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螺旋編 五章:螺旋の戦争
人形の包囲網
しおりを挟む工場地帯の地上に出現した数百以上の魔導人形が、同盟国軍の兵士達に襲い掛かる。
それと同時に同盟国軍の各部隊も動き出し、箱舟が着陸している都市東部を目指して撤退戦を開始した。
全長二メートル前後の新たな四足型魔導人形が、下がる各兵士達を追いながら凄まじい速度で駆ける。
それに対して自動小銃を撃ち放ちながら迎撃する兵士達だったが、銃撃の軌道を縦横無尽に避け迫る四足型に苦々しい表情を浮かべた。
「――……クッ!!」
「あ、当たらない!」
「うわッ!!」
一つの部隊班が広い道路で四足型と相対し、それを自動小銃で狙い撃つ。
しかし鋼の爪と細い金属の四脚で駆ける四足型は、放たれた銃弾を左右に避けて迫った。
そして一匹の四足型が銃撃を突破し、一人の兵士に襲い掛かる。
飛び突いて鉄の爪を兵士の肉体に食い込ませながら押し倒すと、口を開き歯の形をした刃をノコギリのように振動させて兵士の肩に噛み付いた。
「ギャアァァアアアッ!!」
「クソッ! ――……この野郎ッ!!
兵士の絶叫を聞いた近くの兵士が、警棒を抜きながら噛み付いた四足型に殴り掛かる。
それを察知しすぐに飛び退いた四足型は、口から血を滴らせながらその兵士達に再び襲い掛かろうとした。
それを他の兵士達が阻むように銃を撃ち、避ける四足型はその場から離れる。
肩部分をズタズタに裂かれ血を流しながら苦しむ兵士を庇いながら、その部隊班を指揮する兵長に兵士達は呼び掛けた。
「班長!」
「このままでは……!!」
「分かっている! 広い場所で対応は無理だ、狭い通路にッ!!」
「はいッ!!」
高い機動性に合わせて広い場所では四足型の迎撃は不可能と判断した兵長は、咄嗟に周囲を見て狭い路地に誘導しながら兵士達と共に移動する。
それを追う為に路地に入る四足型を確認すると、兵士達は振り返りながら銃を構えて撃ち放った。
「――……当たった!」
「意外と軟いぞ!」
横に逃げ場の無い路地で浴びせられる銃撃が、四足型を破壊する。
比較的に小型で素早い故に防御能力が薄い四足型には銃が有効であり、その情報は通信機を介して各部隊に伝わった。
しかし四足型の情報が分かっても、根本的な問題と直面している事態は変わらない。
遥かに上回る数の魔導人形達が二百名の同盟国軍を目指して迫り、工場地帯を完全に包囲しつつある。
更に機動力で上回る四足型と、魔弾を放ち射程と破壊力で勝る球体型が連携し、撤退する各部隊の動きを阻害していた。
「――……ッ!!」
「敵の銃撃です!」
「この先もダメか……!」
「ヒューイ隊長、どうすれば……!?」
「迂回するしかない! 各部隊と合流しながら、戦車部隊に援護を要請して――……」
「――……た、隊長!」
「どうした!?」
「戦車部隊が、魔導人形に……!」
「!?」
「なんだと……!!」
撤退していたヒューイや各部隊は、その情報を通信士から聞く。
歩兵のみならず、大量の魔導人形は巨人型に対処する戦車部隊の動きも阻害していた。
戦車の速度以上に駆ける四足型は戦車の外側に取り付き、ノコギリのように振動する刃で外装や車輪を破壊していく。
更に主砲の砲身にまで噛み付き、主砲を使えなくしていた。
そうして足止めされている間に追い付いた球体型が変形し、手の魔弾と腕の魔砲を戦車に放つ。
そうした状況で、ついに戦車が破壊されたという通信がグラドの乗る戦車にも飛び込んだ。
『――……第四号戦車、車輪を破壊されました! 移動できません!』
『第七号戦車! 主砲を破壊されました……!』
「各部隊で、攻撃を受けてる戦車隊を掩護! 脱出を支援しろ!」
『第三号戦車! 敵の砲撃を受け、進路を妨害されました! 次の誘導地点に行けません……』
『第十一号戦車、燃料タンクを破壊されました。引火の恐れがある為、脱出します……!』
「ッ!!」
「将軍……!」
「分かってる! ……箱舟はまだか……!?」
副官の焦る声を聞きながら、グラドは苦々しく強張った表情を浮かべる。
