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螺旋編 五章:螺旋の戦争
復活の二人
しおりを挟む六枚の白き翼を羽ばたかせ現れた不敵な笑みを浮かべるアリアと、六枚の黒き翼を羽ばたかせ困惑を宿した憤怒を見せる『神』。
互いに同一人物ながら、三十年が経過し見た目の歳を僅かに重ねた『神』と違い、現れたアリアは三十年前と同じ姿をしている。
そんな二人が互いに杖を向け合い、アリアが白い閃光を、『神』が黒い閃光を放ち撃った。
「ッ!!」
「ふっ!」
互いに同時に閃光を放ち、それが重なるように交わる。
そして白と黒の魔力が混じり合い、先程と同じように黒い閃光だけが瞬く間に消失した。
「なにッ!?」
『神』はそれに驚愕し、迫る白い閃光を見て飛翔し避ける。
白い閃光はそのまま天上を貫く形で放たれ、夜空に一つの白い筋を浮かび上がらせた。
それが薄い閃光となり消失すると、『神』はアリアを忌々しい形相で睨む。
それに対して再びアリアは不敵に笑い、自身の白い翼を羽ばたかせて『神』と同じ高度まで飛翔し、距離を開けながら対峙した。
アリアの余裕が満ちた表情を睨む『神』は、食い縛る歯を開いて呟く。
「……どうして、私の矛が破られる……!?」
「あら、もしかして理解してないの? 私にしては、頭が悪いわね」
「!」
「アンタが撃ってるあの黒い魔力は、物質の体組織を過剰に活性化させながら腐らせ、浴びた部分を腐食させるだけでしょ?」
「……ッ!!」
「だったら私は、その逆の魔力を作り放てばいい。物質の崩壊を停止させる魔力をね」
「馬鹿な……!! それなら、魔力同士が中和し対消滅を起こすはず! なんで私の攻撃が消えて、お前の攻撃は消えない!?」
「そんな単純な事も分からないのね。 ――……アンタが腐食させる速度より、私が停止させる速度の方が上だからよ」
「ッ!!」
アリアはそう述べながら呆れた様子を見せ、溜息を一つ吐き出す。
その様子に驚愕と苛立ちを含んだ怒りの表情を見せる『神』は、再び杖を向けアリアに黒い閃光を放った。
それをアリアはただ見据え、白い六枚の翼を閉じて身を守るに留める。
そして再び白い繭のような長細い球形状になったところで、黒い閃光がアリアに直撃した。
しかしその黒い閃光も、先程と同様に瞬く間に消え失せ黒い粒子が飛散する。
それに驚愕した『神』は目を見開き、六枚の白い翼を再び展開させ姿を晒したアリアは再び話し始めた。
「――……分かったかしら?」
「……本当に、私の腐食より早く、しかもこちらの魔力を飲み込んでいる……!?」
「アンタがやってる事は、どれも魔力を多く込めてるだけの魔法でしかない。――……魔力の操作、構築式の構築と形成速度に、効率速度。そして循環させる魔力の速度。魔法の技術そのものが、話にならないくらい低レベル過ぎるのよ」
「な……!?」
「どうせ盗み盗った魔法技術をそのまま流用して、独自性を持たせてるだけで満足してたんでしょ? ――……自堕落で修練もしてない、怠慢な生活をしてた証拠よ」
「……お前は……お前は何なんだッ!? 偉そうにッ!!」
『神』は高説するアリアに対して苛立ちと憤りを高め、それを止める為に再び周囲に七色の光球を数多く生み出す。
そしてそれを全て放ち、四方八方からアリアを襲った。
それを見たアリアは再び溜息を吐き出し、右手に持つ短杖を前に向ける。
その瞬間、アリアに迫っていた光球が全て停止した。
「……!?」
「――……やっぱり。アンタは基礎の基礎すら、私みたいに鍛錬しなかったようね」
「な……」
「魔力の操作は、魔法師にとって基本中の基本よ。でも基本だからこそ、常に鍛錬し磨く事で練度に大きな差が出る」
「私の、魔法が……!!」
「どうせ自分の頭の中にある知識と、才能だけ完結してたんでしょ? ……怠惰なアンタの三十年間は、私の十年に及ばないのよ」
『神』が歯を食い縛りながら光球を動かそうと必死になる中で、アリアはそう述べながら円を描くように短杖を回す。
そして持ち手を『神』に向けると止まっていた光球が再び動き放たれたが、その目標はアリアではなく『神』に全て向いていた。
