546 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争
神に挑む者
しおりを挟むアリアとエリクに関わりがあるセンチネル部族の末裔と思しき青年によって、箱舟二号機の周囲は結界で守られ、黒い人形達の進攻を阻む事に成功する。
黒い人形の黒剣に貫かれても即座に修復する結界は、箱舟や都市に設けられた結界装置より遥かに性能は高く、生き残った同盟国軍や闘士達の被害を防いでいた。
こうして箱舟の状況は好転したかに見えたが、全体の状況が覆ったわけではない。
黒い人形達は更に増え、生命が多く居る都市東部に二千以上の黒い人形達が押し寄せている。
そうした中で奮戦する事が叶っているのは特記戦力であるケイルやマギルスを含んだ聖人や魔人達だけだが、破壊できず永遠と押し寄せる黒い人形達に疲弊を強いられていた。
この状態が一時間も続けば、確実に疲弊した聖人や魔人達の中にも死人が出る。
そして箱舟の周囲を守る結界もどれだけ維持できるか分からず、傷付いた者達の方が多い箱舟内の兵士や闘士達は緊張感を維持したまま外の様子を窺うしかなかった。
この状況を覆す、一縷の望みがあるとすれば。
それを考える者は、都市中央の上空で繰り広げられる光景を遠目に見る。
それはこの状況で都市上空で元凶である『神』と対峙している、七大聖人の聖紋を二つも受け継いでいた青年。
元ガルミッシュ帝国皇子、ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュだけだった。
「――……ハアァアッ!!」
「チィッ!!」
そのユグナリスと『神』は、赤い夜空の中で凄まじい接戦を繰り広げている。
赤と緑の魔力を纏わせ上空を流星のように飛翔するユグナリスは、『神』より素早い神速で剣を薙ぎ突く。
瞬発的な速度で遥かに上回るユグナリスは、『神』が放つ魔法の光球や砲撃を容易く回避し、更に背後や死角を突いた攻撃を可能にしていた。
それを辛うじて自身の周囲に張る結界で防ぐ『神』は、激しい舌打ちを鳴らしながらユグナリスに対抗する。
魔法で撃墜が出来ず苛立ちを深める『神』は、再び背後の結界に剣を喰らい突かせたユグナリスを見て呟いた。
「――……消し飛べ」
「!」
ユグナリスは『神』の呟きを聞き、僅かな変化に気付く。
『神』の体内に膨大な生命力が生み出され、同時に結界の表面に赤い魔力が充満しつつ事に気付いたユグナリスは、結界から剣を離し即座に後方へ飛び退いた。
その洞察は正しく、『神』は再び肥大し膨張した生命力と魔力に因る混合エネルギーでの自爆攻撃を決行する。
『神』を中心とした半径百メートル以上が白と赤が混じる極光に瞬時に覆われ、退いたユグナリスに追い付き飲み込んだ。
そして極光が鎮まり赤い夜空に戻ると、当然のように無事な『神』はユグナリスが逃げた方向を見る。
しかしそちらの方角にユグナリスが飛んでいる様子は無く、『神』は怪訝な表情を見せた瞬間、自身の背中に走る衝撃に気付いた。
「……ッ!!」
「――……さっきの攻撃、一時的に結界を解除しないと出来ないんだな」
「……まさか、あの距離から避けて背後に回るなんて……」
「殺ったぞ、アルトリア」
ユグナリスはあの自爆攻撃を神速で飛び避け、そればかりか極光に紛れて『神』の背後へ素早く回り込み突く。
そして『神』の心臓を背後から一突きし、通常の生命体であれば致命傷の傷を与えた事になった。
しかし『神』は、既に普通の生命体では無い。
それを証明するように、胸の傷からは一滴の血も流れること無く、『神』は口元をニヤリとさせて述べた。
「……ふっ。心臓を貫かれたくらいで、私が死ぬと思ったわけ?」
「いいや、思わないさ」
「!」
「『到達者』。今のお前は、そうなんだろ?」
「……!」
「『到達者』は『到達者』でしか殺せない。……だが、到達者も無限の再生ができるわけじゃない」
「……」
「お前はあと何回、殺せば死ぬんだろうな?」
「ッ!!」
ユグナリスが刺し貫く剣を一閃するように薙ぎ、『神』の胴体を真っ二つにする。
しかし『神』は血を流す事も無く、『神兵』ランヴァルディアより速く瞬く間に肉体を再生させ身に着けた衣服も修復し、剣を離したユグナリスに杖を薙いで迎撃した。
それを容易く回避したユグナリスは再び距離を取り、『神』と対峙する。
忌々しい視線を見せる『神』は、ユグナリスに苛立ちの声を向けた。
「――……小賢しい知恵を付けて……ッ!!」
「俺は、本物の到達者を知っている」
「!」
「お前は到達者とは似て非なる存在。――……偽物だ!」
「このッ!!」
『神』は忌々しい表情でユグナリスに杖を向け、瞬時に展開した数百から千に満ちる光球を撃ち放つ。
それをユグナリスは余裕を見せながら神速で回避し、逆にその隙間を縫いながら『神』の間近に迫った。
「!」
「もう、お前に負ける俺じゃないッ!!」
ユグナリスは赤い柄の宝剣を振り、白銀の刀身に生命力と魔力の炎を纏わせ『神』に斬り掛かる。
それを結界で防ごうとした『神』だったが、完成したはずの結界はユグナリスの剣によって瞬く間に斬り裂かれ、神の身体を袈裟懸けに斬り抜いた。
更に抜けた背後から剣を戻し、背中を合わせるように再び背後から『神』の心臓を貫く。
「……クッ!!」
「不死身だろうと、お前を何万回だって殺す。……殺された者達の痛み、思い知れッ!!」
「この……赤蠅がッ!!」
そうしてユグナリスは再び剣を薙ぎ、『神』の胴体を二つに裂く。
それに憎々しい声と表情を向ける『神』は、再び肉体と服を瞬く間に修復しユグナリスに攻撃を加えた。
それから戦いは、『神』の防戦一方に陥る。
ユグナリスは三十年前とは比べ物にならない実力を得て、『神』を脅かす存在へとなっていた。
0
お気に入りに追加
382
あなたにおすすめの小説
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜
秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』
◆◆◆
*『お姉様って、本当に醜いわ』
幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。
◆◆◆
侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。
こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。
そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。
それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?
桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」
やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。
婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。
あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる