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螺旋編 五章:螺旋の戦争
螺旋の歴史
しおりを挟む都市の地下に幽閉されていた、『青』の称号を持つ七大聖人。
その男が語ったガルミッシュ帝国とベルグリンド王国の顛末と、記憶を失ったアリアが魔導国の都市に赴き、その地下にある天界の機能を起動させて乗っ取った事をマギルスは知った。
そのアリアに肉体を幽閉された『青』は嘆くように全てを語り、そのまま口を閉じる。
そして一連の供述を聞いたマギルスは、少し考えた後に『青』へ話し掛けた。
「――……ねぇねぇ。聞いていい?」
『……何を?』
「三十年前にさ、アリアお姉さんと僕達が砂漠の大陸に向かったのは、知ってた?」
『……ああ、知っていた』
「じゃあ、あの螺旋の迷宮って現象に僕達を入り込ませたのも、アンタなの?」
『……そうか。お前達はアレを、そう呼ぶのか』
「む……?」
嘲笑にも似た声を零す『青』に、マギルスは眉を顰める。
そしてマギルスの機嫌を窺うかのように、『青』は続きを話し伝えた。
『……二千年以上前、第一次人魔大戦の時代。人間大陸を支配した大帝国と、各種族の魔族が争い、魔大陸で激しい戦争を数百年に渡り続けた。……そこで、あの現象が発生した』
「……」
『当時、魔族達と争い人間大陸を支配していた大帝国。儂はその皇帝となった男に忠を尽くし、己の魔法技術と魔導技術を研鑽させた。……必然として、儂はその不可解な現象を解明する為に調査をしたのだ』
「ふーん。それが螺旋の迷宮ってことね?」
『結果は無惨なモノ。その現象を調査していた数百名以上の者達が、その現象に巻き込まれて消失した』
「……」
『それから数十年が経った時。その場所で、新たな事象が確認できた』
「新たな事象?」
『その現象が消滅したという、事象だ』
「!」
『現象が消失したと同時に、その地域に凄まじい量の砂と、そして消失していた数多の人間と魔族のミイラ化した死体が出現した。……そして肉眼で見える大量の魂が怨嗟を上げ、上空に消え伏せた……』
「……」
『儂はその砂と遺体達を持ち帰り、調査員の遺品を発見し、彼等に何が起こったのかを検証した。……結果、おかしな事に気付いた』
「おかしなこと?」
『あの遺体は、明らかに数千年以上の時が経過していた。こちらでは数十年しか経っていないにも関わらず』
「!」
『儂はあの現象を、大量の魂が死に現世を彷徨い、何らかの力によって別次元を作り出し、生ける者を飲み込む転移現象と仮定した。そしてそこには、遺体を白骨に出来る微生物も生息していない、死の世界と定義付けた』
「アリアお姉さんも、同じような事を言ってたかなぁ。……それで、やっぱり僕達がその転移をしちゃったのは、アンタのせいなの?」
『……いいや、違う』
「違うの?」
『現象の消失。それと同時に起こった砂とミイラ化した死体の出現。……それともう一つ、その世界から帰還したモノがあった』
「帰還した……?」
『大帝国と敵対しながらも、互いに敵視していた者。……あの忌々しい魔王ジュリアと、鬼神フォウルだ』
「!」
『その報告を聞いた時、儂はあの現象が何に因って引き起こされたかを悟った。……魔王ジュリアと鬼神フォウルは、かつて魔大陸の王者にして到達者でもある。……恐らくその二人の力が、あの現象を生み出したのだろう……』
「……ちょ、ちょっと待ってよ……」
マギルスは『青』が述べる大昔のを聞き、頭を振りながら困惑する。
そしてその困惑を払いながら、『青』が入る容器に近付きながら問い質した。
「さっき、みんなミイラになって出て来たって言ったじゃん!」
『ああ。だが、その二体だけは例外だ』
「例外……?」
『到達者の寿命は、千年を生きる聖人の比ではない。膨大な力を魂と肉体に宿し、数千・数万・数億という寿命を持つのだ』
「!」
『例え千年程度ならば、完璧な到達者であれば飲まず食わずでも生き永らえる。……だから儂は、到達者である魔王と鬼神があの現象の中心地だと考え至った』
「中心地……?」
『魔王と鬼神。もし二体の到達者が持つ力が時空にすら干渉すれば、別次元の穴を空ける事もまた可能のはず……。それこそ、広大な大陸規模を飲み込む程の……』
「じゃあ、到達者が近くにいるだけで、あの螺旋の迷宮が起きるの?」
『到達者の力に、輪廻に行けずに彷徨う大量の魂が干渉した事で起きた別次元への転移だと、儂は推測している』
「……でも、だったら僕達が入り込んだ螺旋の迷宮は、誰が起こしたって言うのさ!」
『居たではないか。お前達と共に同行していた、到達者が』
「……まさか……!?」
『青』の口からその言葉が出ると、マギルスは思い出したように表情を強張らせる。
そしてマギルスが察した通りの事を、『青』は伝え告げた。
『――……黒の七大聖人。あの女もまた、世界の理を担う到達者の一人』
「……!!」
『もう一人は分からぬが、あるいは『黒』の力のみで亡霊共が干渉し、あの現象を作り出した。……その傍に居たお前達は、それに巻き込まれたのだろう』
「そ、そんなこと……。……あるわけないじゃん!」
『……』
「でも、だって! 僕達があの砂漠に来る前に、あの『螺旋の迷宮』に迷い込んで死んでた人もいたよ! その人が残した手帳に、魔導国が砂漠で何かしてたから、その仕業だって書いてたもん!」
『……確かに儂は、あの砂漠で幾つかの魔法と魔導の実験を行った。しかし、そのような現象など儂自身は生み出せぬ』
「だったら……!」
『儂の仮設が正しければ、あの現象は到達者同士の戦いによって生み出される現象。……お前達はその戦いで、最もその力を浴び易い場所に居た』
「!?」
『神兵と成ったランヴァルディア。鬼神フォウルを彷彿とさせた赤鬼。……そして人の最高到達点、【神人】に最も近いアルトリア。……到達者に最も近い力を持つ者達が、あの戦いで幾度と力を交えている。恐らくその力の余波が、多くの死者の怨念が彷徨い続けた砂漠に、現象を起こさせたのだろう』
「……!!」
『そこにお前達と到達者である『黒』が赴けば、あの現象が起こるのは必至。……儂もまた、お前達の消失を儂なりに調べていたからこそ導き出した結論だ……』
「……じゃあ、僕達はそのせいで三十年後に……三十年も経ったこの世界に来ちゃったって、そう言うつもり!?」
『……そうか。お前もまた、時に過ぎ去られたのか……』
「……ッ」
『青』の話でマギルスは眉を顰めていた表情を僅かに怒らせ、苛立ちを抱く。
ランヴァルディアとの戦いが螺旋の迷宮を生み出す起因となり、それに巻き込まれる事になったのが友達のクロエが原因と言われ、流石のマギルスも穏やかではいられない。
そんなマギルスに対して、『青』は瞳を閉じて顔を伏せながら呟いた。
『……あるいは、あの黒ならば……』
「……?」
『黒ならば、時の流れを戻す事も出来るかもしれぬ』
「!」
『黒の七大聖人。奴は同時に、『時』の称号を持つ到達者。奴の能力であれば、この歪んだ螺旋を紐解く事も、出来るかもしれぬ……』
「本当!?」
『黒とは、そうした存在。歪みを正し、世界を調律する者……』
「……でも、もしそれが出来るなら。なんで僕達に言わないんだろう……? そもそも、こんな面倒臭い事をしなくても……」
マギルスはそうした事を呟き、クロエに対する今までの行動を振り返る。
クロエは今まで同盟国に保護を受けながら暮らし、魔導国に攻め込む為の準備を行っていた。
戦車などの近代兵器を作り出し、箱舟までも作り上げている。
もし今のクロエが時間を戻す力を使えるのなら、そんな事をする必要は無い。
時を戻し、この事態を避ける為に動けば全てが上手く行きそうにも思えた。
そうして悩むマギルスに助言するように、『青』は語り伝える。
『……黒の魂と肉体には、創造神に因り幾数十にも重い制約が課せられている』
「!」
『あるいはその条件を満たさねば、自分の能力を使えぬのかもしれない……』
「……」
『青』の推測を聞き終えたマギルスは、表情を強張らせながら魔鋼が張り付いた天井を見上げる。
そしてクロエの事を考えながら、自身の唇を僅かに噛み締めた。
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