上 下
742 / 1,360
革命編 二章:それぞれの秘密

訪問の理由

しおりを挟む

 リエスティアの足が再び動くようになる治療方法を、アルトリアが伝える。
 それは自身アルトリア治療を受ける者リエスティアの寿命を削る、生命力を高め用いる方法だった。

 しかしその方法は成功するか分からず、アルトリアは治療に関するリエスティア達に選択をさせる。

 寿命を削り治るかも分からない治療を受けるか、そのまま動かない足で居続けるか。
 その選択は、当事者であるリエスティアとユグナリスに委ねられた。

 しかしリエスティアが治療を受けるかの決断を告げるより早く、領地を留守にしていたローゼン公爵家当主セルジアス=ライン=フォン=ローゼンが戻った事が知らされる。

 襲撃を受けたばかりの都市を預かっていた者達にとって、当主であるセルジアスの帰還は喜ばしい出来事ではある。
 しかしセルジアスは、誰もが予想していない人物を連れて来ていた。

 本邸の屋敷を預かる者達はその訪問者についての情報を先に伝えられ、忙しく迎える準備を行う。
 そして訪問者の事を聞いた皇后クレアは、驚きを浮かべながらリエスティアが休む寝室へと訪れた。

「――……リエスティアさん、今からお客様が訪れます。寝台そこから離れなくてもいいから、上に何か羽織って迎える準備をした方がいいでしょう」

「お客様、ですか? どなたが……」

「オラクル共和王国の国務大臣。アルフレッド=リスタル殿よ」

「えっ」

 リエスティアは覚えのある名の人物が訪れる事をクレアから聞き、驚きを深める。

 それは数ヶ月前にガルミッシュ帝国に和平の使者として訪れた、ウォーリス王の腹心と呼ばれる青年アルフレッド。
 しかしその正体は、リエスティアの実兄ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド本人だった。

 そして一時間後、予告通りに本邸の前に複数の馬車が止まる。
 その中腹に位置する馬車からローゼン公爵セルジアスが降り、一つ後ろに位置する馬車からは黒髪と青い瞳を持つウォーリスが姿を見せながら降りた。

 当主を出迎えるのは本邸を任されていた多くの使用人達であり、代表として老いた家令が前に出る。
 そしてセルジアスに礼を向けながら話し掛けた。

「――……おかえりなさいませ。セルジアス様」

「ああ。……アルトリアの様子は?」

「自分の御部屋にいらっしゃいます。兄君であるセルジアス様を御会いするかお尋ねしたのですが……」

「来ていないようだね。記憶の方は?」

「今は御自身が残した本を御読みになっているようで、それで記憶が戻る手掛かりになるかは……」

「そうか。……リエスティア姫の方は?」

「今は、皇后様と共に御部屋にいらっしゃいます。……ユグナリス様は、ログウェル殿に連れられて別邸の方へ」

「分かった。……彼を客人として迎える。彼用の部屋の準備をしておいてくれ」

「承りました」

 セルジアスは家令にそう命じ、視線をウォーリスに向ける。
 それを承諾した家令は下がり、出迎えた使用人達に命じられた事を伝えて部屋の準備をさせた。

 そして後ろで待つウォーリスと向かい合ったセルジアスは、改めながら伝える。

「……では、リエスティア姫の居る御部屋へ案内させて頂きます。アルフレッド殿」

「よろしくお願いする。ローゼン公」

 互いに丁寧な言葉を交えながらも微笑みは無く、その冷静にも見える表情には互いの事を信頼していない様子が見える。
 その緊迫感にも似た二人の空気を感じ取った家令の老人は息を飲み、二人をリエスティアが居る部屋まで案内した。

 二人は先頭を歩く家令に続く形で並び歩き、その後ろからは護衛となる従者達が続く。

 オラクル共和王国から赴いたウォーリスには、伴って来た従者や護衛の姿が無い。
 ウォーリスはたった一人でセルジアス達に伴われ、妹リエスティアが滞在している領地ここへ訪れているという事が理解できた。

 そして屋敷内の廊下と階段を歩き、一行はリエスティアが居る部屋の前に到着する。
 待機していた使用人達が部屋の扉を開け、セルジアスとウォーリスを寝室へ案内した。

 寝室の扉が開けられ、明るい部屋に置かれた寝台ベットには瞼を閉じているリエスティアが上体を起こして待つ姿が見える。
 その傍には侍女の女性と、皇后クレアが控えながらウォーリスを迎えた。

「――……アルフレッド=リスタル殿。よく御越しくださいました」

「突然の訪問で失礼します、皇后様。――……リエスティア様も、御久し振りです」

「アルフレッド様、どうして……?」

「同盟都市開発には、私も共和王国側オラクルの責任者として立ち合っていました。……そしてローゼン公から直接、リエスティア様の状況を御伺いした次第です」

「……」 

「そしてリエスティア様が滞在していたこの都市が襲われたという情報も届けられ、突然ながら貴方の安否を直接確認すべく、ローゼン公と共に帝国こちらに御伺いさせていただきました」

「そう、ですか……」

 ウォーリスは冷静で感情の見えない表情を見せながら淡々と状況を説明し、リエスティアに自身の訪問理由を伝える。
 それを聞いていたリエスティアは、いつもよりも冷たく聞こえるウォーリスの声に小さな怯えで身体を震わせていた。

 そんなリエスティアを庇うように、皇后クレアは声を差し挟みながらウォーリスに話し掛ける。

「リエスティアさんも、様々な事が短期間に起こり過ぎて御疲れになっていますから」

「そうでしょうね。……では、ゆっくりとした御話はのちほどさせて頂きましょう。……時に、ユグナリス殿下もこの領地にられると聞いていますが。どちらにいらっしゃいますか?」

「!」

「御安心を。今回の事で、殿下に何かするつもりはありません。……ただ、ユグナリス殿下はどうも私共が考えていたより非常識な御方のようです。それについて、些か御話を伺いたいと思いまして」

「……ユグナリスは今、ログウェル様と共に今回の襲撃で襲われた別邸の方へ赴いています」

「ほぉ。殿下が自ら、襲撃事件の調査を?」

「理由は、私達も知りません。彼の師であるガリウス伯の申し出たことなので」

「そうですか。……では、リエスティア様と殿下の御都合が良くなった際には御伝え下さい。ウォーリス様からの言伝もお預かりしていますので、その時に改めて皆様に御伝えさせていただきます」

「後程、御話を行う場を用意させて頂きます。――……では、ウォーリス殿。御部屋の準備が出来たようですので、御案内します」

「お願いします」

 ウォーリスはそう述べた後、セルジアスは扉の向こうに訪れた使用人達を見る。
 それを見計らったセルジアスはウォーリスを用意された部屋に案内する為、リエスティア達が居る部屋を出て行った。

 ウォーリスが出て行き扉が閉められた後、リエスティアは深く息を吐きながら身を震わせる。
 それを支えるように近付き背中を擦るクレアもまた、突如として訪れたウォーリスの訪問に緊迫した面持ちを見せ、今後の展開を予測できずにいた。

 こうして襲撃事件を機として事態は動きだし、リエスティアの兄ウォーリスまでもがローゼン公爵領地に赴く。
 そうした中でユグナリスを伴いながら不可解な動きを見せる老騎士ログウェルと、記憶の見せられたと語り部屋に籠りながら自身が残した研究資料を解読するアルトリアもまた、何かを思案しながら行動していた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...