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革命編 二章:それぞれの秘密

少女の怒り

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 二歳のアルトリアは四歳になる帝国皇子ユグナリスの誕生日を祝う帝都の城に行き、その祝われる本人に会う事すらなく祝宴会パーティーから抜け出す。

 私は幼い身体ながらも監視する従者達から逃げ出し、ある部屋に隠れる。
 そこで出会った黒髪の女の子クロエオベールと刺繍や裁縫を通じて接し、『友達』になることが出来た。

 そして夕暮れを超えた時刻となり、流石にマズいと考えた私は友達クロエオベールと別れて部屋を出る。
 その際に十歳ほどの年上に見える黒髪碧眼の少年と擦れ違ったが、それを誤魔化すように走り去った。

 それから私は、潔く私を探している者達に見つかる。
 どうやら私が居なくなった事は私が思う以上に大事おおごとになっており、すぐに父親クラウスが駆け付けて怒鳴り付けた。

『――……何処に行っていたのだ、アルトリアッ!!』

『ふんっ』

『お前を探す為に、皆がどれほど苦労し心配していたか――……』

『みんなが勝手に大騒ぎしてただけでしょ? そんなの知らないわ』

『……お前は賢いからこそ、その歳でもこういう場に出せるかと思ったが。やはり連れてくるべきではなかったかもしれんな』

『……』

『明日、お前だけ領地に送り返す』

『!』

『しばらくは外出も禁止だ。まともな社交性を身に付けるまで、お前を今後、こうしたに出さない』

 静かに怒る父親クラウスはそう述べ、私を領地の本邸へ送り返そうとする。
 その時の私は、明日の祝宴で再会を約束していたクロエオベールと今後も会えなくなることを恐れて、粛々とした様子を見せながら父親クラウスを説得した。

『……帰りたくない』

『駄目だ』

『……今日のことは、謝ります。だから、明日のパーティーには出席させてください』

『どういうつもりだ? 会場を抜け出したかと思えば、今度は戻りたいなどと』

『……』

『……明日、本当に大人しく出来るな?』

『はい』

『……分かった。だが次に何か問題を起こせば。すぐにお前を領地に戻す。いいな?』

『はい』

 幼い私の様子と言葉を信じた父親クラウスは、領地に戻す決定を取り下げる。
 そして次の日、私はクロエオベールと再会する為に二日目の祝宴パーティーに参加した。

 だけど祝われるべき皇子ユグナリス本人が熱を出して欠席し、それを見舞う為に皇帝ゴルディオス皇后クレアが出席を見送る旨が伝わると、不幸にも皇族の一員である私達親子に人が密集してしまう。
 二日目に訪れた各貴族家が一日目以上に私達の前に列を成して挨拶をする為に訪れて嫌気が差すが、私は父上との約束を全うし、友達であるクロエオベールと再会する為に辛抱強く作り笑いで対応した。

 それから列が薄くなり、私達の前に並び立つ人達も疎らとなって会場内に散らばる。
 時間にすれば二時間近く拘束されたような状態で、私は大きな溜息を漏らしながら隣に座る父親クラウスに頼んだ。

『――……お父様。ずっと座りっぱなしで辛いから、歩きたいんだけど』

『むっ。……分かった。お前達、アルトリアに付いて行け』

『ハッ』

 父親は私の頼みを受け入れる代わりに、護衛という名の監視役として二人の男執事を従者として付ける。
 その執事達にはローゼン公爵家の家令を務める証となる薔薇の金細工が胸部分に身に付けられており、一目みて私や従者達が皇族に関わる立場に居る者だと分かるようになっていた。

 私はその監視役の二人をわずらわしく思いながらも、クロエオベールを探せる好機だと思い席を離れる。
 そして会場を見渡しながらクロエオベールを探し、多くの人々が集まる祝宴パーティーの中を歩き回った。

 そんな時、庭園が見える縁側ベランダがある会場の隅で、小さなざわめきが起こる。
 それまで周囲にあった祝宴の空気と異なる騒めきが気になり、私はそちらの方へ歩き向かった。

 するとその場所には僅かながら人だかりが生まれ、何かを覗き見るような者達が多く居る。
 そこに皇族である私が訪れた事を知った者達が驚きを見せると、私は彼等を見上げながら尋ねた。

『そっちに、何かあるの?』

『こ、これはこれは……! アルトリア様でございますな。私、先程に挨拶へ参った――……』

『そういうのいい。向こうに何があるの?』

『そ、それは……御嬢様には、あまり御見せしない方が……』

 話し掛けた相手は先程の挨拶で訪れた者のようで、私が公爵家クラウスの娘だと知っていたらしい。
 再び挨拶を重ねようとする相手の言葉を遮った私は、人垣の向こう側で何が起きているのかを問い質した。

 それに対して言い渋る様子を見せる人物に、後ろに控えていた私の従者が改めて尋ねる。

『何かありましたか?』

『あっ、それが、その……。……どうやら、部外者の子供が紛れ込んだそうで……』

『部外者?』

『その子が卓上テーブルに置かれた物を落として、どうやら他家の御子息達の衣服を汚してしまったらしく。親御様や付人つきびとも居ないようで、自分の姓を名乗らないで、その……部外者なのではと、子供達が……』

『……失礼ですが、状況を確認する為に通して頂けますか?』

『は、はい』

 私の従者は周囲に居た人から情報を聞き、人垣を作る人々に話し掛けながら道を作る。
 もう一人の従者は私の傍に控えたまま、進もうとする私を引き留めた。

『御嬢様。様子が確認できるまで、ここで御待ちを』

『……』

 私は大人しく従者の言葉に従い、人垣が拓けて見えて来る前の景色を眺める。
 そして人垣が完全に無くなった時、私は目を見開き驚きの声を漏らしながらその光景を見た。

 五歳か六歳頃に見える、男女の子供達が五人程いる。
 子供達の衣服は豪華な服装スーツ衣装ドレスを身に纏っていたが、足の裾部分から腹部近くに汚れが付着しており、それが周囲に散乱し落ちている料理のモノだと分かった。

 そんな子供達の中心には一人の少女がうずくまっている。
 それは昨日、私が出会った黒髪の少女クロエオベールだった。

 そのクロエオベールの黒髪を、服が汚れている男の子の一人が引っ張っている。
 更にもう一人の男の子は、クロエオベールが身に付ける薄茶色ベージュ衣装ドレスを掴み、その部分が千切れて破けていた。

 更に少女の周囲には小さな革鞄バックがあり、その中に納まっていただろう裁縫道具や刺繍道具が料理で汚れた床の上に散乱している。
 しかしそれ等の幾つかは踏み潰された様子が見えており、私は驚きのまま視線をクロエオベールがうずくまりながら抱えるように固めている腕の中へ目を向ける。

 髪を引っ張られ、服を破かれながらもクロエオベールが腕の中で守ろうとしていた物。
 それは昨日、クロエオベールと共に私がつたなく編んだ、動物の刺繍が縫われた布生地だった。

『――……クロエッ!!』

『お、御嬢様っ!?』

 私は一目で状況を把握し、思わずうずくまるクロエオベールが居る場所へ駆け出す。
 そんな私の行動に驚いた従者は止めようとしたが、瞬時に能力ちからを使った私は走り難い衣装ドレスながらも高めた身体能力を駆使し、二秒にも満たない時間でクロエオベールが居る場所に辿り着いた。

 そして先を歩く従者が対応するよりも早く、私は怒りの感情を剥き出しにしてクロエオベールを掴み起こそうとする子供達を睨みながら右手を翳す。

『お前達、どけっ!!』

『う、うわっ!?』

 私はクロエオベールを掴む子供の腕を引き離す為に、腕部分を強引に曲げて掴む力を失わせてから、その子供達の衣服に操作して身体を大きく吹き飛ばす。
 更に他にも囲んでいた三人の子供達も吹き飛ばし、私は屈みながらクロエオベールに声を掛けた。

『クロエ! クロエ、大丈夫っ!?』

『……アリス……?』

『そうよ、アリスよ』

『……ごめんね。……アリスが、せっかくったのに……少し、やぶけちゃって……』

『!!』

 クロエオベールはそう述べながら小柄な上半身を起こし、守るように腕に抱えていた私の刺繍が縫われた布生地を見せる。
 布生地は裂けるように破れ、僅かに踏まれた跡があった。
 そして周辺に落ちるクロエオベールの裁縫道具の惨状を見る限り、何が起こったのかアルトリアは用意に推測する。

 卓上テーブルに置かれた食事や飲み物で衣服を汚された子供達が、それをこぼしただろうクロエオベールに絡んだ。
 その服を汚した仕返しとして、クロエオベールが持っていた裁縫道具が入った革袋や中に収めていた私が縫った刺繍の布生地をよごし、奪おうとして破ったのだろう。

 それをクロエオベールは守るように抱え持ち、ずっと守っていたのだ。
 昨日会ったばかりの私の刺繍を守る為に、たった一人で多くの子供達に甚振いたぶられながら。

 頭の良い私は周囲の状況を見て瞬時に悟り、歯を食い縛りながら青い瞳に怒りの感情を抱く。
 そしてクロエオベールを虐めていた子供達に鋭い視線を向け、怒りの感情を乗せた声を向けながら両手を翳した。

『――……よくも、やってくれたわね……』

『……!?』

『お前等、絶対に許さないッ!!』

 周囲の者達は突如として吹き飛んだ子供達の様子に驚き固まり、更にアルトリアが向ける怒りの声を聞く。
 そして従者達が止める間も無く、立ち上がったアルトリアがクロエオベールを虐めた子供達に対して両手を翳し、その身体に白い光を宿らせながら中空に浮かせた。

『う、うわぁあっ!?』

『な、なにこれ……!?』

『う、浮いて――……ぎゃっ!!』

 子供達は謎の能力ちからによって中空に浮かべられた事を驚きながらも、更に壁へ強く叩き付けられる。
 そして壁に叩き付けられた五人の子供達は気を失い、そのまま壁際に倒れた。

 その子供達の親だろう人物達は驚愕し、壁に吹き飛ばされた子供達に駆け寄る。
 そして能力ちからを行使するアルトリアを抑えようと、付き従っていた二人の従者が近付いて来た。

『御嬢様っ!?』

『駄目です! この場で、そのような事をされては、御父君が――……』

『……うるさい』

『!?』

『そもそも、私がもっと早くクロエに会えてれば……こんな事にならなかったのに……』

『お、御嬢様……!?』

『お父様の言いつけを守ったら、この有様……。……もう、我慢できないわ』

 私は自身やクロエオベールの身に降り掛かった出来事を、全て他者のせいにした。
 そして私は今まで溜め込んでいた理不尽に対する鬱憤を解放し、自身を束縛し抑止しようとする者達に能力ちからを放つ事を選ぶ。
 キレた私は止めようとする従者達も吹き飛ばし、更に取り押さえようとする周囲の貴族に付き従っていた護衛達をも能力ちからで吹き飛ばし、更に周囲の物を竜巻のように吹き荒れさせて私達に近付けないようにした。

『――……何が貴族よ。何が帝国よ……。……こんなくだらないモノ、全部壊してやる……!!』

 私は怒りのままに能力ちからを使い、周囲の理不尽せかいを打ち倒すべく立ち向かう。
 それは義憤でもなければ大義も無い、ただ私自身の自己エゴに染まった怒りを晴らす為に爆発した行動ものだった。

 こうして会場は騒然となり、事件は規模を大きくなる。
 それはローゼン公爵家の娘であり、皇族の一人であるアルトリアが怒りのまま使ふる能力ちからの暴走が原因だった。
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