413 / 1,360
螺旋編 四章:螺旋の邂逅
一人前の二人
しおりを挟む
エリクは正気を取り戻し、ワーグナーやマチスと共に下山を果たす。
その際にガルドの遺体をワーグナーとマチスが両脇から支え抱えるように持ち帰り、身体全体が鈍い痛みと震えを起こしているエリクは辛うじて付いて来ていた。
ガルドの遺体を改めて見たエリクは表情を僅かに強張らせた後、影を落とした顔を伏せる。
三人はガルドの遺体を伴いながら山を進み、そして舗装した道に戻って来た。
時刻は既に昼を超え、夕暮れも間近に迫っている。
三人は無言のまま歩き続けていたが、その静寂を破ったのはエリクだった。
「――……すまない……」
「ん?」
「俺が、弱かったから……」
「……」
「俺が、もっと強ければ……」
そう呟きながら謝るエリクに、ワーグナーは顔を向ける。
そうして呟く声は自分達に対してではなく、遺体となったガルドに呟いているようだった。
それに対してワーグナーは顔の向きを前に戻し、マチスもそれに倣うように正面を向く。
エリクが呟く後悔は、ワーグナーもまた感じていた。
自分がもっと強ければ、ガルドが死ぬ事は無かったかもしれないと。
その後悔は二人の唇を噛み締めながら血を流し、表情と感情に陰りを生み出させるのに十分だった。
同時にワーグナーは、エリクもまた自分と同じ後悔と感情を持っている事に気付く。
今まで感情を見せず無愛想で無表情な奴だと思っていたエリクが、少なくともこの状況で自分と同じ感情と思いを抱いている事にワーグナーは安堵していた。
「……おやっさん。エリクも、ちゃんと成長してたよ……」
そうしたエリクの成長を、ワーグナーは冷たい身体のガルドに伝える。
あるいはワーグナー以上に思い入れを強く接していたガルドに今のエリクを見せてみたいと思いながらも、もうそれすら叶わないのだとワーグナーは思う。
そうして三人は夕暮れと共に山を下り終え、夜には麓の町に到着する。
そこでは先に下りていた生き残りの団員達が魔獣の情報を伝え、兵団が守りの準備を整え出していた。
戻った三人は保護され、兵団の事情聴取をマチスと他の団員に任せてしまうと、ワーグナーとエリクは疲れ果てた状態で町の医者から治療を受けながら眠る。
しかし翌日の夜が明けない深夜に二人は目を覚まし、二人は防具が外されて布が被せられているガルドの遺体が置かれた倉庫へ赴いた。
この時にはある程度の遺体の検査が終わり、傷から魔獣の仕業だと分かっている。
そして翌日には山へ地元の傭兵団の生き残りと兵団が赴き、状況の確認と回収できる遺体を持ち帰る手筈になるだろう。
そして回収された遺体と共にガルドの遺体も火葬されるだろう事を、ワーグナーもエリクも今までの経験から察していた。
「――……おやっさんの死体を、そのまんまにしておけない」
「……」
「おやっさんには不本意かもしれないけど、他の奴等と一緒くたに燃やされるくらいなら。……せめて、俺等で弔ってやろうぜ」
「……ああ」
ワーグナーの言葉に頷きながらエリクはガルドの遺体を抱え、二人は町の火葬場として設けられている広場へ赴く。
そこで大量の枯れ草や巻き藁を敷き詰めてガルドの遺体を置き、持って来ていたアルコール度数の高い酒をゆっくりガルドの遺体に浴びせながら、ワーグナーは静かに呟いた。
「……おやっさんの好きなウィスキーじゃなくて、すいません」
そう言いながら寂しく微笑むワーグナーは、ガルドの口に酒を飲ませる。
そうして火葬の準備を整え終わると、左手が使えないワーグナーはエリクに着火を任せた。
火打石と火種を使って火を起こすエリクは、煙が昇る火種をガルドの周囲に置く。
そして時間が経つと煙が火へ変わり、枯れ草や巻き藁に燃え移りながら炎へと変化した。
そうして燃えていくガルドを弔いながら、ワーグナーはエリクに伝える。
「――……エリク」
「?」
「おやっさんは死んだ。……この黒獣傭兵団には、新しい団長が必要になる」
「……」
「エリク。お前が、次の団長になれ」
「!」
「お前は傭兵団の中で、一番強い。次に団長をやるならお前だと、俺は思う」
ガルドの遺体が燃える光景を見ながら、ワーグナーはそう伝える。
それに驚きながらワーグナーを見るエリクは、呟くように聞いた。
「……俺は、ガルドのようにできない」
「そんなの、イヤってほど知ってるよ」
「なら……」
「俺が、お前を支えてやる」
「!」
「俺もお前も、傭兵としちゃ半人前だ。ずっとそう、おやっさんに言われてたからな。もしかしたら、死ぬまでそうなのかもしれない」
「……」
「お前はその強さで、傭兵団を支えてくれ。俺はおやっさんに教わった知識で、傭兵団とお前を支える。……二人で一人前の傭兵に、なってやろう」
「……分かった」
炎は大きく燃え、二人の身長を超える。
そうした中で火花が星のように夜空へ舞い、夜明けの光が僅かに見え始めた。
ガルドが率いていた黒獣傭兵団は、こうして終わる。
そして数ヵ月後。
エリクを団長に、そしてワーグナーを副団長に据えた、新たな黒獣傭兵団が誕生した。
その際にガルドの遺体をワーグナーとマチスが両脇から支え抱えるように持ち帰り、身体全体が鈍い痛みと震えを起こしているエリクは辛うじて付いて来ていた。
ガルドの遺体を改めて見たエリクは表情を僅かに強張らせた後、影を落とした顔を伏せる。
三人はガルドの遺体を伴いながら山を進み、そして舗装した道に戻って来た。
時刻は既に昼を超え、夕暮れも間近に迫っている。
三人は無言のまま歩き続けていたが、その静寂を破ったのはエリクだった。
「――……すまない……」
「ん?」
「俺が、弱かったから……」
「……」
「俺が、もっと強ければ……」
そう呟きながら謝るエリクに、ワーグナーは顔を向ける。
そうして呟く声は自分達に対してではなく、遺体となったガルドに呟いているようだった。
それに対してワーグナーは顔の向きを前に戻し、マチスもそれに倣うように正面を向く。
エリクが呟く後悔は、ワーグナーもまた感じていた。
自分がもっと強ければ、ガルドが死ぬ事は無かったかもしれないと。
その後悔は二人の唇を噛み締めながら血を流し、表情と感情に陰りを生み出させるのに十分だった。
同時にワーグナーは、エリクもまた自分と同じ後悔と感情を持っている事に気付く。
今まで感情を見せず無愛想で無表情な奴だと思っていたエリクが、少なくともこの状況で自分と同じ感情と思いを抱いている事にワーグナーは安堵していた。
「……おやっさん。エリクも、ちゃんと成長してたよ……」
そうしたエリクの成長を、ワーグナーは冷たい身体のガルドに伝える。
あるいはワーグナー以上に思い入れを強く接していたガルドに今のエリクを見せてみたいと思いながらも、もうそれすら叶わないのだとワーグナーは思う。
そうして三人は夕暮れと共に山を下り終え、夜には麓の町に到着する。
そこでは先に下りていた生き残りの団員達が魔獣の情報を伝え、兵団が守りの準備を整え出していた。
戻った三人は保護され、兵団の事情聴取をマチスと他の団員に任せてしまうと、ワーグナーとエリクは疲れ果てた状態で町の医者から治療を受けながら眠る。
しかし翌日の夜が明けない深夜に二人は目を覚まし、二人は防具が外されて布が被せられているガルドの遺体が置かれた倉庫へ赴いた。
この時にはある程度の遺体の検査が終わり、傷から魔獣の仕業だと分かっている。
そして翌日には山へ地元の傭兵団の生き残りと兵団が赴き、状況の確認と回収できる遺体を持ち帰る手筈になるだろう。
そして回収された遺体と共にガルドの遺体も火葬されるだろう事を、ワーグナーもエリクも今までの経験から察していた。
「――……おやっさんの死体を、そのまんまにしておけない」
「……」
「おやっさんには不本意かもしれないけど、他の奴等と一緒くたに燃やされるくらいなら。……せめて、俺等で弔ってやろうぜ」
「……ああ」
ワーグナーの言葉に頷きながらエリクはガルドの遺体を抱え、二人は町の火葬場として設けられている広場へ赴く。
そこで大量の枯れ草や巻き藁を敷き詰めてガルドの遺体を置き、持って来ていたアルコール度数の高い酒をゆっくりガルドの遺体に浴びせながら、ワーグナーは静かに呟いた。
「……おやっさんの好きなウィスキーじゃなくて、すいません」
そう言いながら寂しく微笑むワーグナーは、ガルドの口に酒を飲ませる。
そうして火葬の準備を整え終わると、左手が使えないワーグナーはエリクに着火を任せた。
火打石と火種を使って火を起こすエリクは、煙が昇る火種をガルドの周囲に置く。
そして時間が経つと煙が火へ変わり、枯れ草や巻き藁に燃え移りながら炎へと変化した。
そうして燃えていくガルドを弔いながら、ワーグナーはエリクに伝える。
「――……エリク」
「?」
「おやっさんは死んだ。……この黒獣傭兵団には、新しい団長が必要になる」
「……」
「エリク。お前が、次の団長になれ」
「!」
「お前は傭兵団の中で、一番強い。次に団長をやるならお前だと、俺は思う」
ガルドの遺体が燃える光景を見ながら、ワーグナーはそう伝える。
それに驚きながらワーグナーを見るエリクは、呟くように聞いた。
「……俺は、ガルドのようにできない」
「そんなの、イヤってほど知ってるよ」
「なら……」
「俺が、お前を支えてやる」
「!」
「俺もお前も、傭兵としちゃ半人前だ。ずっとそう、おやっさんに言われてたからな。もしかしたら、死ぬまでそうなのかもしれない」
「……」
「お前はその強さで、傭兵団を支えてくれ。俺はおやっさんに教わった知識で、傭兵団とお前を支える。……二人で一人前の傭兵に、なってやろう」
「……分かった」
炎は大きく燃え、二人の身長を超える。
そうした中で火花が星のように夜空へ舞い、夜明けの光が僅かに見え始めた。
ガルドが率いていた黒獣傭兵団は、こうして終わる。
そして数ヵ月後。
エリクを団長に、そしてワーグナーを副団長に据えた、新たな黒獣傭兵団が誕生した。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
努力しても平均的だった俺が異世界召喚された結果
ひむよ
ファンタジー
全てが平均的な少年、山田 涼太。
その少年は努力してもしなくても、何をしても平均的だった。そして少年は中学2年生の時に努力することをやめた。
そのまま成長していき、高校2年生になったとき、あることが起こり少年は全てが異常へと変わった。
それは───異世界召喚だ。
異世界に召喚されたことによって少年は、自分のステータスを確認できるようになった。すぐに確認してみるとその他の欄に平均的1と平均的2というものがあり、それは0歳の時に入手していた!
少年は名前からして自分が平均的なのはこれのせいだと確信した。
だが全てが平均的と言うのは、異世界ではチートだったのだ。
これは平均的で異常な少年が自由に異世界を楽しみ、無双する話である。
hotランキング1位にのりました!
ファンタジーランキングの24hポイントで1位にのりました!
人気ランキングの24hポイントで 3位にのりました!
天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。
朱本来未
ファンタジー
魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。
天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。
ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる