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螺旋編 四章:螺旋の邂逅
邂逅の再会
しおりを挟む挟撃態勢を突かれた王国第二王子の軍は壊走し、残る第一王子が率いる二万の軍がローゼン公爵が率いる二万五千以上の帝国軍と対峙する。
第一王子の軍は正面に重装歩兵を展開し、その後ろに三千名の弓兵隊を配置した。
更にその両翼を掻き集めた民兵と傭兵達で固め、先程の第二王子達がされた半包囲からの包囲陣を形成させないように備える。
それは第一王子の重鎮である貴族が提案した陣形であり、これで正面と側面からの攻撃に対して万全な備えになると考え至ったからだ。
「――……帝国軍は疾風の如く軍を動かしていますが、重装備の兵が少ないように見える。故に第二王子軍の重装歩兵隊を正面から抑えるのみに留まり、側面と背後からを包囲した後に崩す策に出ました。こちらはそれをさせぬ為の陣形を成せば、敵はこちらの重装歩兵の列を崩す事は出来ませぬ」
「おぉ、そうか。うむ、其方に任せよう」
その貴族の進言を取り入れた第一王子は、第二王子が襲われ壊走する中で布陣を完成させる。
そして第二王子の軍を破り、理にかなう布陣を敷いた第一王子の軍に対して先程のような速攻を行わず、緩やかに進軍しながら正面に迫る帝国軍を見て、その貴族と第一王子は予想通り正面から挑み掛かる戦いの構造を作り上げられたのだと、互いに笑みを浮かべた。
しかし帝国軍は最前列で進むローゼン公爵が歩みを止めると同時に、弓兵の射程に入る前に全軍の動きを止める。
一見すれば弓の射程を恐れて止まったように王国軍では思えたが、それはローゼン公爵の意図から外れていた。
「――……魔法師部隊を前に!」
「魔法師部隊を、前に!」
ローゼン公爵がそう命じ、後方に控える部下に命令を伝令させる。
すると帝国軍の正面に騎兵と歩兵の合間を縫うように、布のローブを羽織り杖を持った百名単位の人々が姿を見せた。
それが帝国軍の正面両脇へ固まり、それぞれに五十名程の者達が配置に着く。
合計で百名近い魔法師が帝国軍の最前列に並ぶと、ローゼン公爵は再び後方の部下に伝えた。
「爆裂術式を展開せよ」
「爆裂術式、展開準備!」
ローゼン公爵の命令は再び復唱され、魔法師部隊にそれが伝わる。
すると両脇にそれぞれ固まる百名近い魔法師達が、合わせるように手に持つ魔石が付いた杖を上空へ掲げ、全員が合わせるように同じ詠唱を行った。
『――……律する秩序に破滅を。我が身を架する楔の鎖を解き放ち、太陽の熱を収束せよ。我が眼前に地獄を再現す。業火を地に降り注がせたまへ――……』
最上位に位置される五節詠唱の大魔法を行い、魔法師達は身に纏う衣服と杖に刻まれた古代文字を魔力によって光らせる。
それと同時に王国軍の前方上空に光る巨大な円陣が浮かび上がり、王国軍の兵士を驚愕を生んだ。
民兵や傭兵達は突如として出現した謎の光に不可解な表情を浮かべたが、王国貴族達で魔法を扱える者達はそれが何か気付く。
そして余裕を持った表情が途端に蒼白し、第一王子に迫るように伝えた。
「お、王子! 急ぎお引き下さい!!」
「な、なんだアレは!?」
「アレは、敵の魔法です!!」
「!?」
王国では、魔法を扱える者は極少数に限られている。
神官の洗礼を受けた貴族だけが魔法を学ぶ機会を得て、初めて魔法という知識と技術に触れられた。
しかし貴族以外の民には魔法は普及しておらず、存在は知っていても見た事も無いという者が遥かに多い。
故に貴族でも極一部しか魔法は扱えず、また魔法という特別な力を扱える者は高位の神官職と貴族位を持つ為、王族ですら知識には乏しい。
だからこそ第一王子は困惑し、その洗礼と高位の地位に就いていた貴族では動揺の意味や仕方も大きく違った。
「――……放て」
「放てぇ!!」
そして王国軍が対応するより早く、術式を展開し唱え終えた帝国軍側は、ローゼン公爵が魔法を放つ事を命じる。
命令が伝わった瞬間、魔法師達は上空に出現した光の方陣から直径数十メートルの巨大な魔力を放ち、王国軍の正面に展開した重装歩兵達に直撃させた。
「う、ウワアァァア――……」
それに飲まれるように浴びた重装歩兵達は、怯えるような絶叫を上げながら盾や武器を手放して逃げようとする。
しかし逃れる事は叶わず、重装歩兵の列は放たれた光を浴びて消失した。
そして次の瞬間、光が直撃した地点に凄まじい爆発が起こる。
魔力の光に飲まれる事を免れた兵士達もいたが、その爆発に巻き込まれながら強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。
その衝撃は離れていた者達に強風を浴びせ、更に吹き飛ばされた地面の土だけではなく、武器や盾、更に鎧や人体の一部などが飛び散り、それを浴びた人々は恐怖と混乱に支配される。
爆発が収まり、魔法が直撃した地点に土埃が舞う。
そこには数十メートルの巨大な窪みが生まれ、その周囲には阿鼻叫喚した人々の悲鳴が生まれていた。
第一王子や貴族達は、帝国軍が巨大な魔法を放つと分かった瞬間に逃げるように後方へ散り、何とか生存する。
しかし前方の重装歩兵部隊の三割近くが消し飛び、その周囲の兵士達も恐慌状態に陥ってしまった。
それを見ていたローゼン公爵は、腕を組みながら魔法の威力を見て呟く。
「――……やはり、アルトリアの方が威力も精度も上か」
「閣下、何か?」
「いや。魔法師達の消耗は?」
「少しお待ちを。……全員、立っていられない程に消耗しているそうです。気絶した者もいるとか」
「やはりか。……魔法師部隊は下がらせろ。十分な働きをしてくれた」
「ハッ」
「歩兵部隊を前に! 敵が混乱している好機を逃さず、突き進め!」
「ハッ!!」
「我が騎兵隊は敵の右側面を狙う! 半包囲態勢で敵王国軍を撃滅し、二度と我が帝国領土をその足に踏みたいなどと思わせるな!!」
そう命じるローゼン公爵は、歩兵隊を前に進ませて動揺し収束できない王国軍の正面へ進ませる。
更にローゼン公爵自身も約千名の騎兵隊を動かし、王国軍が崩れ逃げ始めている側面を狙うように動き始めた。
それに対して王国軍は混乱と動揺を収束できず、民兵や傭兵達は未知の攻撃を恐れて逃げ出す者達もいる。
それは貴族達も同様であり、崩れた最前列を立て直せないと察する者は瞬く間に私兵と共に逃げ出し、第一王子もその貴族に伴われて逃げ出していた。
それを見た兵士や傭兵達も、察して逃げ出す。
しかし帝国軍の歩兵部隊の進行は早く、走りながらも隊列を崩さない歩兵達の槍が王国軍の最前列と衝突した。
そして側面に迂回していたローゼン公爵軍は、完全に崩れた王国軍を分断し切り崩すように騎兵部隊を自身と共に突入させる。
騎乗したまま豪槍で兵士達を薙ぎ斬るローゼン公爵と、それに続く騎兵達は兵士達を蹴散らし、第一王子の軍も完全に瓦解させた。
「このまま敵を切り崩せ!!」
そう命じるローゼン公爵は何かを探すように周囲を見ると、馬に乗った一部の者達が軍から離れていく後ろ姿を見る。
その中の一人が背に羽織るマントと意匠を見て、ベルグリンド王国の王族だけが使う紋様だと知っていたローゼン公爵は鋭い瞳でそれを睨み、後ろから付いて来る部下に伝えた。
「――……敵の王子を見つけた! 第二から第五騎兵隊はこのまま分断を行え! 私と第一騎兵隊は、敵王子を獲る!!」
「おぉ!!」
ローゼン公爵の命令を受けた騎兵隊は、百名程で共に敵王子の背中を追う。
王子は重鎮の貴族とその私兵である騎兵を十数騎だけしか連れておらず、ローゼン公爵に鍛え抜かれた百名の騎兵に対抗できない。
だからこそ逃げようと馬を走らせる王子と貴族だったが、五十メートル以内に迫るローゼン公爵と共に走る騎兵が馬上で弓を持ち、狙いを定めながら矢を引き絞って放った。
「う、うわあぁああ!?」
「王子!!」
その矢は王子が乗る馬の尻に直撃し、その馬は痛みに訴え走りながら崩れて倒れる。
それに乗っていた王子は巻き込まれ、身を弾かれるように飛びながら地面に転がった。
「ぅ、あぁ……」
王子は土塗れになりながら、痛めた身体を何とか動かそうとする。
しかし王子が起き上がるよりも先に、ローゼン公爵と率いる騎兵百名が王子に迫っていた。
そしてローゼン公爵がその赤槍を構え、第一王子に狙いを定めた瞬間。
その右側から一本の矢が強襲し、目の端でそれを捉えたローゼン公爵は槍で打ち払い、馬の足を止めた。
「――……!!」
ローゼン公爵が見たのは、逃げる王国兵や民兵達に紛れていた、黒いマントを羽織る集団。
その中の一人が弓を構え、その横に黒い大剣を担いだ大男が立っていた。
「――……金を払う奴がいないと、困るのは俺等だからな」
「ああ」
「あの馬に乗った奴等を抑えるぞ!!」
「おぅ!」
黒いマントを羽織る集団を統率する中年男性が、弓を持った傭兵達に騎兵を狙うように命じる。
そして三十以上の矢が、ローゼン公爵を含めた騎兵達を狙い飛来した。
その矢で倒れる王子へ向かえず足を止めた騎兵達は、再び矢が迫り槍を払い落すローゼン公爵に顔を向ける。
「閣下!」
「……チッ、あと少しだったがな」
第一王子は戻った貴族とその私兵に保護され、怪我をした馬を置いて違う馬の背に乗り、そのまま現場から離れる。
それを見たローゼン公爵はこれ以上の追撃を諦め、黒い傭兵達を見た。
「……あの黒いマント。もしや……」
そう呟きながらローゼン公爵は目を凝らし、黒い傭兵達を纏め動くワーグナーと、その前に立ち大剣を背負うエリクを見る。
そして二人を見ながら十七年前の出来事を思い出し、口元に鬼気とした笑みを浮かべた。
「……なるほど。ログウェルの言う通り、確かに厄介になったようだ」
「閣下!!」
「分かっている! 戻るぞ!!」
そう言いながらローゼン公爵は部下の騎兵を伴い、追撃を止めて後退した。
それを見送るように黒獣傭兵団達も弓を収め、逃げ出す兵士達と共にその場から離れる。
こうしてエリクとワーグナーは、初めて経験する帝国軍との戦いに敗れながらも生きて撤退した。
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