上 下
675 / 1,360
修羅編 閑話:裏舞台を表に

閃光の来襲 (閑話その六十)

しおりを挟む

 この出来事は、エリクとマギルスがフォウル国の足元と呼ばれる大陸に赴いた一日後のこと。
 ベルグリンド王国がフラムブルグ宗教国家から独立し、新生したオラクル共和王国となる変化を齎した原因の話。

 その日、ベルグリンド王国の王都外壁から少し離れた場所に一筋の黄色い光が地面に突き刺さるように降り立つ。
 その衝撃音と空から降り注いだ極光は外壁付近に就いている王国兵達を驚愕させ、その異変に対応させた。

「――……な、なんだっ!?」

「デカい音が、外壁の外側むこうから……?」

「……見ろ! 空から光が……!?」

「!!」

「全員、装備を整えろッ!!」

 外壁内部に設けられた各所で、外を見れる小窓部分を覗き込み異変に備えるように叫ぶ兵隊長の声を聞く。
 それに応じるように兵士達は鎧を備え槍や剣を携え、盾や弓などを始めとした武装を整え始めた。

 そして数十秒もしない内に空から降り注いだ黄色い光が閉じるように消失し、光の下に現れた人物が晒される。
 そこに現れたのは、黄土色ブロンドの髪を靡かせ、右手に旗を纏った大槍を持ち、神々しくも物々しく白銀の武装を身に纏った一人の女性が立っていた。

 彼女の名は、『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァ。
 エリク達をフォウル国へ送り、その後に宗教国家フラムブルグの秘宝とされる白銀しろがね神霊武装しんれいぶそうを身に付けたミネルヴァは、あの未来の元凶である【悪魔】を倒す準備を整えてベルグリンド王国に転移して来たのだ。
 
 そして転移の光が消失した後、ミネルヴァは緩やかに立ち上がる。
 その立ち上がる姿は力強く、また身に纏う白銀の兜から覗き込む眼光は射貫くような鋭さを宿しながら、王都の外壁に設けれている壁門に身体を向けた。

「――……ここに、【悪魔】がいるのか」

 ミネルヴァはそう呟き、壁門の方へ歩き始める。

 それに連動し、突如として現れた人物ミネルヴァに気付いた王国兵士達は壁内や壁外で陣形を組みながら各々に武器を構え、異様な武装を身に纏う相手に警戒を示す。
 そうした状況で騎兵の小隊が壁門に設けられた小扉を潜り抜けると、ミネルヴァの方へ駆け寄って来た。

「――……そこの者、止まれぇっ!!」

「……」

 正面から駆け寄り大声で呼び掛ける騎兵達を見て、ミネルヴァは進めていた足を止める。
 そして近付いて来る騎兵は一定の距離を保ちながら立ち止まると、ミネルヴァと向かい合う形で訝し気に尋ねた。

「――……先程の音と光は、お前が起こした者かっ!?」

「その通りだ」

「素性をあらためる! お前の身分を保証する物と、入国証を提示してもらう! それを示せぬ場合、不法入国者と見做しらえる! 抵抗や反抗する様子があれば、王国守備兵団の誇りに賭けて死を覚悟せよ!」

「……」

 先頭で騎乗している兵士はそう叫び伝え、ミネルヴァに警戒の目を向ける。
 それに対してミネルヴァは右手に備えた手甲を外し、手袋を外して手の甲を見せた。

 そこには盾にも似た黄色の聖紋サインが刻まれており、それが仄かに光を発しながらミネルヴァは声を張り上げながら告げる。

「――……我が名はミネルヴァ! フラムブルグ宗教国に属し、『枢機卿すうききょう』の位を法王に授けられている! また四大国家の下において、『』の称号を持つ七大聖人セブンスワンに任じられている者だ!」

七大聖人セブンスワン……!?」

「あれが……!?」

「お、御伽噺おとぎばなしでしか聞いたことないぞ……? 七大聖人セブンスワンなんて……」

「その証明として、この右手を見よッ!! この聖紋こそ、七大聖人セブンスワンの一人である証だ!」

「……!!」

 騎兵達は七大聖人セブンスワンと名乗るミネルヴァに困惑した様子を見せ、右手の甲に宿る聖紋を見ても微妙な面持ちを浮かべる。

 皇国ルクソード魔導国ホルツヴァーグ、そして宗教国家フラムブルグと違い、この大陸では七大聖人セブンスワンを目にする機会は無い。
 各国の人間達には御伽噺おとぎばなしとしての語り草で七大聖人セブンスワンを知る者は居ても、実在する七大聖人セブンスワンと宿る聖紋を見分けられる人物が限られてしまう。

 その為、この兵士達も目の前で見せられている聖紋が本物なのか、そしてその聖紋を見せる人物ミネルヴァが本物の七大聖人セブンスワンなのか、判断できずに困惑した様子を見せていた。
 そうした様子を抑えるように、先頭に立つ兵士がミネルヴァに声を向ける。

「――……我々では、貴殿が名乗る素性の真偽を判別できない! 真偽が行える者が来るまで待って頂く! それを承諾できず進み続けるのであれば、我々も武器を向けざるを得ない!」

「いいだろう。ただし過ぎる時間次第では、こちらは歩みを再開する。そこで武器を向けるのであれば、我が神の鉄槌がお前達を迎えると述べておこう!」

「……ッ!!」

 ミネルヴァは騎兵に対してそう告げ、妥協はしながらも容赦は見せない意志を晒す。
 それが脅しではなく言葉の強さとミネルヴァの身に纏う異様な殺気から本気だと感じ取った騎兵達は、きびすを返し外壁の方へ戻って行った。

 それから時は流れ、三十分程が時間が経つ。
 立ち尽くしていたミネルヴァは地面に突き刺していた旗槍を引き抜き、壁門に向けて大声を放った。

「――……これ以上は待たない! 武器を向けるならば好きにするがいい。だが貴様達の刃が我に届くより先に、お前達に神の鉄槌がくだる覚悟をせよッ!!」

 ミネルヴァは魔法で響かせた声を壁門の兵士達まで届け、それから歩みを再開する。
 それに合わせて壁内の弓兵と門前に控えていた兵士達が武器を持ち構え、緊張感を高めながらミネルヴァに警戒を向けた。

 兵士達が警戒が敵意へと変わる、僅かな時間。
 
 その刹那のような瞬間、ミネルヴァは悪寒に似たモノを壁門の向こう側から感じ取り立ち止まる。
 そして大門に設けられた小扉が開け放たれると、そこから一人の青年らしき人物が歩み出て来た。

 それを見たミネルヴァは、逆立つような肌の感覚と悪寒を強めながら瞳を見開く。
 そして門の外に出て来た青年はミネルヴァの方へ歩み寄り、二十メートル程の距離を保ちながら立ち止まった。

 その青年は微笑むような表情を浮かべながら、礼節に則った動作と良く通る声でミネルヴァに話し掛ける。

「――……『きん』の七大聖人セブンスワン。ミネルヴァ殿ですね?」

「……お前は……?」

「お待たせして申し訳ありませんでした。――……私の名は、アルフレッド=リスタル。ウォーリス王に仕え、このベルグリンド王国にて国務大臣を務めている者です」

「……アルフレッド……!」

 目の前に現れた青年の名を聞き、ミネルヴァは自身の感覚とエリクから聞いた情報を合致させる。

 肩口まで伸びる黒い髪を分けず、後ろへすきあげた髪型。
 蒼玉サファイアを思わせるような深みのある碧眼と、薄い肌色と美麗な顔立ちが目立つ長身の青年。

 そして鞘に納めた一つの剣を左腰に帯びながらミネルヴァと対面した青年こそ、未来でアリアを【悪魔】に変えた元凶とされている人物だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう
ファンタジー
 普段はマッサージサロンで働く活字中毒女子の満里奈。ある日満里奈はいつものように図書館に通い、借りる本をさがしていた最中に地震に遭遇し、本棚の下敷きにされてしまう。  そして気がつけばそこはシンデレラの童話の世界だった。満里奈はどうやらシンデレラの二番目の悪姉(悪役令嬢)に転生していたーー。 ※恋愛はゆっくり始まります。 ※R15は念のため。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...