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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

指揮する者達

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 ガルドの指示に従わず、手薄な道へと逃げ別れた傭兵団は文字通りに全滅した。

 その悲鳴はガルドが率いる黒獣傭兵団にも響き伝わり、何が起こったのかを否応なく感じさせる。
 ガルドは向こうの傭兵団が予想通りの罠へと掛かり、更に短い悲鳴から聞こえなくなった向こうの傭兵団が全滅した事を察した。

「やっぱりか!!」

「!?」

「向こうに、こっち以上の戦力が囲んでやがる!!」

「えぇ!?」

「とにかく、ここを突破しろ!! 急げ!!」

 ガルドは目の前に立ちはだかる山猫達を払うように剣を振り、足を止めずに進み続ける。
 それに追従するワーグナーとエリクも、接近し襲い掛かる山猫達に対して弩弓の矢と剣で応戦しながら後を追った。

 その背後で六名、マチスを中心とした若い団員達も必死に追うが、先頭の三人程に山猫に対処できない。
 そして一人の背後に山猫が飛び掛かり、その肩口に鋭い牙で噛み付いた。。

「グ、アァアアアッ!!」

「くっ!!」

 その悲鳴が聞こえると同時に、マチスが庇うように飛び回し蹴りを山猫の顔面に浴びせる。
 蹴り飛ばされた山猫は噛み付いた団員から離れたが、数秒後には起き上がる様子を見せていた。

 その間にも別の山猫が迫り、噛まれて倒れ込んだ団員に襲い掛かる。
 襲い掛かる山猫の数が多く、若く少数の団員達では全て対処できない。

 そしてガルド達との距離が開いてしまった事を察し、マチスが大声でワーグナー達を呼んだ。

「兄貴達!!」

「!」

「しまった、後ろと!!」

 ワーグナーとエリクは後ろと距離が開き、他の団員達が山猫の強襲で分断され掛かっている事に気付く。
 そして足を止め、エリクと視線を合わせて僅かに思考したワーグナーは、咄嗟の対応としてガルドに伝えた。

「おやっさん! 俺とエリクが殿しんがりになります!!」

「あ!?」

 そう言いながらワーグナーはマチス達の方へ走り出し、エリクもそれを追う。
 そして前後左右から襲う山猫を蹴散らすように攻撃を加え、散らした瞬間を狙って取り残された後続の団員達に伝えた。

「お前等は、早くおやっさんの所に行け!!」

「ワーグナーの兄貴!?」

「俺とエリクが足止めする!! その間に、早く抜けろ!!」

「で、でも!!」

「いいから、行けってんだよ!!」

 そう言いながらワーグナーは装填した弩弓ボウガンの矢を放ち、襲う山猫に顔面を狙い撃つ。
 命中し眼球を射られた山猫は倒れてのたうち回るが、別の山猫が目の前に迫って来た。

 それはエリクの方も同じであり、凄まじい反射神経と動体視力で剣を振り迎撃に成功しながらも、新手の山猫が目の前に姿を現す。
 殿しんがりを務めようとした二人だったが、夥しい山猫の包囲を突き崩せず、ガルドが進んだ方へ他の団員達を上手く逃がせない。

「くっ!!」

「数が、多すぎる!!」

「これで、あの中級魔獣共が動いたら……!!」

 エリクとマチス、そしてワーグナーは若い団員達を庇い戦いながら、まだ動かない中級魔獣の個体に歯を噛み締める。

 この状況で山猫達を指揮していると思われる中級魔獣が動かないということは、何かを待っているのか、それとも現状で包囲している下級魔獣の個体だけで対処できると考えているのか。
 どちらにしても、山猫達は余裕を持った状態で包囲している事を、ワーグナー達は察せざるを得なかった。

 そうして進もうと逃げる若い団員達の前に、新たに三匹の山猫達が姿を見せる。
 進路を塞がれ、退路を見失おうとした若い団員達は、絶望的な状況と疲労から瞳に色濃い絶望を宿し始めた。

 しかし立ち塞がった山猫達を襲うように、背後からガルドが剣で切り払い円盾で殴り付ける。
 瞬く間に三匹の山猫を負傷させたガルドは、立ち止まってしまった団員達に向けて怒鳴り命じた。

「――……勝手な事ばっかりしやがって、この馬鹿共が!!」

「おやっさん!」

「団長!!」

殿しんがりなんぞと一丁前な事、半人前のテメェ等が出来ると思うな!!」

 そう言いながら更に背後から襲う山猫の一匹を、ガルドは剣を振って薙ぎ払う。
 例え老いながらも衰えた様子を見せないガルドに、若い団員達の瞳に再び希望が宿った。

 そしてガルドは分断された後続と合流し、再び各人に命じる。

「俺が道を切り開く! ワーグナー、お前は俺の援護だ!!」

「はい!!」

「エリク、マチス! お前等は他の連中を守りながら、後を付いて来い!!」

「分かった」

「了解っす!」

「生き残りたい奴は、俺に意地でも付いて来い!!」

「は、はい!!」

 ガルドに叱咤されるように指示が飛ばされ、団員達は自身の役割をはっきりさせる。

 ガルドが再び先頭に立ち、道を塞ぐ山猫達を切るように進んだ。
 それを援護するワーグナーは、弩弓ボウガンの矢で的確にガルドが傷付けた山猫を狙って追撃させないようにする。
 そしてエリクとマチスは素早い敏捷性を駆使して左右から襲う山猫達を退け、後背から追う山猫に対してはまだ動ける団員が交代で対処し、負傷した者に肩を貸しながら進んだ。

 他の団員達は壊滅し、更に別の逃げ道へ逃げた傭兵団も全滅する。
 その中でガルドという希望にも似た指揮者によって、黒獣傭兵団は諦めずに山猫の包囲網から突破しようと抗い続けた。

 その時、中級魔獣の個体である山猫達は、手薄だった道の方へ視線を向ける。
 その道から現れた五メートル程の巨大な山猫に対して、それぞれが伏すように座り頭を下げた。

 巨大な山猫は、包囲網を突破しようとする傭兵達の集団を見る。
 そして低く唸り軽く頭を動かすと、中級魔獣の山猫達は起き上がり、傭兵達の方へと進み始めた。

「……ガァアア……」

 山猫側も、ついに『中級魔獣』が動く。
 それを指揮する『上級魔獣』は、逃げる傭兵達に対して憎しみの瞳を向けていた。
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