「ッ!!」
「邪魔だし、返すわ」
今度は自身が夥しい数の光球に四方八方から襲われる事になった『神』は、瞬時に幾層もの結界を作り出し防御し、『青』と同じように反射しようとする。
しかし向かって来る光球の一つが結界に触れた瞬間、眩い光の爆発を起こして張られた一層の結界が砕き割られた。
「――……は?」
「あぁ、言い忘れてたわ。光球、出来が悪いから直しといたわよ」
「……ぅ、ぁああッ!!」
その刹那、アリアが口を動かす述べる言葉が『神』の耳に届く。
アリアは短杖で円を描くように動かした際、全ての光球は新たな術式によって全く別物と言える効力を得ていた。
本来は吸収し反射されるはずだった光球は吸収された瞬間に爆発を生み、それが結界に取り込まれる魔力量の許容を超えて割れ砕かれる。
それを証明するように再び迫る夥しい光球が、『神』の張る幾層もの結界を全て破壊し消滅させた。
守りを失った『神』は、その幾千にも及ぶ光球を浴びて膨大な光の爆発に巻き込まれる。
その光景を下から見ていたケイルは驚愕し、明らかに以前より強くなっているアリアを訝しさを含んだ瞳で見上げていた。
「……嘘だろ。なんで今のアイツが、あんなに強いんだ……!?」
ケイルはこの時、再びアリアと交わしたある話を思い出す。
それはマシラの騒動で偽りの人形を用いる際に聞いた、憑依した人形で行使できる能力の限界についてだった。
『――……確かに、これなら服の外から少し触れただけでは、人形とは分かり難いですね』
『でしょ。これで杖に偽装魔法の術式本体を移せば、人形本体と一時的に精神が切れても偽装魔法は解けないわ。杖さえ手放さなければね』
『随分と偽装に凝りますね。これほど過剰に必要なのですか?』
『もちろん。偽装魔法の弱点は、視覚情報でしか偽る事が出来ないことね。接触されたり匂いの違いで偽装だと判別されてしまうし、光属性の魔法の光を浴びても駄目。熟練した闇魔法の使い手だったら、魔力の微妙な揺らぎで偽装そのものを見破る場合もあるわ』
『その為に、人形の服に香水を付けて来いと?』
『少しでも偽装がバレない為にね。あとは、喋る事も魔法で出来るし、足音やマネキン人形が発する微細な音も魔法で偽装すれば、コレが人形の私だと気取られる事は無くなる筈よ。偽装魔法を何重にも施すから、人形のままだとまともな魔法は一つか二つしか出来ないけどね』
この話を思い出したケイルは、今のアリアが明らかに人形に憑依し擬態した存在である事を考えながらも、あれほどの魔法を行使している姿に疑問を浮かべる。
本来ならば人形の姿で姿を偽装し行える魔法は、一つか二つ以上が限度。
しかしそれ以上の魔法を行使し戦う姿は、アリア自身の説明と一致しない。
そうした疑問を抱いていたケイルは、上空とは別の鳴る轟音を横側から聞いた。
「――……うぉ!?」
轟音の正体は遠く離れた高い建物群であり、それが突如として崩れてケイル達が居る建物側へ倒れて来る。
それを見たケイルは驚きながら両足を踏み締め、建物が倒れた振動を堪えて赤い霧へ落下しないようにした。
そして土煙が晴れていく中で再び目を開けた時、ケイルは崩れ倒れた建物がまるで赤い霧を踏み渡る為の道になっている事に気付く。
偶然そうなったのかと一瞬だけ思った時、ケイルは倒れた建物の道へ着地した人影を見た。
「……!!」
「――……ケイル、無事だったか?」
「……無事じゃねぇんだよ、馬鹿野郎ッ!!」
「そうか、すまない」
ケイルは目の前に現れた人物を察し、声を聴いた瞬間に身体を僅かに震わせながら涙を零して怒鳴った。
その怒声を聞いた人物は謝りながら、土煙の中から姿を見せる。
それは『神』に殺され、意識を失い続けていたエリクだった。
こうしてエリクが復活し、アリアも人形を用いた憑依で『神』と相対する。
そして明らかに以前と比べ物にならないアリアの強さは、到達者となった『神』すら寄せ付けない実力を見せていた。
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