機動力と攻撃力のある戦車部隊が次々と破壊され、数で劣る同盟国軍の状況は更に悪化していた。
しかもグラドの戦車の背後には、車輪が付いた足で追跡する巨人型がまだ追跡している。
少しでも速度を緩めれば、今度は自分達があの巨体に圧し潰される事を、グラドと副官は理解していた。
まだ無事な戦車部隊も、各歩兵部隊と合流しながら何とか東側へ撤退している。
しかし次々と押し寄せる魔導人形達に行く手を阻まれ、次第に包囲されていた。
「――……ッ!!」
「正面、敵魔導人形群!」
「そのまま突っ込めッ!!」
巨人型を引き連れたグラドが乗る戦車が進路を曲がった先に、球体型の魔導人形達が道を塞ぐように立ち並ぶ。
すぐ後ろまで迫っている巨人型に追い付かれない為に、グラドは副官に命じて戦車の速度を緩めないまま突っ込ませた。
それに応じるかのように、球体型が両腕に展開した砲身を戦車に向ける。
そして十分な距離で、複数の球体型の魔砲が収束してグラド達に放たれた。
「!!」
「左へッ!!」
それを見たグラドは、咄嗟に進路を左に傾けさせるよう副官に言う。
反射に近い形でそれを実行した副官は、突っ込んだ状態で左に進路を傾けた。
「――……グッ、アァアッ!!」
「うわぁあッ!!」
左にそれた影響で魔砲が右側に直撃した戦車は、内部に凄まじい衝撃と揺れを与える。
直撃した部分の装甲が剥がれるように捲れ、更に車輪の無限軌道を破壊し、コンクリートの地面を抉りながらを浮かせた。
その時に背後まで迫っていた巨人型の右足が前方へ突き出され、浮いた戦車の底部分を蹴り上げる。
底部分が潰れながら蹴り飛ばされた戦車は、密集している球体型から逸れて地面を削りながら左側の建物に衝突した。
建物を破壊しながら停止した戦車は、横倒しになりながら停止する。
そして数十秒後、戦車の上部ハッチを叩く音が鳴りながらハッチが勢い強く開くと、戦車の中から血を流したグラドが這い出て来た。
「――……クソ……ッ!」
身体は切り傷だらけで血を流し、更に左腕に激しい痛みを感じながら動かせなくなっているグラドは、それ等の痛みを堪えながら苦痛の表情を浮かべる。
そして出て来たハッチに視線を戻しながら立ち上がると、まだ中にいる副官に呼び掛けた。
「……おい、生きてるか……!?」
「……将軍……」
「待ってろ……! 今、出して――……ッ!?」
グラドは弱々しくも返事をする副官に右手を伸ばし、肩の服部分を掴む。
しかし真っ暗な機内で火花が散ったその時に、副官がどうなっているかをグラドは気付いた。
操縦席に座っていた副官の下半身は、砲撃の衝撃を受けて破損した機内で圧し潰れている。
更に腹部に破損した機器の残骸が刺さり、大量の血を溢れさせている。
底部分を蹴り上げられ潰れた際に下部が破壊され、挟まり圧し潰された副官はとても動ける状態ではない。
辛うじて操縦席より上に座っていたグラドは押し潰されなかった事を察し、歯を食い縛りながら肩を掴んでいた右手を離した。
「……待ってろ! 今、助けを……!」
「将軍……ごほ……っ」
「喋るな! じっとしてろ……!」
「……今まで、ありがとう……ございました……」
「……!」
「どうか、この作戦を……成功させ……て……」
「……おい。……おい!」
「……」
「おいッ!! ……チクショウッ!!」
副官から発せられる声は弱々しくなり、そして途切れる。
その後にグラドが何度も呼び掛けても、副官はその声に応える事はなかった。
グラドは戦車の装甲を右手で叩き、歯を食い縛りながら顔を伏せる。
そして外から機械的な音が聞こえると、顔を上げて瓦礫の合間から見える外を見た。
「……ッ」
『――……』
戦車を攻撃して来た複数の球体型が歩み迫り、一体の巨人型が外からグラドの居る建物を見下ろしている。
更に四足型達も、グラドがいる建物周辺に集まり始めていた。
「……クソゴーレム共め……ッ!!」
グラドは憤怒を宿した顔で魔導人形達を見ながら、腰に携える警棒を右手で握る。
そして怪我をした身体を引きずるように歩ませ、魔導人形達と対峙する事になった。
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