこそ、自分のしていた行動を理解できる」
クラウスは過去の出来事を話し伝え、自分自身が子供であるセルジアスやアルトリアにどう向かい合っていたのかを伝える。
それは親を慕う子供が聞けば、酷い衝撃を受けるだろう内容かもしれない。
しかし過去の自分に関する記憶を持ちながらも、感情まで引き継がなかったアルトリアは、それを聞いて悲しみなどの感情を持たない。
逆に父親であるクラウスが、幼い頃の自分に対して酷く抑え込むように接しながら激情を向ける理由を理解し、呆れた様子を見せながら溜息を吐くしかなかった。
こうして久方振りの対面を果たした父クラウスと娘アルトリアは、過去に残る蟠りを語り合う。
それは過去と現在の狭間で迷うアルトリアの心情に、一筋の道を示すきっかけとなった。
しかし迎えられる本人はそれを喜ぶ様子は無く、逆に葛藤を見せながらその声を閉ざすように耳を塞いでいた。
その様子を見ていた老執事バリスは、おそらく記憶が戻っている様子が窺えるアルトリアが自身の記憶と現在の自分との差異に苛まれている事を察する。
そんな二人を乗せた馬車は、クラウスの墓が立てられた都市内の大公園に辿り着いた。
公園周辺を囲むように敷かれている護衛兵達の枠を超え、馬車は単独で公園内部に入る。
そして公園の入り口から少し中央気味の位置で馬車は止まり、アルトリアとバリスは共に馬車から降りた。
その位置から少し遠巻きながらも、アルトリアの青い瞳に目立つモノが映る。
それは黒い大理石によって築かれた、幅十メートルと高さ三メートル程の大きさがある墓石だった。
「――……あれが、御墓?」
「そのようです」
「……じゃあ、ここで少し待ってて。一人で行くわ」
「分かりました。何か異常がありましたら、身振りでも構いませんので御伝えください」
アルトリアの要望に応えるバリスは、そう頼みながら一人行動を許す。
それに無言で頷いた後に歩き始めたアルトリアは、父親の墓がある方向へ歩き始めた。
その時、二人の馬車を扱っていた御者も降りて歩み進むアルトリアを見る。
それに気付いたバリスは振り向き、帽子を深々と被った御者を見て怪訝そうな表情を浮かべた。
「……貴方は?」
「……」
「……!?」
御者は怪訝そうな表情を浮かべるバリスを見て、口元を微笑ませる。
そして深々と被り目線や髪を隠していた帽子を脱ぐと、バリスの前でその素顔を晒した。
それに驚きの様子を見せたバリスだったが、無言のまま数秒後に落ち着いた表情を取り戻す。
そして全てに納得したかのように頷き、アルトリアの方に視線を向けながら素顔を晒した御者に対して話し掛けた。
「……なるほど。確かに貴方と彼女が御会いするのなら、今が最も好機でしょうな」
バリスはそれだけを呟き、御者から数歩ほど離れながら馬車の前に控え立つ。
その反面、御者は再び帽子を深々と被り直し、アルトリアが向かった墓の方に歩み始めた。
一方その頃、アルトリアは父親の墓前に辿り着く。
そして黒く大きな大理石で築かれた墓石に刻まれている文字を、アルトリアは目で追いながら読み上げた。
「『――……ガルミッシュ帝国の英雄クラウス=イスカル=フォン=ローゼン、ここに眠る。』か……」
簡素ながらも大きく刻まれていた墓石の文字を見て、アルトリアは含むような笑みを浮かべる。
自分の父親が生前も死後も英雄として奉られ、こうして公共的な場に墓を築かれながら崇められている状況を思えば、その娘である自分としては笑う以外のどう反応すべきか分からない。
そして実際の墓を見ても不思議と悲しみも沸かない事実を、アルトリアはこの場に赴いた事で確認した。
「……やっぱり私は、クラウス=イスカル=フォン=ローゼンの娘でも、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼンでもないのよ……」
アルトリアはその言葉を口にし、現在の自身と過去の自分が異なる存在だと述べる。
記憶に浮かぶ過去の自分が父クラウスの死を知った時、何日間も悲しみに暮れながら宿に引き籠る出来事があった。
その悲しみは深く悲しいモノであり、様々な感情と思考が入り乱れながら過去の自分が足を止めてしまう程の大事になっていたと記憶が見せている。
しかしこうして父親の墓の前に来た現在の自分は、父親の死に関して何の感情も生み出せない。
ただ記憶で見た父親と称される男が死に、その墓が目の前にあるというだけで、何の感情も沸かず涙すら流す気配も無かった。
そうした部分で過去の自分と現在の自分が全く異なる存在なのだと改めて理解したアルトリアは、嘲笑気味の笑みを浮かべながら墓から顔を背けるように振り返る。
その時になって初めて、自分に近付いて来る馬車の御者に気付いた。
「一人にしてって言ったのに、何やってるのよ……?」
アルトリアは馬車の方に目を向け、そこで佇みながら待つバリスを睨む。
しかしバリスは護衛として御者を止める様子も見せず、ただ自分達の様子を見守るように視線だけを向けていた。
その様子に不可解な表情を浮かべたアルトリアは、改めて近付いて来る御者に顔を向ける。
そこで僅かな警戒を浮かべながら身構えようとした時、御者は口元を微笑ませた後に口を動かし、アルトリアに声を向けた。
「――……記憶を失い篭りがちだと聞いていたが。思ったよりも元気そうだな、アルトリア」
「……!?」
御者は歩みを止めず、深々と被っていた帽子を右手で剥ぎ取る。
すると帽子で隠されていた目と髪が露となり、アルトリアは表情を強張らせながら驚愕した様子を見せた。
目の前に素顔を晒した御者は、アルトリアと同じ金色の髪と青い瞳を持つ四十代前後に見える男。
体格は数年前よりも逞しくなり、彼を最も知る子供達でも顔を隠してしまえば誰なのか判別し難い。
しかし素顔を晒した御者の正体を、自身の中に滞留する記憶からアルトリアは口から漏らした。
「……まさか、クラウス=イスカル=フォン=ローゼン……!?」
「ほぉ、俺の事が分かるか。記憶が戻っているというのは本当らしい。――……そう、私がお前の父親だ。アルトリア」
クラウスは不敵な微笑みを見せながら歩み寄り、アルトリアの前に立つ。
そして亡き者となっているはずの父親と対面する事になったアルトリアは、この状況に動揺を浮かべながらも驚愕を強くした。
しかしクラウスは娘アルトリアから視線を逸らし、自分の墓石を見つめる。
そして嘲笑気味な笑みを浮かべ、自分の墓に刻まれた言葉に対する評価を述べた。
「ふっ、セルジアスらしい。私の死を効果的に魅せるように、英雄扱いしているとは」
「……なんで、生きてるの?」
「死んだはずの人間が生きているのは、そんなに不思議な事か?」
「……つまり死んだという話は、嘘だったってことね」
「なんだ。お前ならばこの程度の嘘、考え察していると思ったのだがな。俺の死が大々的に広まっても、お前は帝国に戻って来なかったのだから」
「……」
「ん? ……記憶が戻っているとは思ったのだが、どうやら完全にでは無いようだな」
アルトリアは父クラウスの問い掛けを受け、表情を渋らせながら顔を逸らす。
それを見たクラウスは、自分の娘の記憶がまだ完全には戻っていない事を瞬時に悟った。
それを図星として突かれたアルトリアは、僅かに歯を食い縛らせながら言葉を吐き出す。
「……それで、死んだ人間が何の用なのよ?」
「なに。死後でも、子供の顔は見たいと思うのが親の心だ」
「私の事を化物としか思ってないくせに?」
「……」
「子供の頃の記憶は、もう思い出してる。……私の能力を抑え込んで自分の道具にしようとしていた事も、私がアンタを殺そうとした事も、そして制御できないアタシを他人に丸投げした事もね」
「……なるほど。今のお前は、私をそう捉えているのか」
「違うとでも言うつもり?」
「いいや、違わんな。……強いて言えば、もっと酷かっただろう」
「!」
「アルトリア。私はお前の事を、いや……お前の兄セルジアスも含めて、疎ましく思っていた時期がある。それが、お前と衝突した時期だった」
「……!!」
クラウスはそう述べながら斜め様に前へ進み、アルトリアの隣に立ちながら自身の墓石を眺める。
それに警戒する様子を見せながら一歩だけ下がり距離を取ったアルトリアは、再び口を開いたクラウスの言葉を聞いた。
「丁度、お前が生まれた一年後か。……お前の母親であるメディアが、この帝国を去った」
「……」
「俺は自由奔放なメディアを愛していたし、メディアも私を愛していたと思う。だから私は皇族である事や帝国の事など忘れて、メディアと共に世界を旅して回りたかった。……しかし子供が出来た事で、御互いの関係が変わった」
「……!」
「私は皇族の、この国の皇太子として育てられた。それ故に政務で忙しい父君や母君からよりも、その周囲に居る者達によって育てられた。だから自分の子供に対して、一人の父親としてどういう接し方をすればいいか正しく理解できていなかった」
「……」
「あるいは、メディアが共に居続けていれば。私も正しい父親の在り方を出来たのかもしれない。……だがメディアは、お前を生んだ後に帝国から去った。私と、お前達を置いてな」
「……!!」
「帝国で置き去りにされた私は、仕方なくという形でローゼン公爵位を兄上から得て、この領地の民とお前達を養う為に帝国貴族に戻った。……その時の私は、酷く荒れていた」
「……荒れてた?」
「領地を生かす為に各帝国貴族達と関係性を結び、様々な政治的な圧力を受けながら領地経営を忙しくしていた。それ故に子供であるお前達と向き合わず、自分自身と領地の事だけを考えるので手一杯となり、お前達の事を二の次にしてしまっていた」
「……」
「それに、お前達の母メディアに置き去りにされた事が尾を引いていたのだろう。……メディアに去られた原因である子供のお前達を、私は愛するよりも、煩わしく思っていた」
「……母親が去った理由が、私達に……?」
「メディアは、ログウェルが拾った孤児だった。ログウェルは拾い育てる中でメディアの才能を見出し、数多の教えを説き、一流の魔法師として育て上げた。……しかしそうした過去を持つメディアもまた、自分が生んだ子供にどう接するべきなのか、私以上に理解できていなかったのかもしれん。だから私と子供達を置き去りにし、帝国から旅立ってしまった」
「……要するに、無責任な母親だったってわけね」
「お前達にとっては、そうなるのだろう。……だから私は、心の奥底でお前達の事を煩わしく思っていた。お前達が居なければ、私もメディアと共に行けたのに。その思いが強く、子供のお前達に対して強い当たり方をしていた。……年月が経った今だからこそ、自分のしていた行動を理解できる」
クラウスは過去の出来事を話し伝え、自分自身が子供であるセルジアスやアルトリアにどう向かい合っていたのかを伝える。
それは親を慕う子供が聞けば、酷い衝撃を受けるだろう内容かもしれない。
しかし過去の自分に関する記憶を持ちながらも、感情まで引き継がなかったアルトリアは、それを聞いて悲しみなどの感情を持たない。
逆に父親であるクラウスが、幼い頃の自分に対して酷く抑え込むように接しながら激情を向ける理由を理解し、呆れた様子を見せながら溜息を吐くしかなかった。
こうして久方振りの対面を果たした父クラウスと娘アルトリアは、過去に残る蟠りを語り合う。
それは過去と現在の狭間で迷うアルトリアの心情に、一筋の道を示すきっかけとなった。
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